「おいおいおい、なんだこれ」
自分を弄りながら呟くおっさん。
否、元おっさん。
今は美少女のビジュアルなので、元と付けさせてもらう。
中身は全然美少女ではないけども。
「やべー。ぱねえ。マジでキャラのビジュアルしてんじゃん」
彼――彼女の名は、『雀龍門 -ジャンライン-』である。
スペースを捩じ込むのが大変面倒くさいので、以下ジャンラインとさせてもらおう。
とにかくジャンラインは、咲ロワイアルの書き手である。
トリップも一応あるが、名簿にはジャンラインで載っているし、何より『僕の名はジャンライン!』という謎の感覚がある。
これが無理矢理挿れられた何とかメモリの効果というヤツなのであろうか。
「いやでも俺中身全然変わってないし、やっぱりメモリとかいうよく分かんねえシステムってクソだわ」
吐き捨てるようにそう言うと、ジャンラインは支給品を確認する。
ついでに、何がどうなってるか一応考察を進める。
超人技の跋扈しない一般人ロワの参加者は、頭動かしてなんぼである。
「頭も回してサイコロ回してふんふふーんって、末原さんも言うてるしな」
咲ロワに参加していないキャラの名前を口にしながら考える。
咲ロワは、自分が遅筆なこともあり、あまり話数を重ねていない。
もしかすると、メモリによって自ロワ脳にされきっていないのにはそういう理由もあるのかもしれない。
「……ウチのロワ、マーダーもっと増やさねえとなあ」
そんなことを呑気に呟くジャンライン。殺し合いに乗る気はない。
そもそも咲ロワは最新投下作品までマーダー1人だったロワ。
ビジュアルがその唯一無二のマーダーだった原村和じゃない時点で、殺し合いに乗る気になれない。
これで和だったら、咲ロワでもたくさん出てるし、「まぁそうなるかー」と思い殺し合いに乗るのに。
んで、片っ端から冷静にキャラ殺しながら、のどっち乳でも揉――――
「……はっ!!」
そこで気が付く。
自分は“ロワの記憶”にそこまで侵食されていないし、侵食されてもレズ風味のキャラが跋扈する咲キャラクター。
性欲の対象は勿論のこと少女である。
「そうだッ……俺は今ッ! 美少女であるッ!!」
目の前に、そんなに大きくないとは言え、今まで触れたことのないたわわな果実がぶら下がっている。
触ってみない男がおるか? いなァァァ~~いッ!
「そう、これは神が無慈悲な殺人ゲームの場で俺に与えし奇跡ッ!」
ゆっくりと、自分を焦らすように両の手を胸元へと持っていく。
深呼吸をし、禁断の扉をぶち破るため自分を鼓舞しようと叫ぶ。
「今ッ! 最高のッ! 奇跡に乗り込めェェェーーーーーッ!」
そして両の手を勢いよく乳房へと向かわせた時ッ!
視界に、筋肉モリモリの男が映った。
何か体から湯気だして、白い呼吸でコホオオオオオオとか言うてる。
なにそれ、波紋疾走か何か?
「デーデーデーーーーン!」
突然口でそう言うと、男がパンツから何かを取り出した。
いや、パンツじゃなくてズボンとパンツの狭間からかもしれないけど、とにかく男はズボンの中に手を突っ込むと、細長いものを取り出した。
ちなみに男は半裸であるので、上着には入れられなかったらしい。
「と、いうわけで、乱入だ」
男は、股間から取り出したレバー(ゲームセンターの格闘ゲームでキャラの移動とかに使う、ドラえもんの尻尾のような、アレね)を握りそう言った。
男の名は『oub×アーク』――新安価ロワの書き手である。
以下、面倒くさいのでアークと表記させてもらう。
「そうか、よし、殺す」
ジャンラインの出した結論は早かった。
それはもう、夢の幕開きまであと数ミリというところでお預けを喰らった瞬間心に決めた。
「……俺はこの殺し合いを、ゲームだと思うことにした」
アークはレバーをもう一度股間へしまった。
何の意味があったんだ、今のは。
「ああそうかよ、クソッタレ」
ゲーム云々は、原作・バトルロワイアルのセリフだったはず。
一般人ロワにおける原作バトルロワイアルテイストは、逸般人ロワのそれよりもやや濃いため、ジャンラインにはそれが分かった。
原作バトルロワイアルの出ているどこかのロワの書き手かと当たりをつける。
「何キャラベースかわかりにくいツラしやがって」
「杉村弘樹と北斗の拳のどちらかだろう」
「何ではっきりしねーんだよ」
「バグか仮グラだからだろ」
「クソだな」
意味わかんねえ。思わずジャンラインはそう呟く。
しかしながら、相手の所属ロワは知れた。
「まあ、確かに、ビジュアルが不安定なのは若干アレだな」
「若干じゃないだろ。かなりのクソ。クソゲーに慣れるって怖いわ」
クソゲーロワと呼ばれるあそこ、新安価ロワだ。
咲ロワも元は安価ロワの乗っ取りなので、安価系ロワの知識はある。
あのロワは、核ミサイルが云々という話を聞いたことがあった。
さすがに書き手ロワでそれを連発したりはしないと思うが、書き手ロワ2ndはチート技大博覧会だったとも聞く。
決して油断できる相手ではない。
「そういうお前こそ、その姿は何だ」
「美少女だろう? ああかわいいなあちゃちゃのん」
「知らん」
「……まあ、原作の出番、多くはないしな。やっぱりメモリのこのチョイスってクソだわ」
咲ロワは、単一作品故にモブキャラが多く出ている。
ジャンラインが姿を借りている佐々野いちごも、そんなモブキャラだ。
ネタにまみれた番外編がトキワ荘移住一発目でインパクトを残したためか、番外編登場キャラのビジュアルにされたらしい。
……そのネタまみれのやつとは違う番外編のキャラだし、しかもホントの番外編ゆえ咲ロワ参加者ですらないけど。
用語集のトップを飾ってしまっていたのも悪かったか。
「……つーかお前、デイパックは」
ジャンラインがアークに問う。
世紀末マッチョVSお漏らし顔の美少女雀士。
見るからに、肉弾戦なら相手が有利だ。
しかも杉村だったら固定してない木材余裕で叩き割るし、生半可な武器では通用しまい。
となると、まずは情報だ。
情報と、感情。
その2つを上手く使わねば、一般人ロワで生き残るのは難しい。
「殺し合いなどという嫌なことについカッとなって、なのに殴る台もなくてな……
台パン感覚で満力込めて放り投げたら、ついつい飛ばしすぎてしまい、要するに見つからなくなった」
「……ああ、そう」
ジャンラインは理解する。
コイツは、アホだ。
麻雀という超頭脳派ゲームの名称を2つも貰った自分の敵ではない、と。
「んじゃもういいや、さっさと死ね」
そうジャンラインが呟いたと同時に、世界の景色が停止する。
ジャンラインがアークに向かい歩み寄っても、アークは瞬き1つしない。
「クソゲー・オブ・ザ・ワールド――――右ボタン押しっぱなしで、世界は強制フリーズだ」
書き手ロワに潜む“バグ”の1つ・名前ネタ。
かつての書き手2ndや書き手3rdにも多々あったが、書き手が書いた作品のみならず、宛てられた名前に因む能力を使用することが書き手ロワでは多々ある。
ジャンラインというバグ満載のクソゲーの名を与えられた故、ジャンラインはジャンラインのクソ技を繰り出せるのだッ!
