「ミィ~ミミィ~♪ミィ~ミミィ~♪」
母親タブンネの子守唄が無邪気にじゃれあう子タブンネ達を優しく包み込む。
「ミッ!ミィ!ミミィ!」落ち着き無くはしゃぐ子タブンネ達も母親に抱き締められ、その暖かい温もりを感じながら夢の中に誘われていく。
「ミピュ~。ミキュゥ~。」
可愛らしい寝息をたてながら楽しい夢を見ているのか顔を綻ばせる子や寝ながら母親の乳房を求めて指をチュパチュパしゃぶる子達を母親タブンネは目を細めて優しく見つめている。
微笑ましい光景だ。
誰もがそう思うだろう。
こんな可愛い天使達を虐待するなどあり得ない。
…そう思っていた。
最近屋根裏からガタガタ物音がするようになり「ミィミィ」と甘ったるい鳴き声が聞こえてくるようになった。
僕は今木造の古いアパートに住んでいる。
古い故にある程度は想定していたが、まさか冒頭述べた光景がうちの屋根裏で展開していようとは。
先程は母親タブンネと称したが声が少し甲高い。恐らく子タブンネが幼いベビンネ達の世話をしているのだろう。
流石に大人のタブンネが忍び込める程の広さの屋根裏ではない。
親を失い野生の世界では生きていけず放浪の果てに辿り着いた安息地がうちの屋根裏だった訳か。
その証拠にタブンネ達の楽しそうなはしゃぎ声が毎日僕の耳まで届き毎日楽しく遊び回っているのが屋根裏からの振動で用意に想像がつく。
そう、毎日だ。
毎日、毎日「ミィミィミィミィミィミィミィミィ。」
屋根裏からの歌声や踊りは騒音となり僕のストレスを膨れ上がらせる元凶となった。
奴等は無駄に知能が高い為に冷蔵庫を漁る事を覚えたり躾などされていない為に部屋の至る場所に糞尿を撒き散らし床一面を泥のハートマークで染め上げる。
部屋は散らかり広範囲に散らばって落ちているピンクの抜け毛がタブンネ達が蹂躙していった事実を物語っていた。
当然僕の怒りは限界だった。しかし正確に奴等の棲みかを把握しておらずタブンネ達も僕を警戒しているのか、なかなか尻尾を掴めない。
そう、尻尾だ。
あのフワフワとした人を小馬鹿にしたようなふざけた形をした尻尾。
時々物陰からフリフリと動く尻尾がチラリと覗くがいつもあと一歩のところで逃げられてしまう。
確かに奴等は憎いが僕も鬼ではない。
捕まえたら逃がして二度と屋根裏に住み着かないようにすればいいだけだ。
平穏な暮らしが戻るなら許してやろう。
…実際にタブンネ達に遭遇するまではそう思っていた。
小雨が降る中、僕は帰路に着く足取りを速める。
今日は残業もない。
こんな早い時間に帰れるのはいつ以来だろうか?
…思い出した。タブンネ達が住み着く前だ。
タブンネの事を思い出し少し気が滅入ったが僕の帰る場所はあの古いアパートだ。
決してタブンネの巣なんかではない。
うちのドアの前に立ち僕は気を引き締め逸る気持ちに反するように静かにゆっくりとドアノブに手をかけた。
忍び込むように玄関に潜入した僕は微かに、だが確実に何者かの気配を感じ取った。
そして確信した。
間違いないタブンネだ!
集中して耳を澄ますとガサガサと物音が、それとまだ幼いタブンネの鳴き声が「ミィミィ」と聞こえてくる。
毎日のように聞かされた甘ったるい耳障りな鳴き声だ。
僕はタブンネ達とは逆に物音をたてず慎重に台所へと足を進めた。
だんだんと鳴き声のボリュームが大きくなりクチャクチャと咀嚼する音が真っ暗な台所に響く。
「クチャクチャ、ンミィ。ング。ミップ!」
タブンネ達は食べる事に夢中のようで僕に全く気付いていない。僕はタブンネ達の位置を把握した。
そして逃げられないように間合いを詰めた。
僕は台所の照明を点灯した。
「ミィィ!」
「チチィ!」
突然の事態に驚く四匹の子タブンネ達。予想通り大人はいないみたいだ。
くわえていたハムを口から溢し口をパクパクさせるベビンネ。
眩しさにまだ目が慣れず顔を抑えているベビンネ。
その二匹の手を取り一目散に逃げようとした母親代わりの子タブンネ。(便宜上このタブンネを以後ママンネと呼ぶ事にする。)
僕は逃げ遅れたシュークリームに顔を突っ込んでいるベビンネの首根っこを掴んだ。
顔中クリームまみれのベビンネは状況を理解していなかったが直ぐに危険を察知しミキャア、ミキャアと喚き始めた。
「ミィ!ミィミィ!」
ママンネが何かを訴えている。
大方察しはつく。
だがその要求を呑む気は全くおきない。
それどころか僕は不思議な感情に包まれた。
こいつらをメチャクチャにしてやりたいと。
タブンネ達が知性の欠片も感じさせない獣であれば僕は何も感じなかっただろう。
しかしタブンネは人の言葉を理解出来、そして何より人間の様に感情表現が豊かだ。
恐怖に震えるタブンネの顔が僕に未知の興奮を与えた。
もっと、もっと!こいつらの顔を絶望に染め上げたい!
