1.霊峰にて
「反撃のチャンスが来たんだ」
若きフィガロの王・エドガーは,弟のマッシュに,此処・コルツに自分たちが来た理由を話し始めた.彼は続ける.
「もうジイヤたちの顔色を窺って帝国にベッタリすることもない」
マッシュはエドガーの言葉の意味をすぐに理解したのか,すぐにこう応えた.
「じゃあ・・・帝国との縁が切れた・・・そういうことだな,兄貴?」
エドガーは頷く.続けてマッシュは言う.
「なるほど・・・.俺の技もお役に立てるかい?」
エドガーは一度周りの三人を見回した後,こう言った.
「来てくれるのか?マッシュよ・・・・・・」
エドガーの言動を不思議がっていたティナとロックをよそに,マッシュは豪快に答えた.
「俺の技が世界平和の役に立てばダンカン師匠も浮かばれるだろうぜ!」
と.
「さぁ,強力な仲間も増えたことだし,先へ進もう!」
先へ急ごうとするロックに,エドガーは
「ちょっと待ってくれ.すまないが少し時間をもらえるか?」
と彼の歩みを止めた.
コルツ山のふもとから少し登った高台にて,エドガーとマッシュは言葉を交わしていた.
高台からサウスフィガロの町を望むエドガー.そんな兄の背中に向かい,弟は言う.
「兄貴・・・一体なんだってこんなところに・・・?」
エドガーは一瞬俯いたが,やがてマッシュの方へ振り向き,こう言った.
「マッシュよ.師匠が殺されても尚,ああも誇らしげにいられるのはどうしてなんだ?何年も経つと,やはり人は変わるものなのか・・・」
マッシュは自信ありげに答えた.
「そりゃあ兄貴,俺にでっかい『夢』ができたからさ.おっしょうさまが亡くなられても,目指したい夢がな.おっしょうさまがよく言ってたぜ.
『人の生きる道はまるで迷いの森のようじゃ.夢というクワで耕せば迷いも消え去ろう』
ってな」
エドガーは,
「なるほど.俺もダンカン師匠に弟子入りすれば,もっと立派な国王になれたかもしれないな」
とため息をつきながら言うと,マッシュはその言葉を包み込むように話した.
「そんなことないぜ.さあ,向こうで二人が待ってる.早く行こうぜ,兄貴!」
こうして二人はコルツのふもとへ戻った.
2.砂上の楼閣
この世界に緑を取り戻せてどれくらい経っただろうか.覇者ダンカンからスーパーモンクの称号を与えられたマッシュは,その日,フィガロ国へ久しぶりに出向いた.
「すげえ・・・これが・・・フィガロ城・・・?!」
マッシュは思わず呟く.久しぶりにフィガロ城に訪れた者なら,例えスーパーモンクでなくともその変貌さに唖然とするだろう.それはそうだ,何故なら此処フィガロ城は,かつてのような煉瓦造りのものではなく,コンクリートによるものでできていたからだ.
「この方が砂によく馴染むのでね」
一人でポカンと開いた口が塞がらない弟の背中に向かい,兄は言う.
「マッシュよ.今日は一体どうしたというんだ?」
マッシュは,一瞬我を失っていたが,やがてエドガーの方へ振り向き,こう言った.
「兄貴.久々に来たよ.コルツ産のワインだ.今年は良いブドウができてさ.・・・少し城を見学してもいいか?」
「ああ,いいとも」
そして,夜がやって来た・・・.
「この部屋だけは変わっていないんだな」
マッシュがワインを片手に,「この部屋」を静かに歩き回り呟いた.
「ああ,この王の間だけはな・・・.俺たちの思い出の場所だから」
エドガーはワインを少し口に含み,そう言った.そして彼は,続ける.
「あの時の俺は・・・,『親父が恥じないような王』・・・ただそれだけを意識してこの国の王でいたんだ.お前を自由にさせたいが為に,成り行きで自分が王位を継ぐことを選んで『しまった』ものだから・・・.・・・だが,あの戦いで学んだことがある.それは,上に立つ者としての使命感さ.それと・・・」
彼は,ここまで言うと,残りのワインを全て飲み干した.
「それと・・・なんだい?」
マッシュがそう問うと,エドガーはこう返した.
「あのコルツでお前が話していた夢の話だよ」
マッシュも残りのワインを全て飲み干すと,彼らはかけあう.
「夢か!そういうのは,何才になっても持ち続けたいものだよな!」
「ああ,そうだな.酒,なくなっちまったな.じゃあフィガロ酒はどうだ?飲めよ.乾杯だ」
「ああ.今日の日に・・・そしてフィガロに・・・」
彼らは二つの玉座に座り.グラスを高々と掲げ,そろって言った.
「乾杯!!!」
最終更新:2013年08月16日 20:15