その魂は、生贄として紅き修羅神の力に捧げられた。
かつて、あるバトル・ロワイアルでその修羅神をさらなる高みへ押し上げた時と同じように。
だが、それで魂が完全に死したわけではなかった。
彼は確かに生きていた。
誰もが憧れる気高き正義の心。後天的にネタで付け加えられた、嘘で事実を塗り固めた心。
その二つを併せ持つ、光の巨人。
ウルトラマンゾフィー。
彼の散らばった光の欠片が、再び構成され、元の巨人の形を成していく。
その身体に、新たな命を与えられて。
そう……解放されてしまった。
ヨッミーが、その命と引き換えに彼に施した、永久に続くはずの封印が。
解き放たれた彼の光は、還るべき場所へと戻る。
彼らの本来存在すべき、光の国へと。
「兄さん。目が覚めましたか」
目を開けたゾフィーの視界に入ってきたのは、二本の角を持つ懐かしい弟の姿だった。
……ウルトラマンタロウだ。
「タロウ……君が来てくれたのか」
「ここを探し出すのはさほど困難ではありませんでしたよ。
兄さんと、そしてヨッミーの来た道の痕跡を逆に辿ればいいだけの話ですから」
「そうだったな……」
タロウの口から出た名前に、ゾフィーは呟いた。
あれは夢でも何でもない、間違いなく事実だったのだ。
ヨッミーという名の破壊者が、自分を狙って、光の国を襲撃したことは。
「先のヨッミーの襲撃で、光の国は大きく荒れることになってしまいました。
警備隊の迅速な行動で犠牲者こそなかったものの、クリスタルタウンへの傷跡は無視できるものではなく。
一説では、キングの封印していた悪しきウルトラマンの解放をも許したとも聞きますが……
現段階では、詳しい情報はまだ得られていません」
タロウの告げる現実は重い。
全ては、自分の責任だ。自分の、ほんの出来心が、このような事態を招いたのだ。
罪なき光の国の住人達を、危険に晒してしまった。
「とにかく、任務に戻りましょう。新たな危機が、光の国に……宇宙に迫ろうとしています」
「今の私に……皆のもとに、戻る資格があるのか」
「どうしたんです?兄さんらしくもない……」
「私は……間違っていたのか」
ゾフィーは肩を落とした。
「出来心がなかったといえば嘘になる。
だが……止めたかったのだ。この幾度となく続く、悪趣味で不毛な殺し合いを。
でなければ……彼らに弄ばれ消えていった命達が、あまりにも不憫すぎるではないか。
それが……そのバトル・ロワイアルを生み出した書き手達自身の命だったとしても」
思い返す。
スパロワで消えていった多くの命を。最後に響いた、悪しき笑いを。
それだけではない。救済されたと思われたユーゼスの魂が、また別の場所で
今度は参加者として殺し合いに呼ばれ、多くの悲劇を生み出したことも、彼は知っていた。
幾度となく繰り返され、終わることのない悲劇に、ゾフィーは確かに本心から悲しんでいた。
だからこそ、その憤りを糧に、一度はヨッミーをも圧倒し、退けた。
「命が失われることを悲しむことは、意思ある者として当然ではないのか……?」
「……兄さん。あなたの言ったことは、決して間違ってはいませんよ」
そんなゾフィーを、タロウは優しく諭す。
「いかに彼が書き手ロワの書き手だとしても、命を弄んでいることに変わりはありません。
それが、創作上のものであったとしても……そのことに憤りを感じることは、当然の感情です。
……ですが、彼らは決してそれだけではないということもわかっているんじゃないですか?
彼らの紡ぐ物語は、確かに惨劇です。
しかしその中でも、人としてあるべき姿だけは決して失われてはいない」
そうだった。
あのバッドエンドで終わったスパロワですら……最後には救済と希望を持って締めくくられた。
「人の心の中には、確かに邪で穢れた部分もあります。
ですがそれもまた、美しい心を引き立てるためにあると思うんです。
そして、その美しい心を忘れない限り……」
「タロウ……」
「兄さんも見たんじゃないですか?彼の、最期の命の輝きを」
修羅王が放った最期の輝き。少なくともあの時の彼は、同じだった。
フォルカや、勇者へと昇華したキラやシャギアの見せた輝きと――。
「信じましょう。我々が愛した、地球の人々を」
「強くなったな……タロウ」
「それはそうですよ。いつまでも末っ子扱いに甘んじてはいられませんからね」
「ふふ……言うようになった」
ゾフィーは思う。
もう少し、彼らを見守るとしよう。
この企画が、これから先どのような未来を生み出していくのか。
その中で、自分達が巻き込まれ命を落とす可能性も否定できない。
だが、もう一度彼らを信じてみよう。この三度目の書き手ロワが、どういった結末を迎えるのか……
温かい目で、見守ろうじゃないか。
「そうそう……兄さんが封印から解放されたことで、書き手ロワにも何らかの影響があるかもしれません。
それにより、ヨッミーがさらなる追撃に来る可能性も考えられるわけですが……」
その言葉に、ゾフィーははっきりと、お約束を口にした。
「大丈夫だ。
ヨ ッ ミ ー は 私 が 倒 し た 。
もう、彼女が復活することはない」
「……」
シリアスが一瞬で台無しになったことを感じ、タロウはゾフィーの言葉に沈黙で返した。
二人がしばらく進むと、そこは宇宙警備隊の司令部ではなく……
