「スタジアムの皆様、お待たせしました!ヒーローインタビューです!
今日のヒーローはもちろん、この人!逆転タイムリーを含む3安打の……」
試合終了後のヒーローインタビューに、スタジアム中の観客が大いに盛り上がる。
お立ち台の上では、今日の主役が笑顔でインタビューに答えている。
そして、インタビューが終わるとスタジアムがより一層の盛り上がりを見せる。
お立ち台から降りた選手に向かって、ある生き物がポテポテと近づいていく。
タブンネだ。
チームのロゴが入ったユニフォームを着ており、その腕には花束を抱えている。
試合を決めたヒーローにタブンネが笑顔で花束を渡す。
花束を受け取った選手も笑顔で花束を受け取り、タブンネの頭を「よしよし」となでる。
仕事を果たし、頭をなでてもらったタブンネは嬉しそうに「ミィィ♪」と鳴く。
このタブンネは、球団のマスコットである「ミィミィ君」
そして、タブンネをマスコットとして起用しているこの球団は「ミィミィぴんにくズ」
ポケモンフード業界最大手の「ミィミィフーズ」を親会社に持つ、リーグを代表する強豪チームだ。
親会社の資金が豊富だということもあるが、このチームの強さの本質は練習にあるという。
それでは、強さの秘密である練習をこっそり見せてもらうことにしよう。
ぴんにくズの練習場の空気はとても明るい。
選手同士の仲はとても良く、アットホームな雰囲気だ。
今は打撃練習の時間のようで、バットを構えた選手が打席に入っている。
打撃投手がマウンドから、キャッチャーミットに向かってボールを投げる。
「チィィィ!」
打撃投手の投げたボールが叫び声を上げながらキャッチャーに向かっていく。
バッターのスイングがジャストミートすると、外野に大きなフライが上がる。
1匹のタブンネが落下地点にむかってトタトタと走っていくが追いつけない。
べシャリという音を立てて、ボールが地面に落下する。
めそめそと泣きながらタブンネがボールを回収していく。
そして、打撃投手が次のボールを投げて、バッターがそれを打つ。
外野に飛んだり、内野を転がったりでボールの行く先は様々だ。
練習の妨げにならないように、タブンネがボールを回収する。
バッティング練習はこれの繰り返しだ。
ボールというものは消耗品だ。その費用も決して安くはない。
しかし、ぴんにくズはボールにベビンネを使うことで、その問題を解決している。
親会社の「ミィミィフーズ」から提供される、あまりもののタブンネやベビンネ。
使い捨て感覚で使うことができるボールは球団にとって大助かりだ。
それに、ベビンネを使うのは費用対策だけではない。
打撃投手の手の中で必死に抵抗するベビンネ。
ボールの握りや形が均一ではなく、投げられたときはジタバタと暴れる。
結果として、ボールは不規則な軌道を描き、現実にはありえない変化をする。
そのボールを捉える練習により、試合中のあらゆる球に対応できるようになるのだ。
また、ベビンネは実際のボールより重い。
それを飛ばそうと思ったら、どうしても筋力が必要になる。
さらに、体にかかる衝撃を減らすために、真芯で捉えるようにもなる。
こうして、あらゆる球に対応できるうえに、長打力のあるバッターが生まれていくのだ
続けてマシン打撃の時間になる。
このとき、キャッチャーはタブンネへと変わる。
ベビンネを受け止めたいというタブンネの意志を尊重したのだ。
絶対に受け止めてやると張り切るタブンネ。
バッターが打つのだから不可能だということには気づいていない。
マシンから1球目が放たれる。
「ミィッ!」と気合を入れて、タブンネがミットを構える。
バッターはそれを見送り、タブンネにズドォン!と音を立てて吸い込まれる。
明らかにベビンネではない何か重い音が響く。
「ミハァッ……!?」
ミットで捕球できなかったタブンネのお腹に、ボールがめり込んでいる。
それはベビンネではなく、ピンク色にコーティングされた「黒い鉄球」
痛みに悶えるタブンネの目の前で、ジャストミートされたベビンネが外野に消えていく。
あわててミットを構えるタブンネだが、ふたたび飛んできた鉄球が顔にめり込む。
倒れたタブンネを嘲笑うかのように、ベビンネが次々と外野に飛ばされていく。
たまに打ち損じたベビンネが真後ろに飛んでくるのだが、タブンネは動くことができない。
手をのばせば届きそうなところに、ベビンネが落下する。
そして、バッターが見送った鉄球がタブンネやベビンネに直撃していく。
この練習は、ボールを見極めさせるための練習だ。
ピンク色にコーティングされた鉄球は、ベビンネに見えてしまう。
しかし、鉄球なんて打てば、当然のように大怪我をしてしまう。
そのために、バッターはボールのわずかな違いを瞬時に見極める技術を身に着けようとするのだ。
マシンとタブンネを使うのもこれが理由。
鉄球を投げれば肩や肘を痛める可能性があるし、鉄球を捕球させればキャッチャーがケガをしてしまう。
タブンネにもできる、いや、そこそこ頑丈なタブンネにしかできない重要な仕事なのだ。
誰もやりたがらないから、仕方なくタブンネにやらせているわけではない。
この後も練習は続いていく。
タマゴを割らないように扱い、指先の繊細な感覚を身に着ける「タマゴキャッチボール」
不規則にバウンドするベビンネを捕球し、イレギュラーバウンドに対応する「ベビンネノック」
地面から顔だけ出したタブンネを踏まないように走り、無駄のない走塁を目指す「タブンネベースラン」
数々の独創的な練習が行われていった。
練習が終わると選手たちは食事をとる。
しっかりと栄養をつけることも名選手になるための条件だ。
今日の食事は、タブンネの肉をふんだんに使ったバーベキュー。
おいしい食事をみんなで食べることでチームの結束を高めることができる。
これも強さの秘密なのだろう。
鉄球が直撃し、気絶していたタブンネが目を覚ます。
おいしそうな匂いに鼻をくすぐられたのだ。
タブンネが目を覚ましたことに気付くと、選手たちがタブンネにも肉をあげる。
このタブンネだってチームの一員だ。
練習後でお腹がすいていたこともあり、タブンネは嬉しそうに肉をほおばる。
心底おいしいといった様子で食べるタブンネに、選手やスタッフから明るい笑い声が上がる。
食べ物を元気よく食べる姿は、それを見ている周りの人の気持ちも明るいものにさせてくれるのだ。
ちなみに、バーベキューに使われている肉が、練習に使われていたベビンネだということは誰も知らない。
さて、このへんで練習場から去ることにしよう。
いかがだっただろうか。
強いチームには、強いチームなりの理由があるということがわかっていただけたのではないかと思う。
これからも「ミィミィぴんにくズ」の活躍に期待したいところだ。
最後に、宣伝になってしまうがスタジアムはタブンネ関連のものが充実している。
タブンネと触れ合うことのできるタブンネ広場は野球に興味のない人でも楽しめる。
イニング交代の時には、タブンネや子タブンネによるかわいらしいダンスが披露される。
ベビンネ串をはじめとする食事は、すべてのスタジアムの中でも1、2を争うほど美味しさだ。
トレーナーのために、経験値稼ぎ用のトレーニングルームがおいてあるのもポイントが高い。
みなさまも一度、スタジアムを訪れてみてはどうだろうか。
……そういえば、タブンネが「ピンク」の「肉」で「クズ」だから「ぴんにくズ」だとかなんとか。
(おわり)
最終更新:2015年02月18日 20:56