悪夢

夢を見た―――

何人かの男が、私を囲む。

そして何かを言いながら、裸体の私を木の棒か何かで打つ。

そして出来上がった傷口に塩を擦り込まれ、幾数回と殴られる。

もはや意識は途切れ途切れ。

私はただ、引き離された娘だけを思う日々を過ごしていた。

痛みと、飢えと、渇きと、そんなものは些細なことだ。

『…つき…ね…』

私は上手く回らない舌でポツリと呟く。

閉まり切らない口の端からダラダラと涎が流れる。

…月音…無事なのか…?
お前が無事ならば、父さんはそれで倖せだ。

腹を殴られ、口から血の塊が出た。

私はすでに視界が朧げとなった瞳で、前を見る。

『…いと…罪深き者達よの…』

私は口の端を吊り上げた。

男たちが棒状の物で私を打つ。

それでも、私は笑っていた。

『我が命尽きようとも…我が定めは尽きぬ…!…さぁ、貴様らのその純潔の手とやらで、この汚れた我を討ってみよ!我が黒血は大地を染め上げ、貴様らを末代まで祟ってくれる!…さすれば彼の地にも、平穏が訪れるであろう…!!!』





首を撥ねられた。

そこで私の意識は一度途切れる。

次に目覚めたのは森の中だった。

戦争は、とうの昔に終わっていた。

私が死んだ場所へ向かうと、そこにはひとつの石碑が立っていて、立派な祠が出来上がっていた。

その祠を守る巫女に話を聞くと、どうやら大昔の大戦で、自分の祖先が一般民間人の男を此処で惨殺したらしい、男はその際に祖先を呪ったらしく、祖先はその後謎の惨死を遂げ、男の呪いを恐れた一族は石碑と祠を立てたものの、数百年経った今でも呪いに怯えているという。

私はそんな巫女に向かってこう言った。

『安心なさい。呪いは消えた。これからアナタ方一族が、男のことをずっと語り継いで、もう二度とあんな馬鹿な争いが起こらないように努めれば、きっとアナタ方には幸せが訪れます』

それからあの巫女には会っていないが、風の噂じゃあの場所に、小さな村が出来たらしい。
そしてその村はこの上なく平和と聞いた。






『………』
要は天井を見上げる。
「おとーさん…?」
隣で寝ていた月音が寝ぼけ眼を擦りながら言った。
「おとーさん…?」
『何でもない…。何でもないんだ、月音』
要は娘の頭を撫でた。
そう…何でもない。
だが、これで十分だ。
何でもない、今この時が、実はいつよりも幸せなのだから…。

<了>




何故か人気なカナメ父さんのお話。
彼の人生は波瀾万丈かつトラウマの宝庫。
最終更新:2010年02月19日 15:58
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