今日、彼が知らない女と腕を組んで一緒に歩いているのを見かけた。
この親密さは、女友達というレベルではない。声をかけたいのを我慢してこっそり後をつける。
駅のホームで二人はベンチに座った。すぐ後ろの柱の陰にあたしがいることなど全く気づいていない。
耳を澄まして会話を聞いてみると、その女がペットも飼えるマンションに引っ越したので、
タブンネを引き取りたいということを言っているようだ。
「だいぶ長く預けちゃってごめんねー。タブンネちゃん元気にしてる?」
「元気元気!飼育係の○○さんがしっかり世話してくれてるからさ」
あたしの名前だ。飼育係? あたしが? あたしが彼から預かってるタブンネのことなの?
まさか、まさか、まさか……。
「でもあんたわっるいわねー、自分じゃ飼えないからって人に世話押し付けるなんてさ」
「まあまあ、世間知らずのお嬢様にタブンネちゃんを世話する喜びを教えてあげたんだよ。
授業料払ってほしいくらいだぜ」
「ひっどーい」
あたしの頭の中がぐるぐる回り出す。世界が足元から崩れそうな気がした。
電車がホームに到着した音に紛れ、あたしはその場から逃げるように走り去った。
どうやって自分の家までたどりついたか、よく覚えていない。
泣き顔だけは人前で晒すまいと必死でこらえていたつもりだったが、それも自信がない。
とにかく家に帰ったあたしは玄関を閉めると、靴を脱いだところで、廊下にがくりと座り込んだ。
「そんな……どうして……」
思えば、確かに前々から怪しい兆候はあった。
私の家へ遊びに来た時に、「広くていい家だね」とやたら褒めていた事…。
それから間もなく、自分の所では飼えないからとタブンネを預けられた事…。
誰かと頻繁に、携帯電話でポケモンの話をしていたが、その口調も女に対するものだった。
「大学のサークルの女友達だよ」って言うからそれ以上追及しなかったけど…。
全てわかった。彼……いや、あいつはあの女のためにタブンネを預ける場所が欲しかっただけなんだ。
あたしは、甘い言葉に乗せられて有頂天になって、処女も捧げて、
タブンネの飼育係をやらされていただけだったんだ……なんてバカなあたし……。
涙で廊下がぐしょ濡れになるのも構わず、あたしは泣いた。
しばらくして携帯が鳴った。発信者を見てギクッとした。あいつからだ。
慌てて涙を拭い、できるだけ平静を装って電話に出る。
「もしもし……」
「よっ、俺だよ。突然で悪いんだけどさあ、明日タブンネちゃんを引き取りに行っていいかな。
実は預かってくれる人が見つかってさ。いつまでもお前に迷惑もかけられないし」
「うん……いいけど……」
「悪いな。明日10時に行くからよろしく、そんじゃ!」
言いたいことだけ一方的に言うと、素っ気無く電話は切れた。気遣いなど全くない業務連絡。
言葉には出さなくとも、もうあたしには興味がないのだとはっきりわかる。
(ああ、もう用済みなんだ。捨てられたんだ……)
惨めな思いがこみ上げてきて、あたしは携帯を取り落とすと、また涙に暮れた。
ひとしきり泣いた後、あたしはふらふらと立ち上がり、タブンネを飼っている部屋に向かう。
あたしの家はいわゆる旧家で、年季は経ているもののかなり広い。
両親が海外で駐在する仕事をしていて、帰ってくるのは年に一度か二度。
使っていない部屋も多く、タブンネが多少鳴き声を上げても近所に迷惑はかからない。
だからあいつに目をつけられたのだろう。あたしという飼育員つきの、格好の飼育小屋として。
タブンネを飼っているのは十二畳の和室。一隅に柔らかい毛布を敷き詰め、巣の代わりにしている。
側には一平方メートルくらいの平たい箱に砂を敷き詰めたトイレも用意してある。
親子5匹で使用するので、これくらいの広さが必要なのだ。
