ノンブレーキ

ここはカント―にあるサイクリングロード、いま3人の単車乗りが集まっている
いずれも柄が悪そうでいかにも暴走族だと分かる外見のだが・・・
A「俺ら・・・他の人に迷惑かけていたのかな」
スキンヘッドのAが元気な下げに呟く
B「ああ、振り返ってみれば人様に迷惑ばっかりかけていたなこの6年間」
そうモヒカンのBがいう
C「俺は!俺は償いてぇんだよ!!」
ピアス男のCが叫ぶ
セリフとは裏腹に反省の心に満ちている
B「だけどよ、どうやって償うんだよ俺らの今までしてきた悪行は計り知れないぞ」
A「それなら安心しろ近隣住民から迷惑で困っているという組織があるんだ、だがそこを壊滅させるには・命・かけるぞ」
C「じょーとうだよ!俺の命はこの世界の皆の明日を繋ぐためにつかってやんよ!それでなんなんだよその組織ってのはよ」
A「それは」



場面が移りここはサイクリングロードの一番上よりさらに上に位置する所、そこに一つの家があった
いや家というより元研究所だ、今は研究グループが破棄したため無人となっていたがここ3か月ある奴らがこの家を占拠していた
「むほほ~ん、今日も素晴らしいおクソさまの香りでぼくちん幸せだよ~ん」
その知性を感じさせない間抜けなしゃべり方に二足歩行をしているとはいえ歪な形をした物体がうっとりした顔で呟く
ミミヒヒィ(ブリブリ)
ミッミッ(パコパコ)
ミッヒャヒャ
部屋の中で糞を垂れ流したり、所構わず交尾し無責任に卵をポコポコ生んでそれを喜んでいる最底辺の生物
そう薄汚れたピンクと白の嫌悪するツートンカラーに皮下脂肪たっぷりのブヨブヨの悍ましい外見の生物
カントーには生息しないタブンネだったのだ
この研究所はいま歪な奴が勝手に占領して連れ込んだタブンネを繁殖させているのだった
目的はもちろんカントー地方のタブンネによる支配だった
実力は全生物の最底辺に位置するがそれ故か繁殖力は馬鹿みたいに高い
歪な奴はタブンネに入れ込んでおりカントーにばらまけば皆が喜ぶと意味不明な勘違いをしているのだ
しかし実際は研究所から異臭がする
気味の悪い鳴き声が聞こえる
など近隣住民から嫌がられていたのだ
そのなかAは偶然この歪な奴のカントー征服の野望の秘密を知ってしまったのだ

B「おいおい、冗談じゃないぞあのタブンネがカントー中に萬栄だと冗談いうなよ」
A「俺も聞こえたときは耳を疑ったさ、そんな魔界を望んでいる屑がいるなんておとぎ話の中の話だけかと思った」
C「おい・・・・これじゃねえか」
Cがぶるぶると武者震いをして冷や汗を流す
A「お、おいC、どうしたこんな話聞いて気分悪くなったか」
C「ちげーよ!こんな話を待ってたんだよ」
C「世界の敵ともなりうる組織の存在、そいつらを倒して世界を救うことが俺らの贖罪だろうが!じゃあさっそく」
Cが単車にまたがろうとしたのをAが慌てて止めた
A「C、まてよ、いま奴らが立てこもっている施設はもと研究所で危ない研究をしてたらしく耐衝撃は抜群、俺らが叩いてもビクともしないぞ」
C「マジかよくっそ!、変なところに寄生しやがってどーするんだよ」
A「今俺もそれを考え中だ・・」
B「なあ」
今まで沈黙していたBが唐突に声を上げる
B「その研究所が丈夫なだけで周りは普通の土地・・なんだよな」
A「ああ、特殊な建物を建てただけって聞いた話だから間違いない
B「なら俺に案がある聞いてくれ
A「マジかよ、文字通り命をかけるじゃねぇか、覚悟はしていたが」
命がけの戦いになることはわかっていた、しかしこの考えはまさに本当に命を懸けるものだ
C「くっそ!やってやる!やってやる!やってやるよチクショー!」
Cは雄叫びをあげ襲いくる恐怖を打ち消していた
そして決行の日が・・やってきた