その想いが増すとともに自然と笑みが込み上げてきた。
だがその笑みはタブンネ達の表情から察するにさぞかし悪意のある笑みだったのだろう。
反比例の関係の様に僕とタブンネの表情は変化していく。
「この子を返して欲しかったらお前らの棲みかへ案内しろ。」
ママンネは恐怖にプルプル震えながらも小さくコクッと頭を下げた。
両脇のベビンネ達はママンネの手を力一杯握り締めて瞳に涙を溜めていた。
二匹ともママンネ同様恐怖で震え歯をガチガチ鳴らしていた。
僕に掴まれているベビンネは興奮して暴れていたので一先ずバッグの中に閉じ込めた。
必死に出ようとモゴモゴ動いているが無視しておく。
ママンネは棲みかを案内した。
押入れの奥に屋根裏に繋がる小さな穴があった。
あまり掃除をしてなかったので全然気付かなかった。今後は気を付けねば。
懐中電灯で屋根裏を照らすと無くしたと思っていた複数のタオルが見つかった。毛布代わりに使っていたと見える。他にも沢山の食べかすが散乱していた。
さらに奥に、ふと白い物が見えるとママンネが咄嗟に隠そうとした。余程大事な物らしい。
「今隠そうとした物を見せろ。さっきの子が死ぬことになるぞ?」
その言葉にママンネはミィ・・・と涙声をあげながら白い物を僕に差し出した。
それは尻尾だった。
大きさからして大人のタブンネのもの。
親の形見という訳か。
「これは少し預かる。なに、すぐに返すよ。」
ママンネが両手を伸ばし「返して!」とアピールするが無視。
僕は散らかったままの台所に戻った。
タブンネ達の食べかすの他に糞尿が撒き散らされている。
「綺麗に掃除したら子供を返してやるよ。雑巾はこれを使いな。」
僕はそう言って尻尾をママンネに渡した。
「ミィ・・ミィィ!」
ママンネは首を横にブンブン振った後、僕のズボンをキュッと掴み僕を見上げながら媚びるようにミィミィ鳴き出した。
「・・・まあ大事な形見だしな。悪かったな。」
僕の言葉を聞いたママンネは安堵の表情を浮かべ形見の尻尾をギュッと抱き締めながら目を瞑っている。
「良かった。ずっと一緒だよ、お母さん。」とか思っているのだろうか。
形見の
残り香を嗅ぎながらうっとりしているママンネの目の前にミキサーを置いた。 丁度ベビンネ一匹の体がすっぽり入る。
僕は先程バッグに閉じ込めた一匹をミキサーの中に入れる。
「ミチィ!ミッミィ!」
ベビンネがどれだけ足掻こうが脱出する事は不可能だ。
必死な姿とは裏腹に尻尾をフリフリさせ全く緊張感を感じさせないベビンネを見て僕は思わず吹き出してしまう。
そして開けっ放しのミキサーの上からベビンネ目掛けて用意しておいたポットのお湯を一滴かけた。
「ミピャア!」
もう一滴。
「ミヒィィ~!」
熱湯がかかる度に目をカッと見開きピョンピョン跳ねるベビンネ。
青ざめるママンネにボソッと「尻尾で掃除すればこんな事にならなかったのにね。」と耳打ちすると、暫くして涙をボロボロ溢しながらママンネは形見の尻尾を使い糞尿を掃除し始めた。
一通り掃除が終わる頃には尻尾は変色し毛並みはボサボサになり悪臭で残り香どころではなくなった。
それでも大事な物なのか手放そうとしない。
いつまでも汚物まみれの形見を見つめるタブンネ達の姿にも見飽きたので形見にライターで火をつけた。
目の前で大事な物が燃えている。しかし熱くて近寄れず泣く事しか出来ないタブンネ達の絶望的な顔はなかなか見物だったので思わず写メに撮ってしまった。
その後、親との思い出に浸るタブンネ達を現実に引き戻す為にミキサーの中からベビンネを取りだしママンネに見せ付けた。
尻尾を掴まれ宙吊りのベビンネは恐怖と痛みから激しく暴れている。
僕はベビンネの足に鎖を巻き付け床にそっと置いた。自由になったベビンネはママンネの元に一直線に向かうが急に足が引っ張られ先に進む事が出来ない。
バッと後ろを振り返るベビンネの視界には黒い鉄球が。
そして自分の足に巻かれた鎖が目の前の鉄球と繋がっている事を理解したタブンネは涙で顔をクシャクシャにした。
「掃除ご苦労様。もう帰っていいよ。」僕は悪意のこもった一言をタブンネ達に言い放った。
ママンネ達は何とか鎖に繋がれたベビンネを助け出そうと試みるが鉄球が重すぎて動かせず鎖を噛み千切ろうにも歯が立たない。
困り果てたママンネ達はソファーで寛いでいる僕の所まで、とてとてと駆け寄り「ンミィ・・・」と弱々しく鳴いた。
「どうした?もう帰っていいんだぞ?」
僕の言葉に反してママンネは居座り続け囚われのベビンネを指差しミィミィ媚続けている。
両脇の二匹もママンネの手助けをするようにピョンピョン跳ね回る。
「そうか。お前達も繋いで欲しいんだな。」
ママンネ達は必死に「違うよ!」とアピールしているが僕はママンネの脇にいた一匹のベビンネを仰向けに寝かせ股を開かせ片足に鎖を巻いた。
ジタバタ暴れるベビンネの股から妙な熱を感じる。
失禁していた。
僕はイラッとしてベビンネの顔をつねった。
「ミギィ!ミアアアア!」泣きじゃくるベビンネのヨダレが手についた。
少し
お仕置きが必要だな。すでに逃げ出せないベビンネの口を無理矢理こじ開けチューブ式のワサビを思い切り絞った。
「ミガッ!アガッ!ンガァ~!」
ベビンネの口の周りは大量のワサビにヨダレ。鼻水まで流して体液のナイアガラやぁ~!
