1.懐かしき日々よ


今となっては昔の出来事・・・そう,私がまだ子どもだった頃,幻獣界にて―――.

… … …

「ねぇ,おとうさん!おとうさんは,まいにち,なにをしているの?」
「はっはっ,ティナ.いつかは聞かれるだろうと思って少しドキドキしていたよ.ティナが毎日,言葉と魔法の教室へ通っている最中,お父さんは幻獣界の"畑仕事"をしているのさ」
「はたけしごと?」
「そうさ.ティナ,明日は教室は休みだろう?良かったら一緒に,畑仕事をしてみないか?」
「どんなことをするの?」
「そうだなぁ・・・.まず,"タネ"を土の中に埋めて,毎日毎日,水をかけてあげるんだ.すると・・・」
「すると・・・?」
「土のなかから,"メ"が出て来るんだ!毎日毎日,見守っていけば,その"メ"は,新しい"タネ"を作るようになるんだ.気持ち良いものだよ,畑仕事は」
「なんかおもしろそう!わたしもやってみたいな,はたけしごと・・・!」
この時・・・今でも覚えている,お父さんは私の頭を撫でてくれたんだっけか・・・.

私はその日の翌日,お父さんと一緒に幻獣界の畑へと出かけた.確か,お母さんも一緒に来てくれたのも覚えている.
「ティナ.怪我しちゃダメよ.ほどほどにしなさいね」
「はーい,おかあさん.・・・おかあさんは,はたけしごとやらないの?」
「いえ,お母さんはここであなたたちを見守っているだけにするわ」
「そう・・・」
そして,お父さんがいっぱいの"タネ"を持って来ると,
「今年も沢山実がなるといいなあ」
と言い,早速一緒に畑仕事にとりかかった.


全てが懐かしい,あの日々・・・.私は,両親だけでなく,幻獣界の皆からも愛されて育った.私がお父さんと一緒に畑仕事を体験したあの日・・・.あの日,私は確か絵日記にこう書いたのを覚えている.

"今日は,タネをうえました.これから元気にすくすく育ってほしいです.あとメが出るのが楽しみです"と.

私は,夢を見ているというの?こんなに過去の思い出が鮮烈に蘇ってくるなんて・・・.夢,としか言いようがないわ.・・・でも,今から思えば,幻獣界で育てられていた頃の私って,とても生き生きしていたと思う.これも,私を育んでくれた両親のおかげ・・・.今は,いないけれど・・・.その代わりに,支え合える仲間がいるのは確かだ.彼らに感謝しなくては・・・.

夢は,まだ続く.私とお父さんがタネを植えて数週間経った後の話だ.私がいつものように家でおもちゃで遊んでいた時,畑仕事に行っていたお父さんが突然家に帰って来て,
「ティナ!畑まで来てごらん!ティナが植えた"タネ"から"メ"が出ているよ!」
と嬉しそうに言ったんだっけ.早速私はお父さんに連れられて畑に行ってみたところ,土から,緑色をした葉っぱが二枚,ぴょこんと出ているのが目にとれた.お父さんは,そのメを見て喜んでいる私に,
「ティナ.これが『育てる』ってことさ.何か感じたことはあるかい?」
その時の私は・・・なんて言ったか詳しくは覚えていないけれど,その日の絵日記にこう書いたのは覚えている.
「今日は,メが出ました.とてもうれしかったです.これからも,大切にそだててあげようと思いました」と・・・.

… … …

あやつりの輪が解かれ,沢山の人たちに出会った.沢山の出来事があった.私は自分の立場を理解し,自分が何者で,何をしなければならないのか・・・それらを考えて生きてきたように思う.時には悩むこともあったけど・・・,前に進まなきゃ,という気持ちのほうが大きくて,あれこれ考える暇もなかった.本当に立ち止まったら,「生きる意味」を見失いそうで・・・.そもそもの話,私には「生きる意味」なんてあるのかしら?私なんて・・・私が生まれてこなければ,世界はもしかしたら平和に治められていたかもしれないというのに・・・.

夢を見ながら思ったこと.それは・・・.

「私がこの世界に生まれきた意味は,果たしてあるのだろうか?」

ということ.・・・幻獣界に新しく萌えた芽のその後のことは,私には分からない.どうしてかというと,その日のすぐ後,ガストラ帝国の軍が攻めて来て・・・.私の大切な人・ものが全て奪われてしまったからだ.攻めてこなかったら・・・,花を見れていたかな?私が生まれなかったら・・・,幻獣界は平和なままだったのかな・・・?

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最終更新:2013年10月23日 17:14