さて、俺もそろそろ部室に戻ろうか・・・
屋上から下へ降りる階段の扉を開けると
黒井先生が踊場で下を向いて壁に寄りかかっていた
いったいどうしたというんだ?
誰に恋をしているかは教えてくれなかったが
そんなに悩んでいるのか・・・
キョン「先生・・・どうしたんですか?」
ななこ「なぁキョン」
キョン「何です?」
目を赤く染めた(ように見える)先生が
不安げな瞳をして、じっと俺を見つめている
ななこ「どーして・・・どーして生徒に恋をしたらあかんの?」
キョン「せ、先生・・・」
そうだったのか・・・そりゃ悩むよな
ちょうどさっきまでの俺みたいなもんだよ
キョン「恐らく、学生というのは大事な時期だからでしょうね
しかも高校生となると、その先就職するにせよ進学するにせよ
この高校生活をどう過ごすかによって、後の人生が大きく左右される」
ななこ「・・・」
キョン「そんな大事な時期に恋愛をするというのは好ましい事じゃない
それによって勉学が疎かになるからです
しかもあろうことか、その勉学の手助けをするべき
教師と言う立場の人間が、生徒に手を出したとなっては
それは否定的な意見が出てきてもおかしくはないでしょうね」
ななこ「でも!」
キョン「聞いてください・・・そう、でもですよ? 無責任なことを言うようですけど
その否定的な意見ってのは、その事を知られたから出てくるんですよ」
ななこ「え?」
キョン「かのダニエル・J・ダービーは言いました 『バレなければイカサマとはいわない』と
つまりそういうことですよ、バレなきゃいいんです」
キョン「恋愛をしているから勉強が疎かになるなんて・・・
そんなのは言い分けですよ、それだったら誰と恋愛しようが結果は同じ
たとえそれが教師と生徒という関係だったとしても」
ななこ「キョン・・・」
キョン「とにかく悩んでも仕方ないですよ
ダメで元々ですし、その生徒に想いを伝えてみたらどうです?」
ななこ「わかった・・・ほんならやってみるわ」
言いやがったなぁ~キョン!
何が無責任な事を言うやて?
今のキョンの言葉は、むちゃくちゃ責任重大や!
よし、言ってやる! もうどうなっても知らんでーッ!
後はあんたが責任とってや!キョン!!
そう決心したものの・・・さ、流石にキンチョーするな・・・
こんなことやったら、ヤケクソ守り持っとけばよかった
でも、キョンも言ったように悩んでも仕方ないんやし
勇気を振り絞って・・・
ななこ「・・・キョン」
キョン「はい」
ななこ「ウチ、キョンのことが好きや!!」
キョン「なっ!?」
ずっと話してたのは、俺のことだったのか!?
先生が想いを寄せているってのは・・・
俺は自分への告白の後押しをしてたのか
ななこ「もうキョンが頭から離れへんのや・・・
キョンのことを考えると、胸が締め付けられるんや」
キョン「・・・」
ななこ「ダメなのはわかっとる、ウチみたいな売れ残りの女なんて」
キョン「えぇ、ダメですよ」
ななこ「へ?」
キョン「せっかく諦めが付いたのに・・・そんなのダメですよ」
ななこ「あ、諦め?」
キョン「俺は・・・」
俺は結構単純な男のようで、最近先生と接する機会が何度かあったってだけで
先生のことが気になっていたんです・・・でも、さっき言ったように
世間一般的に見て、教師と生徒の恋愛はいろいろと問題があるってことで
これはただの年上の女性に対する憧れのようなものだって
勝手に理由付けして、その事を忘れようとしていたんです
それなのに、先生にそんなこと言われたら・・・俺・・・
俺・・・諦めきれないじゃないですか
ななこ「キョン・・・」
キョン「俺も、先生の事がすk・・・」
ななこ「ま、待って!!」
キョン「え?」
ななこ「そ、そこは・・・名前で」
キョン「・・・俺も、ななこさんの事が好きです」
ななこ「うぅ・・・キョン」
