バリバリ、ムシャムシャ。
強靭な顎と鋭い歯で噛み砕き、飲み込む。
腹に収まればまた次へ。
深い森の中、食しているものは家――と言っても木造の家屋ではなく、甘い菓子によって組み上げられた家だった。
そしてそれを食っているのはパラサイト、後藤という生物だ。
後藤の容姿を与えられたのは多ジャンルバトルロワイアルの書き手、【寄生獣】イーボゥ。
第一回放送前に「Ultimate thing」によって、代表作「寄り添い生きる獣たち」によって、後藤の圧倒的にして怪物的な強さを見せ付けた。
渾名に【寄生獣】とある通り、寄生獣勢を強く深く掘り下げてきた書き手だ。
そんな彼が後藤の外見を得るのは、他の選択肢など無いと言っても過言ではない、当然の事だった。
OP会場から森の中へ放り込まれたイーボゥは、腹が減っていた。
両腕、両足、そして頭部に寄生生物を宿した後藤の姿である以上、それを維持するためのエネルギーが必要だったのだ。
故に、食う。
甘い匂いに誘われて辿り着いたその家を、容赦なく食らう。
バトルロワイアルというものの主旨はもちろん理解していたが、今は栄養補給を優先していた。
そうして食い続けていたイーボゥは己が咀嚼する以外の音を耳にし、食事を中断する。
木々を掻き分け、落ち葉を踏み散らす足音。
走っているのだろう、瞬く間に接近してきている。
イーボゥは舌舐めずりをして口の周りの菓子を拭い、右腕を刃の形にして硬質化させた。
後藤の姿であるならば、選ぶスタンスは当然マーダー。
大規模戦闘、強マーダーによる虐殺への憧れもある。
イーボゥが最初に出会う参加者を襲わない理由がない。
問答無用で殺すべく、既に臨戦態勢を取っていた。
だがイーボゥがその刃を振り下ろすことはなかった。
森を抜けてお菓子の家まで辿り着いたその参加者の顔に、見覚えがあったからだ。
ましてその第一声が、
「その姿、【寄生獣】イーボゥか!」
自ロワの人間であると容易に特定出来るものであったならば。
「【誓約者】ダブルエックス、か」
姿を見せたのはジェレミア・ゴットバルト。
ジェレミアが参加するロワは複数あるが、後藤の姿に反応する彼は多ロワの書き手に違いなかった。
そしてパロロワメモリによってその姿に変身するのは、多ロワ投下数トップの書き手【誓約者】ダブルエックスをおいて他にない。
投下数一位の彼が手掛けたキャラクターは多い、だがその中で最も筆を割いたのはジェレミアだ。
共に同じロワで書いていれば、その思い入れは自然と窺い知れる。
ダブルエックスに「是非一度お会いしたかった」と握手を求められ、イーボゥは刃を解いてそれに応えた。
マーダーとして動くつもりではあるが、自ロワの人間をいきなり殺すほどの確固たるスタンスではない。
イーボゥは神出鬼没の書き手――書きたい時に書く。
殺したい時に殺す。
後藤がそうであったように、イーボゥも少なからず気分屋だった。
そして多ロワを寄り添うように支えているイーボゥが、トップ書き手を率先して殺そうとするはずがなかった。
▽
【誓約者】ダブルエックスは会場に送られてすぐに走り出した。
目的は一つ、自ロワの書き手に会う。
【ライダー】エウーゴ、【寄生獣】イーボゥ、【世紀王】K.K.、【魔人皇】ジーヴ……あの素晴らしい書き手達が、この晴れ舞台に参加していないはずがない。
ただひたすら、彼らに会って話がしたかった。
ダブルエックスには多ロワのSSを一人で書いていた時期がある。
それは書き手になってほんの数ヶ月の頃の話で、右も左も分からないまま砂漠の真ん中に放り出されたようなものだった。
それでも書き続けているうちに、エウーゴが戻ってきた。
二人で書いているうちにまばらな投下だったイーボゥが本格復帰し、K.K.が、ジーヴが、帰ってきた。
彼らの帰還を読み手達は喜んだだろう。
だが最も喜んだのはダブルエックスだ。
ロワの完結が近付くことよりも、彼らとまたリレーができることが嬉しかった。
だから彼らに会いに行くために走るのだ。
会って「あなたのSSが好きだ」と伝えたい、その一心で。
イーボゥに出会ってから、ダブルエックスは喋り続けた。
イーボゥの持ち味は原作と過去のSSの読み込みの深さ、そしてそれに裏付けられたクロスオーバー。
「再開」から始まる四部作ではnのフィールドとミラーワールド、ローザミスティカとキングストーンといった異なる原作の要素を繋ぎ合わせた。
「SAMURAI X」で枢木スザクと雪代縁に共闘という意外な選択をさせ、二人の間にある『侍』というキーワードによって彼らを掘り下げた。
「寄り添い生きる獣たち」は、それまでに田村玲子が辿った軌跡の全てを昇華させたSSだ。