巣の側では、体長25センチ程の4匹のベビンネがじゃれあって遊んでいた。
そして巣に寝転がった母親タブンネが、その光景を目を細めて眺めている。
ベビンネ達はあたしの姿に気づくと「チィチィ♪」と口々に鳴きながら、私の足元にまとわりつく。
「ごはんちょうだい」のサインだ。乳離れしてオボンの実の味を覚えたからだ。
さらに催促するようにママンネも、手をパタパタさせ、ふわふわした尻尾を振る。
子供達同様に食事をせがんでいる。
タブンネ愛好家なら、たまらなく可愛らしい姿に見えただろう。
だが今のあたしの目には、それは飢えた豚の群れのように感じられた。
それに、半年間世話してみて、こいつらの性根がよくわかっていた。
こいつらは生まれながらに人に媚びる術を知っている。自分の容姿が武器である事を知っている。
ずる賢く餌をねだり、しかもそれを当然だと思っている連中なのだ。
ママンネのほうを見る。立ち尽くしているあたしに対し、まだ尻尾を振ってアピールしている。
その一見すると無心な目の輝きが、あたしに語りかけている。
「何やってんの、赤ちゃん達がお腹をすかせてるじゃないの、早くご飯持ってきなさいよ」と。
ああ、こいつらもか。あいつと同じだ。あたしをただの餌の運搬係だと思ってるんだ。
一方的に要求して自分の欲望だけを満たし、内心ではあたしを見下していたってわけね。
それでもあたしが突っ立ったままなので、ママンネは痺れを切らしたらしい。
ベビンネ達が遊ぶためのゴムまりを手に取って、あたしに投げつけた。左目を直撃する。
「痛っ!」
いかに柔らかいゴムまりとはいえ、目に当たってはさすがに痛い。あたしはうずくまった。
しかしそんなあたしの様子など全く気づかないのか、ベビンネ達は食事を催促し続けている。
左目を抑えながらママンネの方を見た。明らかに不機嫌な表情になっていた。
「もたもたしてるからそうなるのよ、この愚図!」とでも言いたいのだろうか。
(どいつも………こいつも………人を馬鹿にして………!!)
あたしは自分の中に沸き上がる、どす黒い衝動を抑えられなくなっていた。
「いい加減に…しろおっ!!」
あたしは右足にまとわりついていた1匹のベビンネを鷲掴みにして、思い切り投げ飛ばす。
「ミギィィッ!?」ベビンネは壁に叩きつけられ、バウンドして畳に転がった。「チチィ…」と泣き出す。
驚く他の連中は逃げ出そうとしたが、間髪いれず3匹連続で蹴飛ばした。
「ヂヂッ!」「チィィ!」「ケホケホッ!」壁に跳ね返って転がり、腹を押さえ咳き込み、悶絶するベビンネ達。
ママンネが血相を変えて立ち上がった。「私の赤ちゃんに何をするの!」と言いたげだ。
ダッシュで捨て身タックルをかましてきた。あたしは軽くステップしてそれをかわす。
渾身の攻撃をかわされたママンネは、焦りの表情を見せながら、再び襲ってきた。
今度もあたしはかわすが、すれ違いざまにママンネの側頭部にハイキックを食らわせた。
自分自身の突進の勢いに、あたしのキックの威力が加わって、ママンネは壁に思い切り激突する。
「ミ、ミギィィッ…!」ふらついてこっちを向き直ったところで、今度は顔面に蹴りを見舞う。
ママンネは鼻血を噴き出しながら、もんどりうって畳に倒れた。
あたしはそのママンネを見下ろした。
「知らなかったでしょ?あたし、高校までずっと空手やってたのよ。全国大会で入賞したこともあるの。
乱暴な女だと思われたくなかったから、あいつの前では見せたことなかったしね」
言いながら、あたしはママンネの肉付きのいい腹に、右の正拳突きを叩き込む。
「ミボォォッ!」ママンネは呻き声を上げて悶え苦しむ。
「ねえ、あんた。もしかしてあたしが弱いってずっと思ってなかった?
