俺と姐さんと時々ダンナ

全てを飲み込みそうな爆発。

全てを白く変える閃光。


俺は此の時死ぬ筈だった。

死ぬ筈…だったんだ…。





<俺と姐さんと時々ダンナ>





『痛覚』

確かそんな名前だったこの『感覚』

俺達には基本的に無用の長物である『感覚』

この『感覚』が唯一発生する場合と言えば、俺達を構成している『核』に亀裂等の異常が生じた時くらいなもので、『核』に異常が生じることは即ち『消滅』に直結するわけだし、この『感覚』が俺達にとって『死』を意味することくらい、旧型の俺にだって理解できた。

痛覚、痛覚、痛覚。

全身が痛覚に支配されている…。これはおそらく『核』にヒビでも入ったのだろう。
下手をすれば何処か欠けたかもしれない、が、どの道マスターも星も消滅したし、俺には関係の無い話。

痛覚…、痛覚…、痛覚…。

ほら、だんだんと『感覚』が薄れてきた。

ざらざらと体の崩れ始める音もする。

『消滅』が始まったのだと俺は理解した。

まぁいいさ。

マスターを守れずして、マスターが消滅したのだし、マスター亡き世界で俺は生きる術など知らない。

ざらざらざらざらざらざらざらざら…。

全てが白く、黒くなる…。

…こうして直に全てが終わ…………


「死なないで!!!」


…らない。誰だ?

俺の感覚は一気に研ぎ澄まされた状態まで戻り、全身は再び痛覚に支配された。

『………ッ!!!』

「あ…よ…良かった…気が付いて…」

『………?』

目を開けると、一人の女が俺のことを見下ろしていた。

「覚えてる?君…私の家の前に落ちてたのよ?旦那は『危険だから近づくんじゃねぇー』とかって怖ーい顔しちゃってたけどさ。君…怪我してたし、なんか放っとけなくて…大丈夫?」

『………』


話が…見えん。

何か?

つまり俺はこの女に拉致されたのか?

と、言うか

よく見たらこの女『星の戦士』一行に混じってた女じゃないか。

敵に捕獲されたのか、俺。

だが俺は大した情報も持っとらんぞ。

何せ旧型だからな。

不定形でしかない、闇の塊なんだ。

そんな俺が大した情報なんぞ持っとるわけがなかろう。

第一、知っていたとしても敵には教えんがな。

さぁ、答えろ女。

貴様の真意はなんだ?


ゆっくりと状況を整理し
『俺をどうする気だ』
と俺は女に聞いた。

「あ、そういえば考えてなかった」

女は実にあっけらかんと、そう答えた。



ふざけるな。



考えていない筈がなかろうが。

俺は敵だろう。

マスターの情報とか、その他もろもろを吐き出させるために拉致ったんじゃないのか?

そうではない…とするならば何か?

俺を洗脳しようとでもいうのか?

あぁ、確かにそうさ。

俺は旧型だが戦闘能力に至ってはお墨付きだ。

だがいくら俺を洗脳したところで俺はマスターの『呪縛』を受けている。

未来永劫、俺はマスターを攻撃することは敵わんのだ。


「そんな怖い顔でこっち見ないでよ」
女は頬を膨らませた。…何の兆候だ?
「だって私、君を助けるのに必死だったんだからぁ。グーイとかに応急処置方法聞いたりしちゃってさ。まぁ、なんだかんだで旦那やカーくんも手伝ってくれたから良かったけどぉ…」

…グーイ?
…あぁ、あの『裏切り者』か…。

「…それともなぁに?君…私のこと信じてないわけ?」

『…敵、だろう?』

「つまんない意地張らないでよぉ!いい?そもそもねぇ、君達がリップルスターを襲うような悪いことしちゃうから私達は『お仕置き』に行ったわけ、分かる?それに…ファイナルスターが爆発しちゃったのは不可抗力だし…………でも、ゴメン」

女は俺に頭を下げた。

『…何を…している?』

「何って…謝ってるのよ…」

『…あや…?』

「だって…ほら…君の星を爆発させるとか…ちょっとやりすぎたかな…って。カーくんもなんかこの冒険終わってからヘコんでるみたいだし…やっぱ争いなんて無いほうがいいよね。…改めて思った」

『………』

なんだ、この女。

理解不能。

解析不能。

なんなんだ、この女はッッッ!!!





