この子タブンネたち、どうやら40センチ程のメス(姉ンネ)、そして30センチ程の(弟ンネ、妹ンネ)の兄弟のようだ。
姉ンネは、もう少しで産まれそうな卵を抱えヨチヨチ歩いている。
「ウチにくるかい?」
と俺が聞いたら、パァっと表情を明るくして「ミィ~♪」と鳴いた。
そして家にたどり着き、子タブンネたちを家に招きいれた。
「ミィ…ミッ」「ミィ~♪」「ミィミッフゥ…」
子タブンネどもは、初めてみるだろう人間の家に若干戸惑っている。
弟ンネだけはクッションにゴロゴロして嬉しそうにしているが。
とりあえず俺は腹ごしらえをしようと、一人者には若干大きすぎるホットプレートと、こちらに来る前に冷凍保存していたタブンネ肉を取り出した。
シューッという香ばしい音が聞こえる。
「ミィ!ミィ♪」「ミュウィ♪」「ミヒ♪ミヒヒッ♪」
それぞれ姉、妹、弟の鳴き声だ。
先程川に沈めた檻ンネからも分かるように、この辺りのタブンネたちも食べ物に困っているのだろう。
三匹ともだらしなく涎を垂らし、尻尾を振り、ピョンピョンと飛び跳ねている。
自分たちにくれるものだと思っているらしい。
だが当然、コイツらに普通にエサを与えるワケはない。
俺は焼けた肉を一人で食べた。
その様子を、子タブンネどもは早く自分にも…とでも言いたげにみつめている。
いつの間にか、瞳にはお星様が浮かんでいるようにも見えた。
「ミィ…?…ミッ…」「ミッ!ミィ!ミッフゥ!!」
一向にエサをくれない俺に痺れを切らしたか、妹ンネは悲しそうに姉ンネに寄り添い、弟ンネに至っては早くちょうだい!というように騒ぎ出した。
「ミィミィ…?ミッミィ?ミィ~♪」
それを見た姉ンネが、俺に媚びる。
俺が初めて殺したタブンネ家族も、これくらいの謙虚さがあればよかったのに。
と昔のことを思い出した。
「あぁ、お前たちの分だね。ゴメンゴメン」
俺はそう言って肉をホットプレートの中心に並べた。
そして、それを見たタブンネたちはようやく食べ物をもらえると思ったのか、「ミィ~♪ミィミップィ~♪」と一層ピョンピョンして喜びを表現してくれた。
「ミィー!」
弟ンネが早く早く!と騒ぐ。
「ミィ!!」
姉ンネはそれを制する。
そんなやり取りを見ながら「焼けるまで待ってな」と声を掛けた。
「ミッミッミッミッ」
妹ンネは騒ぎ出しこそしないものの、ソワソワしながら小さな声で呟き続けている。
何となく分かってきたが、姉ンネと妹ンネはなかなかに謙虚なようだ。
反面、弟ンネは大分喧しい。
「よし、お前ら食べていいぞ!」
肉の焼き加減を確認して、タブンネたちに言った。
「ミィーー♪」
と、三匹そろって万歳をして喜んだ。
だが、しばらく待っても子タブンネたちは食べ始めない。
「ミ…?」「…??」「ミミッ…」
それどころか、若干困惑しているようだ。
当然だろう。
俺はこの子タブンネどものために肉を取り分けてやるつもりはない。
ホットプレートの中心で焼かれている肉は、一番大きくて40センチの姉ンネたちにはとても自分で取れるものではない。
「ミィ!?ミィッミ!?」
痺れを切らした姉ンネが、俺に訴えかける。
取ってほしいようだ。
「ピッ…ピィ…ミピェーーン!」
妹ンネは泣き出し、弟ンネは「ミフッ!ミフーッ!」と威嚇してきた。
「俺はお前等のために貴重な食料を分け与えてんだぞ?それくらい、てめーでとりやがれ!」
いい加減鬱陶しくなった俺は、三匹に怒鳴った。
三匹とも、人間に怒鳴られるのは初めての経験だろう。
ビクッとしたあと、黙り込んで寄り添い、ガクガクと震えだした。
弟ンネに至ってはお漏らしもしている。
それから、子タブンネどもはしばらく目の前で少しずつ焼けてゆく肉を見つめていた。
が、いきなり姉ンネがキッとした表情で立ち上がり「ミフーッ!!」と気合いを入れた。