「終わりだ、ぶっ潰れろッ!」
そして、デイパックから取り出した車をアークの頭上へと固定する。
「怖いよなァ、事故死ってのは!」
咲ロワには、前述の通りマーダーが少ない。
しかし――現在ウィキに収録されている“マーダーがまだ一人だけの時期”でも、死者は6人も出ている。
その中には、不幸な事故も含まれていた。
足を滑らせたのが遠因で崖から落下した者も入る。
結果的に生き延びはしたが、車に轢かれかけた者もいた。
「マーダー以外にも恐れるものはあるってことをォ、書き手5thまでに覚えておくんだなァ!」
ドグシャと派手な音を立て、車(咲ファンの中でワハハカーと呼ばれる、咲キャラクターの乗りこなす車種と同様のものだ、偶然にも)がアークへとのしかかる。
手応えあり。
車の下から血液が流れ出るのを確認し、満足気にジャンラインは呟いた。
「いやホント、ジャンラインはクソゲーだけど、おかげで助かっちゃったな」
上機嫌に車へ背を向け、物音を聞いて現れる者から離れようとする。
それから心置きなく自分の胸を触ってみよう、芸の肥やしだ。
セクハラではない、書き手として当然の、そう、取材なのだ、しょうがないよね、揉みほぐすのも。
いや、むしろ、今ここで揉むべきだと言え――
「一本取られたな、文字通り」
そして、ジャンラインの動きはまたも静止する。
今度は嫌な汗も伝った。
同じようなことが起こる『天丼』――それがあってもおかしくはない。
パロロワとは、割りとお約束を大事にするジャンルだからだ。
胸を触るのを邪魔しに誰かがまた現れてもおかしくはない。
「ラァウンドツー……」
だがしかしッ!
まさか今しがた死亡確認を行った者がそっくりそのまま現れるのは想定外ッ!
ギチギチと振り返ると、そこにはピンピンとし、構えを取るアークの姿ッ!
「ファイッ!!!」
迫るアーク。
彼は、新安価ロワイアルの世界観をゲーム世界にした張本人。
所謂“クソゲーロワ”という飛び道具の生みの親だ。
それ故にクソゲーの性質を持っている。
例えば、開発途中故の仮デザインみたいな中途半端な外見をしていたり。
例えば、ラウンドを1つ取られた後、先ほどのラウンドで死んだ自分の体が車の下に残っているのに、ラウンド2用の別ボディが現れたり。
兎にも角にも、アークはバグで増えていた。
片方は死んでいるため意味はないけど。
ラウンド1本取られただけなら復活するのは、クソゲーでなく格ゲーとしての性質だけど。
そのバグはジャンラインの心を乱すには、十分すぎる効果を持った。
「う、うおおおおおおおおッ! 止まれッ! クソゲー・オブ・ザ・ワールドッ!!」
だがしかし――アークの真の本領は、“そこ”にはない。
アークという書き手を構成しているのは、『クソゲー』というよりもむしろ『格ゲー』である。
否――“バトル・ロワイアルという立派なアーケードゲーム”と言っていいかもしれない。
確かに殺し合いのステージとしてはクソの極みのようなギミックを書いたりもした。
だがしかしそれは、格闘ゲームという観点からすると、仕込まれていて当然のギミック。
例えば、ボーナスステージ。
これ自体は搭載していない格闘ゲームもあるのだが、スコアシステムは、今やほとんどの格闘ゲームに搭載されている。
アークの書いた清水比呂乃の登場話では、新安価ロワ特有のルールである『制限時間になると、一番活躍した人が勝つ』というルールの確認と共にスコア制であることを明示していた。
この『タイムアップになったら一番スコアがある奴の勝ち』という非常にゲーム的なギミックといい、アークの『ゲーム世界であるということを活かそう』とする精神は、他の追随を許さない。
アークはゲームを愛しているし、ゲーム設定の新安価ロワを愛していたのだ。
まあ、意図的にバグ搭載のボーナスステージだったりと、クソゲーだったのは否めないけど。
格ゲーにしてクソゲーだろって言われたら返す言葉が何もないけど。
でもまぁクソゲーもゲームの一種だし、そういう意見は無視するけどいいよね!!!!
「おいおいワンパか」
そしてアークはッ!
先程自分を仕留めた技であるクソゲー・オブ・ザ・ワールドを物ともせずに突っ込んできたッ!
ただの馬鹿だと侮った敵にチート技をいきなり破られ、ジャンラインが慌てふためく!
「な、何ィ!?」
そもそもに格ゲーは、無思慮なレバガチャプレイで勝てるものではない。
アークは決して愚かではなかったのだ。
一度喰らった強力技に対処するくらいわけなかった。
「そんなん考慮しとら――――」
ジャンラインの心臓部めがけ、杉村なんだか北斗なんだか分からんビジュアルをしたアークの拳が叩きつけられる。
勢い良くふっ飛ばされ、グルングルンと回転しながらジャンラインは吹き飛んでいった。
「1フレームの世界で生きた男にかかれば、そんな油断しまくりのノロマな技、見てから破るの余裕でした」
フリーズバグがクソゲー標準イベントなためクソゲーに慣れていれば焦ることもないというのもあるが、
やはり一番大きかったのは、アークの能力に『ゲームシステム』が組み込まれていたことだろう。
格闘ゲームは1フレームという超短い時間で行われる戦いである。
熟考が必要であり、オンライン対戦ですら1手に対し相応の時間が与えられる麻雀とは生きている時間が違う。
その超高速動作で、“世界の電源ボタンを押した”のだ。
「……俺が時を動かした。33フレームという長い停滞時間の間にな」
アークの力は、“ゲーム世界をロワ世界に落としこむ”ことである。
クソゲー要素という迷彩故にあまり取り上げられなかったが、格ゲーを始めとするゲームの要素を巧妙にロワ世界に設定するのは十八番。
他ゲームネタを強引ながらも理屈で押し通したこともあるこの男に、押し通せないゲームネタはない。
“フリーズしたから瞬時に電源を切って再起動するくらい、回転使用禁止縛りの落ちものゲーでスコアをカンストさせるよりも容易いこと”だッ!
