音象徴とは、1994年末頃~1996年頃に使われた
前クミール・アルカで生まれたオトマトペ体系である。1991年から1994年末の
前期アルカは、フィンランド語・日本語・英語などの自然言語の語彙を借用したピジン言語であったが、この音象徴の誕生によって、アルカ独自の単語が多数作られるようになり、
古アルカは自然言語から決別したアプリオリ言語の道を歩むことになった。以後、
古アルカの終焉まで使われた。
音象徴の誕生
前期の語彙は自然言語に依存する点が大きかった。ところがその状況は
中期になって一転する。中期になると
使徒によるアルカの音象徴が創造された。このとき特に貢献したのが
リーザ(当時25歳)、
リディア(当時10歳)、
セレン(当時13歳)、
メル(当時5歳)の4 人である。メルは特に
古アルカに音象徴をもたらしたきっかけを生んだということで貢献度が高い。
そもそも古アルカに音象徴が生まれたのはとりわけ年少者であったメルがアルカを上手く利用できないということがきっかけだった。当時のアルカはアルカだけでは意思疎通が難しく、使徒は各々の共通する言語を取り混ぜながら意思疎通を図っていた。大概は語学力の高い使徒がそうでない使徒に合わせていた。たとえばセレンとリディアではセレンが拙い英語で喋るか、リディアがセレンの英語よりは遥かに良い日本語で喋るかという言語状況だったため、リディアが日本語を混ぜながらアルカを喋っていた。
ところがメルはセレンやリディアと共通する言語が英語しかなく、その英語もリディアやセレンの訛りとは随分違ったものであった。また、当時年少者だったメルをセレンとリディアは特に可愛がっていたため、メルはセレンやリディアとの接触が多かった。3 者に共通するのは英語であり、実際に訛りだらけの英語とアルカが混用された。セレンとリディアはメルにアルカを教えたがっていたため、積極的に英語をメタ言語にしてメルにアルカ
を教えようとした。ところが当時のアルカの語は自然言語や
初代アルカ・
先代アルカに由来するものばかりであり、それらは恣意的なため、メルは語義の理解に苦しんだ。
そんな折、セレンとリディアはメルが
オノマトペの習得は容易に行うという事実に気が付いた。更にメルは自分のわからない語をどうにか伝えようとするとき、それをオノマトペらしき音を使って表わしていた。これを見たセレンとリディアはオノマトペを利用してメルにアルカを教えようとした。
ところが、セレンが教えると日本語のオノマトペの体系を用いてしまい、リディアが教えるとフィンランド語などのオノマトペの体系を用いてしまう。更に悪いことに両者は英語のオノマトペの体系を満足に習得していない。日本語のオノマトペでは濁音は清音に比べて「重い」「汚い」「悪い」「大きい」といったイメージがあり、「ドンドン」のほうが「トントン」より大きな音のような気がする。仮にセレンがその体系にしたがってメルにオノマトペを教えたら、次にリディアが教えたときに齟齬を引き起こすかもしれない。というのも、フィンランド語のオノマトペの体系は日本語のそれとは異なるからである。
だが、当時のセレンやリディアにオノマトペの体系が言語ごとに異なるなどという知識はなかった。そこで実際はじめはメルに思い思いの体系を教えていた。ところが、メルはあくまで自分のオノマトペの体系を貫き通そうとするため、メルの頭は混乱しはじめた。この状況を重く見たリーザは3者に共通する新たなオノマトペの体系をゼロから作り上げることを決定した。
尚、リーザの狙いはメルの救済が主な理由ではなかった。リーザは当時のアルカの語彙が自然言語によるものばかりであることに不満を覚えていた。当初リーザは先代アルカのように自分が作った語彙を徐々に使徒に広める気でいたが、これが広まるより先に自然言語由来の語が定着してしまうのである。これでは様々な自然言語を混ぜ合わせたピジンにすぎない。リーザはアルカならではの語彙を望んだ。だが、どうしたらゼロから語彙を作