……興奮して少し調子に乗ってしまった。
目を見開き舌を出したままベビンネはケホケホと咳き込んでいる。
まだチューブの中にワサビが少し残っていたのでベビンネの尻の穴に注入した。「ミピッ!ミピャア!」
手足をばたつかせて苦しむ姿は殺虫剤を撒かれた害虫のようだ。
歯を剥き出しにして力むベビンネの尻から「プップッ」という音とともにワサビが出てくる。
「残したら勿体無いよ。」僕はベビンネの顔を排泄したワサビに擦り付けた。
鼻の辺りを重点的にだ。
ベビンネの鼻と口にワサビが入ったのでガムテープで栓をした。鳴き声が楽しめないがまあいいだろう。
僕がワサビンネで遊んでいると、もう一匹のベビンネが僕の足をペチペチ叩いている。兄弟を助けようとしているのか。生意気な奴だ。
僕はターゲットを切り替える事にした。
紐を使い生意気なベビンネの足をハンガーに縛り付けた。逆さで宙吊りの状態だ。
そして鍋に熱湯の準備をする。
僕はハンガーを持ちベビンネをじわじわ熱湯に近付ける。
恐怖で小刻みに震える姿は素直に可愛いと思える。
そしてあえてギリギリの所で留める。ベビンネが体を丸めれば湯に触れる事はない。
しかし実際には足が縛られているのでベビンネは腹筋を使って体を支えなければならない。
プルプル震える姿が限界が近い事を知らせてくれる。
それから1分もしないうちにベビンネは力尽きモロに熱湯に浸かった。
「ミビャア!ビャァァァ!」
部屋中に甲高い声が響く。
その悲鳴に反応してか僕の腹が鳴った。
そういえば帰ってからまだ何も食べていない。
腹が減ったのでベビンネが入った鍋を使いおでんを作ってみた。
グツグツと煮えたぎる大根、ちくわ、こんにゃく、はんぺん、それらに紛れバシャバシャもがくベビンネ。視覚的にも楽しめ箸が進む。
食後、茹であがりぐったりしているオデンネを取り出した。ピクピクして意識が混濁している
「尻尾を噛み千切れ」
そう言ってママンネの前に差し出す。
当然「出来ない」という態度を示すがそんな事は許さない。
「出来ないなら子供達はみんな死んじゃうよ?」
ママンネはどちらの選択も否定するようにひたすら首を横に振り続けた。
仕方ないので見せしめにまだ無傷の最初に鎖で繋いだ一匹をナイフで少し切りつけた。
浅く、だがしっかりと血が流れ、その悲鳴は目を瞑り現実を逃避するママンネに1つの選択を決断させる。
「チギャアアア!チチチィ~!」
ママンネはオデンネの尻尾に噛みつきがむしゃらに引き千切ろうとしている。
ブチブチと白い毛が抜け落ち尻尾はみすぼらしくなり尻尾に顔を突っ込んでいたママンネの顔はオデンネの糞尿で汚れていた。
「ンギィィィィ~!」
オデンネは歯を食い縛り激痛に耐えようとするが直ぐに絶叫に変わる。
すかさず僕はオデンネの顔を写メで撮影した。
タイトルは「捕食されるベビンネ。」ってとこかな。
「ミフーッ!ミフーッ!」千切った尻尾をくわえながら酷く興奮状態のママンネは「
優しいポケモン」からはかけ離れた獣そのものだった。
まあ、それでも元はタブンネなので迫力などない間抜け面なのだが。
「約束通り子供達を返してやるよ。」
僕はベビンネ達を自由の身にした。
早速駆け寄ろうとしたママンネだが何やらベビンネ達の様子がおかしい。
さっきの姿を見てママンネを怖がっているようだ。
「ミ?・・ミィ!ミィィ!」
ベビンネ達に拒絶されショックを受けるママンネ。
何度も「もう大丈夫よ。こっちにいらっしゃい」と催促しても口の周りに尻尾や血が付いたままではベビンネ達を更に震え上がらせるだけだ。
数分後、ママンネは一匹だけで屋根裏に帰っていった。屋根裏からママンネの啜り泣きが聞こえる。
残されたベビンネ三匹は体を寄せ合って部屋の隅で固まっている。
暫く寄り添っていた三匹だがワサビンネの匂いがキツイのか他二匹が鼻を抑えている。
涙目のワサビンネを不憫に思った僕は風呂場に連れていく事にした。
他二匹がミィミィ騒いでうるさいので軽く蹴り飛ばすと直ぐにおとなしくなった。
ワサビンネは恐怖に震えていたが僕は程好い温度のシャワーで丁寧に洗ってあげた。
ワサビンネはシャワーの心地好さとシャンプーの香りに包まれ恍惚の表情を浮かべる。
風呂あがりもタオルで全身を優しく拭きドライヤーでしっかり乾かし毛並みも綺麗に整えてあげた。
すっかり見違えたワサビンネは他二匹に自慢するように整った毛並みやフワフワの尻尾を見せ付けた。
羨ましそうにワサビンネを見つめワサビンネから香るシャンプーに匂いに鼻をクンクンひくつかせる二匹。
ワサビンネは二匹も風呂に入れてあげて欲しいとアピールしてきた。
「いいよ。綺麗にしてあげるね。」
二匹はその言葉に顔をパアッと明るくしてみせた。
ちなみに二匹の傷は再生力により回復しているので風呂にいれても問題ない。
「ミッ!ミィ!ミッミミ~♪」
僕の手の中の二匹は早く綺麗になりたいとはしゃいでいる。
風呂場に入ると僕は二匹を浴槽に叩きつけた。