目の前でご馳走が黒くこげてゆくのが我慢できなかったのだろう。
「ミィ!ミミッ…ミィ!」
だが妹ンネがそれを制止する。
止めてと言っているのだろう。
「ミッミィー!ミィッミィ!」
弟ンネは既に応援の体制に入っていて、ボクサーのセコンドのようにホットプレートの横、熱くない部分を叩いた。
「ミィゥ~!」
そんな応援を背に、ますます顔を険しくする姉ンネ。
「ミッピッ!ミィッミィ!」
さらに必死に止めようとする妹ンネ。
だが、ここで妹ンネからキュルルっという腹の音が鳴った
「ミッ!?ミィ…ミィミッ!!」
その音にびっくりし、その後必死に言い訳するようにぶんぶん首をふる妹ンネ。
違うの!!これは違うの!!とまぁそんな感じかな。
だが姉ンネには分かっている。
というより、檻ンネのような大人のタブンネが自分の分のエサを得るために人間の作物をぬすむくらいだ。
ママンネがいたころも、満足のいく食事は出来ていなかっただろう。
実際、この子タブンネどもは、健康な同身長の子タブンネと比べると明らかに薄い。
「ミィ!!ミッミィ!!」
姉ンネはその音を聞いて、妹ンネを諭すようゆっくり首を振った。
「ミィ…ミ…ミギーッ!!」
そして、ホットプレートの側に立ち、一瞬しり込みをするように怯えたあと、大きく気合を入れて足を踏み出した。
「ビィヤーーーーッ!!ミ”ッ!!ッヤーーー!!」
片足をホットプレートに乗せた瞬間、ジュッという音とともに、姉ンネが顔中の穴をすべて開いて絶叫を上げる。
「ミヒィ・・・ミピッ・・・」
妹ンネはその声に驚き、耳を押さえて縮こまった。
「ミッ…!ミィミィ!」
弟ンネは一瞬怯えたものの、グッと手を握り応援を続けている。
「ビャァウッ!ミッビィーッ!」
姉ンネは歩くたびに絶叫を上げながら、それでも目の前にあるご馳走を目指す。
もっとも、すでに黒こげなのだが。
「ンビィヤーーッ!!」
そしてこげてプレートに張り付いた肉をはがし、今度はホットプレートから出ようと歩き始める。
ベリッ
だが、その途中、カンカンなプレートに焼かれた姉ンネの足の裏の皮膚が剥がれた。
「ミ”ミ”ミ”ィーーッ!?ビャハッ!!ビィッギーーー!!」
その感触に姉ンネはまた別の苦痛を感じたのだろうが、当然立ち止まるわけにはいかない。
そうして何とか姉ンネはホットプレートから飛び出すように出て、うつ伏せに寝転がった。
「ミャゥッ…ミャァ……」
その様子はすでに息も絶え絶えで、足の裏は火傷で爛れている。
俺はここで、姉ンネに集中しすぎていて妹ンネの姿が見えないことに気づいた。
だが臆病な固体はこういう場合…
「ミゥ~…ミャウ~…」
ほら、テーブルの下にいた。お漏らしをしながら縮こまって震えていた。
「お姉ちゃんが、ご飯をとってくれたぞ♪お前もお食べ♪」
俺はあえて明るく伝え、妹ンネを再びテーブルの上に抱き上げた。
「ミィ~♪ミフッ、ミィフゥッ!ミ~ン♪」
だが、そこにはすでに焦げた肉を貪る弟ンネの姿があった。
あろうことか、姉ンネには一切近づかない。ただただ、熱い肉を時折むせながら食べている。
しかしそれでも姉ンネは「ミ…ミィ…♪」と、弱弱しくも弟ンネがエサを食べていることを喜んだ。
「ミィ…!?ミッミィ!?ミャイ~!!」
ここで初めて姉ンネの姿を確認した妹ンネは、目に涙を浮かべて姉ンネに寄り添った。
「ミュイィ…」と、姉ンネも弱弱しく笑顔を見せた。
「ミィ!!ミッピィ!!」
しかしそんなことはお構いなしに肉を食べ続ける弟ンネ。
すでに姉ンネの取った肉を半分ほど食べていて、このままでは全部を食べかねない。
そして何より、自分は苦労せず、与えられることが当然とでも言うように肉を貪る弟ンネに俺は腹が立ってきた。
