冬の太陽はなぜ天涯に身を没するのを急ぐのか.また冬の夜はなぜ長々と,いつまでも続くのか ―――アエネーイス第一歌745行

はじめに

 以下に記すのは,私が気象予報士になるために記録している勉学ノートをまとめたものである.タイトルの「RES GESTAE」というのは,ラテン語で「なされたもの」という意味である.はじめは過去問の計算問題を解く際に使っていただけの勉学ノートであったが,八冊目に到達し煩雑になってきたため,ネット上に整理し記録しようと思い立った.
 それは,なにより自分のためであるし,また同じく気象予報士を志す仲間へ少しでも参考になっていただければという目的も兼ねている.この場をきっかけになんらかのコミュニティができれば私としては至上の喜びである.
 ―――進行形の,とても具体的な気象予報士の勉学ノートを目指して.

準備編


日々のトレーニング


「合格率5%」という評判を捨てる

 「むずかしい資格だから受からなくてもいいや」,「間違っても仕方ないよね」などという思いで受験するのは控えた方がいい.あなたはどうしてこの資格を取りたいと思ったのか?

苦手意識,「なんとなく」意識をなくすために素早く対策を講じる

 学科試験は多肢選択問題である.勉学したての頃は,「この分野苦手~」,「なんとなくこれっぽい」などという気持ちで選択肢を避けたり選んだりすることがある.しかしこれでは絶対に受からない.苦手な分野を真面目に学んで克服すべきである.気象予報士は最新技術に関わる分野であるので,常に「学ぼう」という意識が必要である.

集中力のリズムを知る

 試験時間は,学科は1時間,実技は一回につき75分である.普段のうちに集中力を高める練習をしておかないと,力尽きてしまう.特に実技の試験時間は酷である.

実例にあたる

 テレビの気象予報を見て,「なぜ今,この気象予報士はこう言ったのだろう?」と疑問に思ってみるのが一番に勉学の動機付けになるのではないだろうか.そして,テレビや新聞の速報天気図を見て,見慣れることにしていこう.気象予報士が言う専門の言葉に注目してみるのも手である.「上空1500m付近に強い寒気が」,「大気が非常に不安定になりますので」,「寒冷前線の通過に伴い」などなど.現職の気象予報士から学べることはかなり多い.

毎日の気象予報に関わる

 NHK第二放送で午後四時から気象通報が行われているので,ラジオ天気図を入手して(いまは困難であるが),ラジオを聞いてその日の正午の天気図を作ってみよう.特に,どんなところにどんな地名があるのか,どんな地名・海域名が表示されているのかを知ることができる.これは,実技試験の(特に擾乱の移動を記述する際に)大きな準備となるし,実際に役立つ.

総観気象学を学ぼう

 「文系が理系が」などと耳にするが,もうそのようなことを言って言い訳するような時代ではないと私は思う.そのような壁を作る行為が間違いなのだとも私は思う.気象予報士を目指すのなら,本当に目指すのなら,どんな資格かをはっきり把握し,謙虚に資格の勉学をすべきである.
 気象予報士はもちろんのこと気象学の知識が必要なのは言うまでもない.しかし必要なのはそれだけではなく,気象に関する法規の知識や現象を作文する技能も必要である.また日本の地理の知識だって必要だ.
 気象学や数値予報で用いる「物理学の方程式」を学ぶことはかなり大事だと私は考える.なかでも高校卒業程度の力学と熱力学の知識は最低でも持っていたい.数学としては微積分とベクトル解析,三角関数は必須なように思える.そうしてプリミティブ方程式の意味はおさえておきたい.

気象予報のためにコンピューターに慣れよう

 気象庁のホームページには欠かさず訪れるようにしたい.特に学科専門知識のためには必須だと考える.また,高層天気図や解析図を日頃から見慣れるためにも,訪れるのは重要だと私は思う.
 気象要素のデータや予報確率の処理を,Excelなどの表計算ソフトで自分でまとめてみるのもいいかもしれない.気象予報は,大量のデータを扱うがゆえに確率と切っても切れない関係にある.そうすれば,気象予報の分野にだいぶ近づけることは間違いないと思う.