「ミギャ!ミギュ!」
と呻きながら突然の僕の変貌に驚く二匹。
僕はシャワーの温度を目一杯あげて二匹に浴びせた。
「ミビャアアアアア!」
二匹は狂ったように浴槽の中を走り回る。
そのうち一匹が石鹸を踏み派手に転倒した。
頭を強打して悶絶するベビンネに追い打ちをかけるように容赦なく熱湯を浴びせ続けた。
「アアアアア!」ビクンビクンと壊れた人形のように痙攣するベビンネ。目の焦点が合っておらず流石に可愛らしさは身を潜めた。
シャワーを一旦止めた後、息も絶え絶えの二匹の全身をナイフで切りつけた。
そして傷口にしみわたるようにシャンプーまみれにして最後は再び熱湯で雑に洗い流した。
散々悲鳴をあげ、すっかり声も枯らしてしまった二匹は力無く「チィ・・・」と呟きピクピクしている。
シャワーの後、三匹を再会させる。
二匹の惨状に驚くワサビンネと、ぐったりしながらも目はしっかりとワサビンネを睨み続ける二匹の姿があった。
ベビンネ達の仲に亀裂が生じ始め一晩があけた。
二匹は体を寄せ合い体を暖め合いながら、すやすやと寝息をたてている。
「スゥスゥ、フミィ~。」一匹は時節寝言のようにミィミィ呟くと体をブルブル震わせた。
直後床に熱を帯びた液体がじわじわと広がった。
隣の一匹は夢の中でご馳走を食べる夢でも見ているのかヨダレを垂らしながら眠っている。
そして寝惚けながら床に広がる液体をペロペロ舐めていた。
一方一晩ハブられたワサビンネは冷えきってしまったらしく鼻水を垂らしながらガタガタ震えて時々「ミシュン!」とくしゃみを繰り返した。
起床した僕は朝食の準備を始めた。
こんがり焼けたトーストの香ばしい香りで目を覚ました三匹は直ぐ様香りの元に駆けつけた。
ママンネも釣られて屋根裏から降りてきた。
再会した家族。
だがどこかぎこちなさを感じる。
ギスギスした関係と言ってもいい。
僕はトーストにマーガリンをたっぷり塗り付けタブンネ達に差し出した。
熱々のトーストにがっつくタブンネ達。
ベビンネ達は慌てて食べるので時々「ミピッ!」と熱さに口をハフハフさせている。
それを見たママンネは口でフーフー冷ましたり千切って食べやすい大きさにしてベビンネ達に分け与えた。いつも冷たい食パンを盗み食いしていたので、ふっくらしてモチモチした食感に感動を覚えているタブンネ達。
僕はタブンネ達が喉をつまらせないようにミルクも添えてあげた。
ピチャピチャと舐め喉の渇きを癒すタブンネ達。
オデンネが顔を上げると鼻にミルクやマーガリンがべったり付いていた。
それを見て笑い出すタブンネ達。
どうやらタブンネ達の関係も修復されつつあるようだ。
今日は休みだ。タブンネ達でたっぷり遊ぶとするかな。満足そうに満腹のお腹をさすったりゲップをするタブンネ達を見ながら僕はニヤ付いていた。
10時過ぎになり家族で堂々と居間で寛ぐタブンネ達に僕は声をかけた。
「食後の運動をしようか。」
ベビンネ達は元気よく返事をした。こうも早く僕に懐くとは。単純なやつらだ。
僕はママンネに目隠しをして壁際に縛りつけた。
ベビンネ達が「ミィ!ミ~!」と慌て始めたが「大丈夫、これはゲームだよ。誰が最初に捕らわれのママンネを助けられるか競争だよ。」
話を理解した三匹は鼻息を荒げ張り切っている。
しかしいくらベビンネ達が小さいとはいえ、そのまま走られたら直ぐにママンネの所に辿り着いてしまう。そこでベビンネ達の手足を紐で縛り玄関からハイハイしながらママンネを目指して貰う事にした。
僕を信じきった三匹は僕に縛られても全く恐怖を感じていない。それどころか早く始めて欲しくてウズウズしている。
ああ、そんなに逸らなくても時間をかけてたっぷり楽しませてあげるから大丈夫だよ。
僕が再び悪意のある笑みを浮かべていたのに気付くものは誰もいなかった。
「ミッ!ミッ!ミッ!ミッ!ミッ!ミッ!ミッ!」
スタート地点にうつ伏せの状態でスタンバイするベビンネ達。
「僕が一番にママを助けるんだ!」と息巻いている。僕は空き缶を叩いた。
スタートの合図だ。
一斉に床を勢いよく這い出す三匹。
縛られ手足の自由がきかずなかなか先に進めず芋虫のようにクネクネ這っている。
オデンネがトップだ。昨夜ママンネに食い千切られ怪我こそ治ったものの、みすぼらしいままの尻尾をフリフリさせながら前進する。僕はオデンネを手で押さえ付けた。
「ミィ?ミッ!ミィィィ!」
身動き出来ないオデンネは「邪魔しないで!」と唯一自由に動かせる頭を振りながら憤慨している。
僕はオデンネの耳と触角に画ビョウを刺した。
「チギャアアアア!」
画ビョウが触角を貫通し床にも刺さっているため移動する事が出来ず、暴れるものなら激痛が増すだけなので「ミィ・・・!ミィ・・・・!」と涙を流し痛みに耐えながらじっとしているしかない。
「お~っと!オデンネはここで一回休みか!」
僕の実況を聞いた二匹がトップに躍り出るチャンスとばかりに張り切りだした。兄弟の危機に気付いていないのか?
