リターナーに寝返って,ナルシェにて幻獣をケフカたちから守り,そしてティナが今まで
私たちに見せたことのない姿でどこかへ飛んで行ってしまった.そこで私たち四人は,テ
ィナを探すため,あらゆる噂話を聞いて,此処,ゾゾという町に辿り着いていた.
あの時・・・ナルシェで三年ぶりに再会したティナは,あやつりの輪が解かれてしばらく
経ってはいるものの,三年前の彼女とは全くの別人のように思えた.しかし,彼女は私の
ことを少しかは覚えてくれていたようだった.三年前・・・直接的ではないけれど,私に
希望をくれたことは決して忘れない.今度は私がティナを助けてあげる番なんだ.
「セリス,どうしたんだ,ずうっと空を見上げてなんかして」
「ううん,気にしないで,ロック.昔のことを思い出していただけよ」
「そうか・・・ティナとお前たちは昔・・・」
そこで,エドガーが,
「チッチッチッ.ロック,下手にレディの過去を探るマネはしちゃいけないぜ」
と言った.パチクリ.そしてロックが返す.
「・・・そうだな,しかし噂通りひどい雨だな・・・」
「そうだ,此処,ゾゾは,ジドールから逃れて来た者たちが行き着いた場所だ.おまけに
天候は年がら年中,雨と来た.今,マッシュに傘を借りに行かせているところだ」
「さすが一国の王,北大陸のこと詳しいのね」
と,私はそう言ってみると,エドガーは,
「そうとも.しかし,セリス.世界中のどんな国の美女よりも,今,雨に濡れている君の
方が魅力的さ」
と.・・・これがロックの言っていた,どんな女性でも口説く王様なのね.やがて,彼の
弟であるマッシュが傘を借りて,やって来た.
「兄貴~,ちゃんと四人分,借りて来たぜい」
こうして私たちは,ゾゾの町でティナを探すことになった.ロックが先頭を歩き,続いて
私,エドガー,マッシュの順に歩くことになった.
「今日の天気は気持ちの良い晴れだねぇ」
「ここはゾゾ.正直者たちだけが住む町さ」
「こんなにいい天気なのに,お前たちはどうして傘なんて差しているんだ?」
ゾゾは,エドガーが言っていたよりもまだ,怪しい町であることが分かった.此処の人た
ちは,皆,嘘つき者ばかりだった.あ・・・そういえば・・・
「ねぇマッシュ.この傘ってどうやって借りてきたの?」
「ん?この傘か?俺は兄貴に言われた通り,『この傘,四本ばかしいらないんですけど…
』って言ってやっただけだぜ」
「やっぱり,嘘つき者には嘘を言ったのね・・・」
「ま,正直者が一番良いけどな!」
そうね.私もそう思うわ.
私は,帝国を抜け出してから,段々自分自身が変わりつつある,と思い始めていた.リタ
ーナーに入って,本当に色々な人たちに出会ったから?多分そうね.帝都ベクタで軍人と
して育てられてきた年数よりも遥かに短いのに,サウスフィガロでロックに助けられてか
らの時間の方が長く感じられる.ロックと皆と時間を共にした方が,長く感じられている.
三年前のあの日から抱き続けて来た希望の他に,私はもう一つ新たな希望を見出していた.
それは・・・
「セリス」
「ロック,どうかしたの?」
「この建物の最上階にティナがいるのを感じたって本当か?」
「ええ.同じ魔導の力を感じたのよ」
「同じ魔導の力,か・・・」
彼は,ビルとビルの間を,難なく飛び移った.そして,
「セリス,もしかしてお前,高いところが苦手か?」
「いいえ,そうでもないわ」
というやり取りの後,私がビルとビルの間を飛び移ろうとした時,雨で濡れていた床で滑
ったものだから,先のビルへの飛距離が足りず,危うくビルとビルの間に落ちそうになっ
た.・・・なったところを,
「セリス!」
と叫んで絶妙なタイミングで私の手を掴み,引き上げてくれた.
「ロック!ありがとう・・・」
「気にすんなって.『俺が守る』って言っただろう?」
もう一つ新たな希望を見出していた.それは・・・,このロックという男性と共に,守り
守られ生きてゆこう,というものだった.二つ見出せていた希望のおかげで,私は変われ
たんだ.ティナ,今度は私たちがあなたを助ける番.だから,もう少し,待っていてね…
最終更新:2012年05月02日 17:54