倒れこむように、先生が俺に体を預ける
俺は先生をしっかりと抱きしめ
またさっきと同じように、先生の香りが俺の鼻をくすぐる
そっと柔らかな髪を撫で、感触を味わう
まるで上質なシルクを触っているかのようだ
先生は俺を抱きしめたまま
俺の肩に顔をうずめ、静かに泣いていた・・・
背中に回された手で俺の服をギューッと掴み
震えながら、声にならない声で、苦しそうに嗚咽をしている
夏服のシャツは先生の流す涙で濡れていき、温かな湿り気を帯びていた
やがてそれも落ち着いたのか、今度はモゾモゾと動きながら
自分の身体をグイグイと俺に押し付けてくる
これは非常にマズイ・・・この密着加減はかなりマズイ
キョン「ちょ、ちょっと先生!」
ななこ「なんや?」
キョン「その・・・む、胸がですね・・・」
ななこ「ウチが泣いとる時に、そんなこと考えてたんかいな?」
キョン「なっ!?チガイますよ!!」
ななこ「そんなにしたいんなら、キスとか・・・してもええんやで?」
キョン「別にしなくてもいいですけどー」
ななこ「照れんでええから・・・ほらほら早くぅ~」
キョン「やれやれ・・・」
先生とのキスは、口紅の味がした・・・
キョン「先生」
ななこ「??」
キョン「これから先、あまり表立っては付き合えないと思いますけど
俺はちゃんと先生のことを想っていますから」
ななこ「うん」
キョン「そしていつか必ず、先生の薬指に輝くリングを・・・」
ななこ「ありがと、楽しみにしとくわ」
キョン「本気で言ってるんですからね」
ななこ「わかっとる・・・でも」
キョン「でも?」
ななこ「今は大事な時期なんやから、きちんと勉学に励むよーに!!」
キョン「ここでそれを言いますか・・・」
キョン「と、とにかく部室に戻ります」
ななこ「ウチもまだ仕事があるさかい、戻るわ」
キョン「それじゃ今度こそ、明日また会うとき笑いながらハミング、ですね」
ななこ「うん、そーやな」
キョン「ではまた明日」
ななこ「んー」
世間的に教師と生徒の恋愛がダメだとしても
バレなければどうってこたない
それに周りからどう思われようと、そんなの関係ない
大事なのは俺達二人がどう思われるかではなく
俺達二人がどう思うかである
俺は先生を一人の女性として好きで、
そして先生は俺を一人の男として好きでいてくれる
それで十分じゃないか、そのことに何の問題があるって言うんだ?
これからどんな事があろうと、俺は先生を守ってみせる
少し不安ではあるがそうは言ってられない
それを踏まえた上で、俺は先生の想いに答えたんだからな
あの後、宿題の山との格闘を終え、今やっと自宅へ帰り着いた
いつもは少し寂しく感じられるこの部屋も
なんだかそんな印象は微塵も感じられない
きっとまだ浮かれとるんやろーな
今日はちょいと遅くなったし、いろいろ疲れたからネトゲはやめとこう
コンビニで買った夕食を食べ、シャワーを浴び
それから寝間着に着替え、ベッドに入る
これから先、いろんなことがあるやろうけど
キョンといっしょなら、それでいい
たとえ世間から認められなくても、キョンが認めてくれるなら
キョンが傍にいてくれるなら、それでええんや・・・
ベッドの中で少しの間自分の手を眺め、薬指を撫でながら
私・・・黒井ななこは、そんなことを考えていた
いいかげんダルくなってきたので手を下ろし
心の中でキョンにオヤスミを言って、静かに電気を消した
今日も暑くなるらしいけど、今夜は何だかよく眠れそうや
いい夢が見れるかな?見れるといいな☆
…っていうか、今がもう夢を見ているみたいや
一応ツネッておくか・・・ギュッー!!
イタタタ!!・・・うん、ちゃんと痛い・・・
ニヤケ面で頬を擦りながら眠りにつく
まったく・・・いい歳して、何をやっとんやウチは・・・
さっ、もう寝よ・・・ほんなら、ミスヤオ~
最終更新:2007年09月04日 00:40