宇宙開拓への道標


ふたりだけの星….そこには,果たして
なにが待っているのか?興味をそそられた
からには,追及しなければならない.
これもひとつの,愛のかたち.
私はディジタル回路を作っていた.
「ふたりだけの星」の大気組成を知るためだ.
そこでチリひとつない部屋で,静かに,
黙々と,電子回路を作ってゆく.
宇宙船レッド・サイクロンには,もう
ウィスキーしか残っていなかった.
私は,光速を超え,のどなしになった.
そう…,なぜウィスキーだけを残したのだろう?
まあ,今となっては,分かりえぬ行為だ.
「月ガ綺麗デスネ」ふと,そんな声を耳にした.
背後には,木と鉄でできていて,
ヒトを模した,機械があった.
のどなしになった私は,いかなる言語をも
話すことができなかった.私は
ボディ・ランゲージで示した.
「あなたは誰ですか」,と.
「ワタシハ,みゅれーご,トイイマス」
ミュレーゴ?聞きなれない部族の名前だ.
「ワタシハ,ヒトデハアリマセン」
いわゆる,ロボットというやつか?
「ソウデス.コノ星ノ部族,デス.
アナタ…ハ,ドノ部族デスカ?」
ああ,コスモポリタンという部族だよ.
それも,曰くつきのね.
「ワタシモ,こすもぽりたんデス」
君もかい?素晴らしい合致だね.
「ガッチ,ガッチ!ナカーマ!」
…この星の名前を教えてくれ.
「コノ星ハ,『新星グリモワール』デス.
えでんトらぷらすノタメダケノ星デス」
エデンとラプラス?昔,よく耳にしていた
名だ….何百年も前の話さ.
例のミュレーゴとやらは,タッチパネルを
点滅させているだけだった.
なにをしているんだ?
返事がない.まるで屍のようだ.
しょうがないから,
私は例のディジタル回路の作成に没頭した.
パネルには相変わらず,
"Ready? > "と表示されている.
ああそうか.私は,
あの時ウィスキーを飲めばよかったのだ.
私は覚悟を決めて,"OK"とパネルに打った.
するとどうしたことだろう!




ブワッと眼下に広がるのは,
ビルの立ち上がる,街だった.
グリモワールには,街がある.
ロボットは続けて言った.
「アナタノ セカイニハ,
イッタイ ドノクライノヒトガ,
スンデイマスカ」
「70億」私は即座に答えた.
「ソノヒトタチニ,
ジッサイニアッタコトハ?」
「ないよ」「ジッサイニ,
イママデアッテキタヒトハ?」
「70人くらいかな」
「ト,スルナラバ」ロボットも,
科学を学んでいたのだろう.

「ト,スルナラバ,アナタノセカイ
ニハ,70ニンノヒトシカイマセン.
実際ヘノ認識ト,
想像上ノモノトハ,カケハナレテイル」
なるほど.ヒトの数なんて,実際に
会ったことのある数,ということか.
それじゃあ会ってみよう,70億の
ひとたちと.
私は,宇宙服を着たままその街に降りた.

最終更新:2017年11月12日 14:02