二番手はワサビンネだ。毛並みが良くオデンネとは対称的に可愛らしい尻尾を振りながらママンネを目指している。
僕は同じくワサビンネを押さえ付けガムテープを全身に貼り付けた。
「ンミィ?ミミィ~!ミッミィ!」
不快そうにガムテープを睨むワサビンネ。
「ごめん、ごめん。直ぐに剥がすよ。」
僕は乱暴にガムテープを剥がすとワサビンネの整った毛並みは一気に乱れ、毛は抜け落ちていった。
「ミビャビャビャァ~!」僕はのたうち回るワサビンネを大きめのビンに突っ込んだ。
キムチが入ったビンだ。
キムチから頭だけ出したワサビンネはヒリヒリ痛む体をキムチに浸けられ悲鳴をあげた。
いや、訂正しよう。キムチンネだ。
キムチンネから昨夜のシャンプーの香りは消え失せ周りにキムチ臭を漂わせた。
画ビョウで刺されたオデンネ。
キムチ漬けにされたワサビンネもといキムチンネ。
最後の一匹は今朝
おねしょをしていたベビンネだ。
他二匹の惨状を目の当たりにして、すっかり怯んでしまった。
しかし体は紐で縛りつけられているので逃げるに逃げられない。
「ミィ、ミヒィ・・・」
涙目でプルプル震えるベビンネ。
僕が近寄ると歯をガチガチ鳴らし始めた。
ブッ!ブバババ!
ベビンネは派手に放屁したかと思うと勢い良く糞尿を撒き散らした。
僕は呆れながら見下ろすとベビンネは悪びれる様子も無く鼻水まで垂らして泣きじゃくっている。
「床を掃除しないとな」
僕はベビンネを掴みあげ顔を床に擦り付けた。
「ンギュ!ムミギィ~。」嫌がるベビンネを雑巾の様に何度も何度も使用し続けた結果、全身の毛はビチャビチャになり歯の隙間には糞がびっしりこびりついた。
「ミィ!ミィィィ!」
目隠しをされたママンネがベビンネ達の悲鳴を聞き何やら喚いている。
僕はママンネの目隠しを解いた。
「ミヒャア!ミャアア!」ベビンネ達を見てすぐにでも駆け寄りたいが手足を縛られ身動きがとれないママンネ。
僕はママンネの前足・・・じゃなかった、手を自由にしてやり自作のでかいサイコロを渡した。
サイコロの面にはベビンネ達の名前が書いてある。
「このサイコロを振って出た面に書かれたベビンネの所に行っていいよ。」
「ミッ!ミィ!」
ママンネは躊躇無くサイコロを振った。
出た目は「オデンネ」
「ミィィィ!ミィィィ!」「早く足の紐を解いて!」と暴れるママンネ。
「まあ落ち着いて、もう一個のサイコロも振ってよ。」
僕が渡したサイコロをよく見もせず振るママンネ。
出た目は「・・・の尻尾を噛み千切る」
「ミ?ミィィ~?」
不可解そうな顔をするママンネ。
「このサイコロに出た通りの事をしないとベビンネはみんな死んじゃうよ?」
「ミィィ・・・!」
ママンネの顔はわかりやすい程の絶望の色に染まっていた。
っていうかオデンネは2日連続でママンネに尻尾を噛み千切られちゃうのか。
「チギャアアアア!チギャギャア~!」
昨日と同じ光景で同じ絶叫が部屋一杯に響く。
昨日と違うのはオデンネの触角に画ビョウが刺さっている事か。
治りかけの尻尾から白い毛がブチブチと抜け落ちていく。
ママンネも噛み千切る姿が様になってきたな。犬歯を剥き出しにして食らい付く所なんか肉食動物そのものだ。
でも鳴き声は「ミィミィ」なんだよな。ギャップが面白いな。
事が終わり失神寸前のオデンネや他の二匹を自由にしてあげた。
ママンネは「ミヒヒヒ」と笑いながらどこかに行ってしまった。
僕は糞尿を撒き散らしたベビンネを丁寧に風呂場で洗った。昨日のワサビンネと同じだ。
風呂上がりのベビンネにオボンの実を差し出すと鼻をクンクンさせたかと思うと一心不乱にがっつき始めた。
シャクシャクとみずみずしい木の実を頬張る。
ベビンネは「もっと食べたい!もっと頂戴!」と尻尾を振って催促する。僕はベビンネの要求に答えた。
オボンの実をベビンネの前に転がすと礼も言わずクチャクチャと床を汚しながら貪りつく。
どうやら食べる事に夢中のようで周りの事など一切気付いていないようだ。
そのベビンネの姿を見つめ続けるボロボロで空腹の二匹の姿を。
ベビンネは満腹になり体を丸め眠り始めた。
「さて、他の二匹も風呂にいれるか。」
僕は残り二匹を浴槽に入れた。勿論昨日と同じで最初の一匹(今日は先程のベビンネ。)は溺愛し残り二匹は虐待する。
昨日浴槽で丁寧に洗ってやったキムチンネは「早く綺麗にして!」と期待を込めた瞳をしているのに対し、昨日虐待されたオデンネはガタガタ震えている。
