「いやいやいくらなんでもこれはないって、本当に」
パロロワメモリによって変化させられた彼女の外観はどの『参加者』のものでもなかったのだから。
「いきなり強い状態で参戦させるとか死亡フラグ以外の何物でもないからねこれ?」
今の音織の姿は平等なだけの人外――安心院なじみ。
本編では主催フラグこそ立っているものの一参加者の夢に出てきただけの非参加者。
そもそも本編に登場させたのだって彼女ではなく別の書き手――投下数2位の◆xR8DbSLW.w、『不撓怒涛』零崎傾識――だ。
それなのに、どうして彼女がこんな姿をしているのかといえば、
「はぁ……確かに僕死者スレの更新やってるけどさぁ」
死者スレ。
文字通り本編で死んでしまったキャラを弔うためのスレ。
第一回放送後から死んでしまったキャラの入場話については全て彼女が担当してきた。
時には原作の都合上死者スレの雰囲気に合わなそうなキャラを何とかするために始まった小企画をなんとか収集つけたりもした。
その結果、なのだろう。
「いや、なのだろうってそんな風に片づけられても困るんだけど。死者スレなら阿良々木君の方が書いた回数多いし」
いつの間にか笑い声はなくなり、口から零れ落ちる言葉は愚痴ばかりになる。
「本当これからどうすればいいの。零崎だからってこんなテンションじゃ殺して回ろうって気にもなれないよ」
安心院なじみの姿をとっているとはいえ、今の彼女に付けられた名は零崎。
ならばやることは一つで、皆殺し。
逆らう者は殺す。
邪魔する者は殺す。
何でもなくても殺す。
最後は、こんなことに巻き込んだ主催も殺す。
それでいい。
それで間違いない、はずなのに。
「君を殺すというのは正直しのびないんだよねえ」
目の前にいる少年に語りかける。
長めの茶色い髪に、白いダッフルコート。
まだ小学生と言っても通用するであろう――普通の子どもにしか見えない。
「そうかい。ならボクに殺されてくれるかな?」
バロウ・エシャロットの姿をした中学生ロワ書き手――◆7VvSZc3DiQが右手を突き出して音織に返す。
すると、何の変哲もなかったはずの腕が大砲に変わり、巨大な鉄球が発射された。
砂煙を巻き上げながら発射されたそれは、音織に直撃――
「悪いけど“まだ”殺されるつもりはないんだ」
しない。
いつの間にか◆7VvSZc3DiQの後ろに立っていた。
周囲は砂漠で視界を遮るものなど何も無い。
移動するだけでもすぐわかるというのに気付かれずに後ろを取られるなどあり得ないはず。
◆7VvSZc3DiQにはわからなかったが音織が使用可能な数少ないスキル、腑罪証明(アリバイブロック)を使ったのだ。
本来なら『好きなときに好きな場所にいられる』というロワ会場から簡単に逃げ出せるというチート極まりないスキルであるがそれはさすがに制限されている。
◆7VvSZc3DiQは動揺を覚えるが表には出さない。
「“まだ”?」
「そう、“まだ”だ。僕には先にやらなくちゃいけないことがあるんでね」
「ボクがそれを大人しく待つとでも?」
「もちろん思っちゃいないさ。だけど、君に関わることでもある――といったらどうするかな?」
「興味はわいたけどそれだけだね。最後に死んでくれるというなら、話は別だけど」
「それでも構わない。むしろ本望さ」
「……わかった、いいだろう」
「お礼を言うよ。……それじゃあ、ちょっと順番前後しちゃうけど」
問答の末、あっさりと自分の命を手放すことを条件に一時の自由を得た音織はデイパックをひっくり返す。
「言っておくけど――」
「ああ、大丈夫。こちらに攻撃の意思はない。ただ、支給品の確認をしたかっただけなんだ。そしてこれは餞別さ」
彼女には『横溢邁進』という称号の他に情報網<エンサークリングネットワーカー>という検体名も持っていた。
それは死者スレの更新に留まらず、Wikiの追跡表や支給品リストの大幅な改造、本編では掲示板の創設や大量の不明支給品の開示などをこなしてきたことに由来する。
案の定、というべきか支給品の中には携帯電話が入っていた。
本編で8台くらい出していたのできっと入っているのだろうと踏んでいたのだがその通りだったようだ。
他に支給品はなかったようで複数落ちている携帯電話を全てデイパックに戻すとデイパックごと◆7VvSZc3DiQに投げてよこした。
「中学生ロワ書き手なら未来日記はあった方がいいだろう?何より、一番最初にルールを作ったのは君なんだからさ」
「どうして、敵に塩を送るような真似を」
