「ロワのスタートが深夜なのはお約束やけど、なんで曇りやねん。暗すぎやし、寒すぎやんこれ……」

さっぶいわぁとかなんとか、ぶつぶつ言いながら雪原を歩く一人の書き手。
『こどものおもちゃ』の松井風花の姿をしたこの書き手は
少女漫画キャラバトルロワイアルの◆F9bPzQUFL.―――つまりは少女漫画ロワの感電さん(成人男性)である。

「スタンス決めといたほうがいいか………………対主催。対主催にしとこ。
 どうせ他のロワの俺はマーダーか変人のどっちかやろうし。
 うちのロワの風花はたぶん普通の対主催できへんから、そのぶん俺がやるってのもありやろ」

というわけで、◆F9bPzQUFL.のスタンスは対主催だ。
少女漫画ロワで松井風花を普通の対主催ができなさそうな状況にしたのは他ならぬ◆F9bPzQUFL.なのだが、
そのへんは気にしないらしい。

「それにしても寒すぎる。スタート位置を雪原にするならコートくらい着させろよ」

さっぶいわぁとかなんとか、ぶつぶつ言いながら雪原を歩き続ける。
吹雪になって遭難して事故死、なんて事態はできれば避けたい。
しばらく歩いていると、前方に四角い何かが見えた。

「なんだあれ」

近づいてみたが、それは何の変哲もない直方体だった。
幅90cm、奥行45cm、高さ90cm。雪合戦用のシェルター(防御壁)だ。
同じ大きさの物が少し離れた場所にもいくつか置かれていたので、
シェルターなどという専門用語(?)を知らない◆F9bPzQUFL.にも使い道はわかった。

「ってことは、ここA-2の雪合戦会場か。……ん?」

雲に隠されていた月が姿を見せ周囲を照らす。
視界が明るくなって◆F9bPzQUFL.ははじめて、自分以外の人間の存在に気がついた。
雪合戦会場のいちばん端のシェルターにもたれて座っている『コードギアス 反逆のルルーシュ』の枢木スザク。
その手に握られた濃紺の剣は彼自身の首筋、ちょうど頸動脈の位置に当てられている。

「――って、ちょっと待てぇえええええ!!!
 たんま! ストップ!! 自殺はやめとこ、話せばわかっうわっ」

慌てて駆け寄ろうとした◆F9bPzQUFL.だったが、雪に足をとられ派手に転倒。
軽く埋まってちょっと窒息しかける。
人の自殺止めようとして自分が死んだらシャレにならへんやろー!と、どうにか顔だけ上げると
目の前でスザクが自分を見下ろしていた。
しばらく無言のまま見つめあっていたが、先に言葉を発したのはスザクのほうだった。

「あの……大丈夫ですか?」


  □  □  □


スザクの姿をした書き手は、アニメキャラ・バトルロワイアル3rdの◆SDn0xX3QT2だと名乗った。

「……で、なんだって自殺しようとしてたんか教えてもらえますかねぇ?」

ややキレ気味な◆F9bPzQUFL.の前で、◆SDn0xX3QT2はちょこんと正座していた。

「自殺しようとしてるように見えた?」
「見えた。あれで自殺しようとしてたんじゃなかったとしたら紛らわしすぎやから今すぐ死ね」
「死ぬのはちょっと……」
「自殺しようとしてたんちゃうんかい」
「止めようとしてくれてたんだよね?」
「そうやけど」
「じゃあ、死ななくていいかな?」
「ええよ」
「わかった」
「って、そうじゃなくてな、なんで自殺しようとしてたのかを俺は聞いてるんやけど」
「べつに、めちゃくちゃ死にたくてたまらなかったってわけでもないんだ」
「死ぬ気もないのにあんなことすんなや。こっちが死にかけたやろ」
「え? そうなの?」
「雪に埋まって、息できんくて、お花畑見えたわ」
「綺麗だった?」
「なにが?」
「お花畑」
「綺麗やったけど」
「良かったね」
「よくないわ!!」
「雪ばっかりよりお花畑も見えたほうが楽しいと思うけどな」
「俺が見たお花畑は、見たらあかんヤツやから!」
「あははははは」
「あははははは、じゃねーよ! 結局あんた、死ぬ気はないんかい!?」
「それなりに死ぬつもりだったんだけど」
「どっちやねん!」
「死ぬ気はあったんだけど、死ねる気はあんまりしなかったんだ」
「意味わからん」
「◆F9bPzQUFL.はコードギアスのアニメ見たことある?」
「一応ある」
「じゃあさ、スザクにかかってる『生きろ』ってギアスのことはわかるかな?」
「わかるけど」
「僕にもそのギアス、かかってるみたいなんだよね」

