日本の居酒屋文化を楽しむニューヨークの若者たち | 時事
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No.3006896 投稿者: nidax 作成日: 2007-10-30 00:41:43 閲覧数:946 推薦ポイント:14 / 0
まだブームとまでは言えないかも知れないが、ニューヨークでは高級でヘルシーイメージの和食人気の陰で、安く手軽に楽しめる居酒屋が台頭してきている。ニューヨークにはこれまでも居酒屋メニューをそろえた和食レストランはあったが、その多くはミッドタウンに位置し、場所がら、客層は日本人駐在員やアメリカ人ビジネスマンなどだった。ところが、最近は若者の街イーストヴィレッジに新しいタイプの居酒屋がオープンして、ニューヨークの若者の人気を集めている。
「ケンカ」店内の雰囲気は、まるで日本の学生街の居酒屋のよう
イーストヴィレッジにいくつかある居酒屋の中でもいちばん元気なのが、居酒屋「ケンカ」。ケンカといっても喧嘩ではなく、オーナーの梅木裕治さんによると献花の意味だそうだ。この居酒屋は2年前にオープンしたばかりだが、混み合う時間帯になると店の前に行列ができるほどの人気。店の前では信楽焼の巨大な狸が出迎え、店の中には、なつかしいグリコやオロナミンCの看板が飾られ、壁際にはパチンコの台が置かれ、トイレの入り口は銭湯をイメージさせる造りになっている。BGMはザ・ピーナツ、グループサウンズ、笠置シズ子・・・。今日はぴんからトリオの歌がかかっていた。この曲はぴんからトリオだと正解を言えるのは、たぶん私と厨房にいた私と同年輩の調理師さんくらいだろう。梅木さんによると、店内のレトロな内装やBGMは日本がいちばん元気だった昭和30年代のイメージだそう。
だが、人気の秘密はなんといっても安さ。レストランの料金が高いニューヨークにあって、なんと客単価は12ドル(税金・チップ含まず)というからおどろきだ。料理は5~6ドルくらいが中心だが、目玉である生ビールはジョッキ1杯1ドル50セント。4、5人の学生のグループに、なぜここによく来るのかと尋ねたら、一斉に「Cheap Beer!」と答えが返ってきた。1日の来客数は500~600人。キリンとサッポロのドラフトビールの売上げで全米一というのも納得。「一杯飲んでどんぶりものを1つ頼むくらいなら、日本円で800円くらいですよ」と梅木さん。たしかに1人で来て、ビール1杯と一品料理を頼んで帰る人もちらほらいる。
梅木さんは関西の出身で、アメリカの古着を日本に輸出するビジネスをしていたが、もともと飲食店経営に関心があったそうで、「ボロ売ってボロ儲けしたお金で居酒屋を始めたんですわ。ニューヨークの和食レストランは高すぎる。マクドナルドに行く感覚で和食を楽しんでもらいたい」と語る。
ニューヨークとはとても思えない、居酒屋「ケンカ」の店先
ニューヨークのイーストヴィレッジにある、安価な居酒屋「ケンカ」。私はこの居酒屋がとても好きだ。お客さんがみんな楽しそうに飲んだり食べたりしているのがとてもいいなと思う。日本と同じで、たまに羽目を外すお客さんもいるらしいが・・・。一般的な和食レストランではこうはいかない。お行儀よく食べなければいけないし、高いから食べたいだけ食べて飲みたいだけ飲むことができるのは、お財布にゆとりのある人達だけ。お勘定のことを考えながら食べてもあまり楽しくない。でも、ここならそんな心配はいらないし、がやがやしているから、グループで来てちょっとくらい騒がしくても誰も気にしない。
学生も多いが、30歳前後くらいの社会人が多いそうだ。この店がオープンした頃は日本人駐在員の姿もあったそうだが、米国の若者に占領されて、今ではすっかりスーツ姿は消えてしまった。日本人の若者ももちろんやってくるが、一般的な和食レストランに比べると圧倒的に米国人(日本人以外)のお客さんが多いという印象を受ける。
エノキバター、フライドガーリック、天津飯、デザートにはみたらし団子が彼女たちの居酒屋フルコース
30歳前後くらい(?)の白人女性の2人連れに話を聞いた。日本に1度行ったことがあるという女性は「ここには週に1度は来てるわ。友だちはだいだいみんなここに連れてきた」と言うこのお店のお得意さん。今日2人がオーダーしたのは、エノキバター、天津飯、フライドガーリック、春巻き、そして生ビール。オーダーしたものを聞いていると、まるで一昔(二昔?)前の日本のオヤジギャルみたい。「夏になるとみたらし団子がメニューに加わるのよ。夏はいつもデザートにみたらしを食べるの!!」と、日本のOLとちっとも変わらない。
お好み焼きには、やっぱりアサヒスーパードライ
また、白人男性とアジア系米国人男性は、チキンの唐揚げとお好み焼きをつまみながらアサヒビール。「和風のフライドチキンはおいしい。お腹が一杯になるまで食べても、せいぜい1人20ドルくらいだよ。米国にはこういうスタイルのレストランはないから、ここはいいね」と、こちらも満足そう。オーダーの仕方といい、食べっぷりといい、ビールのつぎ方いい、こちらもすっかり日本のオヤジ。お店の人によると、米国人のお客さんに好評なメニューは、お好み焼き、ラーメン、炒め物、餃子、サバの塩焼きなどだそうだ。ちなみにこの店のメニューは、料理だけで常時170~180種類もある。
居酒屋初体験。初々しくてちょっと浮いていた学生グループ
おもしろいことに、お客さんを見ていると、居酒屋初心者なのか、中級者なのか、上級者であるのかがわかる。既に紹介した2組は上級者といってよいだろう。居酒屋初心者も一目でわかる。白人とアジア系と思われる4人の男子学生グループの様子を見ると、まるで学生寮の食堂にでもいるようだった。この学生グループはピッチャーでビールを頼んだあと、個々にラーメン、うどん、天津飯などを頼んで行儀よく食べている。大衆的な店内で、そこだけなんとなく雰囲気が違う。案の定「今日初めて来た」ということだった。
米国では前菜、メイン、デザートのようにオーダーして、出てきた順に食べるのが普通なので、居酒屋に初めて来る米国人は、その感覚でオーダーする。私は一度米国人のグループと「ケンカ」に来たことがある。私以外にその中で居酒屋に行ったことがあるのは1人だけで、あとはみんな初めてだったので、前菜らしいものとメインディッシュらしいものをオーダーする人や、始めからご飯物を注文する人など、てんでんばらばら。そして、自分がオーダーしたものを1人で食べていた。みんなでいろんな料理をオーダーして、取り皿に分けて食べる、という居酒屋スタイルをまだ知らない人達だとこうなる。
だが、居酒屋に何度も来ているうちに、一緒に来た日本人や他の人のオーダーの仕方や食べているものを見て、目新しい食べ物や、おいしい食べ方、居酒屋での楽しい過ごし方を習得していくようだ。「ケンカ」で写真を撮りながらお客さんの様子を見ていると、日本の居酒屋文化がどう米国人に伝わっていくのかが垣間見えてとてもおもしろい。
ところで、和食レストランの価格破壊を目指す梅木さんは、2年後にはニューヨークに1ドル均一の回転寿司の店をオープンさせる予定だそうだ。
最終更新:2007年11月05日 22:06