505 名前:幼妻大鯨ちゃん[sage] 投稿日:2014/12/25(木) 19:39:31 ID:XinNt83E [7/19]
クリスマスプレゼントという事で、もう一つ投下します
幼妻大鯨ちゃんシリーズの続編です
今回は非エロな上にローカルなネタ多数で
気象状況などで現実にそぐわないものもあります
また、この話はフィクションで、
実在の団体や地名、イベント等とは一切関係ございません
NGワードは『幼妻大鯨ちゃん』でお願いします
クリスマスは恋人と二人きりで過ごす日だと思われているが、
本当はイエス・キリストがこの世に生まれた日を祝う降臨祭、
ある意味でキリスト教徒による壮大な誕生会みたいなものである。
しかしそういった事とはあまり関係が無い日本人でも…
いや、日本人だからこそ何かに託けてイベントをするのだろう。
バレンタインもハロウィンも、日本ではどれも商業的なものに利用されている節が見受けられる。
しかしクリスマス……厳密には12月25日は日本人にとって海外とは違う特別なことがあった。
それは大正天皇祭、つまり1926年12月25日に崩御した大正天皇を偲ぶ日であり、
戦前では昭和天皇の先帝祭として祝日として法に定められていた。
戦後は法改正により先帝祭が休日ではなくなったが、
12月25日が祝日であった戦前の間にクリスマスが日本に広まったと言われている。
当時どのような事になっていたのかは俺には知るよしも無いが、
恐らくは祝日であった為に大人達も働くことなく休む人達もいて、
その人達は家族で過ごしたに違いない。
それは海外におけるクリスマスの過ごし方である『家族一緒にいる』
という事を知ってか知らずかなぞっていた可能性もあるのかもしれない。
しかし今は昭和も終わり平成の時代になり大正天皇が先帝ではなくなった今は12月25日は普通の日であった。
もっとも、先帝祭での休日というものも戦後無くなってから久しいが。
しかしいくら今は普通の日であるとはいえ、クリスマスという特別な日である以上みんなそれを意識するものである。
「提督、そろそろ始まりますよ」
「わかってるさ大鯨」
クリスマスイブの日の朝、俺達はホールの入口から舞台を見ていた。
「パンパカパーン!みんなお待ちかねの艦隊のアイドルの那珂ちゃん登場だよー!」
「メリークリスマス!那珂ちゃんからのクリスマスプレゼントだよーっ!キャハァッ!」
愛宕の紹介で現れたのはトップアイドルであり、川内型軽巡洋艦三番艦那珂の艦娘、通称那珂ちゃんである。
ちなみに那珂ちゃんの本名も『なか』であり、
かつて名古屋美人の代表と言われた女義太夫の豊竹呂昇の本名から来ているらしい。
小さい頃は自分の名前にコンプレックスがあったらしいが、それが今では那珂の艦娘であるのは運命的なものを感じる。
彼女は元々人気アイドルだったのだが、艦娘になってからもアイドル活動を続けていた。
彼女がアイドル活動を続けられる理由は彼女が戦闘要員としてではなく主に輸送部隊の護衛が仕事であるからだろう。
那珂ちゃんの仕事は輸送任務で船団を守り、輸送先でコンサートを開くというのが基本的なスタイルである。
那珂ちゃんが輸送任務をする時は彼女の都合にあわせて指示されるのだが
そうなっているのは那珂ちゃんが人を笑顔にする力を持っているからだろう。
那珂ちゃんが笑えばみんなが笑顔になる。歌を聴けばみんなが元気になれる。
それは彼女の天性のものであり、俺達には彼女程のそういった力を持っていなかった。
彼女のその力は深海棲艦に大切なものを奪われ希望をなくした人々にもう一度希望を与えてくれるものだった。
もちろん、深海棲艦関係なく独り身である者達も例外ではないだろう。
「お疲れ様です」
「責任者としての義務を果たしただけとはいえただコンサートを見ていただけさ。
それに今回と、今度の新春特別コンサートは那珂ちゃんの所属事務所が担当だから俺は最終確認したくらいさ」
大淀が鳥海の声真似をして俺を労った。
年末年始のイベント事は那珂ちゃん関係ばかりだから那珂ちゃんの事務所に任せている。
