1.古代の民の迷宮


幻獣レオーを従えて八番目の幻想へとアルティミシアを倒しに行ったフーリエは,恐らく
もうすぐ此処へと戻ってくるだろう.混沌の大陸・・・14番目の戦いの終焉におけるこの
世界,"World B"は,四番目の幻想の探求者ゴルベーザとそれに仕える死を弔う死神クジ
ャだけになろうとしている.秩序の男神―シドに召喚された我ら戦士たちは皆,幻想跳
躍によってこの世界から去って行った.

それにしても,混沌の女神に召喚された10人の戦士たちはどうなったというのだ?そもそ
も召喚主のコスモスはフーリエ・・・によって作られたイミテーションであった.秩序の
男神シドも,フーリエによって作られたイミテーションだった.イミテーションの神々に,
探求するように言われたゴルベーザ・・・哀れだとは思わぬか?幻想跳躍ディアボロスに
よって14番目の戦いで相対する者など,何処にもいやしないのだから.

だが,ゴルベーザは14番目の戦いの謎をうまく解き明かしてくれた.「真の次元の狭間」
…無の世界とも呼ばれる其処は,フーリエの関係者たちや,他の造形師たちが住みついて
いる場所であった.そして,その奥にある,「光と闇の狭間」という,光の世界或いは闇
の世界どちらかに繋がるという扉があった.扉の鍵たる陰陽魚は,ゴルベーザを光の世界
へと導いたが,後にルフェイン人と呼ばれる者たちの助言を受け,闇の世界へ行くことに
なるのであった.


闇の世界・・・わしが主であるかの世界が,この14番目の戦いにも存在するとは思わなん
だ・・・.


そうわしが思った時,何かしらの幻想跳躍で,フーリエがこの14番目の戦いの舞台となる
この世界に帰ってきたのだ.わしはかの少年に問いかけた.

「フーリエよ・・・アルティミシアには勝って来たのか?もう14番目の戦いは終焉を迎え
ておるぞ.ゴルベーザとクジャだけが存在するかの世界でお前は一体,何をしようとして
おる?」

すると彼・・・フーリエはこう返したのだった.

「確かに,僕はアルティミシアに勝って来たよ.彼女と同程度の力でね.これで14番目の
戦いで勝敗に執着する者はいなくなった.ねえ,暗闇の雲さん.あなたに頼みたいことが
二つばかしあるのだけど・・・」

こやつ,わしが始めからこの14番目の戦いに全く,全く執着してないことに決まっている
と見なして話を進めおって・・・.まぁ実際はというと,その通りなのじゃが・・・.

「よかろう.さぁ,わしの元へ跪け.お前の頼みとやらを聞いてやろう」

すると,フーリエは,わしに言われた通りに,わしの元に跪き,言った.

「まず,この14番目の戦いを無に還して欲しいんです.そして二番目の頼みは,闇の世界
にいる本物の僕を・・・脳手術しているディリクレにやめさせて欲しいんです」
「よかろう.14番目の戦いを無に還してやろう.だがフーリエ,そうするとゴルベーザと
クジャも無に還ることになるのだぞ.それでも良いのか?」
「はい.ゴルベーザさんとクジャさんは,此処ではない闇の世界でディリクレの手伝いを
してもらっていますから大丈夫です」
「だがフーリエ,お前の二つ目の頼みと相違えてはいまいか」
「そうなんですけど・・・と,とにかく,この14番目の戦いを無に還して下さい.そうす
れば,誰も僕のことを・・・造形師で生み出したこの14番目の戦いのことを観測者に評価
されずに済む・・・」
「お前は・・・ただの気の弱さからわしに戦いを無に還させようとしているのか.じゃが,
わしはお前の頼みを既に受け入れている.今更後戻りはできぬぞ・・・」
「はい.分かっています」
「よいのだな?」
「はい」

わしはフーリエの返答を受け,この14番目の戦いが行われていた世界もろとも,全てを無
に還そうと,力を行使しようとした.じゃが,光か闇,どちらかの力の氾濫が起きぬと,
この力を行使出来ぬ.そこでフーリエは,僕の力も必要ですね,と言い放ち,空間に一点
の隙間を生み出し,それを裂こうとした.


