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 彼女の名前はアルー。
 アルーがこの森に入ったのは今から4半日前に遡る。

 まだ太陽も昇らない頃、その時はアルーの他に4人の連れがいた。
 全員が女性で構成された一行で、先頭を歩く侍祭の女性クルラは今回のリーダーであり、彼女の叔母にあたる。

『もう少し、歩きますけど大丈夫?』

 レイベルの言葉に返事は無く、アルーは俯き加減に足を進めていた。

『心配はいりませんよ。私やあなたのお母様も成し遂げたことですから、あなたにも必ず出来ますよ。アルー』

 レイベルは彼女の顔を覗き込むと状況を察したように言い宥め、頭に手を置き優しく撫でた。

『はい。叔母様』

 アルーは心なしか不安な顔をしているが、精一杯の笑顔を見せて答える。

『それにしても、今回はあたしまで同行できるなんてね。こんな機会めったにないもん。あんたの時には『あんたじゃまだ早い!』の一点張りで、同行させてもらえなかったしさ』

 軽い口調のハーフエルフのアイムが二人の後ろから話し掛けてきた。
 叔母とは幼馴染で同い年という事もあり、小さい頃から互いに信頼しあった親友と呼べる関係らしい。

 アイムは時折、最前方を先行する光の精霊【ウィル・オ・ウィスプ】に支持を出している他はレイベルと何気ない話を盛り上がっていたが、その後ろではまるで別世界のようにエルフのインシュアと狩人のマシルが研ぎ澄まされた感覚を辺りに向け警戒に当たっていた。

『レイベル侍祭、少し聞きたいことがあるんだが、あなた方は何の目的であの泉へ行かれる?』

 不意に後方を歩いていたマシルが声を掛けた。

『あ、あぁ。ごめんなさい、ご存じなかったんですね』

 レイベルはマシルの唐突な声に驚いたように返事を返す。

『はい。村長からは護衛として着くようにといわれた次第です。なんでも女性でないとならないとか……』

 マシルは自分の知っている所までを伝えると真意を聞こうと黙り込んだ。

『はい。確かに同行できるのは女性に限られます。まずはこれがなんなのかを話さなくてはなりませんね。
 私とこの子は戦の神マイリーに使える身なのはこの服装で御察し頂けると思います。
 私たちは戦の神に勇気を試して頂きその素質が有るかを見極めて貰うのです……と言いましてもこの行事はこの地方独自のものなんですけどね』

 レイベルは胸の槌の刺繍と手に持つ槌を指差し答えた。

『そのことが何故、女性でないといけないのですか?』

『私たちは試練の前にこの森の奥地にある泉で心身を清めます。
 その時には一糸纏わぬ姿で泉に入るので、男性がいては気が引けるでしょ?
 特に儀式を行うのはちょうど年頃ですからね。神殿に代々伝わる女性への配慮みたいな風習ですよ』

 レイベルはアルーの頭に手を置いて軽く叩いて見せた。

『そういうことですか。村の男達も知らないわけですね。
 彼らが知れば先回りするに決まってますから。全く、男ってはどうしようもない生き物ですからね』

 マシルから初めての笑みが零れた。

『全くです。それは男性であれば仕方のない事なんでしょうけど』

 レイベルも口に手をあてクスクスと笑い始める。

『それで? 最終的にどうなったら試練は終るのよ?』

 アイムは話が途切れたのを見て続きを促してきた。

『先ほども言いましたように水浴びをするのですが、それも朝の日が昇り始めて草木に露が付き始める頃の泉で清めなければならないんです。そして、その後森を一人で街まで帰って頂きます』

 レイベルの言葉に少女は凍りついたようになる。
 説明を受けずとも分かってはいたが、改めて聞かされるとやはり怖い。
 慣れ親しんだ森の中とはいえ、明け方は薄暗く不気味だ。そんな中を少女一人で街まで帰らなければならないのだ。こんな初めての体験に不安にならない訳がない。

『え、それだけ?』

 拍子抜けしたようにアイムとマシルが尋ねる。

『まぁ、基本的にはそれだけの事なんですけど、その道のりの中で一つでも勇気ある行動を行わないといけません。それが何であるかはその人の感じかたなんですがけどね』

 レイベルは話し終わると少女に目をやり微笑んだ。視線を感じて、アルーは何気なく目を逸らす。

 レイベル一行は開けた場所出た。正面には泉が悠然と広がっている。鹿や栗鼠といったおとなしそうな動物達が顔を洗うかのように水面に顔を近づけて水を飲んでいた。「さぁ、リーサ泉で体を清めなさい。私たちはあなたの護衛をしてますので」クルラは



最終更新:2008年10月11日 02:35