対称的で面白いが今日は仲良く虐待コースだ。
僕はオデンネの顔に拳を叩きつけた。
「ミブゥ!」
殴り倒され後頭部を打ったオデンネは鼻血を垂らしている。
キムチンネには腹パンチだ。
「ミグッ!ミガッ!」
殴る度に間抜けな声をあげる。
二匹の悲鳴が浴槽に響き実に心地よい。
二匹をたっぷり痛めつけた後は締めの熱湯シャワーだ。
「ミギャアアア!ミジッ!ミバァ~!」
あれ程対称的だった二匹が今では息ぴったりにデュエットを熱唱している。感慨深いな。
「おい、お前ら二匹で殴り合いをしろ。負けた奴は熱湯シャワー延長タイムだ。」
恐怖にひきつった顔の二匹はお互い顔を見合せてから暫くすると顔をつねったり引っ掻いたりして喧嘩を始めた。
相手を蹴落としてでも助かりたいのだ。
こうしてベビンネ達の弱肉強食の争いが幕をあげた。「ミィッ!ミッピィ!ミィヤァァ!」
最初は子供の喧嘩だったが次第に噛み付いたり首を絞めたりとエスカレートしていく。
「ミギャ!ミギュ!ミビャアアア!」
優劣がはっきりしてきた。オデンネはキムチンネに馬乗りになりタコ殴りだ。
「勝負あったな」
オデンネは泣いてうずくまっているキムチンネに馬鹿にして蔑むような視線を送った後、僕のもとに駆け寄ってきた。
「ミブァ~!」
オデンネは僕に蹴り飛ばされた。
「どうして?」といった顔で僕を見上げるオデンネ。悪く思うな、だって弱肉強食な訳だし。
そういう訳で二匹一緒に熱湯で全身を洗い流した。
浴槽には仲良くデュエットのアンコールが響くのであった。
オデンネ達を風呂から出して先程溺愛したベビンネの所に連れていく。
このベビンネはお漏らしが酷いので
オムツを穿かせる事にした。
個人的にタブンネはオムツが一番似合うポケモンだと思う。
「ミキャ!ミッチィ!」
くすぐったいのか恥ずかしいのかオムツを穿かせる間クネクネ動き回るので思いの外手間がかかった。
「オムツンネ。」
僕が呼ぶと嬉しそうに「ミィッ!」と鳴き返事をする。
名前を付けてもらいオムツンネはピョンピョン跳ね回りながら喜びを表現している。
仕草はとても可愛らしいが名前の由来までは理解していないだろう。
ちなみにオムツンネはオムツを取ると脱糞ネにフォルムチェンジするぞ。
ご機嫌のオムツンネを二匹のベビンネが睨み付けた。「ミフーッ!ミガーッ!」今にもオムツンネに襲いかからんばかりの形相だ。
オムツンネはボロボロの二匹と丁寧に毛繕いされた自分を見比べた。
このままでは二匹に何をされるかわからない。
オムツンネは咄嗟の判断で体を床に必死に擦り付けた。
その結果毛並みが少しだけボサボサになった。どうやら身なりを悪くして二匹に近付く事で怒りの対象から外して貰う魂胆のようだ。
しかし僕が散々虐待した二匹の身なりに近付く事は出来ずオムツンネはシャンプーの香りを周囲に漂わせただけだった。
一生懸命二匹に媚びて機嫌をなおして貰おうとするが口から匂うオボンの実の香りが逆に二匹の逆鱗に触れる事になる。
「ミピャイ!ンミピィ~!」
遂に二匹がオムツンネに暴行を始めた。
触角を引っ張ったり噛み付いたりと弱点を的確に攻めている。
同族だから弱点を把握しているのは当然だが、タブンネにこんな狡猾な一面があるとは意外だ。
オムツンネのオムツはじわじわと黄ばみ始めた。
「ミッ!ミィィィ!」
オムツンネは僕に助けを求めてポテポテと駆け寄ってきた。
僕がバットを持ち出すとオムツンネは二匹を指差しながらミィミィ喚いている。おそらく「早くあいつらをやっつけて!」だろう。
僕はバットを思い切り振り下ろした。
鈍い音と共に一匹のベビンネが倒れ込む。
オムツをしたベビンネだ。
前歯がへし折れ鳴き声は「フィ~。フヒィ~。」に変わったオムツンネ。
突然の事態に全く現状を理解出来ていない。
「可愛がるのも虐待するのも僕の気分次第だ。お前達は一時も気を休めてはいけないんだよ。」
生え揃ったばかりの歯を失い号泣するオムツンネ。
オムツの他に入れ歯も必要になりそうだな。
他二匹は僕に暴行され続けるオムツンネの姿を見て「次は自分かもしれない」という恐怖を味わっていた。
3匹のベビンネはそれぞれ離れた場所で眠りについた。
お互いに疑心暗鬼に陥り一度修復した絆は脆くも崩れ去った。
ママンネも家の中にいない。ベビンネ達を見捨てて出ていったのか?