あそこは大きな会社だからタレントが所属しているだけではなく、
様々なイベントのプランニング等も行っているらしい。
おかげで俺達の負担は少なくて済むわけだが。
「帰ってきて早々ですが、本日の深海棲艦出没情報の報告を致します」
「わかった。大鯨、君はお昼を作っておいてくれ。今日は味噌焼きうどんを頼む」
「わかりました」
返事をした大鯨は調理場へ走り出した。彼女は秘書艦だが食事時の前に会議を開く場合はあまり出席させていない。
彼女の料理の腕はかなりのものであり、
よほどのことがなければ会議によって料理の腕を振るう機会を損なわせるわけにはいかない。
「報告します。各地の深海棲艦の数に変化はありません。南西諸島防衛線も……韓国の済州島付近も……」
「ふむ…………ご苦労だったな、ありがとう」
電が途中言葉が詰まり気味になりながらも報告した。
「今年は大丈夫…ですよね……?」
「わからんな。いつもと変わらないのなら、奴らもいないということだろうが」
不安になる電だが無理もない。去年のクリスマス、南西諸島防衛線―通称1-4地点―に
潜水艦が現れた。
いつもはいないはずの潜水艦だったが、それだけで恐怖ということはない。
問題は1-4地点に潜水艦が現れたと同時に謎の勢力『霧の艦』が現れたことだ。
彼女達は艦娘と同じく旧日本海軍の艦船の力を持っていたが、
艦娘とは違い彼女達は艦船そのものであり、その力も当時のそれを遥かに凌駕するものだった。
俺は偶然にも霧の艦への対抗勢力と接触し、力を借りることによりなんとか撃退した。
霧の艦が姿を消してから1-4地点から潜水艦も消えた。
だが完全に撃退したわけではないため、再び現れる可能性もある。
だから俺達は深海棲艦の出没情報をしっかりと確認し、そこから
そして済州島だが、あそこは深海棲艦が元々ほとんど出没せず、出没してもそれは弱いものであった。
ならば何故わざわざ調べるのかと思うだろう。
それは渾作戦で春雨に似た深海棲艦の存在を確認したからである。
渾作戦。それは太平洋戦争中の作戦の名前でもあった。
ちなみに漣にメールで送ったところ予想通り大根を大量に買ってきたがそんなことは今はどうでもいい。
今回の渾作戦では春雨に似た深海棲艦の姫である駆逐棲姫、通称悪雨(わるさめ)が強敵として立ちはだかった。
太平洋戦争の渾作戦において沈んだ艦は春雨だけであり、他に沈んだ艦は日本以外を含めても一隻もなかった。
何故深海棲艦が艦娘と似た姿で現れたのか、それはわからない。
しかしそれ以来俺の頭の中には一つの不安があった。
それは、深雪の姿をした深海棲艦が韓国の済州島近海にいずれ現れるのではないかという事だった。
深雪は今いる艦娘の中で唯一力の元となった艦が戦争を経験する事なく沈んでいた。
戦う為に産まれた存在が戦う事なくその生涯を終えてしまう。それは艦として無念であろう事は容易に想像できる。
だからいずれ済州島近海に
駆逐艦深雪の無念が
深海棲艦の姫―さしずめ闇雪(やみゆき)といったところか―となるかもしれない。
現れてから慌てて対応するのではなく、今のうちにやるだけのことはやっておきたかった。
「何も変化ないのなら心配する必要ない…とは言えないが今夜の任務についてもそろそろ…」
「ああ、本日行われる名古屋港花火大会で我々が警護を任されたからな」
「そうだ。AL/MW作戦の折の本土襲撃以降観覧クルーズどころか花火大会そのものが中止となりかけたからな」
「だから私達が護衛をすることによって、皆さんの楽しみだった花火大会を開催にこぎつけたわけですね」
「気合い入ってるな電、その通りだ。伊良湖沖近海の警戒、観覧船の警護が我々の仕事だ。
メンバーの選出は前もって伝えておいた。選出された者達は午後の任務はなし、
十分な睡眠を取るなどして休養してくれ」
「了解!」
「大淀、明石。俺と大鯨も休息を取るから午後からの仕事は君達に任せた」
「ええ、お任せください!」
こうして俺達は夜に備えて休息を取った。ちなみに川内は夜に備えて朝からずっと寝ていたのは言うまでもない。
ヒューン…………ドン!ドドン!ドーン!ドドドドーン!!
