病室とニノベキ教授
あの日から,何日が経つのだろう.
私は地球に降り,女神になった.
女神になったが,私がいるのは,
神殿ではなく,病室だった.
病室203室.そこが私の居場所だった.
ここには足しげく通うひとがいる.
畏国が帝国だった時代の大学教授.
ニノベキという数学の教授だった.
「君は,心の在り処を探っていると?」
ニノベキは私のことを知りたがっていた.
「ええ,そうね」顔を背けたままで言う.
「悪い虫は倒してもキリがないの」
「そうか.その『悪い虫』というのは,
結局なんなんだ?」ニノベキは唐突に
言う.まるで,夫のように.
「お願いよ.私のことはもういいから,
はやくあの方程式を解いて」私は
イライラしていた.教授自体ではない.
時折見せる,夫の真似をする貴方が憎いの.
「ナヴィエ・ストークス方程式かい.
一般解は,数十年前に解かれたよ」
突然なにを? そう思った.
「え?どういうこと?」
ニノベキは言った.
「ナヴィエ・ストークス方程式は,
非線形偏微分方程式です.
解くのは不可能だとされていました.
ですが,我々はかけ算を克服しました」
「急に敬語になるのはもうやめて」
「失礼.私の名前の由来を
申し上げましょう.
2作目は,大体コケる.
4作目まで続く話は,伝説的.
8がこけて,∞になる.
16歳のころは,黒歴史.
32は,今の私の年齢.
64kg.私の体重にほかならない.
128mは今日歩いてきた道の長さ.
256ギガ.大した容量ではない.
512日.ここへ通った日数.
1024年に,なにが起こりました?」
なぜ最後は疑問形?
私は夫が帰って来るのを信じて,
2048年待つわ.
わりと….女神にとって,
割に合った年数でしょ?
最終更新:2017年11月12日 14:04