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EUの廃棄物処理 - (2006/05/24 (水) 17:27:05) の編集履歴(バックアップ)


EUの廃棄物処理

作成:野瀬光弘(5月24日)


●ドイツ

1.廃棄物に関する法律の流れ

(1)循環経済・廃棄物方制定以前の状況

①廃棄物除去法(1972年制定)

 昭和40年代には急速な経済発展のもとで廃棄物が急増するとともに、有害廃棄物の不法投棄が各地で深刻な社会問題となっていた。それまで廃棄物処理の施策はすべて州に権限があり、州ごとに異なった廃棄物処理システムが作られていたが、州によっては埋立地不足や廃棄物による汚染が深刻な環境問題となっていた。こうして、連邦として廃棄物処理に関する法制度を整備する必要性が高まり、昭和46年に廃棄物除去法が連邦議会に提出され、47年に連邦法として初めて廃棄物除去法が制定された。


②廃棄物の回避及び管理法(1986年改正)

 昭和50年代になり、フランス沿いの国境に広がるシュバルツ・バルト(黒い森)における深刻な酸性雨による樹木の立ち枯れ等を契機に、国民の環境に対する関心が急速に高まり、焼却・埋立をベースとした従来の廃棄物処理に対する問題視が強まった。こうした世論を受けて、昭和60年にごみの発生抑制と再利用を盛り込んだ法律の改正案を連邦議会に提出し、61年に「廃棄物の回避及び管理法」として改正された。

(2)循環経済廃棄物法の制定

①経緯

 平成4年に連邦環境省は、現行法の改正案として「循環経済の促進及び廃棄物の環境に適合した処分の確保に関する法律」(循環経済廃棄物法)の草案を公表した。この草案では、循環型経済の構築を目的に汚染者(発生者)負担原則を採用し、「回避-素材的利用-エネルギー的利用-処分」という廃棄物処理の優先順位を明確に示した。

 主な要点は以下のとおりである。

・使用済製品廃棄物に対する生産者責任(生産物責任)の適用

・生産及び生産方式の開発段階における廃棄物の回避と利用

・素材利用(マテリアルリサイクル)をエネルギー利用に対し優先

 この草案は各界からの意見を考慮して何度か修正され、紆余曲折を経てようやく平成610月に公布、810月に施行された。

②廃棄物の定義

 循環経済廃棄物法の制定による最も重要な変化として廃棄物の定義があげられる。廃棄物除去法では「主観的な捨てる意志」を基準として定義していたのに対して、循環経済廃棄物法では「客観的に捨てなければならない」とする基準からも廃棄物を定義可能にした点が注目される。

 図1(省略に示したように、廃棄物は利用廃棄物と処分廃棄物に大きく分けられるが、以下の側面で重要な意味を持っている。

・廃棄物の発生者または占有者の廃棄物に対する責任のあり方が変化する。

・処分廃棄物となることで証明手続きの義務が生じる場合がある。

EUの近接原理によって処分廃棄物は処分場所が制限され、越境に規制がかかる。利用廃棄物についてはEU内では規制されない。

・国境をまたがる廃棄物の移動において、利用廃棄物と処分廃棄物では運搬に関する深刻手続きが異なる。

2.廃棄物データの管理

(1)手続の概要

 ドイツでは、循環経済廃棄物法の43条及び46条に従い、要特別管理廃棄物についてマニフェストの添付等、証明手続の適用が定められている。証明手続は事前証明とマニフェストによる事後監視証明の2つに分けられる。

①事前証明手続き

 要特別監視廃棄物または要監視廃棄物を排出する事業者が廃棄物の運搬・処理・処分における環境負荷の低減、環境汚染の防止を目的に、適切な処理・処分ルートを確保するために実施する。事業者は定型の書類に必要事項を記入して管轄当局に提出し、承認を得なければならない。管轄当局の審査は30日以内に結果を通知しなければならず、この期限に遅れた場合は自動的に承認されたとみなされる。