鳴り響く爆発音。これは戦闘をしているのではなく、花火の音である。
「わー…きれい…」
「すごいや!」
「兄ちゃんたち、ありがとー!」
子供達が俺に対してお礼をする。
「俺は別に何も…」
「提督、貴方のお陰ですよ。貴方が花火大会の開催に尽力してくれたから、こうして今花火を見られるんですから」
「そうだよ。僕達だけじゃ花火大会の開催にこぎつけるなんて無理だったんだから。
いくら僕達艦娘に力があったって勝手な真似は出来ないからね」
「お姉ちゃん、このおにぎりおいしいよー」
「ふふっ、僕の作った桑名名物しぐれ肉巻きおにぎりで喜んでもらえて嬉しいよ」
「でもこっちのおっぱい大きいねーちゃんの料理の方がおいしー!」
「まあ……………………でも、私の料理をそんなに褒めてくれるなんて……」
大鯨の顔が赤いのは子供に変な事を言われた恥ずかしさからなのか、それとも料理を褒められた嬉しさからなのか。
「キミィ、あんまニヤニヤしてたらアカンよ」
特別な衣裳を着た龍驤が俺をからかう。龍驤は俺がニヤニヤした理由をどう考えたのだろうか。
子供達が大鯨の胸を大きいと無邪気に言った事か、もしくは俺が大鯨の赤らめた顔を見たことか。
「すまない、空母の君を夜の任務に出して」
「ええんや、ウチだってみんなと楽しくやってたかったんや。水上で任務やってる仲間にはちょっち悪いんやけどね。
それにもし何かあった時にはウチら船上組が子供達の盾にならなアカンしな。
ウチの仕事がこれしかできんでもみんなの笑顔に繋がるなら、それで十分や」
船での花火の観覧を決行させるのは少し骨が折れたが、こうして子供達を笑顔にする事も艦娘達の仕事だろう。
名古屋港に通じる伊良湖沖では他の艦娘達が深海棲艦の侵入を阻止しようと警戒中で、
船の周りでは深海棲艦が万が一襲来した時の為に主に駆逐艦達が警護、
船上では周りの艦娘が沈んでしまった時の最後の砦としての他に
子供達の相手や料理を振る舞う為などいざという時の為に主に空母艦娘が備えている。
伊良湖沖では現在深海棲艦との激戦が繰り広げられているが、深海棲艦の侵入を許す程ではない。
彼女達もみんなの笑顔の為に戦っているんだ。
彼女達伊良湖沖出撃組が子供達と合うことはないだろうが、帰ってきたら子供達が喜んでいた事を伝えよう。
「提督、次は特大花火ですよ。大鯨さんと一緒にちゃんと見てくださいね。あなたは大鯨さんの主人なのですから」
特別な衣裳を着た漣が俺に呼び掛ける。彼女は昔は俺の事をご主人様と呼んでいたが
俺が婚約したと聞いてからは色々と気を遣ってかご主人様とは呼ばなくなった。
漣の予告通り大きな花火が空に上がった。それを俺は愛する人と共に見ていたのだった。
花火大会も無事終わり俺達は鎮守府に戻った。
そして全ての仕事を終えた俺は大切な人と一緒にクリスマスの特別な行事を行い、
それを終えて俺達は眠りに……
「寝るな。少し貴様に話がある」
つこうとしたら那智達に起こされたのだった。
「怒ってなんてないですよ…司令官と大鯨さんが初夜以降一度もそういった事をしない事に、弥生達も、大鯨さんも…」
「でもそれはあまり上手くいかなくて相手を傷付けてしまったと思い、
これ以上傷付けてしまう事が怖いからっていう事はみんなわかっているのです」
何でいきなりこんな事を言われるのか。気心の知れた間柄でなければ少しは怒っていたかもしれない。
「あの…少しは否定するそぶりくらい見せてください…私が大鯨ちゃんから話を聞いて、
こっちが勝手に不安になって、誰にも話さないでとは言われていないからとはいえみんなに相談しちゃったとはいえ…」
情報の出所が変な所でなくて良かった。内容に特に間違いはないから俺は否定しない。
「それが言いたい為だけにみんなを集めたわけじゃないんだろう」
「その通りだ。夫婦が納得した上での事なら口出しは無用と思っていたからな。
それよりも貴様に少し聞きたいことがある」
「何だ?」
「貴様は結婚してから休みを取った事はあったか?」
「休みか…………渾作戦以来一日も休んでなかったな」
「そうだ。渾作戦の期間中に休みがないのは仕方がない。だがそれ以降今日まで一日も休まなかったではないか」