「ミッ!?ミッヒィ!!ミィ!!ミィミッ!!」
俺が首根っこを捕まえて顔の高さまで持ち上げてやると、弟ンネはじたばたしながら講義の声を上げる。
「お前、姉があんだけの目にあって取ったえさを全部食うつもりか?」
俺は弟ンネに聞いてみた。
「ミフーッ!ミィフーッ!!」
しかしあろうことか弟ンネは、邪魔するなとでも言うように威嚇してきたではないか。
口の中に残っていただろう焦げカスが、弟ンネの唾とともに俺の顔にかかる。
俺は押入れの中に弟ンネを放り込んだ。
「少しそこで自分の行動を考えろ!!」と怒鳴りつけながら。
「ミィーッ!ミィギーーッ!!ミギッ!ミギッ!」
だが、弟ンネはなぜ自分がこんな目にあっているのか分からないといったように押入れのなかで大暴れしている。
まぁこれは放っておこう。
「ミィミィ…ミィ…」
こちらでは、妹ンネが姉ンネに肉を食べさせてあげている。
「ミィ…♪」
姉ンネも、そんな妹の心遣いがうれしそうだ。
俺は冷凍庫から氷を取り出し、姉ンネの足の裏に当ててやった。
「ミィィ~♪」
冷たくて気持ちがいいのだろう。
リラックスした声を出し喜ぶ姉ンネ。
「ミィッミィ」
妹ンネも、姉の喜ぶ声に反応した。
その後、薬などはつけていないが、適当に足の裏を包帯で巻いてやった。
姉ンネは動くことは出来ないが、俺に治療(?)されて「ミィミィ♪」と鳴いた。
どうやら大分元気になってきたようだ。
妹ンネはそんな姉から離れず、時折頭を撫でて「ミーミィ?ミミッミーィ?」と何かをたずねている。
「ミ”ィーーーッ!!」
そして横の部屋からは押入れに閉じ込めた弟ンネの声が聞こえる。
かなり暴れているらしく、ドン、ドン、という物音と共に。
この兄弟、どうやらあまり仲がよくないのだろうか?
姉・妹はお互い思いやっているが、どう考えても弟にはそれがない。
現に今も、姉・妹は弟が騒いでいるのを気にもとめていない。
まぁいいや。
あの図々しい弟とこの二匹、次は何してあげようかな。
そうだ、とあることを思いついた俺は、押入れから弟ンネを引っ張り出した。
「ミィーッ!ミ”ッミィーーッ!!」
俺に耳をつかまれ、じたばたともがく弟ンネ。
そして、妹ンネの首ねっこもつかんで持ち上げる。
「ッミ!?ミィミッ!?ミミィーッ!」
妹ンネは、姉の傍から離れたくないのか、短い手を姉ンネに向けて騒ぎ出した。
「ミィ…ミミィ…」
姉ンネも手だけを伸ばして俺に訴えかける。
俺はその二匹を床に座らせた。
妹ンネは震えながら「ミッ…」と小さく鳴いた。
弟ンネは掴まれていた耳を大事そうに擦っている。
「ポケモンも人間も、食べ物を食べるには苦労するもんなんだ。お前たちは何だ!?お姉ちゃんにすべて任せっぱなしで、それでこの先どうやって生き抜いていくんだ!!」
俺は座っている二匹に怒鳴りつけた。
「ミッヒ…ミィ…ミ…」
妹ンネは、先ほどの姉ンネの姿を思い出したのか、再び怯え、涙を流し始めた。
「ミィミッ!ミィ~」
だが弟ンネはプイっとそっぽを向いた。
相当に図太い、いや、これはむしろ図々しいと言えるだろう。
俺はもう一度二匹を持ち上げ、今度は庭に連れ出した。
俺はこの庭で木の実を作っているのだが、この村や近隣の村にはそこまで人は多くないし、必要な分だけ木の実を栽培している。
まだ3分の1程度は手付かずで残っているのだ。
いずれここも耕して、より多くの木の実を作ろうとしていた。
「俺はお前たちを飼ってやるつもりだが、手伝いもせずただ存在するだけのポケモンに飯を食わせるつもりはない。働かざる者食うべからずだ、仕事しろ。」
そう二匹に話しかける。
「ミィ…?ミィミ…?」
妹ンネはなかなか素直で俺の行ったことを理解しているのか、どうすればいいのかをたずねてきた。
「ミィ!ミィ~♪ミィ~ィ~♪」