さらっと言われて、◆F9bPzQUFL.は言葉に詰まった。
ギアス――絶対順守の力。
『生きろ』とギアスをかけられたスザクは、どんな手段を用いてでも自らの意思と関係なく生きようとする。
自ら命を断つことはできない。
それは、アニロワ3rdでも描かれている。
スザクと同じギアスがかかっているということは、◆SDn0xX3QT2は死にたくても死ねないということだ。

「……もし、そのギアスの効果が消えたら死ぬつもりなのか?」

少し迷ってそう切り出した◆F9bPzQUFL.に、

「今はもう死ぬ気はないよ」

◆SDn0xX3QT2は微かに笑って見せた。

「死ぬ気がなくなるようなこと、俺はした覚えないねんけど」
「僕もそんな出来事には覚えがないよ」
「じゃあなんで死ぬ気なくなってんねん」
「最初から、死にたかったわけじゃなかったからかな?」
「だからどっちやねん! 死にたいんか、死にたないんか!」
「死にたかったんじゃなくて、逃げたかったんだよ」

◆SDn0xX3QT2が空を見上げる。
つられて◆F9bPzQUFL.も空を見る。
いつの間にか雲は晴れ、夜空は星に彩られている。
しばらくして、書けないんだ、と◆SDn0xX3QT2が呟いた。

「書けないって」
「SSだよ。SSがね、書けないんだ」

二人に冷たい風が吹きつける。

「書こう、書きたいって気持ちが無くなったわけじゃないんだよ。プロットもできてる」
「それなら書けるやろ」
「それが、いざとなったらまったく筆が進まないんだ」
「はぁ?」
「あ、筆が進まないって言ったけど、実際に筆で半紙に書いてるわけじゃないからね」
「その注釈はいらんわ。ってゆーか、その部分に対して「はぁ?」って言うたんちゃうから」
「だったら何?」
「書きたい気持ちがある。書きたいことがあってプロットもある。書くために必要なモンは揃ってるやん」
「でも書けないんだよ。何が書きたいかはわかっても、どう書けばいいのかわからない」
「なんだそれ。よくわからん」
「どんなに書いても、こんなんじゃダメだーって思っちゃって。そのうち全く書けなくなった」
「案外、投下したら平気やったりするで?」
「自分で納得できない物は出せないよ」
「でも、これまでは納得できてたんやろ? 前より下手になったってことか?」
「そんなことはない、と思いたいけど。あれこれ考えすぎなのかもしれないな」
「あれこれって?」
「読み手さんの反応とか、他の書き手さんのこととか」
「そんなん、書く前から悩むことちゃうわ」
「そうかな」
「そうや。俺は書きたいモンを書きたいように書く。他人がどう思うかなんてのは、書いてから考える」
「僕はそんな風には思えないよ。それに、書きたいものを書きたいように書くって、難しいことだ」
「何が難しいねん、普通のことやろ。……で、SS書かれへんっていうのが自殺未遂の理由か」
「そうなるのかな」
「あーもー、そんなことで死にたくなるくらい悩むんやったら書き手なんてやめればいいやろ」

その一言で。
深い考えなんてない、普通で当たり前のことのつもりだった一言で。
◆SDn0xX3QT2の纏う空気が変わったことを、◆F9bPzQUFL.は瞬時に理解した。

「やめるなんて、僕にはできない」

それだけを、◆SDn0xX3QT2ははっきりと宣言した。


◆F9bPzQUFL.には◆SDn0xX3QT2の気持ちが理解できない。

書きたいことが上手く書けないという感覚ならわかる。◆F9bPzQUFL.にだってスランプくらいあった。
けれど、今の自分にはこれしか無理だと諦めて投下するか、
このパートは今の自分には書けないと書くこと自体を諦めるかの違いはあったが、
割り切ることができた。
もう駄目だと思えば、少女漫画ロワから離れるという選択肢を選ぶこともできるだろう。
書きたいものを書きたいように書く。それができないなら書かなければいいだけだ。
◆F9bPzQUFL.はそうやってここまできた。