れるのかということがわからずに彼女は悩んでいたのである。
そんなときにリーザはメルの状況を見て、アルカなりのオノマトペを思い付いたのである。独自のオノマトペを作る過程で音象徴の体系を作り上げ、その音象徴を利用して今度はオノマトペ以外の語も作るというものである。
リーザのこの閃きは果たして大成功を収めた。音象徴を作り上げたアルカは次々と独自の語を生み出していったのである。その結果、オノマトペの数はあまり多くなくなってしまった。というのも、当時は語そのものが音象徴からできていたため、ある意味ではほぼ全てがオノマトペだったのである。そういう意味で純粋なオノマトペとただの語との線引きが難しく、オノマトペとはっきり言える語は少なかったのである。
音象徴の文法的影響
音象徴の誕生により、当時少なかった形容詞が多数作られるようになった。
後第一改定アルカではSOV語順であったが、形容詞の発達によりSとOの長さが増すと両者の境界が分かりにくくなった。というのも、当時は機能語が未発達で、日本語で言う「が」や「を」のような格を表す語がなかったからである。動詞は、時制やアスペクトを示す文字が付属するため分かりやすいため、SVO語順にすることで、SとOの境界を明確化した。これによって前置詞の発達を促すことになった。
音象徴一覧
『アルカ』232頁から235ページにある音象徴を挙げる。なぜかカタカナで記されている。
ア:魔法の、海
イ:力、雷、見る
ウ:体、尻
エ:氷、嫌な、悪い、速い
オ:距離、空間
カ:辛い、つらい、場所
キ:変化
ク:動く、ペア
ケ:方向
コ:中の
サ:絹の、繊維、綿
シ:甘い
ス:砂、警告語尾
セ:新しい
ソ:使う、土踏まず、する
タ:外へ
チ:速さの
ツ:物
テ:風、関係
ト:森、花
ナ:心の、気持ち、禁止の
ニ:色、優しい
ヌ:古い、沈んだ
ネ:推定、かもしれない…と思う
ノ:気力、根性などの根気、ために、瓜
ハ:尻尾
ヒ:しょっぱい、忍耐の
フ:許可、許し、短い
ヘ:平らの(古)、音の(古)
ホ:固い
マ:多い
ミ:女々しい、否定的な
ム:すっぱい、厳しい、命令、なんだかよくわからないもの
メ:しなやかな
モ:下の、低い
ヤ:苦しい
ヰ:a,e の語尾
ユ:毒々しい、不思議な魅力のある、格式高い、不思議な感じ
エ:使益
ヨ:放つ
ラ:強調、大きい、魔力
リ:命、清、正当な、実在の、聡明な、理、魅力、小さい
ル:足、物、丁寧語尾、何か、何とか
レ:命令
ロ:忍びの、e の語尾のAND、頭の、小さい
ワ:四角の
ヲ:例え
ン:語尾、丁寧を意味する
ガ:三角の、否定
ギ:金属の
グ:決める
ゲ:円の(古)
ゴ:欲
ザ:立つ
ジ:指の、示す
ズ:もう一度
ゼ:脳の
ゾ:(魔法)をかける
ダ:威厳のある
ヂ:牙、あご
ヅ:壊す
デ:「‐」
ド:過去(古)
バ:親しみのある、可視の、近い
ビ:疎遠な、不可視の、遠い
ブ:全体の
ベ:TO、臭い
ボ:点
パ:乗り物の、光
ピ:REASON、鋭い
プ:よい
ペ:くやむ
ポ:首
ヴァ:戦い
ヴィ:力
ヴ:意志
ヴェ:黒い、闇
ヴォ:撃つ
ファ:炎、義務
フィ:長い
フゥ:もし
フェ:疑い(古)
フォ:解く
ギャ:波の、揺れる
ギュ:苦い
ギョ:しっぽ(古)
キャ:父
キュ:母、おおもとの
キョ:役
ヒャ:間
ヒュ:霊的なもの・こと
ヒョ:当然
シャ:存在
シュ:本、紙
ショ:使う
ジャ:名詞のれんけつ語尾、大きい
ジュ:愛
ジョ:怒る。高ぶる
ビャ:不要な
ビュ:重い
ビョ:次の(古)
チャ:重要な
チュ:発表、いやらしい
チョ:鋭い(古)
ピャ:
ピュ:薬の
ピョ:
ニャ:軽い
ニュ:違う
ニョ:へなへなした
ミャ:
ミュ:無、実数関係、否定的な感じ
ミョ:磁気の
リャ:近い
リュ:遠い
リョ:
参考文献
最終更新:2008年04月20日 13:11