今,フーリエの力によって光と闇の均衡が崩れてゆく・・・.さぁ,おいで.
どちらの氾濫が起きて,わしに力を行使させようとするのだ?


2.禁断の地エウレカ


フーリエが隙間を裂いてゆく過程で,わしは,とあることを考えていた.

光の氾濫と闇の氾濫・・・.そもそも,世界を無に還す以前に,光と闇,どちらかの氾
濫が起きねばわしは存在し得ぬはすだ.13番目以前の戦いや,この14番目の戦いで,こ
のわしが存在し得るということは,何度もどちらかの氾濫が起きているということか.
12番目以前の戦いまでは,カオス軍の勝利に終わっていた.一つの戦いを終える度に,
例えば闇の氾濫が起きていたとするならば,少々でもわしが存在する意義が分かって来
るだろう.だがそう考えると,最初の戦いでは,誰がどちらの氾濫を起こしてわしが現
われたというのだ.フ・・・もっともこれは,他のカオスの者にも言えることか.

くだらぬ考えに僅かに気を抜かしてしまったな.

それはそうと,今,目の前で,光と闇の境界線―隙間とも―を裂こうとしているフーリ
エに,わしは興味を惹かれざるを得なかった.四番目の幻想の探求者であるゴルベーザ
によって存在が露わになった,「境界の力」.何も無い空間から「隙間」を生み出し,
それを抉じ開けて,互いに相対するものを引き離す能力・・・か.

互いに相対するもの・・・今の場合では,光と闇の力をフーリエはそれを隔てる隙間を
裂いて,どちらかの氾濫を起こそうとしている.光か闇か,どちらかの氾濫を起こそう
としている.

さぁ,おいで,隙間より溢れ出すのはどちらの力だ?ファファファ・・・どちらの力が
溢れ出ても,わしは現われ,世界もろとも無に還すのだ・・・!

それは,神竜による浄化などとは全くレヴェルの違うもの・・・.何しろ,本当に「全
て」が無に還ってしまうのだからなぁ・・・.

「フーリエよ」

わしは彼に問うた.

「今,どちらの力が氾濫しようとしているのだ?」
「た・・・多分これは・・・光の氾濫のようです」

フーリエは境界の力で光の氾濫を今,この時点で起こそうとしているようだ.光の氾濫
か・・・1000年前を思い出す・・・と気が移ってしまって気が付かなかったが,その時
のわしはマントを解き,あの小賢しいガキと二度戦いをした時の格好になっておったと
いう.

そしてフーリエは言った.

「暗闇の雲さん.準備が整いました!さぁ早く,この14番目の戦いを無に!そして,
真・幻想跳躍アルテマで闇の世界へと移動します!」
「よかろうとも!今こそ,光の氾濫により,世界を無に還す!消え去れい!」

と,わしが叫んだ後,フーリエが生み出した隙間から光の粒が濠流を成し,14番目の戦
いは無へと還った.

Come into the Void...


3.クリスタルタワー


14番目の戦いを無に還したわしとフーリエは,真・幻想跳躍アルテマにより,カオスに
召喚される前にわしが元いた世界の,闇の世界へと向かっていた.真・幻想跳躍が行わ
れている最中,わしは,自分が作ったもの,とフーリエ自身が言っていたものがわしら
の周りを飛び交っているのを見た.

先ずわしが真っ先に見たものは,光の粒が人の形を得,光速でわしらのそばを通ってゆ
くものだった.フーリエに言わせると,

「あれが全ての幻想が始まるきっかけになったタイムアタック」

だと言う.まぁ正確に言えば,あの光の粒は,タイムアタックをする者,つまり

"タイムアタッカー"

と呼ばれることらしい.


…暗き闇の彼方へと,流星群と思うかの如くタイムアタッカーは,この異次元の空間の
中を光速で走ってゆく.わしはふと思ったことがあったので,フーリエに尋ねることに
した.