けれど◆SDn0xX3QT2は、"書けないけど書きたい"と言う。
死にたくなるほど悩んで、それでも"やめることはできない"と言う。

◆F9bPzQUFL.はどうしたものかと考える。
◆SDn0xX3QT2の気持ちは理解できないし共感もできないが、
自殺するのを止めようとして、こうして理由を聞きだした以上、なんとかしてやりたい気持ちはある。
考えて、◆F9bPzQUFL.は、◆SDn0xX3QT2の置かれている状況が
自分とは違うのだということに思い当った。

◆SDn0xX3QT2の所属するアニロワ3rdは現在、複数の書き手のよる合作形式を採っている。
合作用トリップ『◆ANI3oprwOY』。◆SDn0xX3QT2はその一人だ。
終盤、しかも合作となれば、読み手も、合作に参加していない書き手も、きっと期待して待っている。
合作である以上、他の合作参加メンバーの意見もあるし、書いたSSにはおそらくチェックが入るだろう。
自分ひとりの考えや感情だけで勝手気ままに書くなんてことはできないし、
何も言わずにフェードアウトもできないだろうことくらい想像がつく。

それでも、だ。
それでもやっぱり

「死にたくなるくらい苦しいのに、それでも書く必要なんて無いやろ」

◆F9bPzQUFL.はそう思う。

「命賭けて書くって言うんならともかく、書かれへんからって命捨てるようなことちゃうやろ」

◆F9bPzQUFL.にとって、ロワを書くのは趣味だ。
書くのが好きだから、楽しいから書く。
楽しくないなら、それはもう趣味じゃない。

「だいたい、やめる気が無いんやったら死んだらあかんやろ。死んだらもう二度と書かれへんねんで!」

◆F9bPzQUFL.の言葉に

「うん。それ、うっかり忘れてたんだよね」

◆SDn0xX3QT2はちょっと照れくさそうに答えた。


「……はぁあああ!?」
「忘れてたというか、見落としてたというか」
「いっちゃん大事なとこやろ」
「ロワで死ねば、書けないって悩むこともなくなるし、投下できなくても責められることもないかなと思って、つい」
「つまりあんたは、ついうっかり自殺しそうになってたんかい」
「ほら、人間って追いつめられると視野が狭くなるから」
「もしかして、死ぬ気無くなったんは、死んだらもう書かれへんって気づいたからか?」
「うん」
「なんやそれ! 真剣に悩んだ俺の時間返せ!!」
「それは無理」
「無理なんはわかってるわ! というか、さっきの話、ホンマかどうか疑わしくなってきたわ」
「本当だよ?」
「あんた、どこまで真面目なんかわからん」
「だいたい真面目です」
「だってあんたボケボケやん」
「◆F9bPzQUFL.は関西人みたいだから、ボケたほうがいいのかなって」
「その気遣いはいらんわ!」
「遠慮しなくていいから」
「遠慮ちゃうわ! ってゆーか、ボケボケなん全部計算やったんかい」
「100%計算だよ」
「マジか? 如何せん外見がスザクなだけに天然やと思ってたわ」
「まあ、天然だったら自覚ないから、自己申告は100%になるよね」
「たしかに! ってことは結局、天然か計算かわからんやん!」
「残念だったね」
「本当に残念やわ、まったく…… なんか無駄に心配してもうた」
「無駄だった?」
「無駄やろ。俺が何もせんでも、あんたは自分で"死なへん"って答え出しててんから」
「◆F9bPzQUFL.が真剣に心配して悩んでくれて、僕、嬉しかったんだけどな」

