夏のタブンネホラーシリーズ 第一章

第一章 発端


ここはヒウンシティに本社を構えるゴシップ紙、
「週刊ゴシップ」の本社ビル内。
記者達がせわしなく働いている。
その中で、パソコンを食い入るように見つめる
一人の女性がいる。

「やっぱりおかしい…」
「ようサエキ。今度は何を調べてるんだ?」
「あ、編集長。実は三日前のタブンネ死亡事件を調べてるんですが…」
「あぁ、そういやあったな。いろいろと噂が出回ってるらしいじゃないか。
タブンネは呪いで殺されたって…」
「呪いですか…。まぁゴーストタイプのポケモンがバトルで
似たようなのを使いますけど、相手を殺してしまう程では
ありませんしね。」
「あぁ。それで?今のところどこまで調べた?」
「それが…変なんですよ。警察の解剖では死因は心臓麻痺と
あるんです。」
「心臓麻痺?体が弱かったとか?」
「いえ、そのタブンネの定期検診では何も異常は無かったと…。
ただ…、死ぬ一週間前からタブンネと、トレーナーの女子高生の
様子がおかしかったらしいです。」
「おかしいというのは?」
「まるで何かに怯えているようだったと…。お昼が終わったら、
そのタブンネのお葬式に取材しに行くつもりです。」
「そうか…。頑張ってネタにしろよ。」
「はい。」

サエキはお昼を終え、車を女子高生の家まで走らせた。

ポケモン用の葬式場は閑散としていた。
女子高生の両親しか参列していない。
それも当然と言えば当然である。
亡くなったのは人間ではなくペットのタブンネなのだから。

「失礼します。週刊ゴシップの記者のサエキと申します。」
「はぁ、記者さんが何を取材に?」
「今回亡くなったタブンネについてなのですが…」
「あの…、記事にしてもらうようなことはなにも…」
「不幸中に押しかけて申し訳ないです。ですが私は
真実が知りたいと思っています。」
「ではその…、私達の名前を伏せるという条件でしたら…」
「承知しております。ではタブンネが亡くなる一週間前からの
様子についてお聞かせください。」
「はい、タブンネが死ぬちょうど一週間前、私と夫は娘の
トモミに留守番をまかせてドライブに行っていたんです。
でも帰ってきたら家の電気がすべて消えていて、ブレーカーを
戻してトモミの様子を見に行ったら…、あの子はうずくまって
何かに怯えていて、タブンネは耳から血を出しながら白目を
剥いて気絶していました。」
「耳から血?」
「その時はどうしてかわからなかったのですが、その後でわかりました。」
「その後?」
「ポケモンセンターで目を覚ましたタブンネ、いきなり自分の耳を
引っ張り始めたんです。それからは悲鳴をあげて暴れだすので、
ベッドに拘束具で縛るしかなくて…」
「自分の耳を引きちぎろうとしていたのですか?」
「ええ、それに落ち着かせるためにタブンネが好きだった『ミィミィマーチ』の
CDを聞かせようとしたら、それまで以上に暴れたんです。」

母親はより暗い表情で話を進める。

「そしてナースのサーナイトさんが点滴を交換しに来た時が一番ひどい
ものでした。サーナイトさんを見たとたん絶叫をあげて激しく暴れ、
口から泡を吹き、失禁までするありさまで…」
「サーナイト?なにか心当たりは?」
「いえ、ただ、娘があれからうわ言のように『サーナイトが来るっ!』と
繰り返して…。今は病院で安静にさせています。」
「そうですか…。ではタブンネが亡くなった時の様子は?」
「それはわかりません。突然でした。タブンネが急死したという連絡が病院から
あっただけで…、その…顔が…」

母親は口を手でおさえた。

「大丈夫ですか?」
「ええ、あの、タブンネの死に顔が尋常ではなくて…」
「?」
「……見てもらえればわかりますが、いえ、やはりご遠慮した方が…」
「構いません。全てを知っておきたいのです。」
「そうですか…。」

母親は棺の蓋を開け始めた。
最終更新:2015年02月20日 00:57