「………」
てくてくとアドは歩く。
特に目的も無くぶらぶらと小道を行く。
「あ、アドー」
不意に、カービィに声を掛けられた。
「あ…カーくん…」
「どしたの?元気ないけど…。あ、ひょっとしてあのダークマター…助からなかった…とか?」
「ううん、そうじゃないよ」
「あ、そっか。…よかったぁ」
カービィはニッと笑う。
「…どうして笑えるの?」
「へ?」
「だって…あの子、敵だったんだよ?」
「アドになら分かるでしょ?」
「…え?」
カービィはアドの額に手を当てた。
「熱はない…みたいだけど大丈夫?アドらしくないよ?『怪我してる子放っておけるわけないじゃない!』って泣きながらデデデ説得したのアドじゃん」
カービィはまた笑う。
「…そう…だけど…」
アドは目を伏せた。
「僕も…そうしたら良かったのかな?」
不意にカービィはこんなことを言う。
「…え?」
「ううん、今更後悔しても仕方ないんだけどさ…」
カービィは哀しげに笑った。
「…ゼロ…泣いてたんだ」
「…え?」
「最後の一撃を入れて…ゼロは落ちていった…。その時ね、ゼロ…泣いてたんだ『もう元には戻れない』って…赤い…血の色の涙を流しながら…そう言ったんだ…」
カービィは泣いていた。笑いながら、泣いていた。
「なんで僕…あの時手を伸ばしてあげられなかったんだろ…?」
「…嘘…」
「嘘じゃないよ、アド。ホントにあの時…ゼロ…泣いてたんだ」
「嘘よ!」
アドはそう叫んで小道を駆け出した。
「あ…アド…?」


「嘘…嘘…ッ…!」
アドは川のほとりで膝を抱え、ガタガタを震えながらそんなことを言っていた。
「何やってんだ、こんなとこで」
「………ッ!?」
彼女が振り返ると、そこにはデデデ大王がいた。
「…だ…ダンナ…」
「…別に無理しなくていいぞ」
彼はそう言ってアドの隣にちょこんと座る。
「無理…って?」
「だってお前アドじゃねぇだろ?」
大王は頭をポリポリと掻く。
「………ッ!?な…何故…ッ」
「悪ぃな。昔っから勘はいいんだ」
彼はふわぁっと欠伸をした。
「…こーゆーことになるかもと思ったからアドを止めたんだがなぁ…。お前…何でまたアドに取り憑いてんだ?」
「………貴様には関係なかろう」
「…本性現したな。お前さ、あんなけ大怪我してたんだからあんまり無茶すんじゃねーぞ?お前になんかあったらアドの奴泣きそうだしな…」
「それだ」
「は?」
「何故この女は俺を心配する!?その真意はなんだ!?」
「…真意なんかねーよ。『助けてぇから助けた』ってだけじゃねーか」
「だからそれは何故だ!?」
「それが全部だよ」
「な…んだと…?」
「…お前には分かんねぇーかもしんねぇがよぉ…。そーゆーもんなんだよ」
大王はひょいっと立ち上がった。
「…答えが見つかったら満足か?」
「分からぬ…。皆目分からぬ!敵だろう!?俺と貴様らは敵であろう!?」
「…敵対してたのは事実だ。だが、その事実が今更何の意味を持つ?」
「………ッ!?」
厳しい表情ダークマターに対し、大王はグーッと能天気に伸びなんかをする。
「敵だの味方だのにこだわってたって…ロクなことねぇぞ?ゼロだって…大事なことは見つけたみてぇだってのによ…」
「マスターが…だと…ッ!?」
「…お前にゃ…分かんねぇか?」
大王はニヤリと笑う。
「………」
「ま、分かるわけねーか…」
大王はそう言うと手をヒラヒラとさせながら土手を登って行った。
「………」