「敵かもしれないけど僕は君に恩を感じているんだ。僕がかつて繋いだキャラを君は見事なまでに魅せてくれた。その恩に報いたいだけなのさ」
トリバレする以前のトリで音織は一度だけ中学生ロワに投下をしていた。
今だからこそ正直に言うがそれは正直自信を持って投下したものではなかった。
しかし、リレーの末◆7VvSZc3DiQは音織が書いたキャラを綺麗に散らしてくれた。
そのことに音織は大恩を感じていたのだ。
「だから、ボクにキルカウントをくれると――そんなことをほざくのか」
「それとこれとは別の話さ。死生観が曖昧な西尾キャラを書いているんだぜ?元々死への抵抗が薄いのさ」
「だとしても、もう用件は済んだだろう?今度こそ殺されてもらうよ」
「いいや、一つだけ残っているね。これさえ済めば煮るなり焼くなり好きにしてもらっていい」
そして、◆7VvSZc3DiQの返事を待つことなく言葉を紡ぐ。
「どうして、中学生を“熱血青春”に変える能力(チカラ)を持つ君がマーダーをやるのか、教えて欲しいんだ」
音織がやりたかったことは3つ。
1つは情報網<エンサークリングネットワーカー>として支給品を開示すること。
1つは書き手元◆0UUfE9LPAQとして作品を繋いでくれた礼を述べること。
1つはただの読み手としてどうしてマーダーとなったのかを聞くこと。
◆7VvSZc3DiQの答えは果たして――
「その前提が間違っているんだ。マーダーが熱血話をやっちゃいけないなんて理由はどこにもない」
単純、故の真理。
そして、その答えを聞いた音織は――
「無粋なことを聞いて悪かった、けど少しだけ気が変わったよ。僕は君に殺されてやらない」
にっこりと笑い、いつの間にか持っていた銃を自身のこめかみに突きつける。
刀を精製するスキル、見囮刀(ソードルックス)で生み出したものだ。
失敗ばかりの銃作り(ガンスミステイク)じゃないのかって?炎刀だから一応刀でいいんだよ。まだ死者スレでそっち出してないし。
「僕には死者スレを更新するという仕事があるんでね。とっととこんな会場からおさらばさせてもらうさ」
ぱん、と。
その言葉を最後に軽快な音が響いた。
□ ■ □
音織の亡骸を前にして◆7VvSZc3DiQは独白する。
「わからないな……ボクにはキミの気持ちがわからない」
「ボクのロワには死者スレなんてものは存在しない。だからこそ、本編でより一層キャラの生き様を出し切るように描いているというのに」
「よし、決めた。キミがさっさと死んでしまったことを後悔するくらいこの会場で魅せてやる。ロワ書き手なら本編で魅せるものだろう?」
「ならここで殺人日記を使うのは得策じゃあないな。そもそもボクが最初に出したものじゃないし」
「うん、あの日記が一番いい。癖が強いなんて言われていたけどここは書き手ロワだ、そんな問題なんてあってないようなものだろう」
中学生ロワでは基本支給品の中に携帯電話が入っていたが他のロワではそれは一般的ではないため◆7VvSZc3DiQは支給品から携帯電話を得ることができなかった。
しかし、今は音織から受け取った携帯電話が大量にある。
未来日記のルールの設定、最初にそれを使用したというのも相まって◆7VvSZc3DiQは自身が出した日記ならどれでも契約することができた。
「Neo高坂King日記――いや、Neo◆7VvSZc3DiQKing日記か。これで思いっきり輝いてやるさ」
音織に背を向けようとして立ち止まり、近づくと傍らに落ちていた炎刀・銃を拾う。
「これもキミからの餞別ってやつなのかな。ありがたくもらっておくよ」
過去を現実に変える能力を持つバロウの姿をした◆7VvSZc3DiQには銃などの飛び道具は相性がいい。
それに、マーダーとして動くなら武器が多いにこしたことはないのだから。
そして、言い聞かせるようにもう一度話しかける。
「ロワ書き手なら本編で魅せてこそだ。ボクは絶対にキミを後悔させてやる」
【『横溢邁進』零崎音織(◆ARe2lZhvho)@新西尾維新バトルロワイアル 死亡】
【一日目・深夜/F-6/砂漠】
【◆7VvSZc3DiQ@中学生バトルロワイアル】
【状態】健康
【外見】バロウ・エシャロット@うえきの法則
【装備】Neo◆7VvSZc3DiQKing日記@中学生ロワ
【持物】基本支給品×2、携帯電話複数、炎刀・銃@新西尾ロワ、不明支給品1~3
【思考】
基本:マーダーとして“熱血青春”を届ける
※バロウ・エシャロットの過去を現実に変える能力と神器を使えます
最終更新:2013年04月19日 01:15