その日,僕は行きつけのカフェで,レモンサワーを飲んでいた.ストローで氷を掻き混ぜながら,
回想に耽ったり,書きかけの小説に文字落としをしていったりすること,もう3時間も,此処
GB's CAFEで時間を費やしていたのだ.GB's CAFEと言えば,僕の通う大学の学生なら知らない
人はいない程,大学に近かった.なにしろ2車線の車道を挟んだ真向かいに建っているのだから.
いつも見かける顔があったり,そうでないのもいた.

レモンサワーは僕の渇いた喉を潤してくれる.常にサースティな自分は,いつも何かを飲んで
いないと何も出来ない人間だ.喉は常に何かの飲料で潤っている.その代わり,お手洗いに行く
回数が人より多くなるのだけど.

カフェは常に音楽がかかっており,今流れているのは,チャック・ベリーのジョニー・B・グッド
だった.更に,カフェの奥にもう飾り物と言って良いくらいの古い振り子時計があった.もっと
言うと,その古時計の中に,"エリクサー"と書かれた角瓶が入っている.

僕はこのカフェが大好きだ.

カフェのマスターに,曲をジョニー・C・バッドに代えてくれないか,と頼み込んだところ,
予想通りに「そんな曲知らないよ」という言葉が返ってきた.
じゃあ,カクテルでブランデーフィックスをくれないか,と頼んだところ,今度はやっとOKの
サインが出た.

アルコールを飲みながら小説を書くというのは,いささかその行為に懸命さが全く無いん
じゃないかと言われそうだが,僕は,自分が今楽しいと思えることをその時にする,というのが
モットーだから,そして僕は今小説を書くのが楽しいから,今こうして文字落としを行っている
わけだ.それは誰にも文句は言わせない.

マスターがブランデーフィックスを持ってきてくれると,僕一人だけの夜は最高潮に上りつめた.
今夜を最高の夜にしようと,僕は今をせいぜい楽しむことにしたのだ.ブランデーフィックスで
ようやっと酔ってきた僕は,今日が「彼女」の誕生日の翌日だったことに気付いた.ブランデー
フィックスの似合う女の子.昨日はこの時間は実験に追われていたんだっけ.時刻は0時を回っ
ていた.窓の外を見ると,愛すべき14人が僕を優しく見守ってくれている―多分酔っているから
だろうけど―のが目にとれた.


どんな絶望的な状況におかれても,目を凝らせばきっと生きる希望が見つかる.そう教えてく
れた最高の物語を,僕はこれからもずっと愛してゆく.

ゆっくりと椅子から立ち上がり,薄曇った月の光の下,僕は自宅に帰って行った.
夢じゃない,夢じゃない,と呟きながら.






最終更新:2011年10月19日 20:18