「俺にも信じられんよ。まさか一日の休みもなしにここまで働けたなんてな」
「なら二人の時間は仕事が終わった夜の数少ない時間以外にあったか?」
「二人の時間…………プライベートな時間だとそれ以外なかったけど、
二人きりではないとはいえいつも仕事でほとんど一緒にいるし、昨日の花火大会はもとより、
カレーラーメンコンテストの特別審査員やった時も一緒だったな。
あとさっき駆逐艦のみんなに彼女と一緒にプレゼント配ったりしていた」
「こんな時にあなたは……」
「…………君に聞きたいことがある。君は何の為にここにいる?」
「お前達が呼び出した…って、そういう意味じゃないよな。
俺が提督をやっている理由、それは地上の愛と正義の為だ」
「真っ直ぐで迷いがないな。それでこそ君だよ。では大鯨と結婚した理由は何だ?」
「そりゃあ、俺が彼女の事がどうしようもなく好きで、ずっと一緒にいた……ッ……!」
最後まで言い切ろうとして途中である事に気付き、言葉が詰まる。
「ただ大鯨ちゃんと一緒にいたいだけなら結婚なんてする必要はありませんわよね。
あなたは大鯨と結婚したわけじゃないはずよ。あの子が提督と結婚したわけじゃないみたいに……」
そうだ。如月の言う通りだ。ただ一緒にいるだけなら結婚する必要なんてない。
ただ一緒にいるだけならば提督と艦娘大鯨という上下関係だけでも十分である。
俺は彼女と生涯を共にしたかった。俺が提督ではなく俺である時もずっと一緒にいたかった。
だから彼女と結婚したんじゃなかったのか。
だけど俺は結婚して以来休みがなかった事も重なって一度も夫らしいことをしてこられなかった。
むしろ結婚前の同棲状態だった時の方が彼女に色々と気を遣っていた分だけ彼女に何かをしてやれていた気がする。
そしてその時が今まででは一番二人にとって一番幸せだった時なのかもしれない。
結婚したのもこの幸せがずっと続いてほしいと思ったからだ。
だのに俺は仕事ばかりで、それすらも言い訳にして、でもそれでも彼女とは一緒にいられて…………
俺は愛する人がいつも傍にいてくれる事に甘えすぎていたのかもしれない。
「貴様はあまりにも働きすぎた。クリスマスくらいはゆっくりするんだ。
あと大鯨も最近は働き詰めだったから休ませないといけないな」
それは二人の時間を作れという事を遠回しに言っているのだろう。だが…
「仕事はどうするんだよ」
「私達に頼ってもいいのよ」
ビスマルクが自信満々に即答する。なんとなく頼りになりそうな気がしてくる。しるこサンドを食べながらでなければ。
「一日や二日くらいなら、私達だけでも何とかなるのです!」
「そうよ、私達に頼ってもいいんだからね!」
「幸せそうな貴方達を怨むほど私達を狭量と思わないでね!」
「…………わたったよ、みんなを信じる」
俺はどうするべきか迷いながらも彼女達の力を信じ、全てを任せた。
「フッ…君の健闘を祈るよ……」
そう言った那智の顔は普段目にすることがないような笑みを浮かべていた。
「当たって…当たってぇー!」
雪玉が飛んできたがそんなに速くなかったから難無く避けられた。
大鯨は潜水母艦だ。故に攻撃能力に乏しく、その艦娘である彼女にも戦闘のセンスは今のところ感じられない。
「負けるかっ!とぉありゃあっ!!」
俺はスナップを効かせた球を投げた。
「きゃーーっ!!」
脚に雪玉を受けた彼女はよろけて倒れた。
訓練された艦娘だけあって受け身こそ取れたものの雪の上に尻餅をつく形になってしまった
「ああっ!?だ、大丈夫か!?」
「うぅ……大丈夫…です……」
俺は急いで駆け寄り、手を引っ張って起こした。
雪のおかげで怪我はないようだ。それにしてもお尻の跡が大きい。
「すまない、少し強すぎたか…」
「いえ…でも凄い球でしたね」
「中学時代に野球をやっていたからな。試合にはあまり出られなかったけどね。
この近くの野球場でやった試合に出た思い出が懐かしい」
「この九力公園…って色々なものがあるんですね」
「いや、違う。『力』という字じゃない。ここは九華公園で『華』という字がカタカナのカになってるだけだ。
一部の看板で華の字がカタカナなのは小学生が書いたからなのかもしれん。そこら辺のことはわからないが……