だが弟ンネは、目の前にある木の実を見つけて大喜びではしゃいでいる。
「ミッ!」そして、木の実めがけて走り出した。
「ミピィ!!」
すかさず俺はその尻尾を掴む。驚いて声を上げる弟ンネ。
「あれが食べたけりゃ、仕事しろって言ってんだよ!!」
と怒鳴ると、「ミッ!?」とさすがの弟ンネもビクッとした。
だが、「お前らがちゃんと仕事したら、腹いっぱいあの木の実を食べられるよ」と伝えてやる。
「ミィ~~♪」
俺が少し優しく話しかけると、二匹そろってうれしそうな声を出した。
飴と鞭。タブンネを動かしたい場合ちょっとした工夫も必要だ。
というより、怒鳴った後に優しく話すと大抵言うことを聞くのは、もはや習性だろうか。
俺は二匹に小さなシャベルを渡した。
「ミ?ミ?」「ミィ~??」
と、はじめてみる道具に?を浮かべる二匹。
「こうやって使うんだよ。」といって実演してあげると、使い方を理解したように土を耕し始めた。
だいたいバスケットコートくらいの土地ではあるが、まだ小さく力も弱いこいつ等なら時間がかかるだろうな。
プルルルルップルルルッ
こいつらの仕事ぶりを観察したいところではあったが、唐突に電話が鳴った。
ちょっと残念に思いながらも、俺は電話に出るために部屋に戻った。
俺が部屋に入ると「ミィ!?ミッ…ミィミ!?」と、動けなかった姉ンネが騒ぎ出す。
酷いことをしないでと、お願いしているのだろう。
しかし俺はそれを無視して電話に出た。
「はい…はい…え!?分かりました。すぐに行きます。」
どうやら、牧場のほうでメリープたちが密着していたためみんなで麻痺になってしまったようだ。
近くのショップで麻痺治しが品切れだったため、クラボを欲しいということらしい。
「ミィ!ミィミッ!!」
姉ンネは先ほど俺に無視されて癪だったのか、ちょっと強気に鳴いた。
「大丈夫だよ。あいつらは食べ物をえるために働いてるからね。」
とフォローしておくと、「ミ?ミィ~ィ♪」とうれしそうに鳴いた。
俺は庭に出て、クラボの実を採集する。
チラッと二匹を見たが、なかなかまじめに土を耕しているではないか。
「ちょっと出かけてくるけど、ちゃんとがんばるんだよ」
と俺が話しかけると、「ミィ~♪」と二匹そろって手を振ってきた。
妹ンネはともかく、弟ンネもこんな素直になるとは。
エサの力は偉大だな。
そんなことを考えながら俺は牧場に向かった。
牧場ではまさにシュールな光景が広がっていた。
なにしろ特性「せいでんき」をもつメリープたちが、集まって一箇所にいたためにみんなして麻痺になってしまっていたのだから。
牧場主には悪いが、若干笑いもこぼれた。
「おぉ、わざわざすみませんね。いや、こんなことになるとは・・・」
と、牧場主は恥ずかしそうに汗をぬぐった。
「いえ、大丈夫ですよ。さぁ、メリープたちにこのクラボの実を上げましょう。」
牧場主とそんな会話を交わして、二人でメリープにクラボの実を与えた。
メリープたちも、すべてすっかり麻痺がとれ、元気にトコトコと牧場を走り回っている。
「いやいや、本当にありがとうございました。これ、少ないんですが、貰ってください。」
そういって牧場主は俺に木の実代のほかに、メリープの乳をくれた。
そうして牧場の事件は一件落着だ。
こうやって誰かの役に立つためにこの村で木の実を作り始めたんだ。
それが今日、初めて実を結んだと実感できた。
俺はニコニコしながら、家のドアをあけて「ただいま~♪」と声を出した。
別に「おかえりなさい♪」なんていってくれる人はいないけど。
「ミィッ!ミィッ!」
だが、思わぬ迎えがいた。
妹ンネだ。
「ミィ~♪ミッミィッミィ~♪」
そして、姉ンネも歌うように俺を出迎えた。
あんなに酷い火傷だったのに、なぜ姉ンネが歩けるんだ?
