一通目,サリサ・シュヴィール・タイクーンより
バッツ,元気か?おれ・・・いや,わたしは今,おまえの故郷,リックスの村に来てる.わたし・・・いや,やっぱり「おれ」の方がしっくり来るな!
…おれやレナ,クルルが,一人旅から帰って来ないおまえのことを気にかけて手紙を送ろうっていうことになってさ.レナとクルルは,一番最初の手紙は,おれからがちょうど良い,って聞かないからこうして手紙を書いている.なんでちょうど良いのか分からないけど,バッツ,おまえは今,何処で何をしてるんだ?一人旅って,なんだか寂しくないか?
この手紙を読む頃には,バッツ,おまえはちゃんと帰る準備くらいはしてるんだろうな?…おまえのおやじさんとおふくろさんも,村の皆も,そしておれたちやボコまでが寂しがっているんだぜ・・・.だから・・・早く帰って来いよな!
(この手紙をモーグリに渡して,空に預けたぜ・・・!)
二通目,レナ・シャルロット・タイクーンより
バッツ,元気にしてるかしら?姉さんがあなたに手紙を送ってからもう一週間になるのね.あぁ,姉さんったら,あなたに手紙を送る時に,すごく恥ずかしがっていたわ.あの姉さんが,よ?意外だと思わない?それに姉さん,普段は強がっているけどすごく寂しがりやだものね.
姉さん,わたし,クルルは,まだあなたの故郷リックスの村にいるわ.リックスの村の人たちは皆とても良い人ばかりね.多分,姉さんも書いたと思うけど,こんなにも温かい故郷があるのに,バッツ,あなたは今,どこで何をしているの?
姉さんもクルルも,そしてわたしも,毎晩あなたのことが気がかりで・・・時々眠れないことだってあるの.ボコも寂しそうに,村の高台に立って遠くを見つめているわ.
一人で旅をする理由はわたしにはよく分からないけど・・・,帰って来たら・・・ちゃんと言ってね?一日も早く,バッツ,あなたが帰って来るのを楽しみにしているわ.
それじゃあ・・・また手紙を書くかもしれないから,一応・・・.またね.
三通目,クルル・マイア・バルデシオンより
バッツさん,元気にしてる?私は元気だよ.私だけじゃなくてファリスさんとお姉ちゃんも,ボコも元気にしてるよ.お姉ちゃん・・・が手紙を出してからもう三週間?一ヶ月?経つね.
そうそう,ボコと沢山お話しちゃった.私たちに出会う前のバッツさんのこととか,とにかくいーっぱい話したの.
ねぇ,今,一人旅してるのは何の為なの?ボコが言ってたけど,男の人って一人旅してても寂しくならない時があるし,そうでない時もあるって・・・.男の人って,難しいな.
リックスの村には,バッツさんの帰りを待つ人が段々増えてきたよ.シドやミド,そして最近になって感じて来たんだけど,あの戦いで亡くなったひとの魂が此処らを徘徊するようになってる.特におじいちゃんなんか・・・・・・いいえ,なんでもない!
帰ってきたらいーっぱい話を聞かせてね.約束だよ.ボコもバッツさんの帰りを楽しみにしてるみたい.
じゃあ,またね!
四通目,レナ・シャルロット・タイクーンより
バッツ,元気にしているかしら?クルルがあなたに手紙を送ってから,もうすぐ二ヶ月が経とうとしている.時々不安になるのだけど,私たちがあなたに送っているこの手紙,ちゃんと届いているか,ってね・・・.
ねぇ,バッツ.あなたは今,本当に何処で何をしているの?もしかして,手紙を出せない状態にいるから,返事の手紙を送れないでいるのかしら?それなら,返信用の封筒を同封して送るわね.
姉さんが手紙を出してからもう三ヶ月・・・.ここリックスの村は,相変わらず,何も変わっていないわ.変わらない故郷って,なんだかとても温かい・・・.みんながあなたの帰りを待っているわ.だから,なるべく早く・・・いいえ,せめて手紙だけでも,ちょうだいね.
姉さんとクルルの伝言よ.