この公園は元々桑名城跡に作られたんだ。桑名城は扇城という別名があり、中国には九華扇というものがある。
扇城という別名と、九華がくはな、『くわな』と読めることが名前の由来なんだ」
「物知りですね」
「それほどでもないさ。それより久しぶりに体を動かしたから少し疲れたよ。近くに休憩所があったはずだ」
俺は彼女の手を引っ張り、休憩所へ向かった。
「あぁ…久々に体を動かしてちょっと疲れました。でも楽しかったです。
桑名名物の安永餅も運動した後に食べると美味しいです…」
「そういえば最近君に出撃どころか演習もさせてなかったな」
俺達は中京圏の中心から少し離れた所にある公園に来ていた。
もう少し名古屋に近い所にテーマパークがあったが、混雑しているだろうと思い、そこは避けたのだ。
公園には雪が残っていたので雪合戦をしたが、思いのほか楽しかった。
「ここは名古屋に比べたら規模は小さいかもしれないけど
田舎で育った俺にとって小さい頃はこの街が一番身近な都会だったさ。
夏とか、クリスマスとか、そういった時くらいしか来ることが出来なかったけど、
でもだからこそワクワクしたんだろうな。純粋だった子供の頃…その沢山の日が懐かしいよ」
「そのどの一つにも私がいないのにですか?」
「ッ……」
俺は返された言葉に少し驚いた。彼女も歌の歌詞を引用して喋ったりすることもあるのだろうか。
「他にもあるよ。君と出会った日とか、君と一緒に暮らした日々とか……どれもこれも懐かしい沢山の日だよ!
去年のクリスマスや正月と同じくらい記憶に残っているよ」
「去年の…クリスマス……」
「あ……そうか、去年の年末年始の事は君にはあまり詳しく言ってなかったな」
「今まで私から聞こうとはしませんでしたからね。仕方ありませんよ」
「じゃあ、ざっとだけど説明するよ」
俺は彼女に霧の艦隊との激しい戦いの事を話した。
ブルネイ勤務だった俺がイオナという霧の艦の少女と出会い、彼女の力を借りて日本に戻り、
霧の艦隊との戦いで新たに加わった霧の艦達と、高い練度の艦娘達との混合艦隊を組み、
霧の艦隊の『今回の』リーダーのコンゴウを撃退し日本を救ったという事を説明した。
「凄かったのですね……」
「ああ……でも一部の霧の艦達も共に戦ってくれた。そんな彼女達もまたイオナと同様心強い味方だった。
新たな深海棲艦が現れ、戦いも激しくなろうとしている今、彼女達がいてくれたらと思うと……」
「きっと彼女達にまた会えますよ。いつかきっと出会う僕らを乗せて地球が回っていますから……なんてね。
あなたの熱い思いが彼女達の心に残っているのなら、
潜水母艦の艦娘である私は潜水艦のイオナさんに眼差しを」
「……君も色々と物知りなんだな」
「そこまでではありませんよ。小さい頃のクリスマスの夜にテレビでやっていた映画の主題歌で思い出深いだけですし」
「俺もだ。その年のクリスマスは特に思い出深い。当時見ていたロボットアニメのプラモデルのメッキ版を買い、
すぐ壊してしまって接着剤でくっつけた事とか、色々あったからよく覚えているよ。
小さかったあの頃は本当にクリスマスが楽しみだった……」
「そうですね、私もそうでした……」
俺は昔を懐かしみながら言った。彼女もきっと昔を懐かしんでいるのだろう。
「それにしても平和ですね。まるで深海棲艦の事なんて忘れちゃいそう…」
「そう………だな………………」
「ん?どうしたんですか?」
彼女か俺に問い掛ける。俺は今までの事を思い出していた。
雪合戦で天使のようにはしゃぐ彼女の笑顔、街行く人々の活気、子供達の希望に満ち溢れた声……
提督として人々を護っていた立場から離れて、色々なものを見てきて気付いた事がたくさんあった。
「いや…地上がこんなに平和なのは電や如月達が頑張っているからってのもあるかもしれないって思ったんだ。
俺が提督として戦っている時、きっと人々の気持ちは今の俺達の気持ちと一緒なのかもしれないって。
今までの事を思い返して俺は人々の幸せの為にちゃんと戦えていた。
だけど……君には何もしてやれなかったって気付いたんだ。
今まで提督として護るべき人々の為に頑張っていたけど、