あんたがじゃれついてきた時、あたしが『うわー、やられた』とか言ってみせたもんだから、
あたしより自分がずっと強いって勘違いしてたんでしょ?餌係の奴隷だとでも思ってなかった?」
二発、三発、四発。あたしは容赦なく拳を腹にぶち込んでいく。
「ミグッ!グブ、グゲェ…ミィィ……!」ママンネはたまらず嘔吐した。
まだ消化しきっていない木の実などが混じった吐瀉物を畳の上にぶちまけ、吐きながらミィミィ泣き出す。
「もうっ!汚いわねっ!」
あたしはまだのたうち回っているベビンネを1匹つかむと、雑巾代わりにして畳を拭き始めた。
「チィ!チィィィ!」蹴られた痛みも回復しないうちに、乱暴に畳にこすりつけられたベビンネは泣き喚く。
「やめて!ひどい事しないで!」とばかりに、ママンネが助けようと手を伸ばそうとするが、
あたしはその横っ面に平手打ちを見舞った。
「ミミィッ!?」
「あんたが汚したんでしょ!?あんたの子に責任取ってもらうのは当然でしょ!」
ママンネはあたしにかなわない事を覚ったのか、ガタガタ震えてそれ以上逆らおうとしない。
ようやく畳を拭き終わる。雑巾ンネと化したベビンネはぐったりして「ミィ…フィィ…」と弱々しく泣くだけだ。
ピンク色の毛並みも母親の吐瀉物まみれとなって薄汚れ、悪臭を放っていた。
まだ起き上がれないママンネの回りに、残り3匹のベビンネが這いずりながら寄って来てチィチィ泣き始めた。
「ママ、いたいよぉ」「どうしてこんなめにあわなきゃいけないの?」とでも訴えているのか。
でもあたしの中の理性のブレーキはもう壊れていた。
もっともっとこいつらを苦しめなくては、地獄を見せてやらなくては気が済まない。
あたしは雑巾ンネを鷲掴みにしたまま立ち上がった。
「お願い、その子を返して」と言いたそうに、ママンネが手を合わせて哀願する。
「だったらあたしについて来なさい。その子達も一緒にね!」
冷たく突き放して、あたしはすたすたと歩き出す。
置いていかれては大変と、痛む腹を押さえてよろつきながらママンネが後をついてきた。
ベビンネ達もチィチィ泣きながら、ヨチヨチと母親の後に続いた。
あたしが向かったのは台所だった。
八畳ほどのスペースはあるが、一人住まいだし、あまり使っていない。
その隅に置いていた新聞袋から1週間分くらいの新聞を取り出し、雑巾ンネと一緒に、
ママンネの足元に放り出した。
「チィィ!」「ミィ、ミィ!」泣き声を上げる雑巾ンネを、抱き締めるママンネ。
だがお構いなしにあたしは命じる。
「さあ、この新聞紙を床に敷き詰めなさい。わかる?覆い隠すように敷くのよ」
我が子を取り戻した喜びも束の間、あたしの感情を読み取ったママンネは、
びくびくしながら新聞を広げて、台所の床に広げ始めた。
そう、しっかり敷きなさい。これからいろいろ汚すことになるんだから。
「逃げようなんて思うんじゃないわよ、いいわね」
あたしは言い捨てて、その場を離れた。
自分の部屋に戻り、外出着からラフなジャージとTシャツに着替えて、
道具箱からガムテープを取り出してから、再び台所に向かう。
油断のならないタブンネのことだから、隙を見せれば逃げようとするかもしれないが、
あの鈍重な体と短足で、しかも4匹のベビンネを抱えては逃げ切れまい。
連中は逃げてはいなかった。しかし、あたしが命じた作業を終えてもいなかった。
ママンネは新聞紙を敷くのを途中でやめ、雑巾ンネを舌でペロペロ舐めて、
吐瀉物と畳拭きで汚れた体の毛づくろいをしていたのだった。
たった2~3分、目を離しただけなのに、もう作業中断とは……。
あたしのこめかみに血管が浮かび上がる。