ベビンネ達は毛布をかけてくれて子守唄を歌ってくれたママンネもお互いに体を寄せ合い暖め合う兄弟も側におらず孤独で凍える一夜を過ごす事となる。
寒さでガタガタ震えながら丸まって眠る子や眠りながらグスングスンと涙を流す子、悪夢を見ているのか突然絶叫のような寝言をあげる子。どの子も可愛いな。明日もいっぱい苛めてあげるからね。
さて、今のうちに虐待グッズでも用意してこようかな。
そしてまた日は昇り次の日になった。
ママンネはいつの間にか屋根裏に戻っているらしい。物音が聞こえる。
我が物顔で僕の部屋を出入りするなど腹立たしいな。あとで耳でも削ぎ落とそうかな。
ベビンネ達は自分の腹の鳴る音でそれぞれ目を覚ました。
不安そうな表情で辺りを見回している。
「ミキュ~。」
空腹で座り込んでいるベビンネ達。
昨晩はオムツンネ以外、ろくに何も食べさせていない。流石に限界だろう。
僕は3匹に首輪をつけた。首輪の鎖の先は黒い鉄球。鉄球の重さのせいでベビンネ達の移動出来る範囲は限られる。
「ほら、朝食だよ。」
そう言ってベビンネそれぞれの前にオボンの実を転がした。
ただし鎖で繋がれたベビンネ達の手の届くギリギリ外だ。
ベビンネ達は目を輝かせオボンの実に向かうが鎖のせいで食べる事が出来ない。「ンミィ!ミギィィィ・・・!」
直ぐ目の前に食べ物があるのに、どんなに必死に手を伸ばしても届かない。
ベビンネの口元はヨダレの大洪水だ。
オムツンネには特別に木の実を直に渡す。
「フィ~!フィフィ~!」サファイアの瞳をキラキラ輝かせ木の実をじっくり凝視したあと、かぶり付こうとするが昨晩僕に歯をへし折られたので木の実をかじる事が出来ない。
「フガッ!ファ~!」
サファイアの瞳は充血し真っ赤に染まった。
仕方なくペロペロと木の実を舐め続けているが勿論腹は膨れない。
いじらしく健気で可愛いな。
「朝食の時間は終わり。残したご飯は片付けるよ。」僕が木の実を取り上げた時のベビンネ達の表情は最高だった。
残飯となった木の実をゴミ箱に捨てるとベビンネ達はいつまでもゴミ箱を名残惜しそうに見つめ続けたり、両手を伸ばして悲しそうにミィミィ鳴き続けた。
だが餓死して死なれてもつまらない。
餌はちゃんと与えないとな。
僕は先程捨てた木の実を取り出してベビンネ達の届く所に転がした。
涙目の子や虚ろな目の子達の瞳に再び光が戻ると感極まり「ミィ・・・・!ミミィ・・・・!」
と声を詰まらせながらも木の実を抱き締めた。
ベビンネ達が木の実を食べ始めようとした直前に僕は木の実に大量の力の粉という苦い薬をかけた。
「ンミィ~!ミフーッ!」明らかに不快な顔をするベビンネ達。
しかし今はこれしか食べ物はない。好き嫌いをしている場合ではないのだ。
ベビンネ達はシクシクと泣きながら木の実をかじり始めた。
「ミィィィ・・・・!フミィ~・・!」
あまりに苦いのか一口食べる度に舌を出し苦痛に顔を歪めている。
ベビンネ達は何か飲み物を欲しがるようにアピールを繰り返すが僕は無視した。
オムツンネは歯がないので木の実を見つめたまま、じっとしている。
「オムツンネ、口を開けて。」
オムツンネは顔を上げて口を大きく開けた。
「ファ~。」と間抜け面で間抜けな声をあげてご馳走を今か、今かと待ちわびている。
僕はオムツンネの口に直に力の粉をふりかけた。
そしてオムツンネが口に異物が侵入してきた事に気付き目をカッと見開いた刹那、オムツンネの口をガムテープで塞いだ。粉を噴き出されては掃除が面倒だからな。
「ングーッ!フーッ!フーッ!」
暴れるオムツンネに一発蹴りをいれ黙らせ、やっと朝食の時間は終了だ。
朝食が済み、3匹のベビンネは未だに口の中に残る力の粉の苦味に顔を歪ませながら僕を警戒している。
僕を睨み付けるオデンネ。僕から隠れようと黒い鉄球で自分の体を隠そうとするキムチンネ。(だが鉄球よりベビンネの体の方が大きいので全然隠れていない。)
オムツンネは不安そうにプルプル震えている。
それぞれ首輪で繋がれている為に逃げる事も隠れる事も出来ない。
「ミグルルル・・・!」
唸るオデンネ。
全く迫力は無い。
口の周りが粉まみれで真っ白だ。
僕が手を伸ばすと「ミガァァ!」と噛み付こうとしてくる。僕はセロハンテープでオデンネの鼻を吊り上げた。物真似芸人のように。豚鼻になったオデンネは変わらず威嚇を続けるが僕は我慢出来ず笑ってしまう。笑われたオデンネは恥ずかしさと怒りで体をプルプル震わせ顔を真っ赤に染めている。
涙目なのが一層笑いを誘う。
「フガッ!ミフンガーッ!」
憤慨しているオデンネを仰向けに寝かせ首を絞めながら押さえ付けた。
「カフッ・・!ンミ・・・・ィ!」
大音量のオデンネの怒鳴り声はか細いうめき声にボリュームダウンし、瞳から生気が失われていく。
足をバタバタさせて足の裏のハートマークの肉球をチラつかせるオデンネを見て僕は肉球を滅茶苦茶にしてやりたくなった。
媚びた体のパーツ1つ1つを台無しにしてやったら、どんな表情を見せてくれるだろうか?期待に胸が膨らむ。
「コヒュー。コヒュー。」虫の息で呼吸音がおかしくなっているオデンネの足に画ビョウを刺してみた。