姉さん:
「本当に心配かけさせて・・・早く帰って来いよな!」
クルル:
「バッツさん,元気?今度はココとお話ししちゃった!さすがは女同士,色々と分かることがあって良かった.やっぱり,男の人って難しいね,うんうん」
返信一通目,バッツ・クラウザーより
ファリス,レナにそしてクルル,今まで手紙の返事を返せなくて,すまなかった.おれはレナからの手紙に書いてあったように,手紙を出せない状態にいたから・・・.だからレナ,ありがとな,沢山返信用の封筒を送付してくれて.
それからファリス,一番最初に手紙を送ってくれてありがとう.やっぱ一人旅の寂しさは身に染みるな・・・.心配かけてすまなかった.ごめんな.
そしてクルル・・・ボコからおれのことを色々聞いたのか・・・恥ずかしいこと喋ってないだろうな,ボコのやつ・・・.
おれは今,おれの親父の故郷であるルゴルの村に来ている.酒場の人から,昔の親父のことを色々聞かせてもらったよ.おれがその親父・・・ドルガンの息子だって言ったら,タダで名酒を振舞ってくれた.
…と,それは良いとして,おれは目的は果たせたから,ファリスからの手紙に書いてあった通り,ちょっと遅くなったけどリックスに帰る準備を今しているところさ.帰る途中・・・色々と手紙を書きたいと思っているから待っててくれよな.それじゃ,この辺で・・・
P.S
他のみんなにもよろしく言っておいてくれよ!
五通目,レナ・シャルロット・タイクーンより
バッツ!お手紙ありがとう!返信用の封筒を同封しておいて本当に良かった・・・.
バッツ,あなたはついこの間まで,ルゴルの村にいたのね.・・・地図で見ると,ここリックスの村とルゴルの村ってすごく近くにあるけれど・・・.確か,途中に山間部があって,それを越えたら,あとは森の中を進んで草原のに出ればもうルゴルの村に着くはずだけれど・・・.バッツ,あなたもしかしてわざと遠回りして行った・・・とか?でないとあんなに長い時間をかけて旅が続くと思えないもの・・・.
ああ,ごめんなさい,今はあなたからの手紙を待つべき時のはずなのに・・・.でも,どうしても嬉しいっていう気持ちを伝えたかったの.
それじゃあまた,手紙,待っているわね.
また,姉さんとクルルからの伝言よ.
姉さん:
「・・・帰る準備,遅れたそうだけれど,一応出来たので許してやるよ」
クルル:
「前のバッツさんからの手紙が届いてもう一ヶ月近く・・・.ねェ,結局今どこにいるの?」
返信二通目,バッツ・クラウザーより
レナ,手紙,ありがとな,手紙ってものは,受け取るだけで嬉しいものだからさ,そんなに謝ることはないさ.それにレナ,おまえの「嬉しい」っていう気持ち,今のおれにも感じるぜ.やっぱ,旅先で手紙を送ったり受け取ったりするのって良いよな!
それで,レナが書いた,「遠回り」のことだけど・・・.おまえの言う通り,確かにリックスの村とルゴルの村はとなり同士さ.だからそのまま行くのはあまりにも勿体無いから,ついでに世界一周して行こうと思ってさ.でもさ,やっぱりこれがボコやおまえたちがいないのは寂しいのってな!
その世界一周するついでに,昔おれたちが旅した場所をもう一度訪れてみようと思ってさ.訪れた順番は違うけれど・・・,おれとして一番印象深かった場所から,その場所でメモした紙を参考に徒然と書き綴ってみようかと思う.
途中で手紙を送ってくれても構わない・・・っていうか,どんどん送ってくれた方が,おれの方も励みになるからな.それじゃあ,今回はこの辺で・・・.
P.S
クルルへ
今はルゴルの村の近くの森の中でしばらく暮らしているぜ!
返信三通目,バッツ・クラウザーより
みんな!元気か?おれは,まだルゴル近くの森で生活してるけど,それなりにやってるよ.前の手紙を送ってから二カ月くらい経つけれど・・・,偶に気になるもんだぜ,リックスの村のことがな・・・.
まあ,それはそれとして,前の手紙で書いたことを始めさせてもらおうと思う.おれがあの「旅」で印象深かった場所を徒然に書いていくってやつだよ.