本当に嬉しそうに笑って言う◆SDn0xX3QT2に、◆F9bPzQUFL.はドキッと

「してない! ドキッとなんてしてないで! 男相手にドキッとしてたら俺キモイわ!」
「外見上は問題無いよ」
「中身的に問題あるわ」
「僕、BL耐性あるから(アニロワ3rdで神原書いた的な意味で)」
「◆F9bPzQUFL.×◆SDn0xX3QT2とか、お断りや!」
「外見的には◆SDn0xX3QT2×◆F9bPzQUFL.のほうが自然だよね」
「そういう問題ちゃうから」
「それなりに需要はあると思うけどな」
「供給する側になる気無いねん、俺は」
「じゃあ、これからどうするんだい?」
「対主催やろうと思ってる」
「だったら僕も、一緒に行っていいかな」
「それは別に構わんけど、あんた対主催でいいのか?」
「うん。もし他の合作メンバーがいるなら一緒に生還したいから、一人しか残らない優勝ENDになるのは困るし」
「なるほど」
「それに、対主催ENDのほうがたぶん話数かかるだろうし」
「ん?」
「今すぐ帰ってもSS書ける気がしないから、最終話までをできるだけ引っ張ってから帰ろうかなって」
「主目的そっちかい!」
「最優先は死なないことだよ。今は書ける気しないけど、でもやっぱり僕は書きたいから」
「書かれへんのに書きたいってのは、俺にはわからんわ」
「僕は、アニロワ3rdから離れられないし、アニロワ3rdの書き手をやめるなんてできないってだけだよ」
「それはめっちゃシンプルでわかりやすいわ」
「僕、自ロワを愛してるから」
「さぶっ。愛してるとか口に出して言うことちゃうやろ。寒いわ」
「ここ雪原だからね」
「気温のことちゃうからな? たしかにここ寒いけど」
「これからどこに行くか決めてる?」
「寒くないとこ」
「じゃあとりあえず南か」
「そっちはどこか行きたい所とかないんか?」
「家電量販店」
「理由は?」
「急に書けそうな気分になった時に備えてノートパソコンか代わりになる物が欲しいと思って」
「ノーパソくらいなら、そのへんの民家でもあるんちゃう……へっくしょぉぉん!」
「男前なくしゃみだね」

言いながら、◆SDn0xX3QT2は自分のマントをはずして、そっと◆F9bPzQUFL.にかけた。

「マント無かったら寒いやろ」
「すごく寒い」
「やったら返すわ」
「いいよ。そのまま着けてて。心配かけたお詫びってことで」
「そういうことなら遠慮なく」
「あ、でも、寒くない場所まで行ったら返してね。あと、裾は汚さないようにちょっと持ち上げといて」
「めんどくさっ」
「僕、ナイトオブゼロの服はマント有りのほうが好きなんだ」

なんだかんだと言いながら、◆F9bPzQUFL.と◆SDn0xX3QT2は雪原を抜けるべく歩きだす。
月明かりがあるとはいえ暗いうえ、慣れない雪の中を進むのは楽ではない。

でも、と、◆F9bPzQUFL.は思う。

二人だから、さっきみたいに転んで埋もれても助けてもらえるだろうし、
吹雪で遭難して事故死を回避できる確率は格段に上がっただろうと。
そして、マントあってもさっぶいわぁ、と。

そう思った。



【一日目・深夜/A-2・雪合戦会場】

【◆F9bPzQUFL.@少女漫画キャラバトルロワイアル】
【状態】健康
【外見】松井風花@こどものおもちゃ
【装備】ナイトオブゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
【持物】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:対主催
1:さっぶいわぁ
2:ノーパソ探しに行くかー
【備考】
※外見は女子中学生ですが、中身は成人男性です

【◆SDn0xX3QT2@アニメキャラ・バトルロワイアル3rd】
【状態】健康、「生きろ」ギアス継続中
【外見】枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ、服装はナイトオブゼロ
【装備】なし
【持物】基本支給品、無毀なる湖光(アロンダイト)@オーズロワ、不明支給品0~2
【思考】
基本:最終話までをなるべく引っぱってから合作メンバー全員で生還し、アニロワ3rdを完結させる
1:とりあえず死なない程度に対主催
2:SSは書ける時に書きたいので、ノートパソコンかその代わりになりそうな物が欲しい

075:リレーする書き手のことを考える書き手の鑑 ◆時系列順に読む 077:ドキッ☆書き手だらけの水着大会
075:リレーする書き手のことを考える書き手の鑑 ◆投下順に読む 077:ドキッ☆書き手だらけの水着大会
◆F9bPzQUFL.
◆SDn0xX3QT2

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最終更新:2013年05月09日 19:28