隊員達のトレーニングルームだった。
「懐かしいですねぇ。僕も昔、ここで兄さんとトレーニングに励んだものです」
「ああ、そうだな……しかしタロウよ、どうしてここに?」
「父さんからのメッセージです。はい」
パチン、と指を鳴らすと、トレーニングルームの中にウルトラの父の声が響き渡る。
『ようやく戻ってきたか、ゾフィー。だが、君の中の邪な心は、完全に浄化されてはいないようだ。
この先の戦いを控えて、その闇を見逃すわけにはいかない。
よって、この場で今回の件の罰も兼ねて、君に命令を与える」
「へ?いやあの、ウルトラの父?」
『今度の映画では、まだ世に出ていない新米ウルトラ戦士達のが多く出演する。
そんな彼らの特訓相手になって、トレーニングを行って貰いたい。そう……
ゾフィー。君には『FE3-プラクティスモード』の刑を与える!』
「なっ……!?」
言うだけ言って、父からの通信は途切れた。
絶句するゾフィー。ぽん、と肩を叩かれる。
振り返ると、タロウが満面の表情で彼を迎えた。
そして、彼の後ろには……宇宙警備隊の訓練生達の姿が、いつの間にか。
「いやー、ゾフィー隊長直々に特訓してくれるなんて光栄だなぁ」
「ほんと、一度やってみたかったんですよこのトレーニング」
「ヨッミーの襲撃で家族が怪我をしまして、そのお礼をしなくては」
「よろしくお願いしますよ、たいちょ!」
彼らの無邪気な会話を聞いて、青く染まるゾフィーの表情。
FE3……ウルトラマンファイティングエヴォリューション3。かつてPS2で出た名作ゲームだ。
その中で、ゾフィーはプラクティスモードにおいて、タロウのトレーニング相手となったことがある。
言ってみればチュートリアルモードだ、操作方法の説明を行うモードである。
移動や攻撃の仕方から、必殺技の出し方に至るまで、丁寧に説明するモード。
「わ、わかった。で、では、トレーニングを行おう。
それではまず、移動の仕方からだ。十字キーの左右で……」
表情を引きつらせ恐怖に震えながらも、レクチャーに入るゾフィー。
拒むことはできない。もう父の指令は、プラクティスは始まってしまったのだから。
だが、このモードの真意とは……
バキッ!!
「ぐはぁっ!」
訓練生の鉄拳が、ゾフィーの顔面を捉える。
なす術なく吹っ飛ばされるゾフィー。
「よーし、俺もいくぞー!」「私もやらせてください!」
「俺は光線技でいくぜ!」「じゃ、自分はブレスレットで切り刻みます!」
「ちょ、待って、今は移動のレクチャーの……ディヤァァァァァァ!!!!」
腕をポキポキと鳴らしながら近づく訓練生に取り囲まれ、瞬く間にゾフィーの姿は埋もれ見えなくなった。
このモードで、多くのプレイヤーが操作キャラのタロウを使って行ったこと。
それは、抵抗できないゾフィーを一方的にフルボッコ、サンドバッグ化。
このトレーニングルームの効果により、傷を負っても即座に全快するシステムになっている。
それをいいことに、タロウはゾフィーを半永久的にフルボッコすることができるのだ。
それと同じ光景が、タロウを訓練生達に代えて、繰り広げられ始めた。
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ゾフィーの悲鳴の響くトレーニングルームを、タロウは静かに後にした。
かつてトレーニングに励んでいた自分を懐かしみつつ、兄が元の憧れの戦士に戻ることを願って。
【ゾフィー フルボッコ&完全隔離確認】
メビウス「あ、タロウ兄さん!ゾフィー隊長を囲んでのトレーニング大会があるって聞いて
やってきました!僕も参加していいですか!?」
タロウ「なんだメビウス、君も参加したいのか?そりゃ、別に構わないが」
メビウス「やった!タロウ兄さんとトレーニングした時はそういうの許してくれませんでしたからね!
ちょっとでも違う行動したら全部かわされて、そのたびに怒られてストリウム食らわされて……」
タロウ「はっはっは……まあいい、行ってこい。
そして先輩として、訓練生達に君の地球での戦いの成果を見せてくるといい!」
メビウス「はい!バーニングブレイブで思いっきりぶちかましてきます!!」
メビウスは嬉しそうにトレーニングルームに入っていった。
数分後、ゾフィーのさらなる悲鳴が聞こえてきた。
タロウはそれを遠い目をしながら、いつまでも眺めていた。
これで、書き手ロワにおけるゾフィーの物語は、今度こそ完全に終了である。
彼自身も納得したことだし、この状況ではもうロワに干渉してくることもないだろう。
そして同時に、書き手ロワが彼らの世界に干渉することもなくなった。
だが、書き手ロワはまだまだ続く。それがこの先どのようなドラマを生んでいくのか……
全ては、もはや彼らの手の届かない場所へと進んでいく。
果たして、この殺し合いは如何なる結末を迎えるのか。
ゾフィーやタロウが願った、あるべき結末を迎えられるのか。
それは、まだ誰にもわからない。
あと、このロワにおけるゾフィーと愉快な仲間達の物語は、全て完全なフィクションであることをしっかり付け加えておこう。
【書き手バトルロワイアル3(外伝) ウルトラマンシリーズ End】
【しかし、バトルロワイアルは続く!】
最終更新:2009年08月05日 22:23