②事後監視手続き

 マニフェスト管理システムのことで、事前の証明手続で確保されたルート通りに廃棄物が運搬され、適正に処理されたかを監視するために行われる。州の監視当局はマニフェストの戻り票を事前証明手続きと照合し、一致しているかどうかを確認する。

(2)証明手続のシステム化

 事業者は、要特別監視廃棄物のマニフェスト票一式を発生するごとに0.77ユーロを州当局に支払う。図2(省略に示したように、要特別監視廃棄物の処理または処分を行った事業者は、州の廃棄物処理・処分施設監視当局にマニフェストを送付し、廃棄物処理・処分施設監視当局は排出業者にマニフェストを転送する。排出事業者は州の監視当局にマニフェストを転送することで流れは完結する。

 バイエルン州を除く15州では、共同でマニフェスト情報を共有する情報システムを開発し、試験的に運用している。このシステムによって、州を超えた要特別監視廃棄物の移動を監視することが可能となる。なお、マニフェストに関する詳細な情報はホームページに掲載されている

(3)電子マニフェスト管理システム

 情報システムは導入されているものの、紙ベースのマニフェストを利用していることには変わりはない。そこで、ノルトラインヴェストファーレン州が中心になって、マニフェストを電子化し、ペーパーレスで廃棄物管理を行う新たな情報システムを開発する動きがある。情報システムはEUDINと名付けられ、平成13年に同州の大手企業が参加して試験的に実施された。その後、ベルギー、オランダ、オーストリアからもプロジェクトに参加する州が加わった。

 EUDIN導入によるメリットは以下のとおりとされる。

①行政機関及び廃棄物管理費用の削減

②行政機関及び事業者にとって必要勝適切なデータの検索利用が可能

③マニフェストの転送ミスの削減

④データ上における廃棄物の消失がない

 図3(省略のように、情報システムはEDIFACT(金融・通商・貿易のための国際的な電子データ交換の標準)とXML(インターネット対応の構造化文書データの記述言語で必要な文書の一部を厳密な取り決めの下で簡潔に加工する等の利便性がある)をベースに開発された。新たにシステムを導入する事業者だけではなく、すでに社内で廃棄物管理システムを構築している事業者には、開発されたデータ・コンバータが無料で配布される。このイターフェースによって既存のシステムを作りかえることなくマニフェストに参加できる。

3.廃棄物関連のデータ

(1)排出量

 ドイツでは、廃棄物の総量と内訳は大きく4つに分けて経年的な推移がホームページに公開されていた。平成1215年にかけて総量は少しずつ減っており、主に建設・解体廃棄物の寄与が大きい。

(2)処理

 都市ごみについて処理内訳をみると、平成1215年にかけて焼却は20%台前半でほぼ横ばいだった一方で、リサイクルは5158%へ増加、埋立2719%へと減少傾向を示した。日本に比べると、リサイクルの比率が圧倒的に高く、焼却が少ないという特徴がある。この背景には、平成5年に制定された「都市廃棄物処理のための技術規則(TASi)」の影響が考えられる。同規則では、平成17年以降は最終埋立処分前に、すべての廃棄物は熱処理を経て減容化、無害化されなければならず、未処理の都市ごみは埋立処分ができなくなる。そのため、廃棄物の処理におけるリサイクルの比率が高まってきたといえる。

参考文献・ホームページ
(1)田中勝(1996)日米欧の産業廃棄物処理.ぎょうせい,324p

(2)社会経済生産性本部(2002)循環型経済構築に係る内外制度及び経済への影響に関する調査報告書.219p

(3)http://www.asysnet.de/index.php?sp=1&id=1(アジスのホームページ…ドイツ語のみ)

(4)http://www.destatis.de/basis/e/umw/umwtab1.htm(ドイツ連邦統計局のホームページ)