「ンヒャ!ビャァァ!」
プスップスッと画ビョウを黙々と刺し続けると息を吹き返したオデンネは刺される度に体をビクッビクッと痙攣させた。
体の感覚も麻痺しているのか糞尿を垂れ流している。肉球はすっかり血まみれになりハートマークはぐちゃぐちゃになった。
手鏡でオデンネに見せてやると「ミビャアアアア~!」と顔をクシャクシャにして号泣した。余程ショックだったのだろう。ちなみにまだ豚鼻のままだ。
次にナイフでオデンネの尻尾の毛を刈り取った。
フワフワ感は皆無になりみすぼらしく惨めな尻尾は既にホイップクリームとは形容出来ない。
「ミック。ンミッ・・。グスッ。」
泣き疲れ、時々しゃっくりを繰り返すオデンネの顔は憔悴しきっていた。
僕を睨み付ける気力も既に消え失せたようだ。
「ミィミィ!ミィィィ!」キムチンネが「もうやめて!」と訴えている。
昨夜オデンネに酷い目に合わされたというのに庇うつもりなのか。
僕はナイフでオデンネの触角を切りつけた。じっくりじわじわとだ。その間オデンネは声を枯らさんばかりに絶叫し続けた。
そしてあえて切り落とさず、後少しの力で千切れる程度に留めた。
千切るのは僕ではない。
「キムチンネ。オデンネの触角を思い切り引っ張れ。そうすれば、これ以上痛め付けたりしないよ。」
「ミッ?ミィ~・・・!」僕は躊躇うキムチンネの首輪を外しオデンネの側に移動させた。
「ミッ!」意を決したキムチンネはオデンネの触角を引っ張る。
傷ついた触角を引っ張られたオデンネの悲鳴を聞き時々力を緩めるが、それでもキムチンネは触角を引っ張り続けた。
「ンミィィィィ・・・・・!」
「ミギャアウア~!ミヂィィアアア!」
力むキムチンネの鳴き声と尋常ではない痛みからくるオデンネの絶叫のハーモニー。
オムツンネは目を瞑り耳を抑え、ガタガタ震え続けたままオムツの黄ばんでいく面積を広げるだけだ。
ブチッ!
ついに触角が千切れた。
オデンネの触角があった場所から血が噴水のように噴き出す。キムチンネは触角をくわえたまま尻餅をついた。
「ミャガガガアアア!アガアウア~!」
オデンネは床を転げ回りながら壊れた機械のように奇声を発している。しつこいようだがオデンネは豚鼻のままだ。
そのうちに激しく痙攣し始め、まるで陸に打ち上げられた魚のようにビチビチ跳ねている。
「ミ・・・・。ミヒィ・・・!」
戦慄して腰を抜かしたまま後退りするキムチンネ。
「あ~あ、キムチンネのせいでオデンネが壊れちゃった。僕はただ触角を引っ張れって言っただけなのに。」
キムチンネは顔を青ざめ口をパクパクさせている。
声を震わせさながらドラマで誤って人を殺してしまったシーンを見ているようだ。
この場合は殺タブ事件か。
「ミッ!ミィヤァァ!」
オデンネを傷付けたキムチンネは僕のズボンの裾を掴み「何とかして!」と懇願してくる。
壊れたオデンネを自分ではどうする事も出来ず僕にすがるしかないのだろう。
「残念だけど僕にはどうする事も出来ないよ。」
万策尽きたキムチンネはその場に座り込みワナワナと震えた後、大声で泣き出した。後悔と自責の念、無力感あらゆる要素がキムチンネを追い詰める。
泣いてどうなる訳でもない。だがそれでもキムチンネは止めどなく溢れる涙を抑える事は出来なかった。
「ミビャアアアア~!ミビャイィィィ!グギィィィ!」
悔しさも混じっていたのだろう。土下座のように頭を垂れたまま激しく歯軋りし両手を強く握り締めている。
オムツンネは先程と変わらず完全に現実逃避モードだ。
オムツは黄ばんで汚ならしい。
僕はオムツンネのオムツを取り替えてやった。歯をガチガチ鳴らしていたが、さほど暴れなかったので労せず取り替え完了。
その後オムツンネの前に飴玉を転がした。
始めは警戒して飴玉に軽く威嚇をしていたが鼻をクンクンひくつかせ匂いを嗅いだ後ペロペロと舐め始めた。
「フィ!フィフィ~!」
飴玉の味を気に入ったようだ。一気に頬張り口の中でコロコロさせている。
甘い香りが口一杯に広がり遊ぶように舌で飴玉を転がしながら味わうオムツンネ。歯の無いオムツンネにはこれ以上ないご馳走だ。
ましてや朝食は苦い薬だったのだから天にも昇る心地だろう。
「フィ・・・!フィィ・・・!」
涙を流し喜ぶオムツンネ。飴玉と同じように床の上でゴロゴロ転がりながら味わっている。
一方キムチンネは突然ハッと何かを思い付いたように顔をあげてポテポテと歩き出した。
屋根裏に向かっている。
ママンネを頼るつもりだ。しかしママンネは昨夜からベビンネ達を放置し夜中勝手に外出し帰ってからも屋根裏にこもったままだ。
到底助けてくれるとは思えない。
キムチンネの後を追ってみると屋根裏からママンネの荒い息づかいが聞こえてきた。
「ミッ!ミッ!フーッ!ミッ!ミッ!フーッ!」
息づかいは次第に荒さを増しボリュームもあがり、やがて絶叫に近くなった。
「ミィアァァァ~!」
今日一番の絶叫が響くとゴロン、ゴロンと何かが転がる音が数回して屋根裏は再び静寂を取り戻した。
最終更新:2011年11月16日 19:55