「…ん…?」
アドは目を覚ました。
「…あれ…?私…何やってたんだろ…?」
全く記憶がない。見るとベッドで眠っているし…寝てたのかな?と彼女は考えながら上体を起こす。
目の前には例のダークマターが佇んでいた。
「あ…もう…動けるの?」
『…何故だ…』
「…へ?」
『何故…何故貴様は俺を助けた!?その真意はなんだ!?』
「………」
激しく言葉をぶつけられ、アドは一瞬面食らった顔をしたが直ぐに笑顔になって
「真意なんてないよ」
と言った。
「私は…君を助けたかっただけだもん。…それじゃあ駄目かな?」
『…理解出来ぬッ』
「んもぉ!頭固いなぁ!だいたい、君達との戦いはもう終わったじゃない!光だの闇だの関係ないじゃない!昼も夜も同じじゃない!なくならないし、どっちかがなくなっても駄目だし…その…もぉッ…何言ってんのよ私…と…とにかくもう敵とか味方とかそんなの関係ないでしょ!?君が怪我してたから…放っておけなかったのよ…」
アドはフイッとそっぽを向く。
『…戦いは…終わった…?ならば俺はどうすれば良いと言う!俺は…俺には戦うしか術が無い…。守るべきマスターももう居ない!俺は消えるべきだったんだ…』
「そんな哀しいこと言わないでよ!…消えるべき存在なんて存在しないよぉ…」
アドは泣いていた。
「カーくんだって泣いてたよ…『なんでゼロと友達になろうとしなかったんだろう』って…一生懸命やれば…そもそもあんな戦いしなくてよかったかもしれないじゃない!…そしたら君だって…戦うしか出来ないなんて哀しいことにはならなかったかもしれないじゃない…」
『………』
「…守る人が居ないと生きていけなくて…その守る人がいなくなっちゃったんだったら…また違う守るべき人を見つければいいじゃない!見つけるために…その人を見つけるために今を生きればいいじゃないのよ!」
ズーッとアドは鼻水をすすった。
「…うぐぅ…ティッシュ何処だっけ…」
『………』
ダークマターはその巨大なオレンジ色の瞳でアドを見つめる。



…理解不能。
…解析不能。

…だがしかし、この女は弱いのに生きている。

…俺は『強きが生きて弱きが死する』…そう教えられてきたというのに。

…守るべきもの、か。

思えばマスターは俺なんぞよりも遥かに強かったな…。

弱者が強者を守ろうなどとは…そもそもおこがましかったかもしれぬ…。

…珍しいな、俺が思考なんぞするなんて。

元々戦闘用だというのに…思考など…さび付いているかと思っていた。

…守るべきもの…か。

あの星の戦士は、この下らない宇宙を守ろうとしていた。

マスターは…何も守るものがなかった。

…だからマスターは敗れたのだろうか…?

…守るべきものがある者の方が強い…というのか?

…皆目分からぬ…。…何かを守れば…この答えは見つかるのだろうか…?

ピシッと音がした。

核の一部に…亀裂が入る音。

だが不思議と痛覚は無い。

…感覚が壊れたのだろうか…?いや、違う…。

亀裂が入ったのは『刷り込み』の部分だ。

俺がマスターと契約した証…未来永劫マスターに仕えると契約した証の部分…そこに亀裂が走った。

…契約を…破棄してもいいというのことなのか…?

ならば…


俺は女の前に跪いた。

『…貴女様を…御守り致します…』

ならば俺は彼女を守ろう。

この弱き命を。

この不可解な生命体を守り抜こう。

そうすれば答えは見つかるのだろうか。

マスターが最期に見つけた答えを、俺も見つけられるのだろうか。

ただの物質の俺にも。

『新たなる我がマスターとして…貴女様を』

「…そんなに固くならなくても…。それに『マスター』って呼び方…喫茶店の店長さんみたいでなんかヤだ」

『ならば…なんとお呼びすれば…?』

「アドでいいよ。私の名前はアドレーヌって言うの」

『アド…様?』

「『様』はいらないってば」

『し…しかし…』

「しょうがないなぁ…じゃあどうよっか…。あ」

彼女は笑った。

「じゃあ『姐さん』これならいいよ。なんか盗賊団の女頭みたいだけど」

『あね…さん?』

「うん。あと…敬語も出来るならやめて欲しいんだけど…。まぁ、徐々に慣らしていけばいいよ」

姐さんは笑った。

「君は…生きててもいいんだよ」

『………』

生きてても…いいのか…。

「あ、ところでさ、君の名前は?」

『ダークマター43号です。型番はD-P00043です』

「…全然名前っぽくないよ、それ」

姐さんはブゥッと頬を膨らませた。

…なんの兆候なのだろうか、これは。

「あ、そだ。43でヨミ。黄泉ってのはどう?」

『ヨミ?』

「そう、黄泉。今日から私、君の事は黄泉って呼ぶね!」

黄泉…俺の名前は…黄泉…?

「じゃ、今日から宜しくね、黄泉」

『…こちらこそ、よろしくお願いいたします、姐さん』



俺の名は黄泉、43で黄泉。

小さな旧型の暗黒物質。

しかし、この小さな太陽を守り抜く為ならば

ちっぽけなこの身を捧げると、此処に誓う。




<終>



黄泉君とアドの出会いのお話。
ゼロ様との契約を破棄して、黄泉君はアドに仕えることにしたわけで。
黄泉君はデデデ大王編のレギュラーなので、これからも活躍する予定です。
どうして黄泉があんなに人気なのか、書いている人には不思議でなりません。
最終更新:2010年02月19日 15:38
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。