「サボってんじゃないわよっ!!」
あたしはママンネの顔面にサッカーボールキックを食らわせた。
「ミギィィ!!」悲鳴を上げたママンネは吹っ飛ばされ、壁に後頭部を打ち付ける。
「チィチィ!」「ミィミィ!」それを見たベビンネ達がまた、怯えて一斉に泣き出した。
あたしは、横たわって母親の愛を受けていた雑巾ンネを左手で引っつかみ、
右手でママンネの触覚を引っ張った。
「ミギィィ!!」敏感な触覚に激痛が走ったらしいママンネが、また悲鳴を上げる。
「1分で敷き終わりなさい!この子がどうなっても知らないわよ!!」
直にあたしの怒りが伝わってきたママンネは「それだけは許して」と言いたげに
手を合わせて謝り、ミィミィ泣きながら大慌てで新聞紙を台所に敷き詰め始めた。
「まったく…あたしの命令も忘れて、我が子を綺麗にするほうが優先ってわけね。
いいわ、じゃあもうちょっと綺麗にし甲斐があるようにしてあげようかしら。」
あたしは左手の雑巾ンネを、流しの中に顔面からドスンと叩き付けた。
「チギィッ!」一声呻いた雑巾ンネに、蛇口を捻って水を浴びせる。
そしてスポンジでゴシゴシと乱暴に雑巾ンネを洗った。
吐瀉物の汚れは落ちていくが、毛は毟られ、地肌を直に擦られ、水で息もできない。
「ヂィ!ミギィ、ゴボゲヒィィィ!!」様々な苦痛の入り混じった泣き声を雑巾ンネは上げた。
洗い終わって水を止めると、雑巾ンネは「ミヒィ…フィィィ…」ともはや息も絶え絶えだった。
それを尻目に、あたしはゴム手袋をつける。
この後の作業は、素手でやるにはちょっとハードなものになるからだ。
あたしは、さっき持ってきたガムテープで、雑巾ンネの両手をグルグル巻きにした。
両足も同じようにする。これでもう逃げることはできない。
そして冷蔵庫から、チューブ入りのねりからしとねりわさびを取り出した。
「チィ、チィィ…」許しを請うように雑巾ンネはいやいやをするが、その頭をあたしは左手で押さえつけ、
右手でねりからしのチューブを取り、雑巾ンネの体にありったけ絞って塗りたくる。次にねりわさびも。
そしてスポンジで思い切り擦って、ねりからしとねりわさびを雑巾ンネの体にすり込んだ。
「ミギャァァァァァァァァァァ!!!ピィィィギャァァァァァァァァァァ!!!」
その小さな体のどこから出るのかと思うくらい、激しい悲鳴を上げて雑巾ンネは暴れた。
雑巾ンネの悲鳴に、ママンネがぎくりとしてこっちを見るが、あたしに睨まれると視線をそらした。
しかしあたしはお構いなしに擦り続ける。水洗いでグチャグチャになっていた雑巾ンネのピンクの毛並は
からしの黄色とわさびの緑色のツートンカラーが混じりあい、濁った黄緑色に染まっていく。
「ミヒ!ミ、ミギュァァァァ!!ピィィィィィィィィ!!!!」
あらかたすり込むと、あたしは泣き叫ぶ雑巾ンネの首根っこをつかむ。
そして、ようやく新聞紙を敷き終わったママンネの前に放り捨てた。
激痛で雑巾ンネは暴れる。両手両足をガムテープで縛られているので、海老のような動きしかできないが。
ママンネは抱き寄せて、先程と同じように、舌で舐めて我が子を綺麗にしようとする。
「ミィッ!?グハァ!!」
ところが、思わずママンネは雑巾ンネを取り落としてしまった。舌を突き出してハァハァ言っている。
そりゃそうでしょうね。人間の家の中で、甘い果実ばかり食べてヌクヌク生きてきたあんたにとっては、
こんな辛さは初めて出会う感覚なんだろうから。恐怖心すら呼び起こしているかもしれないわね。
だが母性本能のなせる業か、涙を流しつつも舌の苦痛をこらえ、ママンネは雑巾ンネに近づいた。