一番最初は・・・フォークタワーでの話さ.あの時は,二手に分かれて塔を登るってことで,色々モメたよなぁ?おれはあの時はもう高所恐怖症を克服できていたから,お前たちがどうしてモメているのかよく聞くことができたんだ,そういえば.もしまだ高いところが苦手だったら,二手に分かれる以前に,塔の前で悶々としていただろうからな.話は戻るけど・・・あれってつまり・・・その・・・,誰がおれと一緒に行くか,ってことでモメてたんだよな?
まず最初にファリスがおれと一緒に行きたいって言い出して,だけどその時はおれはもう戦士系の塔に行くって決めてたから・・・.そこをレナが,
「ダメよ,姉さんは戦士系でもあり魔道士系でもあるじゃない.まずどちらかにしかいけない人を優先すべきだと思うわ」
って言って,結局白魔法が得意なレナと組んで魔道士系の塔に行ったんだよな.青魔法と召喚魔法を極めたファリスだから,きっとすごい戦力になったんじゃないか?思えばその塔に行ったお前たちって,タイクーン王女組だよな!
そしてガラフから沢山の戦士系のアビリティを受け継いだクルルとおれが,戦士系の塔に行ったんだ.クルルはあの時は素直に喜んでいたみたいだったけれど,今頃・・・のクルルはあの時のおれの姿を見たらきっと変に意識してしまうかもしれない.・・・踊り子のおれの姿を見たらな.そして塔の頂上で,ガラフの形見の「ひそひそう」でかけあいをしたのをよく覚えているよ.おれと組めずに悔しそうなファリスが
「バッツ!もうこっちは倒した!そっちはまだか?」
なんて言うもんだから,焦って剣の舞いを当て損ねたのを覚えている.
「こっちはフレアを手に入れる準備はできたわ!そっちは?」
レナもこう言ってくれたな.クルルも
「うん!もうバッツさんと弱っちいの倒しちゃったから準備万端だよ,お姉ちゃん!」
って言ったよな.無事にフレアとホーリーを手に入れたおれたちは,カタパルトでシドやミドに会ったんだっけか.
そう言えば,クルル,お前の手紙にあった,
「亡くなった人の魂がリックスの村を徘徊するようになってる」
って・・・どういう意味なんだ?
フォークタワーでの思い出は,これくらいかな.今じゃ,なくなってて飛空艇のカタパルトになってるけどな.あのパーティーを分けるときの記憶がハッキリと残っていてなあ・・・どうしてそうなってるのかおれ自身もよく分からないんだ.まあ,そこは思い出として大切に胸にしまっておけばいいよな!
それじゃあ,今回はこの辺で・・・.手紙,待ってるぜ.
いっぽうその頃
バッツさん,元気にしてるみたいだね.こっちは・・・私とお姉ちゃんは相変わらず元気だけど,ファリスさんの調子がなんだかおかしいみたい.お姉ちゃんの話じゃ,「熱が出てる」らしいけど・・・風邪かな?なんだか心配だよ.
なになに?バッツさん,昔話をしてくれるの?「たまには昔の話をしようか」っていう題名の本が古代図書館に置いてあったわ,って一番最初にバッツさんの手紙を読んだお姉ちゃんが言ってた.そういえば,私,最近思うんだけど,お姉ちゃんって,もしかしたらバッツさんのこと好きかもしれないって・・・.だってお姉ちゃん,バッツさんからの手紙を誰よりも早く読みだがるし,読んでいる間はほっぺたを赤くしているし,読んだ後はなんかうっとりしているし・・・.なんか変だよ!
それはそれとして,フォークタワー.懐かしいね.あの塔にいたミノタウロス?だっけか,確かにあれは弱かったね!MPないクセにホーリーを唱えようとしてきたし・・・.
…で,今頃の私が踊り子のバッツさんを見たら変に意識するかもってどういう意味?バッツさんのこの文章が書いてあった場所を・・・多分内緒でお姉ちゃんが消しゴムで消してあったのを,私の得意な時魔法・リターンで復元しちゃった☆.ねェ,これってどういう意味なの?試しにさ,リックスに帰ってきたら踊り子になってみせてよ.