俺が一番大事にしなきゃならない人には何もしてやれなかったって……」
昨日那智達に言われた事が心の中に残っていた。
地上の人々と最愛の人、その二つの間で俺の心はほんの僅かだが揺れ動いていた。
「ふふっ、心配しないでください。大丈夫ですよ。
初めて結ばれたあの時、私は誓いました。ずっとあなたの傍にいます…ってね」
「いいのか…」
「いいんです、あなたの力と安らぎになりたいから……
あなたがあなたしか出来ないことをしているのならいくらでも耐えられますし、どれだけでも支えていられます」
「……ありがとう…………」
俺の心は決まった。地上の人々と最愛の人、両方の為に戦う事を決意した。
「あ、でもあんまりほったらかしにしていたら、私は如月ちゃんとらぶらぶになっちゃうかもしれませんよ」
「君の心が離れるのは辛いな……」
彼女と如月は根底に『誰かの役に立ちたい』という想いが強くあるからなのか凄く仲が良い。
微妙に冗談に聞こえなくもないから困るのは俺の性格ゆえか。
「何事も一人で抱え込んじゃうといつか壊れちゃいますよ。
だからもっと私やみんなを信じてください。大丈夫、あなたは一人じゃありませんから」
彼女が支えてくれるなら何でも出来る気がする。青臭いけど、俺はそう心から思った。
「わあ、とても綺麗ですね」
俺達はなばなの里に来ていた。ウインターイルミネーションで有名な場所である。
「クリスマスだから…でしょうか。とても幻想的に感じます」
「クリスマスだからだろうな。これが明日以降ともなればまた違った感じ方をするだろうな」
「そう考えるとクリスマスって何か不思議な力があるのかもしれませんね。子供達もみんな喜びますし」
「ああ、みんな喜んでいたな。プレゼントに頭を悩ませた甲斐があったよ」
「それもそうですけど、昨日の花火大会で私が作った料理を子供達に喜んで食べてもらって、
それがとても幸せそうで……私、本当に嬉しかったんです。
そしてあなたが昔言ってくれた言葉が本当だったんだって思ったんです」
『大鯨は将来きっと…料理で人を幸せに出来るだろうな』
俺はかつて彼女に言った言葉を思い出し、彼女が俺の何気ない言葉を覚えてくれていたことを喜んだ。
気恥ずかしさから本当の気持ちを少しオブラートに包んだものだったけど、
オブラートに包んだ言葉、そして包み隠さない本当の気持ち……いいお嫁さんになれる……
彼女はそのどちらも出来る人だ。俺はいい提督といい夫のどちらにもなれるのかはわからない。
「だから私、自分が出来るもう一つの事が見つかった気がして……」
「もう一つの事?」
「私、お料理で人を幸せにしたいんです。小さなお店でもいいから、この戦いが終わったら…」
「鳳翔の店で今…じゃなくてもいいから働けばいいじゃないか」
俺は危ないフラグを強引に叩き壊した。
「彼女だって、人を幸せにしているんだ。二人が力を合わせれば更に多くの人を幸せに出来るだろうし、
もっと多くの人が力を合わせればもっともっと多くの人を幸せに出来るはずだ」
「………お気遣い感謝します……」
彼女も俺の言葉の割り込みの意図に気付いたようだ。
こうしてみると彼女は俺色に染められつつあるのかもしれない。いや、もしかしたら漣色かもしれないけど。
「ま、描くビジョンを現実にする魔法があるのかどうかはわからないけど、
明日を信じ続けていれば砂漠だって楽園に変わるはずだ」
「そう信じたいですね」
「ところでさっき言おうとしていた夢って一体何なんだ?」
「ナ・イ・ショ 内緒です」
「そうか……じゃあ君の夢が何なのか知りたければ頑張らなきゃいけないな」
「私も夢を叶えたいですからね。一緒に精一杯頑張りましょう!」
「ああ!」
彼女の夢は何となくだけどわかる気がする。
いつか深海棲艦がこの地上から消えてなくなり平和が戻ったら
彼女はみんなに手料理をふるってみんなを笑顔にし、そして彼女も笑顔になるだろう。
平和になった後の事を漠然としか考えていなかった俺だったが、
彼女の夢を知った俺はその夢の手助けをし、絶える事のない笑顔の彼女とずっと生きていきたいと思った。
―終―
最終更新:2015年01月05日 21:00