解答の心構え


ベストコンディションでのぞむ

 気象予報士の試験時間を想定し,自身の集中力についてはもちろんのこと,体のことを知っておく必要である.例えば私はトイレが近いと集中力が著しく低下する.そうなる前に,あらかじめトイレを済ませておいてから勉学にのぞむことにしている.試験本番へ向けて,30分から1時間の間に充分にコンディションを整える練習をしよう.
 気象予報士の資格を取得して,実際に業務をすることになった際,この「コンディションを整える」ことは重要であるように思える.というのも,現象の予想は常に最新情報を見ていかねばならないものであり,体力も精神力も使うので,自分自身をまず管理せねばならないからである.

問題文をよく読む

 問題文をよく読もう.特に多肢選択の学科試験は注意が必要である.1問当たり平均4分しかない学科試験では,出題者が問いていることを間違うことがある.正しいものを選ぶのか,誤っているものを選ぶのか?
 問題の意図,すなわち題意を明確にするべく,問題に名前をつけることを薦めたい.これは「大気の熱力学」の問題だ,これは「大気の力学」の問題だ,などといったふうに.そうすれば記憶のひきだしが整理されてゆくと考えられるし,知識の整理もできる.

早とちりしない

 これは学科試験でも実技試験でもあり得ることだが,題意を汲み取ることを怠ると,後になって響く.学科試験ではそれぞれの問題は独立しているのでまだよい.実技の場合は,前の問題で解答した事項についてまた問われることがあるので,殊更注意が必要である.

なにを求めるかはっきりさせる

 正しいものを選ぶのか,誤っているものを選ぶのか,といった問題形式自体を読み取ることはできたとして,次は「なにを問われているのか」を意識する必要がある.これは計算問題でよくあることである.どんな物理量を求めればよいのか?ということだ.風速か?温度か?相対湿度か?まずはそれをはっきりしなければならない.
 そのためには,問題文中の求める物理量を丸で囲むとよい.実技では,用いる資料の図表番号を丸で囲むとよい.そうすれば,解答への道筋が少なからずみつかるだろう.

注意点


時間的制約によるあせり

 試験時間はどうしても限られている.よって,いつもの勉学時と違う思考をしてしまうかもしれない.例えば私の場合は,こうである.
 「いつもは何分もかけてじっくり解いてきたが,いざ試験会場で解答を行なうと,『早く答えねば!』というあせりが生じてしまい集中力が揺らぐ.結果,知識のひきだしを開ける手がぶれてしまい開けることができない,あるいはちがうひきだしをあけてしまうことなる」
 といったものである.こういったことに対してはどういう対策を講じたら良いだろうか.
 私がまず考えたのは,
 (壱,普段から問題を解きなれる
 (弐,普段から時間を設定して勉学する
このふたつである.やはり日々のトレーニングが大事なんだと思ったものだ.
 自身の弱点,注意すべきことを見出し,対策をとるようにしていこう.

計算テク


限られたスペースでも正確に計算できるように

 試験では計算問題も出る.学科一般・専門でも実技でも言えることだが,机には指定されたものしか置けない.そのなかには,白紙の紙などは入っていない.問題用紙のすみっこで計算を行なうしかないのである.
 手計算の正確さ・素早さを鍛えるのは重要だが,きちんと整理して計算を行なうことも大事である.そのためには,基本となる法則・定理・過程などをしっかり頭に入れておかねばならない.
 また,過去問を解いているひとは,わざと小さいノートや紙で計算を行なうというのも手である.

