第一部
第一節
この地上から宙を見上げてみ給え,幾億の星々が煌めきを宿しているのが分かるだろう.そなたらも見ることができるあの黄色い「月」は,かつて無限遠方の星々の彼方からやって来たのだ.その時期は,そなたらが持ち得る全ての技術を持ってしても計り得ない程古い.
この世界,即ち,天界,地上,冥界で起こった全ての出来事を語り,説くには,先ずこの天界或いは「月」について明らかに話さねばならぬ.かつては天界の者でありながら,14人の僕に誅殺された,この哀れな冥界王ジェイド・ポテンシャリクが全てを語ろう.
かつて,幾億年もの時を経て,幾億の星々を「魔導」の力で屠り荒らしてきた星,「テラ」は,星としての寿命を迎えつつあった.主力の魔導の力も衰え,このままでは新しい「食い物」とする星をみつけても逆にこちらの方が食われるのではないかと,当時のテラの最高権力者は考えていた.
そうして長旅をして見つけたのが,そなたらが足を地につけている地上,または「ガイア」という星だったのだ.
第二節
先ず,私が天界にいた頃のことを話そう.
…私,ジェイド・ポテンシャリクは今でこそ死した者の魂を管理する冥界の王であるが・・・.元々は,天界にいた者であった.まだ天界にいた頃,私は少年の姿をしていた.そして,クキカル教という宗教の敬虔な信者でもあった.
そなたらガイアの民にしてみれば異教のものを何故語り出したか?それには,きちんとした理由があってのことなのだ.
このアモルス教の教典であるジェラール教典は,三部構成となっている.第一部は天界の部,第二部は冥界の部,第三部は地上の部となる.ガイアの原初の民よ,かの妖魔導師からもたらされたこのアモルス教を決して軽んじてはならぬ.世界崩壊後,幻想復興として南亜大陸を秩序あるものにするべく与えられたかの宗教を,決して軽んじてはならない.
話を戻すとしよう.私が敬虔なクキカル教徒だった頃・・・.まだガイアをみつける前のテラは,魔導の力の困窮に,皆喘いでいた・・・.
第三節
テラの民は,星の中心核にある大水晶石から「幻魔の力」を抽出することで,自分たちの「魔導の力」としていた.その方法は,テラに古より伝わる宗教の神が伝えていた.そう,その宗教とは,クキカル教で,その神とは正しく,「クキカル」と呼ばれるものだった.
魔導の力困窮の時よりもまだ遠かった時のこと,当時敬虔なクキカル教徒だった私は,クキカルにこう問うたことがあった.
「クキカル様.あなたはどのようにしてこのテラの星の中心核に辿り着き,大水晶石から幻魔の力を抽出するまでに至ったのですか」
と.すると,クキカルはこう言った.
「私を称える敬虔なジェイドよ,顔を良くお見せ.・・・そう,その通りだ.今でこそ私は神として崇められているけれど,昔はただの犬だったんだ.私には主人がいてね.そう,それは,やんごとなき冒険心溢れる方だった・・・」
思い思いに語るクキカル.私は,今まで畏れていた人が犬だったことを知り,ひどく落胆したものだ.
(続く)
最終更新:2014年02月01日 22:28