教会の悪魔と、ラビットクラッシャーの間で交わされた、一つの会話。
そして、パロロワに関する全ての記憶を失った教会の悪魔の、この世界――ミニ日本列島における『旅の扉』に関する極めて重大な情報を含んだ独り言。
教会の悪魔はその情報の価値を知らず、さらに彼は教会そのもの故に自ら動くこともできない。
だから、参加者達にとってこの上なく不運なことに、その情報は誰にも伝えられずに消え去るかと思われた。
しかし、そうはならなかった。
彼らの話を、教会の悪魔の独り言を、聞いていた男がいたのだ。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
内容を完全に理解することこそできなかったものの、旅の扉の場所という、ほとんどの参加者の欲している真実を、なかば偶然の形でとはいえ入手した一人の男。
その情報を他の全ての参加者に伝えるため、その男は東京に向かい爆走していた。
「東京なら――テレビ局がある! 全国放送で、参加者に旅の扉の場所を伝えられる!」
真紅のマフラーに、緑の仮面。『嵐』の名を冠するバイクに跨り、ただひたすら東京を目指すその男は――
零は、このロワが開始した時、丁度教会のそばにいた。
だからこそ、ラビットクラッシャーと教会の悪魔の会話を、こう言うと聞こえが悪いが――盗み聞き、することができたのだ。
「あの男、ラビットクラッシャーのことも気になるが後回しだ! 今は一刻も早く、旅の扉の場所を伝えなければ!」
ミニ日本列島とはいっても、沖縄や北海道、はたまた絶海の孤島から埼玉の教会まで来るには、それなりの時間がかかるはず。
すでに仮面ライダーとして一人でも多くの参加者を救う決意を固めた零としては、間に合わずに参加者が崩壊に巻き込まれるのだけは避けたかった。
しかし、そんな零の想いも虚しく――休まずに走り続けてそろそろ東京に入れるか、といったところで、彼は零の前に現れた。
「……ここから先はいかせねえぞ、仮面ライダー」
「……誰だ?」
道路の真ん中でサイクロンを停め、零はサイクロンから降りて目の前の男に問う。
不敵な笑みを浮かべながら、男は零に自らの名を名乗る。
「俺の名前は
魔術師殺し。マルチでしがない書き手をやっている者さ」
「では魔術師殺し。悪いがそこを退いて貰おうか。俺は東京に行って、参加者に旅の扉の場所を伝えなければならない」
「知ってるさ――だからこんな所まで追いかけて来たんじゃねえか!」
叫び、魔術師殺しが零へと突進する。
その手に武器は無い――徒手空拳の使い手か?そう判断し、ともかく迎撃しなくては、と零が拳を構えたその時だった。
「――――――!?」
突然、零の胸が縦に大きく切り裂かれた。
悲鳴も上げられず、零は大きくのけぞる。
先程まで何も無かったはずの魔術師殺しの右手には、鋭い刃物が存在していた。否、右手そのものが、鋭い刃物となっていたのだ。
「『砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)』……」
再び一閃、反す刀で今度は横に切り裂かれる。
胸部に深い十文字の傷を受け、地面に倒れふす零。
そんな零の姿を見て嘲笑しながら、魔術師殺しは種明かしを開始する。
「俺のこの姿は衛宮切嗣ってキャラクターのものなんだが……同時に俺は、サー・クロコダイルの能力、『スナスナの実』の力を持ってんだよ。
砂になれるこの能力で、俺は全身を砂に変え、風に乗ってアンタを追ってきたんだ。
今の斬撃も、右手を砂でできた刃物に変えて放った。いいザマだな、仮面ライダーさん」
「……なぜ」
「ん?」
「なぜ、こんなことをする? 俺は旅の扉の場所を皆に……」
「そいつがマズイんだよ」
笑いながら、魔術師殺しは零に説明する。
「アンタは気付かなかったみたいだが、俺もあの教会の話を聞いていたんだ。アンタのすぐそばでな
ラッキーだと思ったね。旅の扉がこんなへんぴな場所にあるんじゃ、大抵の参加者は旅の扉を見つけられずにこのミニ日本列島でリタイアしてくれるんだから。
それなのにアンタときたら……」
苦々しげに、彼は吐き捨てるかのように言う。
「他の参加者に伝える?そんなことされたら、俺の計画がパアじゃねえか。だから、俺はアンタを殺すことにしたのさ。
理解したか?自分が殺される理由をよ」
「ああ……理解したよ」
倒れたまま、零は答える。
その答えに満足したのか、魔術師殺しは笑みを浮かべながら刃物と化した右手を振り上げ――
「だが、こんな場所で死ぬわけにはいかない!」
零が自分のデイバックから取り出した水を頭から被せられ、その笑みを凍りつかせた。
スナスナの実の砂人間は――どうしようもない程、水に弱いのだ。
「くっ……!水だと!?」
「自分の能力を語ったのが間違いだな魔術師殺し!ワンピース程の人気漫画に出てくる能力、弱点を知られていないと思ったか!」
ボロボロになりながらも、なんとか零は立ち上がる。
たとえどんなに体が傷つこうとも、彼にはどうしても立ち上がらなくてはならない理由があったから。
「仮面ライダーはなあ……正義のヒーローなんだよ!紛い物でもライダーになった以上、誰も救えずに死ぬわけにはいかないんだよ!」
そう、それこそが彼の戦う理由。
子供の頃から憧れていた、仮面ライダーになれたからには、そのライダーの名を汚すわけにはいかない。
だから――彼は、叫ぶ。
「俺の名前は正義のヒーロー、仮面ライダー零だ!てめえみたいな悪党相手に、負けてたまるかよ!」
「何が正義のヒーローだ!今はダークヒーローの時代なんだよ!いいからお前は黙ってここで殺されろ!俺は早く生還して、続きを書かねえといけないんだよ!