「だが――惜しかった」
アークは、構えを解かない。
土煙上がる向こうをじっと見据えている。
その姿は、KO勝ちを納めて次のステージを待つ男のソレとは違う。
まさに、今まさに熱戦の中にいる、次なる攻防に備えた男の姿だ。
「まさか、直撃を避けるとはな」
そう言われ、軽く舌打ちをしてから、ジャンラインが立ち上がる。
直撃を避けたにも関わらず口からは血が流れ、目からは涙が流れ出ていた。
「良い判断だ。きちんとガードされた後のことを考えた立ち回りだとは」
ジャンラインの口の血は、アークの拳圧によって内蔵にダメージを受けたから。
ジャンラインの目の涙は、アークの拳圧で痛い思いをしたから。
そして、それだけでなく――――目の涙は、拳が触れる寸前、意図的に流したものでもある。
「確反取られる技であるという自覚はあったか」
確反。
確実に反撃される、の略である。多分。
いや、地の文は格ゲーあんまり詳しくないから知らんけど。
「……ワンパと言ったことを謝ろう」
ジャンラインの奥の手は、“ジャンライン”というクソゲー縁の技。
色々捻じ曲がってる技なので、あまり使いたくなかったのだが、そうも言っていられなかった。
「ああ、クソ。女の子が泣いたり痛めつけられるのは好きなのに、鏡がないから見ることも出来ねえじゃねぇか」
その技とは、“カンで関係ない牌が出る”“鳴いたら牌が傾く”というもの。
この字面そのままなら、ジャンラインの力は何も意味を成さない。
故にここでは言葉を敢えて誤変換することで効果を発揮している。
“噛んで、関係ないパイが出る”“泣いたらパイが傾く”
牌をパイ扱いなど、非常に強引ではあるが、そういった強引さは咲ロワの特徴でもある。
ウィキ未収録分から“咲用語”に訂正されたが、基本的に咲ロワのサブタイトルは麻雀用語。
しかしながらそれだけで綺麗にタイトルが付くわけなく、強引なタイトルも多々存在する。
例えば『-ドウコウ-』というサブタイトル。
元ネタとして『同刻』という麻雀用語から取りつつも、『同行』という意味であると投下後に明言している。
更に言うと、『鳴き』から取った『-ナキ-』というサブタイトルも、どう見てもそのものの漢字でなく、『泣き』もしくは『亡き』という意味で使われていた。
故にジャンラインには、強引に字面を変換する力がある!
そうして牌をパイにしてバストを意味させるという麻雀を打つ中年男性の下ネタレベルのことをして、直撃を回避したのだ!
内頬を“噛んで”出現させた偽物の関係ない胸を直撃回避の緩衝材にし、“泣き”を繰り出すことで本来の胸を心臓ごと斜めに捻じ曲げ心臓への攻撃は回避する。
本来なら胸がねじ曲がった時点でやばいのだが、牌がねじ曲がろうが関係ない牌でカンしようが問題なく進行するジャンラインの技なのだ、その程度どうということはない。
……問題なく進行することが最大の問題ではあるんだけども。
まあとにかく、どうということがあるとすれば、それは緩衝材越しなのに、直撃する位置じゃなかった内臓部位に拳圧だけでダメージを受けたことだ。
不幸なことに、拳圧による間接攻撃もアークの十八番であった。
昨今の格ゲーキャラなら拳圧とかでの遠距離技くらいあるだろうとかいうだけの話ではない。
アークの書いた
オープニング。
その超弩級の一撃は、それ単体の破壊力も然ることながら、“周囲を巻き込み、そのノリと空間に引きずりこむ”という間接的な破壊力をも秘めていた。
アークの書いたオープニングだからこその話を書いた人らにより、超人的スピードで完結したことを思うと、アークの放つ一撃の間接的効果は決して無視はできない。
「……悪趣味だな」
「うっせ。咲-Saki-における戦犯顔可愛いだろうが」
余談になるが、咲-Saki-という作品が一部紳士に愛される要員に、戦犯顔がある。
振り込んだり、チームの足を引っ張ったりした時の、絶望顔が萌えるというアレな萌え要素。
咲ロワ用語辞典にある『お漏らし顔』はまさにジャンラインが姿を借りている佐々野いちごの代名詞となった顔であり、戦犯顔の一種である。
涙目可愛いと連呼されるキャラになったのに、咲キャラに容易く発情していたジャンラインが、最も魅力的な表情である泣き顔を使いこなせないわけがあるか?
なァァァ~~いッ!
「クソゲーにしたくなかったけど、しゃーないな」
ピタリと涙目を止め、次なる“なき”の準備をする。
ここまで追い込まれたのなら、クソゲーはしないなどと余裕ぶっこけない。
なにせ咲ロワは非リレー、自分が死ねばエター確定なのだ。
「亜空カンッ!!」
亜空カン――それは、ジャンラインにおけるバグの1つの名称である。
書き手ロワにおけるそれは、まさに亜空間を生み出す技ッ!
「ふむ……触れるとやばそうだな」
さしものアークとて、そういうヤバイ技に触れると絶命する。
体半分程ズラしてから体当りしても、当たり判定はなくなるまい。
「もいっこ――――亜空カン」
カンは、咲-Saki-の主人公宮永咲の得意技。
“咲-Saki-”という作品において、カンとは『狙えばいくらでも出来る技』となりつつある。
当然ながら、ジャンラインもカンを自由に使いこなせるッ!
というのも、宮永咲というキャラクターが、咲ロワでは珍しく目立っている。
アニロワでハブられ、非リレーでハブられ、ハブられなかった非リレーや俺ロワで1話で死んで……
個性がないだのモブに近いだの散々言われることが多い咲の扱いは、ロワ界では決してよくない。
そんな咲を、恐らく『大半の咲-Saki-が出ているロワの書き手』より書いているジャンラインに、咲と同じカンを操る能力が無いはずないのだッ!