それと・・・バッツさんの手紙にあった,亡くなった人の魂が此処を徘徊するようになってる,ってことだけど・・・.なんでかは分からないけれど,とにかくおじいちゃんや,他の暁の戦士たちの魂・・・みたいなのを感じるの.これは多分・・・私の予想だけどね・・・?私たち,生きている人,おじいちゃんたち,亡くなった人がきっとなにかの目的でこのリックスの村に集まってきていると思うの.そしてそれは多分,バッツさんが鍵を握っていることも・・・.
ファリスさん,夜中に「バッツ!」って突然叫んで起きることがあるから・・・.なるべく早く帰って来たほうがいいと思うな.それじゃあ,またね!
… … …
「さっ,手紙書けた書けた.早く郵便箱に入れて来ようっと」
リックスの村のとある空家に住んでいた吟遊詩人を,
「ここは元々バッツが住んでいた場所なんです,ですから彼のためにもこの家は空けておくべきだと思います」
となんとか説得させ,ファリス,レナ,クルルの三人娘は,いつバッツが旅から帰って来ても良いように,三人でそこに住み始めて,実に半年が経とうとしている.とある日の午前,早朝にいち早く届いたバッツからの三通目の手紙を読んだレナは,返事を書くのを楽しみにしながらも,自分の姉であるファリスの看病をしていた.一方のクルルはというと,レナの作った朝食を手短に済ませ,レナより先に返事を書きあげ,投函してしまった.バッツの家から郵便箱までは少し距離があった.クルルは,バッツの家に戻ろうと,レナは,汗だくになったファリスの服を外へ干しに,家から少し離れたもの干し場へ行って戻って来ていた.すると・・・.
クルルがバッツの家に戻る頃には,既に中ではレナがドタバタしていた.レナが叫ぶ.
「姉さん!どこに行ったの?!」
あまりの騒ぎようにクルルは驚いた.
「お姉ちゃん・・・どうしたの?!」
レナは返した.
「姉さんが・・・どこにもいないの!見つからないの!」
クルルは,さっきまで熱でうなされていたファリスが横になっていたベッドがある居間を見に行った.
「本当だ・・・いない・・・」
クルルはこう呟き,そして見つけた.今朝一番に届いた,バッツからの手紙が,そのベッドの枕元にあったのを.居間に来たレナを認めて,クルルが呟く.
「お姉ちゃん,これって・・・」
「えぇ,そうね,きっと姉さん,バッツのところへ行ったのでは・・・いいえ,それでも無理があるわ!あんなに熱があったのに村の外を出て行くなんて危険すぎる・・・でも無鉄砲な姉さんのことだわ,きっとバッツに会いに行ったに違いない・・・」
レナとクルルは,敢えてファリスを追うようなことはしなかった.熱があるというのに,どうしてか?それは,「仲間」として信頼しているからである.ファリス・・・彼女は何を思ってバッツに会いに行こうと思ったのだろうか?
ルゴル近くの森にて
その森のなかに張られたテントにて,バッツが呟いていた.
「もうすぐモーグリからの手紙が届く頃だな.5,4,3,2,1・・・」
と彼は何も見ずにカウントダウンをし始めると・・・・・・・・・?
何も,いや,誰も彼の元へ訪れる者はいないようだった.バッツはまた呟く.
「あれ?おかしいな.いつもだとこのくらいの時間になるとモーグリが手紙を届けに来るか,来なかった場合はちゃんと教えに来てくれるはずなのに・・・」
と,彼はふとテントの外を見やる.すると,
「おいおい,今日は雨か・・・」
彼・・・バッツが呟いた通り,テントの外はぱらぱらと小雨が降っていた.
父親であるドルガンの故郷,ルゴルへ,わざと長い道のりを選んで放浪し辿り着いたバッツは,かの村をあとにし,自分の故郷であるリックスの村へ帰ろうとしていた.だが,彼はその長旅で得た持ちものを整理しようと,ルゴル近くの森にて,整頓してから,身軽になってから,故郷に帰ろうと思っていたのだ.
そして,忘れられない,歴訪した先で「あの旅」への懐かしさを書き溜めた数々のノートブックと,仲間から送られてきた手紙.これは旅好きで旅慣れている彼にとっては,貴重な宝物である.
森の外に置かれた木製の郵便受けの中身を確認しに,バッツはあまり雨に濡れないように小走りでそこへ向かう.・・・森の外に出ると,一人のモーグリがいた.バッツが言う.