しかし今度は「ミヒィ!!」と叫んで鼻を押さえて尻餅をついた。辛い空気をもろに吸ったようだ。
チィチィ泣き叫びながら激痛にのた打ち回る雑巾ンネの目からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
痛みだけではなく、助けてくれない母親に対する絶望感が心を押し潰さんとしているに違いない。
「ママ!ママ!いたいよぅ!たすけてよぅ!どうしてなめてくれないの!?」
雑巾ンネの心の声が聞こえたような気がして、あたしは残酷な笑みを浮かべた。
あたしは冷蔵庫から1本の小ビンを取り出す。ジョロキアソースだ。タバスコの数百倍辛いという代物である。
ジョロキアの瓶の蓋を取り、1滴ずつしか垂らせないようにしてある瓶の口のプラスチックのカバーを外した。
「あーらら、冷たいママでちゅねえ。ボクが苦しんでるのに、好きな味じゃないから舐めたくないんですって。
酷いでちゅねー。こんなママにはバイバイしちゃいまちょうねー。」
そして床の上でのた打ち回っている雑巾ンネの喉首をつかむと、その両方の瞳めがけて、ジョロキアをぶっかけた。
「ミギャァァァァァ!!!!!!ィィィィィギァァァァァ!!!!!!」
サファイアのような青い瞳が、一瞬で真っ赤に変わって血の涙が流れる。
激痛によるショックで、毛細血管が破裂でもしたのかもしれない。
しかしあたしは容赦なく、ジョロキアの瓶を雑巾ンネに咥えさせると、残りを全部ドボドボ流し込んだ。
人間だってこんなことしたらただでは済むまい、ましてや小さな体躯のタブンネでは……。
「ミヒィ――――――ッッッ!!!!! ピィィィ――――――ッ!!!!!!!」
まるでお湯が沸騰した時の笛吹きケトルにそっくりな、甲高い悲鳴を雑巾ンネを絞り出した。
それこそ火を噴きそうな声で、雑巾ンネは狂ったかのように、ガムテープの拘束も引き千切らんばかりに暴れる。
「ヒィィ―――!!!!!……ィィィ……―――……!!!!」
しかし悲鳴は途中からかすれて聞こえなくなった。喉が焼けて、もはや声が出なくなったに違いない。
そして、おろおろするママンネの目の前で、ゴボッと血の塊を吐いたかと思うと、
雑巾ンネはそのまま動かなくなった。内臓がジョロキアで焼け爛れたか、ショックで心臓が止まったか。
いずれにせよ苦痛に満ち満ちた死に顔だった。30分ほど前には綺麗なピンクの毛皮をまとっていた体は、
今や薄汚れた黄緑色と血に染まった、それこそ酷使されたボロ雑巾のような姿になっていた。
「ミ……ミ…?……ミィィ……!」
ママンネは動かなくなった雑巾ンネに恐る恐る近づき、触覚を当てた。
「もう手遅れよ」
「ミ……ミッ………ミェェェェン……!」
あたしに言われるまでもなく、雑巾ンネから命の気配が途絶えたことがわかったのだろう。
ボロボロになった雑巾ンネを抱き締めて、さめざめと泣き出した。
「ミッ!ケホッ、ケホッ!ミィィ…」
辛い匂いに時々むせながら、物言わぬ我が子に何やら話しかけているようだ。
あたしはしゃがみこんで、ママンネの耳元で言った。
「何を今更。さっきはその辛さが嫌で、助けるのに二の足踏んだくせに。この死に顔見なさいよ。
ちょっとでも我慢して舐めてあげてれば、こんな絶望した顔にならなかったでしょうね。
『ママ、どうして助けてくれなかったの』って、あんたを怨みながら死んでいったんでしょうね」
「ミィ!?ミィミィ!!」
ママンネは「違う!違う!」と言いたそうにいやいやと首を振る。
その様子を見てあたしは溜飲が下がる思いだった。さて、次はどう料理しようかしら。
(つづく)
最終更新:2015年02月20日 17:04