「四角い宇宙が待ってるぜェ……!」
しかしながら、アークは斜め上にかっ飛んだ展開全てを捌き切り、新安価ロワを終わらせた猛者。
“紙一重”でセーフの道を突っ走るのも、“やばそうなもの”を捌くのにも手馴れている。
連続して発生する亜空カンに攻めきれずにはいるものの、未だ亜空カンに体を掠らせもしない。
「馬鹿めッ! お前は麻雀で言う『手牌の全てが他家の当たり牌』にハマったのだッ!」
しかしながら、アークの“捌く”技術では、亜空カンによる攻撃から完全には逃れられない。
アークは決して前の話から大きく話を転換し、修正を図るタイプのまとめ役ではなかった。
むしろ他の書き手のやりたいことに助力し、そのサポートこそ真骨頂。
故に、ジャンラインの策を覆す逃走経路を無意識に避けてしまったのだ。
「貴様にもう逃げ場などないッ!」
ジャンラインのカンに回数制限はない。
バグゲー故に、カンが5回以上平気で出来るのだ。
ジグザグに避けつつ距離を取らされた結果、背中には大木が。
そして視界には、まるで通路を作るかのように左右を亜空カンで囲まれた道がある。
「シャープシュートッ!」
シャープシュート。
狙った獲物に物理的にロンをする咲-Saki-スピンオフの阿知賀編で登場した技である。
阿知賀編のメンツは番外編含め咲ロワには出ていないのだが、『パロロワ書き手→SSやってる人→シャープシュートやってる人』という変換でそれを可能にしていた。
「非リレー書き手の計画に狂いなどないッ!!」
まるで今まで誕生した亜空カンが、ファイナル亜空カンを打ち出すための発射台のようで。
勢い良く、その通路を亜空カンが滑っていくッ!!
425 :クワマン:2013/04/08(月) 15:13:09 ID:VrgS21dw0
「……しっかり練った計画にも、不測の事態はあるもんだ」
放った亜空カンは縦長で、飛び越えることも出来ない。
大木をへし折っても、その時間をロスしている間に粉微塵にできるだろう。
如何にフレーム単位で機敏に動けるとしても、だ。
「この俺の出身ロワを、“クソゲーロワ”だと思い込んで油断したな」
だがしかし、アークは決して手詰まりではない。
彼には、これを逃れる策がある。
あくまでも、アークの出身は“新安価”ロワ。
新安価ロワでエースをやっているアークには、“安価の力”も備わっていた。
即ち――――
「派手なカオスに、さりげない伏線を混ぜる――――この手のロワの基本技術だ」
密かに飛ばしておいた安価。
“その安価先”であるジャンラインの体の前に、アークは“跳ぶ”ことが出来るのだ。
「あー、クソだわ。“やっぱり”そうくるのかよッ」
確かに、予定は崩れた。
ベストな道を叩き潰された。
しかしながら、それだけでジャンラインの心をへし折る事はできない。
ジャンラインは、投下予定を大幅修正したり、長さにより分割を増やしたことを明言している。
即ち彼は、予定が崩れ己にダメージを受けようとも、何とか最終的には完結というエンディングまで辿り着こうという精神を持っているのだ。
「貴様の作戦なんぞ、スデに見切っているぜェーーーーーッ!」
ジャンラインは、無事では済まぬことを覚悟した。
新安価という化け物級のロワで一線を張った相手に、無傷で勝つのを諦めた。
無様でも、ボロボロでも、最終的には“勝利”というエンディングに辿り着くことを選んだのだッ!
「伏線を張ったのは、俺の方だッ!」
だからこそ、スデに布石を放っている。
「何ィ!?」
アークの目が見開かれる。
ジャンラインの両の腕が、コークスクリュー回転をしていた。
「左腕を関節ごと右回転!」
無茶な展開を自然に読み手に受け入れさせる方法はいくつもある。
その内の1つ、“ステップを踏み、徐々に徐々に慣らしていく”という方法――ジャンラインは、それを使った。
例えばムダヅモ世界の政治家がいるという『割りと無茶な』オープニングで慣らしておいて、
「麻雀力を上げるためには殺し合いが一番なんだよ」という意味不明と紙一重の展開を「あーwwwでもまあムダヅモ世界だしなあwwww」と受け入れさせる。
いきなり超シリアス一辺倒な中でそれを投下したら「……んん?」となったであろう展開でも、段階を踏めば通りやすい。
そういう、一種の催眠術のようなテクニック。
「右腕をひじの関節ごと左回転!」
ジャンラインが本当にしたかったのは、このコークスクリュー回転。
咲ロワとは直接関係の無いスピンオフ作品阿知賀編でのボスキャラクター・宮永照の必殺技だ。
しかしながら、いきなりそんな咲ロワとは無縁な技を発動するのは難しい。
だからこその、シャープシュート。
変換能力があるからこそ、コークスクリューよりも発動しやすいシャープシュートだったのだ。
「中略ッ! 書き手ロワに赤い嵐が来る!」
宮永照と同様に咲ロワとは直接的関係のない弘世菫の技を使ってみせることで、自然に他の阿知賀編キャラの技を出す。
シャープシュートを防がれたらおしまいだが、一度シャープシュートを通してしまえば、もう防がれることはない。
少なくとも、シャープシュートはよくてコークスクリューがダメな理由を理論的に言わない限り、修正要求はできない。
「風越のモード――――」
そして、シャープシュートにはもう1つ意味がある。
多量に生み出された亜空間は、多くの空気を消滅させた。
するとそこに出来た真空空間に吸い込まれるよう空気の流れは移動する。
即ち――付け焼刃のコークスクリューでは足りない“風の流れ”を、補う効果があるのだッ!!
「――――闘牌技・神砂嵐ッ!!」
「神砂嵐をジョジョ関係ない咲ロワ書き手が使うのはおかしい」という意見は一理ある。
だがしかし、スピンオフの技能を使えるようになった今ッ!
咲ロワ番外編に登場した神砂嵐を繰り出せるのは当然ッ!
そう、白水哩が7翻の手を上がったら鶴田姫子が数え役満を上がるくらい当然のことなのだッ!