「おう,モーグリじゃないか.待ってたんだぜ?何かあったのか?・・・って言っても,クルルがいないと言葉交わせないか・・・」
モーグリは返す.
「ク・・・クポッ,ク・・・ポッ!」
と言いながら,バッツに何かを差し出しているみたいだ.彼はそれを受け取り,そのモーグリを撫でると,笑顔で,
「ありがとな,手紙届けてくれて」
と返したのだった.
バッツは手紙が雨に濡れないように服の中に入れてしまい,また小走りで森のなかの,自分が張ったテントへ急いだ.彼は,テントに戻るや否や,急いで手紙を丁寧に開け,そして読み始めた.
「おっ・・・?今度はクルルからの手紙か.まあフォークタワーのネタを振ったしな.てっきりレナから手紙が来るかと思ってたけれど」
彼は,読み進めていく内に,段々とドキドキしていった.
「レ・・・レナがお,おれのことを好きかもしれないって・・・?本当かよ・・・.実はおれも・・・」
彼は更に読み進める.
「よぉし,踊り子になってみせようじゃないか!」
「おれが鍵を握っているだって?」
そして,最後の一文に辿り着いた.
「えぇ~なになに?『なるべく早く帰って来たほうがいいと思うな』って?そういえば,ファリスって確か,風邪を・・・」
と言って,手紙を読み返そうと思った時だった.
「そうだよ」
と,テントの外から,トーンは低いが,確かに女性の声がした.バッツは驚き,テントの外に出た.すると,土砂降りの中,その声の主を認めると,叫んだ.
「ファリス!お前・・・どうしてここに?」
すると,彼女は一気に,こう言った.
「『どうしてここに?』じゃないよ!ただ,ルゴルとリックスの村同士は近いのに手紙でやり取りするなんて・・・そんなのまどろっこしくていてもたってもいられなかったんだ!それになんだ,手紙を読んでおれのことは後回しかよ?!バッツ,おれだって,おれだって・・・お前のこと,好きなんだからな!この愛され男め!自分がどれだけ仲間たちに大切にされているか,良く知ったほうがいいよ!本当に・・・お前のこと,レナなんかに負けないくらい,大好・・・」
と言いかけ,彼女・・・ファリスは気を失った.・・・失って,倒れかけるところを,バッツは支え,彼女を抱えながらテントへと入っていった.
それから,数日が過ぎた.
「バッ・・・ツ?」
と言って目覚めたファリスに,バッツは言う.
「よお,起きたか.具合の方はどうだ?」
「大分良くなったみたいだ」
バッツは気まずそうに,
「そっか・・・」
と言ったが,ファリスは,
「なんか,あの時は一気に吐き出しちゃって悪かったよ」
と言って謝ったからなのか,彼もつられて,
「いや,そんなことはないさ.おれも悪かったと思ってる.自分の立場に気付かないなんて,どうかしてるよな」
と,謝り返したのだった.
「・・・・・・・・・」
しばしの沈黙があった後,ファリスは,自分の服が変わっていることに気付いた.
「おいバッツ.この服,どうしたんだ?」
バッツは照れくさそうに返す.
「あっ,ああ,あまりにも汗だくで,雨にも濡れていたから,おれが着がえさせたんだよ.その・・・まあ・・・,見ないようにしてはいたんだけど,さ」
そこでファリスは顔を真っ赤にさせて立ち上がり,
「このスケベ!おれだって一応女なんだぞ?!そこを・・・!」
彼女はテントから飛び出し,
「バッツのバカヤロォォォー!!!」
と叫んで,森の外へ走り去って行ってしまったのだった.
七通目,レナ・シャルロット・タイクーンより
バッツ,久しぶりね.風邪とかひかずに元気に生活しているかしら?
…今朝方,姉さんがあなたのもとから帰って来たわ.姉さんったら,風邪を拗らせているにもかかわらずに,このリックスの村から出て行って・・・.最初,姉さんがいなくなったのを見て,ものすごくびっくりしたのを覚えているわ.でも,姉さんの行く宛があなたのもとへだと分かった時,何故か分からないけれど,とても安心したの.