俺はこいつ等をつれて返ってくるとき、特性を確認した。
確かに全部「さいせいりょく」のはずだったんだ…
姉ンネの火傷はとても「少し冷やせば治る」程度のものではなかった…
!?…まさかッ!?
「ミップゥ!?」「ミヒッ!?」
俺はうれしそうにじゃれ付いてくる二匹を押しのけて、ベランダに走った。
そう、俺が作っている木の実の中には、当然…
バンッという音と共に俺は庭へ飛び出た。
「ミガッフゥッ!!ミィッミィッ!!ミィッフー!!」
そこには畑仕事を放棄し、自分でも取れる範囲にある木の実を手当たり次第口に放り込む弟ンネがいた。
バタバタと音をたてて庭に出た俺にまったく気づかず、大きなお尻で座り込み、両手に木の実を持ってただ無心で食べ続ける。
俺は弟ンネを無視して、その場所を探す。
「ミミィ!?」と、途中で弟ンネの驚いたような声が聞こえたが、おそらく俺がいることに気づいたんだろう。
・
・
・
やっぱりだ…
近くには野生のブビィが出現するから、役に立つかもと思いつくっておいたチーゴがゴッソリとなくなっている。
なぜこいつ等がチーゴに火傷治しの効果があるということを知っているのかは知らないが、俺がいない隙にこれを食べたのだ。
姉ンネは動けなかったはずだし、弟ンネはこの通り自分のことしか頭にない。
妹ンネがこれを取って姉ンネに渡したのか…
せっかく上手く働ければ普通に飼ってやろうとも思っていたのに…
久々にプッツンときた俺は、弟ンネに目を向けた。
「ミッミッミッミッ!!」
だがなんと、弟ンネは先ほどまで食べていた木の実を放置し、畑を耕していた。
俺が帰ってきたことに気づき、仕事に戻ったということだろうか?
俺はとりあえず部屋に戻った。
「ミィミィ♪」「ミィ~ィ~?」
と二匹でじゃれあっている中妹ンネを掴む。
「ミッキャァ!!ミミッピィーッ!!」
と、苦痛の声を出す妹ンネ。
その姿を見て姉ンネも「ミィッ!ミッミィーーッ!!」と抗議の声を上げた。
俺はそのまま庭に出ようとすると、姉ンネが「ミィッ!ミィッ!ミィミィ!!」と慌ててくっついてくる。
俺はピクシーをボールから出し、姉ンネの見張りをさせることにした。
「ッミ…ミィ…」と耳を押さえてうずくまる姉ンネ。
見たことのないポケモンに怯えているのだろう。だが相手は可愛いファンシーなピクシーだ。
レベルは比べ物にならないくらい高いが。
「ミィッミィッミィッミィッ」
俺は妹ンネを「一生懸命仕事してます」アピールを続ける弟ンネのそばに落とした。
「ミフィッ!」とその衝撃に声を出した。
「てめーら、俺がいない隙に木の実を食いやがったな!?」
俺はルカリオを繰り出して、二匹を怒鳴りつけた。
「ミ…ミィ…ミグゥ…」
妹ンネは怯えて、素直に首をたてに振った。
すでに涙目、お漏らしもしている。
「ミィ!ミィミッ!!ミィミィ!!」
だが弟ンネは逆に首をブンブンと横に振る。
そして、シャベルを持って「ちゃんと仕事してました」というジェスチャーをした。
あの状況でバレてないと思っているのだろうか?