「フーリエよ,何故,数々の幻想跳躍をお前は所有し,それを行使できるのだ?」

すると,彼はわしの方へ向き,言った.

「僕・・・本当の僕は,ディリクレに闇の世界の深奥で脳手術をしてもらっているのだ
けれど・・・.ただ脳を鏡で覆うだけじゃだめなんだ.あいつ・・・幻鏡の光に相対す
るためにはね・・・」

幻鏡の光,か.四番目の幻想の探求者ゴルベーザの探求の旅の終着点に於いて明らかに
なった,

「幻の鏡から映し出された光」

というのが正に,このフーリエが生み出した世界の終わりの象徴となるものか.彼は続
けて言う.

「そう言えば,僕はあなたの質問に応えてなかったですね.何故僕が沢山の幻想跳躍を
知っていて,行使できるのかと言うと・・・

真の次元の狭間は,ガイアとテラという国が平和に栄えているところです.それで,未
来のその世界のテラで,僕は一人の女性と結ばれ,子どもを授かるのですが,本当に,
幸せに暮らすことが出来ているんです.

テラという国は,幻獣使いの国なんですよ.そしてもうお分かりだと思いますが,幻想
跳躍の手段として,幻獣の名前とそれに相応しい力を用いる事が必要不可欠なんです.

ずっと昔のことですが,ガイア―テラ戦争,通称テラホーミング作戦は,この僕,フー
リエが境界の力を暴走させ,ガイアとテラを滅ぼしました.滅ぼした僕は,あまりの自
分のやり切れ無さに,自分が滅ぼしたテラへと身を一時的に潜めていました.そこで生
まれて初めて見た動物を目にして,少し安心したんです」
「それで,その動物たち―幻獣を飼い慣らし,力を得た,というわけか」
「はい,そうですね」

未だにわしたちは幻想跳躍をしていた.タイムアタッカーがわしたちのすぐ傍をかす
るように通り抜けて行った後に見えたもの・・・それは数多の形をした飛空挺であった.
他にも,幾許かの魔導具が散らばって見えた.これも・・・フーリエが成した業績なの
だろうか.・・・ややあって,暗き闇の中に白い円を見出したわしは,これが幻想跳躍
の終わりなのかと思った.わしのすぐ隣に座っていたフーリエは,またわしに向かい,
こう言った.

「昔の,とか未来の,っていう言葉に執着しないんですね,本当にあなたは・・・」
「その通りよ.『無』には時の摂理など存在せぬ」

やがて,白い円がわしらが近付いていくのに従い大きくなってきた.

「暗闇の雲さん,もう少しで幻想跳躍は終わり闇の世界へ到着します.ご準備の程を」

わしが主であるかの世界に着くのに準備などいらぬわ.そんなことよりも,わしは闇の
世界に早く着かないか,そうでないのか,それだけが気がかりであった.

ややあって,例の白い円が急速に増大した.これで闇の世界に着くのだな.元の世界へ
戻ることができるのだな.

フーリエが,闇の世界に到着しました,と言ったので,わしはかの世界へたゆたうよう
に歩みを進めて行った.


4.闇の世界


闇の世界の入り口にて,わしは木造で出来た船をみつけた.船にはプレートが打ち込ん
であって,何か古代文字が刻まれていたが,わしには読めぬ言葉だった.そこで,わし
の背後から声が聞こえた.

「そのプレートには『闇に沈む船アーク』と書かれているそうだ」

わしはゆっくりと背後へ振り返り,その声の主を認めた.