それで姉さん,あなたのもとから帰ってきたのは良いんだけど,バッツ,あなたのところへ何をしに行ったかを全然教えてくれないのよ・・・.でも,早くリックスの村へ帰って来て欲しい,っていう想いは十分汲み取れたわ.その想いは,私も,クルルも同じよ.やっぱり・・・その・・・お手紙だけじゃ伝わらないものってあるじゃない?それ以前に,ここリックスの村はあなたの故郷よ.寂しがっている人がいっぱいいるわ.クルルが言っていた,あの戦いで亡くなった人の魂が集まって来ているのは,私もひしひしと感じられる・・・.
ねぇ,バッツ?私,あの戦いで思い出したことがあるんだけど・・・.あの旅の方が適切ね,ごめんなさい.これから訪れるぞ!っていう場所に行く時,私,いつも古代図書館で下調べしてた.だって,何があるか怖いもの・・・.そのところ,あなたと姉さんは,私とガラフ・・・クルルを先導して引っぱっていた・・・.だから,その・・・,あなたは姉さんと気が合うんじゃないかって思い始めたのよ.私は・・・なんとなくだけど,あなたと一緒にいたら,きっとあなたの足をひっぱる足手まといになってしまいそうで・・・.そうやって,旅好きなあなたをずっと遠くから見守っているだけの,ただそれだけの存在でしかなれなさそうで・・・.それって,すごく寂しい関係でしょう?だからバッツ,あなたには姉さんが相応しいと思うの.
私,色々書いてしまったわね.これは寂しいと思う気持ちのせい?でも,一日でも早くあなたが帰ってくると思えば,大丈夫,寂しくなんかないわ.それじゃあ,次はこのリックスで会えることを楽しみにしているわね.
P.S
これって六通目の手紙で良いのよね?
おさらい
あほーが,見ィーるゥー♪
やあ,ぼくはミド!今回はこのぼくから,この手紙を読んでいる誰かに向かって,FFV20周年記念企画【親愛なる友へ】のあらすじを「おさらい」するよ!
まず,この話は,ぼくたちの世界に平和が戻って来てから数ヶ月後の話なんだよ.そこで,バッツが急に故郷リックスの村から旅立ってしまったところを,ファリス,レナ,クルルの三人が見つけて手紙を出したのが始まりってわけ.一番最初はファリスからの手紙で始まったね.おじいちゃんは,手紙を読んでいくうちに,バツファリか,バツレナか,どっちなんじゃ?!とか言ってたけど・・・ぼくにはサッパリだよ・・・.でも,おじいちゃんによると,ファリスとレナがバッツのことを好きなのは確かみたい.ぼくはクルルのことが気になるんだけどな・・・.これまたおじいちゃんによると,クルルは思春期真っ盛りで,男の人に興味津々な時期なんだって.
それで,リックスにいる三人とバッツとの手紙のやり取りができるようになったのはレナのおかげなわけだけど・・・.ぼくはレナが一番の苦労人で,バッツとの相性が良いと思うな.・・・え?それをバツレナって言うの?・・・まぁ,それはいいとして・・・.レナってさ,なんか健気だよね.返信用の封筒を送ってあげたり,自分のことは差し置いてファリスの方を引き立てるところとか・・・.でも一方で,バッツのことをすごく想っているような感じだよね?そして,バッツの方も,レナのことが好きな様子がしてたよね?これ・・・バッツがリックスの村に帰ったらどうなるんだろうね?ファリスが可哀そうな目に遭う気がしてならないよ.おじいちゃん,言ってた.
「世間じゃバツファリバツファリ・・・と,なんだって言うんじゃ!わしは断然,バツレナ派じゃゾイ」
って.「世間」っていう世界では,そんなにバッツとファリスを結びつけたがる人がいるんだね.
とにかく,次回でこの【親愛なる友へ】が最後だから.そしてドロドロの人間関係で終わるんじゃなくって,きれいに終わってくれるらしいよ?だから.期待しててね!
ただいま
バッツの故郷である,リックスの村・・・.レナ,ファリス,クルルの三人娘は,毎年この村で行われる「雪祭り」の準備の手伝いにあくせくしていた.村人の一人が,彼女らに向かって尋ねることといったら,大体
「お前さんたち,タイクーンとバル国の姫君なのじゃろ?こんな田舎で油売ってて大丈夫なのかえ?」
ということだ.彼女たちの返し方も決まっていて,一言で言うと,
「私たちは自分の意志でここに来ていて,バッツが帰って来るのを迎えてあげたい」
ということだ.