「嘘ついてんじゃねえッ!!てめえが木の実を食ってるとこは見たんだよ!!」
俺はそういって、より一層声を大きくする。
「ミピィ!?ミュゥィ…ミィ♪」
媚びた。俺の足に頬ずりして、盛大に。
「ミィ…ミィ…」
妹ンネも、俺の足にしがみついて何かを訴えかける。
「ミギュッ…」「ミッキャァ!」
二匹をそのまま軽く蹴り飛ばしてやる。
「ちゃんと働いてりゃあの木の実を食えたのに、どうして少しの我慢もできないんだ!!」
と大声をだしながら。
「ミゥ…ミィ…」
妹ンネはうつ伏せになって両手両足をベターっと広げた。
タブンネ種族の「ごめんなさい」だ。
「ミッギィ!ミガフウー!!ミギーーッ!!」
だが、弟ンネの方は痛みに逆上して気合を入れる声をだし、俺に向かってポテポテノソノソと(おそらく)走ってくる。
「ビャギャゥン!!」
次の瞬間、ルカリオの神速が炸裂した。
子供とは思えないほどの悲鳴が聞こえる。
だが、あらかじめルカリオには思いっきり手加減をするよう指示しておいた。
弟ンネは激痛に襲われながらも、「ミ”ャ~…ミ”ィゥ~…」と鳴いた。
俺は庭に放置された二つのシャベルを拾い上げる。
「罰として、今日一日お前らは素手で畑を耕すんだ。もし従わなかったり、変な動きをしたら、容赦なくルカリオが攻撃するからな!」
そうはき捨てると、二匹とも怯え切ってコクコクと首を振る。
「それでちゃんとお仕事ができたら、ちゃんと木の実は食べられるからがんばれよ。」
と、最後に話してやると「ミィーッ」と二匹そろって鳴いた。
そうして俺は部屋に戻った。
部屋に入る直前に見た二匹の姿は、(二匹にとっては)固い土をどうにか掘り起こそうとガリガリ地面をかく二匹だった。
さながら、あの少年漫画の修行のシーンだ。その人物ほど体力も根性も気力もなさそうだが。
部屋に戻ると今度は姉ンネが「ミィミィ!?ミィ!?ミミィ!?」と騒ぎ立てる。
妹のことが心配だったんだろうが、ピクシーに何もされていないところを見るとおとなしくはしていたらしい。
「あの二匹は、夜ご飯のために一生懸命働いてるんだよ。お前は何も気にしなくて良いから、部屋の中で遊んでな。」
と声をかける。
「ミィ?ミィ~…ミィ…」
姉ンネは自分だけ何もしなくていいという安心感か、あるいは二匹に対しての罪悪感か、なんともいえない表情で鳴いた。
「ただし、外に出ようとしたら痛い目みるからね?」
と、ついでにちょっと脅しておく。
それに怯えた姉ンネは「……ゥミィ……」と、小さく返事をした。
それからしばらく姉ンネは、窓辺にペッタリと張り付いて外の二匹を伺っていた。
俺も少し様子を見てみたが、二匹とも素手で一生懸命に土を掘り起こしている。
途中、弟ンネがたまに大きなお尻でしりもちをつき嫌がる素振りを見せたが、ルカリオににらまれるとすぐに作業を再開した。
妹ンネのほうは嫌がることはなくひたすらに土を掘る。心の中では嫌がっているだろうが。
しかし、力は弟ンネよりも弱い上にやはり外見的なことも気になるのか、汚れてしまった体や、擦り切れた両手を見て涙を流す。
もちろん、その時もルカリオに威嚇されるだけで悲しそうな顔を見せながらも作業を再開した。
妹ンネがそうした行動を取るたびに「ミ…ミ…」とピョンピョン跳ねながら心配する姉ンネが面白い。
そうして畑を耕し続けて、夕食の時間には空いていた土地の半分は掘り起こされていた。
俺は外に出て、ルカリオをボールにしまった。
「ミヒィ…ミハッゥ~…」と仰向けになり大きく息を整える弟ンネ。
「ミゥッ…ミグゥ…ミヒィン…」と、疲れ以上に自分の体の汚れと傷を気にする妹ンネ。
俺は二匹に近寄り「飯だぞ!部屋に入れ。」と声をかけた。
パァッと明るくなった二匹の表情。