「四番目の幻想の探求者・・・では,もうなかったな,ディアボロス・ゴルベーザよ.
お前とクジャは,ディリクレが脳手術をしているのを手伝ってはいなかったのか?」
「悠久なる闇を孕む暗闇の雲・・・この三番目の幻想の,『闇の世界』の主であるお前
に対して,私からの挨拶をしに出向きに来たまでよ」
「孕むのは闇だけではないわ・・・フーリエが起こした光の氾濫によって,わしは14番
目の戦いの"World B"を無に還し,真・幻想跳躍アルテマによって此処,闇の世界に戻
って来たのだ」
「14番目の戦いを無に還しただと・・・?!それでは,私の弟は・・・」
「案ずるな.無は優しい.わしとフーリエが起こした"World B"でのあまりの急展開に,
皆驚いていたようだったぞ.わしも最初は混沌の女神に召喚された戦士たちについてそ
のその存在の有無を疑問視していたが,わしが無に還す前に皆元にいた世界に帰ってい
ったようだぞ」

そこで,ゴルベーザの背後から,死を弔う死神・クジャが現われて言うことには,

「皆,元の世界に帰っていっただって?じゃあ僕が絶望の丘で聞いたあの・・・ジタン
の声は一体なんだっていうんだい?」

そこでゴルベーザは,わしに語りかけてきた.

「暗闇の雲・・・お前は,14番目の戦いにおける,『ビショップ』の役目をする存在で
あったはずだ.他にも私は『ルーク』と『キング』と相間見えている.そしておそらく
は『ポーン』と『ナイト』は・・・」
「おそらく,ケフカが言っていた言葉にあった『良い子ぶりのナイト』と『根暗のポー
ン』と同じであろうな.そう,セシルとクラウドだけが,混沌の女神に召喚されたので
あろうな.だがその存在はもういない」

そこで,クジャが話に割り込んで来たのだ.

「ジタンが・・・呼びかけてくれたのは,じゃあ一体なんだったというんだい?!」
「真実は己の手で掴むものだ」

と,ゴルベーザが狼狽するクジャを諫めた.わしは話を本題に移そうとした.

「わしはフーリエにより頼まれたことを実行しに・・・そしてこの三番目の幻想世界を
無へと還しにやってきたのだ」

すると,ゴルベーザは言う.

「フーリエにより頼まれたこと,だと?それは一体・・・?」
「ファファファ・・・先程聞いたことをもう忘れてしまったか.フーリエの脳を手術す
るディリクレを止めにくること」


ゴルベーザとわしとクジャは,闇の世界の入り口にて,様々なことを話し合った.
"World B"を無に還しても,真の次元の狭間・・・無の世界はいつまでも永遠に在し続
けることや,それを解放させるには,わしと共に此処の闇の世界へ真・幻想跳躍で帰っ
た時に姿を消してしまったフーリエの物語を紐解かねばならぬことなど・・・.

しばらくわしたちは闇の世界の入り口に留まっていたのだが,ゴルベーザの導きによっ
て闇の世界の深奥へと見送られた.そこでわしは彼らに聞いてみた.

「ゴルベーザ,そしてクジャよ.お前たちはこれからどうしようというのだ?いつかま
た氾濫が起き,今度はお前たちもろとも無に還してしまうぞ」

彼らは,それぞれわしへと頷き,闇の世界の入り口から去っていってしまった.脆き存
在どもよ・・・.わしはかの世界の深奥で,ディリクレと対峙すべく,そこへと続く,
「永遠の闇」の名を冠する階段をゆっくりと上がっていった.


一方その頃・・・


「僕たちも・・・この闇の世界から幻想跳躍をして元いた世界へ帰らなくてはいけない
ね・・・」
「ああ,そうだな」

闇の世界の入り口にて,二人・・・クジャとゴルベーザは言葉を交わしていた.

「僕は・・・まがりなりでも,真・幻想跳躍を行使できる存在だ・・・.今,ゴルベー
ザ,君を元の世界へと帰すことができるんだよ」
「私には・・・帰るべき幻想が分からないでいる・・・」
「それは,例の『感覚反射』という病気からかい?」
「そうかもしれぬな・・・やはり,闇にも光にも属せぬ者は,どこへもいてはいけない
のだ・・・」

ゴルベーザは,静かに語りながら,クジャの真・幻想跳躍で,何処とも知れぬ世界へと
去って行った.独り残されたクジャは,自分自身にかの幻想跳躍をかけ,帰っていった.
弟の声,ただそれだけを頼りにしながら.






最終更新:2012年06月10日 20:27