ようやくマルチもうまく回り始めたんだ――こんなふざけた殺し合いで、終わらせてたまるか!」
負けじと、魔術師殺しも叫び返す。
早く自ロワに帰って、ロワの続きを書きたい。それが、彼の戦う理由。優勝を目指す理由。
魔術師殺しは思考する。サー・クロコダイルとしての能力が使えずとも、衛宮切嗣としての戦闘能力は問題無く使用できる。
奴は使っているのは支給された水のようだから、そう経たないうちに水が切れるはず。
切嗣のままで時間を稼ぎ、水切れを起こしたその時こそ、スナスナの実の能力で決着をつける――そこまで彼が思考し、
いざ、魔術師殺しと仮面ライダー零の信念をかけた闘いが幕を開けようとした、その時。
「いいや、お前はこいつに構わず東京へ行け!」
一人の男が、睨み合う二人の間に割って入った。
当然のことながら、魔術師殺し、零ともに、突然現れたその男に警戒を隠さない。
しかしそんなことは意にも介せず、男は零に叫ぶ。
「参加者に旅の扉の場所を伝える、一分一秒を争う大仕事があるんだろう!?こいつは俺に任せて、とっとと行くんだ!」
「あ、あなたは……?」
「少し前からお前たちを観察してた、ただの書き手さ。ほら、お前も仮面ライダーなら、何を優先すべきかは解るだろう!?」
「……あなたは、もしかして」
零の言葉に、男はしっかりと頷く。
その姿を見て、零は確信する――目の前の男も、『自分と同じ』であると。
「わかりました……ありがとう、ございます」
男に礼を言い、零は再び東京を目指すため、サイクロンへと歩を踏み出す。
しかし、魔術師殺しがそれを良しとするはずもなく、零へと飛び出そうとして――その前に、男が立ちはだかる。
「……退きな。死にたくないなら」
殺意の込められた言葉に、だがしかし男は動じない。
両者ともに沈黙したまま睨み合ううちに、零はサイクロンに跨り、
「……感謝します」
最後に男に礼だけ言って、再びエンジンを起動させた。
走り出したサイクロンはぐんぐんスピードを増していき、やがて零の姿が見えなくなるまで、二人は動かず、じっとその姿を見続けていた。
「……いいのか?行かせて」
「ああ……考え直した。ここでアンタを瞬殺してから、追いついて殺せばいいだけの話だ。
だからとっとと――死にやがれ!」
首切断コースを走る砂漠の宝刀の斬撃を身を低くして避け、そのまま男は後方に飛ぶ。
そして両方の腕を前方で交差させ――日本中に聞こえるかのような大声で、彼は叫んだ。
「アァァァァァァ――」
突然の男の奇行に魔術師殺しは困惑し――次の瞬間、その行動の意味するものに気付く。
「マァァァァァァ――」
全速力で駆けるも――最早、止めることはできない。
男はすでに両腕を大きく広げていた――気付くのが、あまりにも遅すぎたのだ。
「ゾォォォォォォォォォン!!」
魔術師殺しが斬撃を放った時、すでに男――いや、
ライダーロワNEXT書き手、
清威鬼の『変身』は終了していた。
カウンターの蹴りを辛うじて右に避けつつ、魔術師殺しは内心のいらつきを吐き出すように叫ぶ。
「てめえも……仮面ライダーかよ!」
「ケケーッ!」
そこにいたのは、異形の存在。
全身に広がる赤と緑のまだら模様に、両腕には鋭い爪、そして――首に巻かれる白いマフラー。
アマゾン育ちの仮面ライダー、アマゾンライダーここにあり。
「畜生……俺は早く帰って続きを書きたいだけなんだよ! なのに……なのに……なんでお前らは邪魔すんだあああああぁぁぁぁ!!」
その叫びを引金に――東京と埼玉の県境を前にして、一つの激戦が、幕を開けた。
【一日目・深夜/埼玉】
【仮面ライダー零@
ロボロワ】
【状態】健康
【装備】サイクロン
【持物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:仮面ライダーとして、一人でも多くの参加者を救う
1:東京のテレビ局へ向かい、旅の扉の場所を参加者に伝える
※外見は仮面ライダー1号
【魔術師殺し@マルチロワ】
【状態】なし
【装備】なし
【持物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:早く帰って、続きを書きたいだけなのに……!
1:清威鬼を殺して、零に追い付き零も殺す
※外見は衛宮切嗣
【清威鬼@ライダーロワNEXT】
【状態】健康
【装備】なし
【持物】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:他の参加者を守る
1:魔術師殺しを倒す
※外見は変身前は山本大介、変身後は仮面ライダーアマゾンです。
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最終更新:2009年03月21日 11:49