「ミィ♪ミィミッ♪」「ミィ~♪ミュィ~♪」と、疲れを忘れたかのように俺の後ろをポテポテくっついてくる二匹。
そうだ、家に入れる前にまずキレイにしないとな。
「洗うからちょっとまってろ」と二匹に言うと、二匹とも素直にその場で立ち止まった。
特に妹ンネは「ミャァ~♪」とうれしそうだ。
そして俺は木の実に水をあげるためのホースのシャワー部分を外し水を出し、まずは弟ンネにぶちまけた。
「ミャップッ!ミャアプゥ~…」
と、想像以上勢いの強い水が顔にかかり、苦しそうな声を出しながら首をイヤイヤと振った。
「ミャ!ミィープ~ッ…」
弟ンネは水を浴びるという行為自体が嫌いなのか、顔から水が離れても嫌そうな声を出す。
そして弟ンネの掃除を終えた。
ピクシーに弟ンネの体を拭くように指示をだす。
そのときの弟ンネは、「ミゥ♪ミィ~♪」とうれしそうな声を出した。
優しく体を拭いてくれるピクシーに、母の姿でも思い出したのかもしれない。
そして次は妹ンネ。
「早く早く!」とでも言うように、「ミッミッミッミッ」と鳴きながら縦乗りビートを刻んでいる。
しかし同じように水を勢いよくかけると、「ピィヤーーッ!!」と悲鳴を上げた。
「ピッ!ゥピビィ…ビャゥーーッ!!」
体の汚れはドンドン落ちているというのに、喜ぶどころか全くやまない悲鳴。
そう、妹ンネはメスのため、弟ンネよりも体が弱いのだ。
しかも年齢的なこともあってか、まだまだ体の作り自体もしっかりしていない。
弟ンネは傷などは一切なかったが、妹ンネは手から肩にかけて細かい傷が出来上がっている。
「ピャィ!!ピャァーーッ!!」と、甲高い妹ンネの悲鳴を楽しみながら、俺はゆっくりと妹ンネの体の汚れを落とした。
そして弟ンネと同じくピクシーに体を拭かせる。
その間に、俺は先に部屋に戻った。
「ミッフィ~♪」と弟ンネはすでにやわらかいクッションに顔を埋めてリラックスモードだ。
反面姉ンネは先ほどの妹ンネの悲鳴にすっかり怯え、部屋の角で「ピュイ…ピィ…」と鳴いてうずくまっていた。
そして妹ンネを拭き終えたピクシーが、妹ンネを抱えて部屋に戻る。
「ミッ!ミィ~!!」と、無事を確認した姉ンネは急いで妹ンネに駆け寄る。
「ミィーーッ!」ピクシーからおろしてもらった妹ンネも、姉ンネの姿を見て涙を流しながら抱きついた。
さて、肝心の夕食だが…
俺は三匹にオボンを一つづつ渡して自分の夕食を食べ始めた。ちなみに、ルカリオとピクシーは庭の木の実を選んで食べている。
こうなると納得行かないのは働いていた二匹。
「ミィ!?ミィミィ!?ミミミィーッ!?」と騒ぎ立てて不満をあらわにする弟ンネと、「ミィ?ミイ?」と恐れながらも抗議の声を出す妹ンネ。
「あんなに一生懸命働いたのに、どうしてこれだけなの!!」ってことだろうな。
教えてやろう。
「何か不満かい?確かに仕事をすれば木の実を上げるとは言ったけど、君たちは仕事をする前に木の実をたくさん食べちゃったよね?」
と、あえてにっこり笑いながら話しかける。
妹ンネは二、三度耳をピクピクっと動かして黙ったが、その目からは尚納得の行かない意思が感じられる。
「ミィ!?ミィッ!!ミィーーーッ!!」
弟ンネは言葉の意味を理解していないのか、それでも不満をぶちまけてくる。
ちなみに今回働かなかった姉ンネは不満がないらしく、ただ心配そうな視線を妹ンネに向けて「ミイィ」と鳴いた。
「だ・か・ら、お前らが今働いたのと、その前に食べた木の実でチャラだってことだろうが!!本当はオボン一つでもお前らになんざやりたくないんだよ!!」
俺は唐突に怒鳴り声を上げた。
「ミピィっ!ピィピッ!!」
妹ンネはすっかり萎縮し、姉ンネの元へと向かった。
「ミギィッ!!ミギーッ!!」
だが弟ンネは、我慢出来なくなったのか思いっきり気合を入れた。
「ミヒャァッ!?ミッ…ミッ…」