ダブルエックスはこの「寄り添い生きる獣たち」について特に強く語る。
イーボゥの代表作にして傑作。
初めてのSSで田村玲子を書き、その後も何度も彼女を登場させたダブルエックスにとっては特別なSSだった。
書いてきたフラグが、経験が、あらゆる要素が拾われて、田村玲子は原作にはない最高の結末を迎えた。
書き手にとってこれほど光栄なことがあるだろうか。
ダブルエックスが受けた衝撃の大きさはその後のSSに表れている。
「Re:寄り添い生きる獣たち」。
『返信』を意味する語を冠した同じタイトルのSSを執筆した。
返さずには、書かずにはいられなかった――それほどに尊敬した相手。
ダブルエックスはその相手に、思いの丈をぶつけきった。
しかし、幸せな語らいの時は終わる。
一人ではあるが「自ロワの書き手に会いたい」という願いが満たされて、己の『本分』を思い出したからだ。
語りを終え、一息ついてから言う。
「そういえばここは、書き手ロワだった」
自ロワへ、自ロワの書き手へ、愛を叫ぶのは結構だが、それ以前にロワなのだ。
愛を叫んでいるだけではロワは進まない。
「書き手ロワにも読み手がいる。
読み手を楽しませるのが私達参加者の役目だ」
ダブルエックスは書き手とWiki管理者を兼ねており、SSの収録やエイプリルフール企画も積極的に行なっている。
それは、パロロワがエンターテイメントだから。
SSに限らず、あらゆる形で読み手に楽しんでもらいたい。
一人でも多くの読み手に読んでもらいたい。
そう思えばこそ、ダブルエックスはこの書き手ロワでも積極的に動く――他の参加者の命を刈り取る、話を進めるマーダーとして。
「その姿でか」
「もちろん」
イーボゥの問いに首肯する。
多ロワのジェレミアは一貫して対主催であったが、ダブルエックスが殺した参加者は多い。
対主催もマーダーも、必要とあれば関係なく殺す。
ロワ全体のバランスを考えながら、そうしてロワを動かしてきた。
ここでも同じことをするだけで、マーダーとなることに抵抗はない。
「ジェレミア・ゴットバルトは主のためならば殺人を厭いはしない。
ならば私はマーダーとして多ロワに、そして書き手ロワに忠義を尽くすのみ」
ダブルエックスがジェレミアのような芝居がかった口調と仕草で宣言する。
強者に返り討ちにされようと、描写なく死亡しても構わない。
それで多ロワの宣伝になるならば、書き手ロワが進むのならば。
イーボゥに「ならばここで殺し合うのか」と聞かれると、ダブルエックスは「できればあなたとは後回しにしたい」と苦笑した。
以前後藤とジェレミアとの戦闘を書いており、その力量差を良く知っているからだ。
死んでも構わないとは思うものの、少しでも長く生きた方が多ロワのためになる。
「ここで失礼しよう。
あなたの活躍を願っている」
名残惜しみながら別れを口にし、ダブルエックスはイーボゥのいるお菓子の家を離れた。
▽
一晩でも話し続けそうな勢いで、イーボゥのSSについて語ったダブルエックス。
これだけの熱量と思い入れがあればこそあの投下数になったのであろうと、イーボゥは得心する。
ダブルエックスがマーダー。
K.K.もシャドームーン以外の容姿は想像がつかず、恐らくマーダーになるだろう。
エウーゴが対主催になるかマーダーになるかは半々か。
ジーヴがいれば対主催はほぼ確実。
これでイーボゥがマーダーとなると、多ロワの書き手のマーダー率は随分高くなる。
「面白い」
そんなロワが一つや二つあってもいいだろう。
後藤にしては大人しすぎる登場話だったと反省し、イーボゥはお菓子の家を食うのをやめて動き出した。
ダブルエックスがジェレミアに倣い忠義に従ったように、イーボゥも後藤に倣い本能に従う。
即ち「この種を食い殺せ」。
食事を中断したお陰でまだ小腹が空いていた。
その空いた腹に、他の参加者を収めに行く。
【一日目・深夜/D-3/お菓子の家】
【【誓約者】ダブルエックス(◆.WX8NmkbZ6)@多ロワ】
【状態】健康
【外見】ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ
【装備】
【持物】基本支給品×1、不明支給品1~3
【思考】
基本:マーダーとして多ロワに、書き手ロワに忠義を尽くす。
【【寄生獣】イーボゥ(◆EboujAWlRA)@多ロワ】
【状態】健康
【外見】後藤@寄生獣
【装備】
【持物】基本支給品×1、不明支給品1~3
【思考】
基本:小腹が減った。参加者を食う。
最終更新:2013年05月09日 20:17