咲を知らない人は、「何かとにかくものすげー確実なこと」と思っていただければ。
「うおおおおおおおおッ」
一瞬、そして一点。
空気が一気に亜空カンに吸い込まれ違和感を感じてから、コークスクリューが繰り出されるまでのほんの一瞬。
アークはその1フレームで理解した。
いつの間にか盛り上がっている胸は、今までのカンで生じさせた“関係ないパイ”であり、緩衝材にする気であると。
重傷覚悟で、それでも死なずに勝利すべく、この行動を取ったのだと。
だからこそ――アークは、飛んだ。
持てる力を足に込めて。
普通なら、回避を狙って跳ぶだろう。
普通なら、殺られる前に殺るの精神で、相打ちの可能性を高めつつも相手を殴り殺せるよう、威力を高めるべく全力で跳ぶだろう。
だがしかし、アークはそれをしなかった。
アーク天性の読みが、飛行するときのアンパンマンやウルトラマンのようなポーズを取らせたのだ。
「アタァァァッ!!」
そんな姿勢では、まともなパンチは放てない。
だがしかし、攻撃を食らう面積を最小限に抑えられる。
勿論、パンチを放ったりはしない。
相手の差し出した手を掴み、レバーをガチャガチャするように滅茶苦茶に引っ張る。
格ゲーで攻撃を受けると仰け反って距離が開くように、アークはズタボロで吹っ飛んだ。
しかしながら、その生命は終わっていない。
そしてその血まみれの手の中には、レバガチャで痛めつけ、吹き飛ぶ衝撃でもぎ取ったジャンラインの指が握られていた。
「て……めえ……!」
「これでもう麻雀は出来ないな」
互いに全身傷だらけ。
格ゲーなら、互いにあと1コンボで死亡する場面。
「……けっ、どの道やらねーよ、麻雀なんてクソゲーは」
忌々しげに呟きながら、ジャンラインが血塗れの欠損箇所を押さえる。
どうやらさっさとケリをつけて応急処置を始めないと不味そうだ。
このままでは失血死しかねない。
何せ咲ロワはカオスな要素はあれども一般人ロワだ。
体が千切れりゃ普通に死ぬ。ていうか死なない方がアクロバティックな人体構造だからね、冷静に考えて。
「五体満足で終わってたら、とりあえず身を隠して適当に乳でも揉んで時間潰すさ」
「……随分、消極的なんだな」
「リレー書き手のお祭り的なイベントに参加してもしょうがないし、大体殺し合いなんていうクソゲーやる方がどうかしてる」
一理ある。
「しかもこのロワ、確かご褒美とかねーだろ。マジ。やる気になるとかどうかしてるぜ」
ジャンラインは考える。
亜空カンだけでは上手く命中せず、神砂嵐を使うには腕を負傷しすぎた。
ここからどうすれば勝てるのかを。
「それは、本心か?」
「……あ?」
「確かに殺し合いなんて何も生まないクソのような企画だ。
しかし、本当に、クソなものにやる気は出ないと思っているのか?」
当たり前だ、クソなものを嬉々としてやる馬鹿がどこにいる。
「ジャンラインはクソゲーだろ? では、麻雀自体はクソゲーか? 殺し合いは? パロロワは?」
しかし――そんな簡単な一言が、ジャンラインの喉を通らない。
「咲の麻雀は、クソか?」
「……クソゲーではある、な」
カンカンカン嶺上開花数え役満責任払いねニッコリとか、多分、現実でやられたら超クソゲーだ。
超能力めいたものも飛び交うし、麻雀漫画特有の非現実的クソさもある。
まっとうなファンにはお叱りを受けるだろうが、咲-Saki-という作品もまた、クソゲーだと言えるだろう。
「……新安価ロワはクソゲーロワだ。俺も認めよう、あれはクソゲーだ」
真正面から瞳を見据え、アークが語る。
「というよりも……クソゲーじゃないゲームなんてない。
特に格ゲーは酷いぞ。バランスが悪かったり、変な永久があったり、マナ悪がいたり、金がかかったり……」
アーク本人が言うように、彼の言うクソ要素は、格ゲー以外にも当てはまる。
それこそ、パロロワにも言えることだ。
というか、好きでもない作品に把握のために金を落としたり、クソっぷりは格ゲーの比じゃないだろう。
「だが、それでも、耐え難きほど、狂おしいほど、どうにかなってしまいそうなほど、常に心を傾けてしまう程――――」
それはとても、穏やかな表情で。
それはとても、純粋な眼差しで。
「俺はこのクソゲーってのが、どうしようもなく大好きなんだよ」
恥じることなく言い切る姿は、ジャンラインの歪んだ瞳に、不覚にもカッコよく映ってしまった。
「……はっ、バッカじゃねーの」
唾と一緒に血反吐を草むらへと吐き捨てて、ついでに言葉も吐き捨てる。
全くクレイジーだった。
「クソなのに、クソなのを分かっていて、クソなのを引っ括めて愛しているだと?」
「お前もそうなのだろう?」
俺は、違う。違うはずだ。
なのに何故か、その言葉が喉に引っかかる。
「でなければ――攻撃手段に、そいつを使ってよかったはずだ」
アークが指差した先。
戦闘の拍子にぶち撒けられたジャンラインのデイパックの中身が、そこらに散らばっている。
――そこらに散らばるほどたくさんの支給品は、麻雀セット。
咲ロワでも支給されているものである。
ジャンラインの足元にも、点棒や麻雀牌は転がっている。
「何故、二度目の時止めの時、DIOのナイフの代わりに、点棒を用いなかった?
目玉に当たれば十分凶器になったろうに」
「……クソゲーロワってお祭り系チートロワなんじゃねえの?
こんなチャチな飛び道具、効くわけねえと思ったのさ」
「俺が格ゲーのキャラ仕様であり、飛び道具ならどんなものでもダメージ判定があると、貴様の観察眼なら察することが出来たと思うがな」
確かに、ジャンライン自身、石礫だろうと何だろうと、格ゲーシステムを導入したアークに当てれば、ダメージが発生すると思っていた。
にも関わらず、ジャンラインは、その手段に大量に持った雀牌や点棒を使わなかった。
「麻雀を、汚せなかったか? クソゲーだと思っていても、殺し合いの道具には使えなかったか?
それとも、未だ麻雀では人が死んでいない自ロワを尊重したのか?」
咲ロワに、雀牌は出た。点棒は出た。サイコロは出た。
しかし、それを殺人の道具にはまだ使われていない。
むしろ、マーダーになろうと決意した少女が対主催に出会うキッカケになったとも言える、対主催よりの神聖な支給品だ。
「言えよ、ジャンライン。ツンだけしたまま、デレることもなくその生涯を終える気か?」
別に、感情を秘めたまま死ぬ展開は嫌いじゃない。
感情飛び交う一般人ロワにおいて、想いを告げれず逝く展開はいいスパイスだし、マーダーである和なんかも想いはずっと秘めている。
「……やっぱりクソだろ。ジャンラインは当然として、麻雀だって超クソだし、咲も結構クソい要素盛り込まれてるし、パロロワなんてクソオブクソだね」
咲ロワに出てる咲-Saki-キャラクターには、非常にコミュ障が多い。
……コミュ障というのは言い過ぎかもしれないが、少なくともコミュ強ではないのが多い。
捻くれてる者も多く、歪んだ複雑な感情がそこらに溢れいた。
ジャンラインもまた、歪んだ想いを歪んだ笑みに乗せている。
「マジで、冷静に考えて、無駄の極みにしてクソなんだよ。
時間の浪費、金の浪費。その時間に他のことやる方がよっぽど健全だね」
「それでも」
歪んだ笑みを浮かべるジャンラインに対し、アークが言った。
こちらは、純粋そのものの笑みで。
「貴様も、離れ難いのだろう?
