1.心癒すぶどうジュース


お父さま.
私,今日とてもいい話を聞けました.
夢を持って,願いを叶えようとするファンタジールの人たちって,本当に素敵だと思います.
私も今ではファンタジールのひとですが・・・,私自身の「夢」がなんなのかは,まだ分からないんです.
でも,今日聞けたお話では,それよりも大事なことを教わった気がします.

… … …

此処はポルトポルト宮殿街,パエリオキッチンにて.流離の冒険者カイクスフスは,ぶどうジュースを飲んでいた.今飲んでいるので,三杯目だ.彼のライフは,狩人.誰を守る為でもなく,自らの誇りを示す為でもなく,ただひたすら己の気の向くままにモンスターを狩るだけ.更に彼は,人との距離をとるのが苦手だった.それは,過去に在った辛い出来事に由来しているのかもしれない.遠距離から対象を射るのを好むのも,きっとカイクスフスなりのこだわりがあるのだろう.

窓から差す光が段々と赤みを帯びてゆく.カイクスフスはぶどうジュースが入った瓶を机の上に置くと,思った.
「ファンタジールの時間の進み方は面白い」
と.


2.愛しのPollyanna


狩人のマスター,イムカと別れて三日が経とうとしていた.

カイクスフスがファンタジールにどうやって来たのかは定かではないが,「狩人」というライフを最初に選んだのも,イムカという女性を最初に口説いたのも,彼が起こしたことに間違いはなかった.側で見ていたユエリアは,何が行われているのか分からなかったようだが.
イムカは,カイクスフスから見た第一印象では,「普段あまりものを喋らないが,『ここぞ』という時には,彼女が着ている服の色のようにものすごく情熱的になるひと」だった.そして実際に交際を始めて,「ここぞ」という場面になった時,カイクスフスの思った通りイムカは,ものすごく情熱的だった.

テーブル越しに座っているユエリアは,カイクスフスを慰めるかのように言う.
「カイクスフスさん.偶には外でおいしい空気を吸いませんか?ポルトポルトの潮風に当たるのも良さそうですよ!」
「君は楽観的な娘だ.とっても羨ましいと,出会った時から思っていたよ」
かつての名コンビは,パエリオキッチンから出ていこうとした.

(続く)






最終更新:2013年11月17日 18:36