ゆっくりと日か沈んでいく。
昼間の賑わいも陰りを見せ、露店通りは夕日の茜色に染まっている。
この時間になると、客足もめっきり減って、大半の露店が店終いを始めるのだ。
屋外で開かれる露店は日が昇れば始まり、日が沈めば終わる。それが昔からこの街ロオジでのやり方となっている。
そんな落ち着き始めたこの通りをの太い男の声が響き渡った。
『泥棒だ! 誰か…誰か! そいつらを捕まえてくれぃ!』
声のする方から、西日の逆光を受けて影が二つ、人込みを抜けて現われた。
『バーカ! いつも居眠りばっかしてっと店も潰れちまうぜ!』
小さい方の少年は振り返って叫んだ。
『バカ! いいから走れ!』
その後を人込みに揉まれながら、少し遅れて大柄の男がドスドスと駆け抜けていった。
『泥棒だってよぉ。いくら治安が良いって謳ってる街でも、やっぱりああ言うのは
いんだねぇ。まったく』
真っ赤な癖毛の男は別段興味がある分けでもない品を手に取ると店主に呟いた。
『まぁ、いつもの事ですから……。お客さんの気にするような事でもないですよ』
店主は男の走り去った方を眺めながら呆れたように呟くと、小さく溜め息をついた。
『いつもの事? あのおっさん毎回やられてんのかよ? いいカモだなぁ。なぁ~』
男はそう言って鼻で笑うとポーチから出ている緑色の頭を撫でた。
『きゅ~?』
ウサギの様なそれは不思議そうに主の顔を覗き込む。
『確かにいいカモでしょうね。……あいつなりにも色々あるんでしょうよ』
店主はそう呟くと少し下を向いた。
『お前達、次は捕まえてやるからな!!』
『どうやら、今日もカタが付いたみたいですよ』
店主は遠くの方から響き渡る声に耳を向けると、立ち上がり声のした方を見渡した。
しばらくすると遠くの方から大柄の男が走って来るのが見えた。
『おい、ギュース!』
店主は声を張り上げて来た道を戻る男を呼び止めた。
『また、ガキどもに逃げれたのか?』
『はぁ、はぁ…。いやぁ、あと少しだったんだがなぁ。どうも…この腹が邪魔してるようでな』
大柄の男ギュースは荒い息で大きく盛上がった腹をバシバシと叩くと愉快そうに笑って見せた。
『おっさん。なぁにヘラヘラしてんのさ? 店のもん毎回盗られてんだろぉ?』
赤毛の男はギュースの態度が気に食わないらしく怪訝な顔を見せる。
『まぁ、高々売れ残りのパン1斤だ。
残してもゴミになるだけだし、俺はもう毎日毎日食べ飽きてるからなぁ。
鼠にでも齧られて鼠のパン屋になるくらいなら、汚ねぇガキ共にくれてやるくらい訳ねぇよ。
おっと! 早く戻らないと店がガラ空きなんでな。じゃあな!』
そう言ってギュースは豪快に笑って去って行った。
『まぁ、いつものことだから気にしなさんな。
アイツは盗まれる振りして、いつもガキ達に飯やってるんですよ。変わったやつでしょう?
…ところでお客さん? 何も買わないなら店を畳みたいんだが、どうするんです?』
そう言いながらも店主は既に片付けを始めている。
『別にぃ…こんの店、欲しいものもないしなぁ…』
『そりゃ、悪かったねぇ。……ったく、暇人の相手は疲れるぜ』
店主は不機嫌そうに呟くと、片付ける手を早めた。
赤毛の男は立ち上がりギュースが去って行った方を見つめる。西日が建物に呑まれるように赤く燃えている。
『善意の奉仕のつもりかねぇ…。あそこは、あんたが思ってるほど甘くないんだよ』
そう呟くと夕日に背を向けて歩き始めた。すっかり広くなった通りに男の陰が長く伸びた。
最終更新:2008年06月08日 01:17