ロワから、咲-Saki-から、麻雀から――客観的にクソだと言える、それらのものから」
ジャンラインが、視線から逃れるように俯いて。
「……クク」
小さく嗤って、顔を上げた。
「ったりめーだろ」
その表情は獰猛で。
「だってよォ……確かにすげークソだけどさァ……」
けれどもどこか晴れやかな、心から浮かべた笑みで。
「最ッッッッ高にッ!! 楽しいよねェェェェェ!」
全てを、認めて。
心からクソだと思うこともあるし、楽しいことばかりじゃないけれど。
それでも離れることが出来なくて。
どうしようもなく、愛おしくて。
「同意するぞ、強き敵(トモ)よッ!」
その愛しいものが詰まった力を、ここで全開放する。
後先なんて考えない。
ただ愛だけで、相手の愛を打ち倒すために。
「一緒に楽しもうよ、ってなァ!」
ジャンラインが、亜空カンから槍を取り出す。
咲-Saki-のアニメにおいて、イメージ映像として使われていた武器。
それを、見た目が使用者じゃないからと使わずにいたそれを、解禁する。
そして、咲ロワ番外編で見せた磁力を操る能力を発動させる。
磁力の力を用い、勢い良く突っ込んでいって当たり負けを防ぐために。
「当然だ、格ゲーは対戦してなんぼだからな」
アークもまた、両の拳を構える。
クソゲーと言われ、新安価ロワにも出ていた、AC北斗の拳のコンボ。
逃げること無く真っ向からぶち当てて、勝利すべく。
王道ストレートも行けることを知らしめるべく。
「喰らいやがれ、躊躇を捨てた俺の愛を!」
「見るがいい、お前の全パワーを引き出し、それでもなお自身のある俺の愛を!」
両雄が、跳ぶ。
「咲-Saki-は!」
「ゲームは!」
決着まで、あと数瞬。
「麻雀はァ!」
「格ゲーはッ!」
数瞬なのにべらべらと喋れるのは、パロロワの――というか古今東西創作物のお約束だ。
むしろこの無駄なセリフに想いを強く込めるほど、激突時のエネルギー量は増すというもの。
「殺し合いは……」
「命削る熱き決闘は――」
愛と愛の、ぶつかり愛。
「「自ロワは、そしてパロロワはァァァァァァ!」」
愛がぶつかり、そして爆発を起こす。ラブラブビックバン。
「「史上最高のクソゲーだぜェェェェェェェェェェェェ!!」」
☆ ★ ☆ ★ ☆
「……殺し合いは、バトル・ロワイアルは、クソゲーだ――か」
亡骸を見下しながら、生き延びた者が静かに呟く。
「確かに、どうしようもないクソゲーだよ」
激突時に槍がへし折れたのもあり、もうこの場にまともに武器になるものはない。
格ゲーシステムで動いてる者以外に、牌を投げても意味なんて薄いだろうし。
とにかく、人を殺したというのに、得られた道具はないというわけだ。
「人を殺しても、手を汚しても、成果はこれだ」
まともに支給品も増えず、溜息を吐く。
ボサボサの頭を掻いて、男は静かに呟いた。
「それに、こんだけ盛り上がって決闘していても――――」
男は、冷めた目で、二人の死体を交互に見ていた。
「――――こうやって、横槍で、あっさり終わっちゃうんだから」
男の名は、作者1。
出身は、ネギまバトルロワイヤル。
『ロワイアル』でなく『ロワイヤル』なのは、最初のスレ立て人が誤字ったものを伝統にしたからである。
「ほんと、ロワってクソゲーだよ」
作者1は、その伝統の始まりから、ずっとネギまロワにいる。
伝説となる0部の投下を見守って、そのまま一発ネタのスレとして終わるはずだったスレに命を吹き込んだ。
更に、マーダーである長谷川千雨が優勝したあと心を病んで疾走するエンドなど、“ルート分岐”という概念を、ネギまロワのスタンダードに押し上げた。
分岐後ルートがエタった部があるにも関わらず、綺麗に分岐するその展開は、住人たちからネギまロワの偉大なるパイオニアとして親しまれることとなる。
「……そんなクソの塊を、丸っと全部愛しちゃったから死ぬんだよ」
しかし――彼は、ネギまロワというスレは確かに愛していたけども。
自分の書いた話の本筋に当たる部分、一部キャラクター、そして自分を称賛する住人達は愛していたけれども。
ロワの全てを、愛するには至らなかった。至ることが出来なかった。
彼は、どうしても、全ての者を愛せなかった。
だけど、愛した場所に、愛した展開を落とし、愛する者に愛されたかった。
「要領よく、こっちだってクソでいるくらいがいいんだ」
だから彼は、禁忌を犯した。
他所のロワの作品を、盗作してしまったのである。
しかし、長い間その事実に気付かれることはなかった。
多少チグハグになってしまっても、非リレー故に、本筋さえしっかりしていれば目立たない。
パイオニアだったこともあり、投下を続けた彼は、いつしか神の座を手に入れた。
「そうすれば、正直者で馬鹿を見ずに、クソな世界で楽しめる」
その後も、盗作がバレるまで、彼の地位は揺るがなかった。
全てを盗作するのでなく、使わないキャラを間引くのだけに盗作を用いたのがよかったのか。
そして、盗作かもと思わせぬくらい、本筋における発想力が優れていたからか。
彼は、神であり続けた。
「ほーんと、真面目にやるには、ロワも人生もクソすぎる」
神の座を追われた時、盗作された人々を見ても、彼の良心は痛まなかった。
冷静に申告に来るその姿は、良心を責め立てるより、焦る気持ちを煽るだけだった。
だが、しかし。
ネギまロワの住人を見て、僅かばかりの後悔が生まれた。
犯罪者が被害者を見ても特に反省しなかったのに、泣き崩れる親を見て親を悲しませたことを悔いるように。
自分の作品の撤去を惜しむ声や、「○○は面白かったのに」という意見を見ると、胸が締め付けられた。
盗作なんかしなくても、彼は、神の座に着けていたのだ。
彼は悔いた。
もう少し時間を掛けて、劣化してでも全て地力で作っていればと。
そうすれば、完全無欠の神の座が得られたのにと。
「一度の判断ミスで、こうして全て終わっちゃうんだ」
その瞳は、どこか淋しげだった。
過去にその瞳をしたのは、ネギまロワのラジオなどで、自分の話題になった時だけ。
ネギまロワを去り、フラッと年単位ぶりに覗いてみたらやっていた支援ラジオ。
自分の部は黒歴史扱いであり、当然のように単品語りなんてされない。
もう読もうと思ったら、過去ログを引っ張り出してこなくちゃいけない。
にも関わらず、話題に出たのだ。
オリジナル展開を、褒められたことがある。
パイオニアとしての存在を、褒められたことがある。
しかしもう、どれだけ面白かったかを語られても、どれだけ凄い人だったかを語られても、それらの言葉は意味を成さない。
それらは全て『盗作作者』という過ちの前に掻き消されてしまう。
愛せなかった部分が、犯した罪が、愛した者を根こそぎ奪い去ってしまった。