その日の深夜、歪な奴は大量のタブンネに埋もれ異臭の中寝ていた
そいつももはや同じ匂いを発している為感じていないのかもしれないが
ここまで安心できるのもこの研究所の防御力を頭で理解できなくてもなんとなく感じているのだろう
しかしそれも今夜までのとは知らず

いきなりガタンと研究所全体が揺れたのだ
「な、なんだよ~せっかく素晴らしい香りの中ねでたのに!むきー」
最初は地震かと思ったが長すぎる、さらに窓の景色が動いているのだ

Bが考えた作戦、研究所のすぐ下には下りのサイクリングロードがある
研究所の建物が丈夫で彼らの打撃ではビクともしない
ならば研究所にアンカーをかけ彼らの単車に繋ぎ岩場からぴっぺはがそうという戦法だ
B「ここまではうまくいったな」
C「すげーなお前!将来社長になれるぜ」
A「気をゆるませるな、これからが本番だ」
彼らは一丸となり全集中力を持ち車輪を前へと固定した
誰か一人でもズレて転げ落ちれば他の2人まで巻き込んでしまう
そんな他の人を思いやる気持ちが彼らに極限の集中力を授けたのだろう

一方秘密基地内はこの研究所の強度を知ってからか
外の3人に向かいバーカとかべーとか幼稚で稚拙な馬頭ばかりしていた
その脳をもう少し他に回せば結果は違ったかも知れないのに

3人は集中力を極限に使いながら走っていたが
B「・・・そろそろだな」
A「ああ、あの研究所の奴らも気が付いてない、しかし本当に」
C「びびってんじゃねーよ!」
Cが叱咤する
C「俺らは今まで他の人に迷惑かけてきたんだ、だから今度は俺らの行動で人々を幸せにするんだろ」
A「ああそうだったな、ごめん・・・決心は決まっていたんだ、これ実はもうブレーキが利かないんだ」
C「はは、お前もかよ・・・おれの場合は心のブレーキ―が焼き切れてるんだぜ」
B「何言ってるんだよお前ら(笑)・・・俺も人のこと言えないがな」
そうこうしている内に終点がみえた
そうサイクリングロードの終点の先は・・崖、そして海だ
さすがに奴らも気が付いたのか研究所からガタガタと音がする
C「逃げられちゃたまんねぇ、突っ込むぞ!」
AB『おう』
そのまま彼らはガードレールを突き破り・・研究所ごと海へとダイブしたのだ

まぶしい光が彼らを包む
ここが天国か地獄か、一瞬そんなことを考えたが暫く経ちここが現世であることがわかった
ABC『え、ここは』
ジョーイ「こら、君たちはまだ寝てなさい、海から救出されてまだ衰弱しているんだから」
入ってきたジョーイさんの姿をみて彼らはここが病院であることがわかる
C「お、俺たち、助かったのか」
A「だが、俺たちみたいなはぐれ者の不良を助けても世間の目は・・・」
ジョーイさんはふふっと一泊おきカーテンを開けた
そこにはここいら編一帯の人がいた
その人だかりは彼らを見ると一斉に歓声をあげ彼らに対する祝福の声を上げたのだ
ジョーイ「事情はすべて分かってるわ、彼方たちが邪教を倒した英雄だって」
B「お、俺たちみんなの役に立てたのか・・・」
ジョーイ「ええ、立派よ彼方たちは立派な人から称えられる英雄、それはみんなが認めているわ」

それから数年たち
Aはカントーの治安を守る特別パトロール隊に
Bは大手ゼネコンの社長に
Cは仁義に厚い男稼業へと
それぞれ道を進めたのだった

(おわり)
最終更新:2015年02月18日 20:42