値・与式・条件・単位を正確にまとめ,追う

 これも一般・専門・実技の計算問題で言えることだ.値は,問題文中で与えられたものを使うこと.値を丸で囲み目立つようにすれば,その数値が映えて,計算しやすくなると思う.与式についても同じで,問題文中で与えられたものを忠実に使う.
 値・与式を把握したら,早速計算をしたくなるところだが,その与式が成り立つ条件は何か,もう一度問題文をよく読み確認する.例えば「北半球中緯度のX地点で」とか「空気隗は乾燥断熱減率にしたがって変化するものとする」といったふうに.問題文中から得られる情報は実は多く,解答のヒントも多くあるのだ.
 あとは単位をしつこいくらい確認することである.「単位時間あたり」,「単位面積当たり」,などという言葉には慣れておこう.気象学・気象予報で使う物理量の単位は,すぐに出せて,変換できるようにしておこう.
 変換例:ノットと毎時,海里とキロメートル,などなど.
 一時間は何秒か?五日は何時間か?sin30°はいくらか?2や3の平方根はいくらか?渦度の単位は?パッと言えるようにしよう.

丁寧に定量化をおこなう

 問題によっては,図を見て読み取るのもある.
 たとえばフェーン現象の問題だ.「大気の熱力学」,「気象現象」に分類される基本的な問題であるが,山のふもとからどの温度減率でどの高度まで上がったら飽和し(あるいは湿潤でなくなり),どのようにしてもう一方のふもとまで下るのか?
 この「どの」とか「どのように」を具体化していく行為は非常に大事である.数字や方程式で具体化していく(定量化,と呼ぶ)と,現象が見えてくるのだ.
 ただ,やみくもに数字や方程式を使っても意味がなく,法則・定理・過程について慣れる必要がもちろんあるし,数学の基礎知識だって必要だ.初めは,正確にそういったことを追っていくことから行なうようにしよう.

図やイメージを描いて整理する

 問題文だけでは情報がつかみにくい場合がある.例えば地衡風や温度風の風の向きを調べる時などは私は厄介に感じる.ベクトル解析の知識さえ頭に入っていたならば,右ねじを手で作ることにより両者の問題は解決される.
 特にベクトル解析の「外積」が定義のなかに入っている地衡風,温度風,渦度はイメージだけではなかなか解けない.ゆえに私は問題用紙のすみっこにいろいろと矢印を描くようにしている.

次元解析はマスターすべし

 次元解析,とパッと文字だけを見て難しそうなイメージがついてしまうのではないだろうか.しかし実際に行なうことは簡単だ.例を挙げよう.
 A地点で北東へ15ノットで進む擾乱Xがある.12時間後には何海里進んだことになるか?ただし擾乱Xは12時間の間,方向と速度を変えないとする.
 まずあなたがすることは,ノットと海里の関係を思い出すことである.ノット(kt)というのは速度の単位のひとつで,海里(NM)というのは距離の単位のひとつである.hourは一時間(3600秒)で,
 kt=NM / hour (1)
という関係があるということを思い出すことができたとして,次にすることはなんだろう?
 そうだ,「なにを求めるかはっきりさせる」のだ!今の場合は海里(NM)を訊かれているので,(1)式を次のように書き換える.
 NM=kt × hour (2)
となる.もちろん(1)と(2)は意味が同じである.次元解析とは,「単位を一つの方程式のように書き,求めたい量について解く」ことだと思って良い.
 これで,問題文の情報・条件と(2)より,15(kt)×12(hour)=180(NM),つまり「北東へ180海里移動した」と答えることができるのである.

日頃から計算に慣れる

 小数第二位のかけ算・割り算は,慣れていたほうが良い.「なんだそれくらい」と思うかもしれないが,実際に計算を行なうとなかなかこたえるものである.学科試験は,選択肢のなかに近い値があるので助かるが,実技となると「小数第〇位で」,「有効数字〇桁で」などと指定されたりするので,気を付けよう.
 「気を付ける」という意味では,日頃から数字と仲良くしたほうがよいと私は考える.

大敗を期してこその、力なのだ。








最終更新:2020年03月25日 20:52