「……俺も、対主催なんて出来ない体だしな」
そう言って、2つの死体を前に考える。
作者1には、対主催を早々に諦めた理由がある。
まず1つ、その悪名が割りと広域に広がってたこと。
そしてもう1つ、自分の力があまりにマーダー向きであることだ。
「……コテハンロワじゃ、許してもらったみたいだけどよ」
ネギロワ・コテハン・ロワイヤル。
ネギまロワ内で行われた書き手ロワであり、ネギまロワの現行最新投下長編。
作者1は、そこに出ていた。
“なかったこと”にはされていなかった。
そこで自分のあやまちを責められて。
でも、ディスるためだけの作品と立ち回りでは決してなくて。
決してヒーローではなかったが、コテロワの自分は、確かに“書き手”ではあった。
「でも、盗られた側もいるかもしれないここじゃ、永遠に許されねえ」
そんなコテロワの作者1と、この作者1は同じ外見だ。
メモリにすら、萌えキャラクターの見た目を与えるには不適合とみなされたのか。
とにかく彼は、作者1と同じビジュアルをしている。
「……だったら道を、誤り続けてやるさ」
そしてその能力も、非常に近いものであった。
とはいえ、完全同じものではない。
ネギまロワの初期住人以外には、彼の個性は『盗作』という過ちで埋め尽くされてしまっている。
故に、完全同一能力でないとしても、この手の能力になるのは必然。
「そうすりゃ、転落するまで神の座に着いていられる」
彼の能力は、“盗む”こと。
任意に、好きなだけ、あらゆるものを盗み出せる。
しかしながら、“盗む”といっても、世間一般の“窃盗”とは性質が違う。
能力ベースが“盗作”だけあって、『盗まれても、盗まれたものは消滅しない』のだ。
例えば彼が金庫に入った1億円を盗ったとしよう。
彼の手には、彼が“盗む”と決めた1億円が入る。
しかし、金庫の中の1億円は、已然そこにあり続けるのだ。
“コピーする”能力と言ったほうが、分かりやすいかもしれない。
それでもここは、自戒の意味と、そして自分の存在を忘れずにいてくれたコテハンロワに敬意を表し、“盗む力”と言おうと思う。
「……とりあえず、なりすますなら、女だな」
作者1は、コテハンロワで性転換も経験している。
ネギまロワは性転換だろうと何でもウェルカム、担任ネギの女体化キャラが参加していた部もあるのだ。
性別を変えることに、特別抵抗感はない。
「……穴ぼこまでコピーしたりしないだろうな」
支給品のイングラムを脇に置く。
これが二人を殺傷した武器だ。
超人ロワの連中には微塵も効果がないだろうが、一般人ロワにおいては、持つだけでエースマーダー級になれるアイテムである。
特に“鬱屈した感情を持つ者”と組み合わさると無類の力を発揮するのだ。
ネギまロワでも、初期の長谷川千雨などが、これを持つことで超人相手にエースマーダーをよくやっていた。
書き手ロワでは、そのイングラムのエースマーダー効果が生かされないかもしれない。
逸般人には銃弾なんぞ効果がないかもしれない。
しかし今回は、幸いなことに獲物がよかった。
一般人ロワの書き手と、イングラムが猛威を振るった原作ロワのキャラ要素を持つ書き手。
殺せない理由がない。
「うおっ……文字出るのかよ」
試験運用をしてなかったため、能力を使った際『盗』の文字が光り輝いたことに目を見開く。
『あらゆるモノを盗める』ということだけは、このロワの開始時に分かっていた。
そして、コテロワの自分と違い、相手のスキルをパクっても、相手はスキルを使い続けられるということも瞬時に理解することができた。
だからこそ、コテロワの自分の能力とは別物だと思っていたのに。
「制限か、それとも――――」
文字が浮かび上がっている点は、コテロワでの自分と同じ。
ただ違う点は、通常時は消えているのに、力を使うと光輝き出すということか。
しかも位置は手の甲。
掌で対象に触れる必要があるのに、これはなかなかに致命的。
こっそり盗むということは出来ないだろう。
「――こうでもしないと、俺は、消えてしまうからか」
まとめウィキからも消された俺が、まだそれなりに話題に出して貰える理由。
コテロワに出ていたから、というのも、無関係では無いだろう。
ならば、そのコテロワの要素を色濃く受け継いでるのもやむなしか。
「なかなかに厄介なことをしてくれる」
盗み取ったジャンラインの――佐々野いちごの顔で吐き捨てる。
大人しそうなお漏らし顔にはあまりに不釣り合いな言葉だった。
とりあえず、触った感じ銃痕などはないようだ。
油断させるにはもってこいの顔だろう。
「とりあえず、能力も盗まないとな」
盗む数に、制限はない。
だがしかし――無制限に盗むことが、出来ない事情が存在した。
それは、能力のデメリット。
“盗作”がモチーフのこの能力は、相手から能力を盗み出す事ができる。
しかしそれを自由に使っていられるのは、『盗作がバレるまで』だ。
盗まれた被害者が、或いは盗んだものだと気付いた第三者が、
「あの○○は、××から盗んだものだ」というニュアンスのことを誰か別の者に伝えたら。
盗んだことがバレたことを、作者1が知った時。
作者1の盗んだモノは全て消え去る。
そして、おそらくは――――作者1も、消滅するしかなくなるのだろう。
盗作とは、そういうものだ。
「こいつらは恐らくまだ互いとしか会ってないだろうが……」
矢鱈滅多に盗んでいては、盗作に気付かれるリスクが上がる。
しかも多く持っていても、持ち腐れることが多いだろう。
「お前がソレとか不自然じゃないか?」程度の指摘は全く問題ないとは言え、疑念も極力与えたくない。
ルックスから所属ロワの同士と思われたら面倒だし、顔を奪うのは節度を守る必要がある。
「能力も然りだが……盗む力以外は、封印されているしな」
所詮貴様は盗作がなけりゃ何も出来ないクソ野郎だ。
世界からそう言われているようで。
それに腹を立てながらも、どうすることもできなくて。
自棄っぱち気味に吐き捨てて、亡骸へと手を伸ばす。
「いいさ。どうせもう、失うものはないんだから」
極力バレずに、長く神の座にいたい。
だがしかし――死にゆくことは、もう恐れない。
恐れるのは、何も成せず、ただの一度も崇められず、無かったことにされること。
居なくても問題なかったかのように、消滅させられること。
「もらうぜ、あんたらのスキル」
とはいえ、技の本質が盗作であるだけあって、見たことがあるモノしか盗めない。
バトルの音でやってきた作者1に、盗めるモノは限られていた。
とりあえず、最後に二人が放っていた亜空カンと北斗の拳コンボを盗む。
本当なら、“見ていた”技の『槍の創造』と『磁力の操作』、そして『安価飛ばし』もコピー出来た。
