ひとしきり町を探し終えた後、二人は城でぼんやりとしていた。
「みんなを探しに行くッスよ…」
やがて沈黙を破るようにワドルディが言う。
「何処へ?」
ワドルディの言葉にポピーは即座にこう返した。
「何処へ行くって言うの!?何処へ消えたか分かんないのに!?」
ポピーは叫んだ。
「でも…でも!何もしないよりマシじゃないッスか!」
「ワドルディ…世の中、可能な事と不可能な事が存在するの!」
「それでもオイラはもう大事なものを失くしたくないッス!」
ワドルディは意外と頑固だ。
ポピーはよく分かっていた、でも…。
彼もみんなを探したくないわけじゃない、ただ…
恐いのだ
ただそれだけ、でも…。
「僕は…」
「ポピーが嫌ならオイラだけでも行くッスよ…!」
ワドルディが言ったその時。
「みんなぁーーー!!!いねぇのかぁーーーーーー!?」
外から鈴のような声が聞こえた。
声に似合わず言い方が粗暴だが…。
「…!?ポピー…あの声って…」
「うん…多分…」
二人は同時に城から飛び出した。
月が恐ろしいほど綺麗だ。
「おーい!誰かいねぇのかぁ!?」
彼は町の入り口近くで叫んでいた。
二人は彼を呼んだ。
「チリー!!!」
彼…心を持った雪ダルマのチリー…はリンッと首につけた鈴を鳴らして、涙目で振り返る。
「ワドルディ…!ポピー…!」
「どーしたんスか?町まで降りてくるなんて珍しいッスね」
チリーは普段、人気の無い雪山に住んでいる。
そして、滅多に町に降りてこない。
「何かあったの?」
「うん…。あのなぁ…」
彼は涙を拭いて言った。
「あのなぁ、いつものように山で遊んでたらボンカースが来て、んじゃあドラコも、ってなって3人でピクニックに行ってな、すげぇんだぞ、虫がうようよの葉っぱわじゃわじゃでなぁ、そいでなぁ途中で小便タイムになってなぁ。でも、おれ小便しねぇからなぁって外で待ってたら、いつまで経っても出てこねえからなぁ、太陽ギラギラで眩しかったんだぞぉ。でなぁ、仕方ねぇから覗いたらな、誰も居ねぇんだよ。で、『大変だ~』って山に帰ったらなぁ、山にも誰もいねぇんだよ。だから…」
「ちょっと待つッス!チリー、もう少し落ち着いて話すッス」
マシンガンのように早口でたてしまくるチリーをワドルディが止めた。
「話を整理するの。つまり、チリーがいつものように山で遊んでいたらボンカースが来たの」
ボンカースはあての無い旅をしているハンマー使いで、半年前にワドルディ達と共に旅をした。
見た目から誤解されがちだが意外と優しく頼りになる。
チリーは彼にとてもよくなついている。
「それで、ドラコも一緒にピクニックに行ったんスね?」
ドラコはアイスドラゴンの子供でチリーは彼を兄のように慕っている。
「で、虫がいっぱいいて、緑が生い茂っていたの」
「そして、途中でトイレ休憩にしたんスね?」
「うん」
チリーは頷いた。
「でも、チリーは雪ダルマだからトイレに行く必要はなかったの。だから、外で待ってた…今日はお天気で太陽も眩しかったのにね」
「けど、いつまで経っても誰も出てこなかったッスね?だからチリーは覗いてみた…」
「だけど、誰もいなかったの…。で、チリーは山へ帰った。そしたら…」
「ミスターフロスティやマスターペンギンまでもいなかった、と」
フロスティもマスターペンギンもチリーの父親的存在。
チリーの口の悪さはマスターとボンカースより伝染したものだ。
「うん、そういうことだぞ」
「ポピー…」
「ワドルディ…」
二人はお互い見合って頷いた。
「チリー、行くの!」
ポピーが言った。
「何処にだぁ?」
「みんなを探しに…ッスよ!」
こうして、彼らは夜明けと共に旅立った。
その後にどんな『脅威』が待っているとも知らずに…。
最終更新:2010年02月19日 15:06