ある夜,村の木々への飾り付けがあらかた終わり,いつも三人が住んでいる家に帰ろうと歩みを進めると・・・.
「あれ・・・?お姉ちゃん,なんか家の屋根に明かりが点いているよ?」
「本当・・・.私たち,バッツの家までは飾り付けてないはずなのに・・・.そうよね,姉さん」
「ああ・・・そうだな,レナ.もしかして変なヤツがバッツの家に忍び込んだんじゃないだろうな?!」
「まさか!」
「でもとにかく行ってみましょう」
そして三人は,更に「バッツの家」へ歩を進めた.先程と同じように,クルルがまず気付き,言った.
「これは・・・ギターの音?なんの曲だろ・・・?」
勇敢なファリスは,玄関のドアを開けた.と,同時に,家の前にいたレナが呟く.
「この屋根の明かり・・・文字だわ・・・."I'm Home"・・・?・・・・・・・・・まさか!」
最後の「まさか」だけが強くなって聞こえたのか,真っ暗な家の中でも,とりわけ居間の一部だけがライトアップされると,
「その通りだぜ,レナ.そしてファリスにクルルも.帰って来たぜ,世界一周の旅からな」
そこには,踊り子の姿でギターを抱えて脚の長い椅子に座ったバッツがいた.ファリスは思わず赤面すると,
「お前・・・!こんなに寒いのになんて恰好で・・・!」
と言いかけ,そのやりとりを見ていたクルルは,バッツのあまりの肌の露出っぷりになんだかドキドキしてきたようだった.
燃え上がるようなグレイスレッドなシャツの合間から見える,彼の鎖骨,逞しい胸板に,ヘソ辺り.そして最後に居間に入って来たレナは,その光景を見て,クラっと気絶してしまった.どうしてそうなったのかは分からない・・・.
そしてその夜は,バッツは,三人娘から質問攻めにあうことになる.単純に,一人で世界一周の旅はこたえたでしょ?といったものから,個人の質問まで.ファリスは,
「なんていうか・・・その・・・この間はごめんな.罵っちまって・・・.おれのこと嫌いになったか?」
と.レナは,
「あの・・・えっと・・・.久しぶりね.こんな時に聞きたいことがあっさりと忘れてしまうから不思議よね・・・.あ,思い出したわ.旅の目的,聞かせて?」
と.クルルは,
「バッツさん・・・なんだかカッコいいね.吟遊詩人って感じもするね.私,なんだか胸がドキドキするんだけど・・・.気のせい?」
と.バッツは,それぞれ三人の質問に答えた.
「おれは,ここにいるみんな,大好きだぜ!旅の仲間としてな!それにおれたちは,一緒に戦った仲間だろう?嫌いになるわけないじゃないか.旅の目的は,前にも手紙で伝えたと思うけど,おやじの故郷に行って来るだけだったんだけど,それじゃ『旅』にしては短すぎるから大分遠回りをして・・・世界を一周したってわけさ.それからクルル・・・.やっぱりこの恰好では,いまのおまえには刺激が強すぎたみたいだな・・・.気のせいじゃないくらいな・・・.・・・っと,そろそろ休ませてくれないか?旅の疲れってやつをとりたいんだ」
そう言ったバッツに対して,レナが開口一番に
「ええ,そうね,色々聞いてしまってごめんなさい.あなたは今,休むべき時よね.寝室なら,いつでもあなたが帰ってきても良いように準備してあるから.一応・・・シングルよ.私たち三人は,別の部屋で寝るから」
と言い,バッツをその寝室へ案内した.彼は,「ありがとな,レナ」と言い,シングルベッドに倒れ込むように伏し,深い眠りに入った.一方,三人娘の部屋では・・・.
「私,あの『旅』で何が一番気になったかって言うと,男の人とベッドをとなり同士で寝るってことよ」
「そうかぁ?おれは別に気にしなかったけどなあ・・・」
「お姉ちゃんの言いたいこと,私も分かってきたような気がする」
そんな話が飛び交っていた・・・.
さて,これから旅人は一体何を語ってくれるのだろうか?
最終更新:2012年12月08日 15:24