しかし磁力操作はエフェクトが無いが故にその存在を見落として、槍の創造は亜空カンに支給品を隠したものだと判断を間違えた。
安価飛ばしも、見た目が派手で強力そうな亜空カンをしっかり見て亡骸から盗れるようにするのに夢中で、使う瞬間を見逃している。
「支給品の槍は……やめとくか。荷物になるし、この体じゃ上手く扱える気がしない」
それに――支給品のコピーはデメリットが大きい。
支給品被りが起きていた場合や、原作で使用していたキャラの見た目をした奴がいる場合、盗んだ対象でもない者から盗んだ扱いされるかもしれない。
そうなった場合どうなるのか、作者1には判断がつかない。
しかし、実際に他の者から他の部分を盗んだという探られると痛い部分があるのは事実。
濡れ衣でも被せられたら、なし崩し的にバレそうだ。
やはりこれも無闇矢鱈に盗み出せない。
盗むとしたら、やはり能力が一番ローリスクだ。
すぐさま「コピー能力者か!」という発想に行く者はそう多くはあるまい。
盗作がバレた後の言い訳には自信がないが、疑いの目が向けられる前に騙し通すのは得意である。
「さ……行くか」
彼は決して、この殺し合いを楽しまない。
バトロワというクソゲーには入れ込まない。
強く想うほど、失った時が辛いから。
強く想っても、クソゲーの前じゃ想いの強さは意味が無いと、今自分が証明したから。
「ああ……一応、やっておくか」
それは、単なる顕示欲。
泥棒という点では致命的な、だけど盗作してまで神の座を求めた者としては当然の、自己アピール欲求。
「……亜空カン」
亜空カンが、大地を削る。
削った部分で絵が描かれる。
その過程で、隠し通したいジャンラインの顔面や、アークの美しい肉体美も、部分部分が消滅していく。
「……絵師として、やっていく方が向いてたかもな」
完成した“削りとって作った”絵を眺め、言う。
「……もしくは、AA職人、なんてな」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
/ /| / 丶 ヽ、ヾ 、 \ ヽ、 ヽ | .| ヽ
.| /i| .i 丶 ヽ'、ヽヽ、 ヽ 、 ヽ、 .ヽ | i ト、 ヽ
| ./.i| .l ヽ い ヽ,ヽ、 \\. ヽ ',.| i ト、 ヽ
| .| |.| l ヽ ヽ \ヽ. ヽ、 ヽ, \、 ヽ、'| .i .|丶. ヽ
| | .|.| .ト─--- ..,,_ヽ, ヽ ヾ; _,,.>ヤ,''''''''ヽ‐--.| i .「ヾ. ヽ
|. | .|.ト. |ヽ __,,,,,,,;;-\ヽヽ "_>‐;;____\ \|. .i | .|ヽ \
|.| |.ト, .| .ト. ヾ ゜ii|||iヽ ヽ'.、 -''~~ii;ii||||l~ゞ ト i .|ノ ヽ .\ この殺人は
.|| .| iヽ | .iヽ ~~~ \ ~~~~ | i ト ヽ
.| .| i ヽ |. i .ヽ / | .i .|ヽ ヽ 彗 星
|. i. ヽ|,.i. ヽ. / /| .i .| \ ヽ
| i ヾ|.i ヽ. ヽ / .| i .ヒヽ、\ \ の提供でお送りしませんでした
| .i '|、 i\. '‐-i‐-‐ ,''' / | .i | );;;;\\. \
| i ト i、 丶、 '="┐ / .| i |/;;;;;;;;;;;;;;ト、_
| .l i. i、 >' _ノ ,/ ,| .i .|;;;;;;;;;;;;;;;;;|;;;;;;;;;::
| ∥ i i/ ,,<.‐‐x'"|\ ./| i |::::::;;;;;;;;;;;;|;;;;;::::::
| .i.i .i / / >/;;;;;;;|. \__/ | .i .|:::::::::::::;;;;;|:::::::::::
.| .i i i / ____∧ /;;;;//⌒7 /;;;;\ | i .|::::::::::::::::::;|:::::::::::
| .i i / ̄ ̄ ~~ヾ、::/ ./レヘ;;;;;;;;;;ハ/|.i .|:::::::::::::::::::|::::::::::::
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「……」
自虐を含んだ冗談の後、しばしの沈黙が挟まる。
そして再び何かを口にしようとし、結局何も言わないまま、半開きの口を閉じる。
言おうとしたのは、未だにネギまロワに縋る愚かさへの自虐か。
はたまた自分を追い出したネギまロワに罪を被せてやるという憎悪の明言か。
「……行くか」
この感情が何なのか、作者1には分からない。
分かるつもりも更々ない。
未練がましく引きずっているのか、未だに憎悪を抱いているのか。
いずれにせよ、それが彼がクソだと断じた自ロワを、深く愛していたが故のこと。
それを自覚しているからこそ、その感情は見ないふりをする。
「いろんな奴に会われる前に、盗めるだけ盗んでおかないといけないしな」
もう、追い出された自分には、関係のないことだから。
「俺はもう――奪う側に回り続けるしかないんだ」
【雀龍門 -ジャンライン-(◆wKs3a28q6Q) 死亡】
【oub×アーク(◆oub/vvrBRg) 死亡】
【1日目・深夜/C-02】
【作者1(◆0Z3l12M4xM)@ネギま・バトルロワイヤル】
【状態】ジャンラインから盗んだ佐々野いちご@咲-Saki-の顔
【装備】イングラムサブマシンガン@ネギまロワイヤル
【持物】基本支給品、何故か底を尽きないイングラムのマガジン@ネギまロワ
【思考】
基本:奪う側に回り続ける
1:決してこのクソゲーを楽しみはしない
※ジャンラインの技『亜空カン』及びアークの技『北斗の拳に出てくるコンボ何か1つ(詳細は後続の書き手さんにお任せします)』を盗みました
※作者1が書き手ロワ内で盗みを働いたことを誰かが別の誰かに告げた瞬間、作者1の能力は全て失われます。
作者1の存在ごと抹消する可能性を作者1は考えていますが、実際消滅するのかは後続の書き手さんにお任せします。
※亜空カンに体の一部を持っていかれたジャンラインの死体(見た目:佐々野いちご@咲-Saki-)とアーク(見た目:北斗の拳と杉村弘樹を足したような半端なグラ)の死体が放置されています
※アークの支給品『格ゲーレバー@現実』がアークのズボンの中に残されています。
※ジャンラインの支給品『ワハハカー@咲-Saki-』『鷲巣麻雀牌@咲ロワイアル』が大破した状態で放置されています。
※アークの他の支給品がどこかに放置されています。
※ジャンラインの基本支給品は愛の激突の衝撃で消し飛びました。
最終更新:2013年04月23日 00:31