その次の瞬間、ルカリオが俺の前に神速を使って飛んできてくれた。
大きな弟ンネの気合にルカリオも気づいたのだろう。弟ンネはその雄大な姿に怯えきって縮こまる。
「ミィ~…ミイィ~…」
それでもあきらめきれないのか、なおも俺にすがってくる。いい加減うっとうしい。
「いい加減にしろ。お前が食べた大量の木の実と、さっきお前が働いた分では到底つりあわない。それでも俺は我慢して許してやってるんだ。もっと食べたければ、明日からは真面目に働くんだな。」
と言い放ったのを最後に、俺は自分の夕食を始めた。
「ミィピィ…ミゥ~…ミャァウ…」
弟ンネはようやくたった一つのオボンを口にする。悔しいのか悲しいのか、その瞳からは涙がボロボロとあふれていた。
「ミイ♪ミィミィ♪」
だが次の瞬間には弟ンネのうれしそうな声が聞こえた。
やはり大好物のオボンだ。たった一つとはいえ食べられたことがうれしいのだろう。
単純な奴だ。
だがすぐに食べ終わってしまう。
「ミィ…ミィ…」と、残念そうな声を上げる弟ンネ。
「ミッピィ♪ミピュィ~♪」「ミィ~♪ミィ~ィ~♪」
こちらでは姉ンネ、妹ンネがおいしそうにオボンを頬張る。
何を話しているのか分からないが二匹で楽しそうな、これだけ見るとほほえましい光景だ。
「ミゥ~…ミゥ~…」
だがそんな光景を疎ましく思う者が一匹。弟ンネだ。
小さな、本当に小さな声でうなっている。
そしてその憎しみの視線は姉ンネに向けられていた。
そして行動に移った。
「ミフィィッ!ミギーッ!!」
と、気合を入れて姉ンネに体当たりしたのだ。
「ミッファ!?」
驚いて前のめりに倒れる姉ンネ。
そして「ミィィッ!ミッミギィ!!」と喚き散らす弟ンネ。
まるで「働いてないお前に食べる権利はない!!」とでも言うように。いや本当に言ってるかもしれないな
「ミ!?ミィ!?」
妹ンネは目の前で繰り広げられる兄弟の喧嘩にただただオロオロしていた。
「ミィ…ミゥ~…」
しかし起き上がった姉ンネは、弟ンネに謝り始めた。
おい、お前はもうちょい強く出てもいいと思うぞ。
「ミギーッミギッミッギーッ!!」
だが弟ンネの怒りは収まらない。より地団駄を踏み、今にも暴れだしかねない。
「ミッ…ミッ…」
そしてついに姉ンネが折れた。
自身が食べていた半分くらい残っているオボンを弟ンネに差し出したのだ。
「ミッ!!ミッフィ~♪」
喜んでそれを掠め取る弟ンネ。かと思うと、次の瞬間にはよだれを垂れ、醜い獣のように貪る。
コイツは昼飯を覚えてないのか?
「ミグーッミガーッ」
そして夕食を食べ終わり、弟ンネはすぐに眠り始める。
姉ンネと妹ンネは二人で食後のひと時を楽しんでいる。
だが、俺としてはここで弟ンネを寝かせるわけにはいかない。
幸い家は大きく、空いてる部屋がたくさんある。(一緒に住む人との生活を考えたのだが、相手がいないのだ)
俺は弟ンネを起こした。
「ミグッ!?ミフーッミフーゥ」
寝起き悪いなこいつ。いきなり威嚇してきたぞ。
「お前らの部屋はこっちだよ」
そういって、その部屋に三匹を入れてやる。
三匹とも珍しいのか、すこしキョロキョロしている。
「ミィッ!!」
だがここで弟ンネがダッと駆け出した。
そして、ベッドのど真ん中を位置取り大の字になって「ミゴーッミグーッ」と再び眠り始めた。
何なのコイツ。
「ミッ…」「ミゥ~」
妹ンネと姉ンネは少し困惑したものの、隅にあった座布団を並べて抱き合うように寄り添って眠りに突いた。
俺は外にでて鍵を閉める。
姉ンネと弟ンネが喧嘩でもしないかと心配にもなったが、それより気になることがある。
そう、多分こいつらも、そしてこの俺もすっかり存在を忘れていた卵だ。
所在なさげにソファーの上に置かれている。
音を聞いてみるとかすかに音が聞こえた。
恐らく「孵化前タブンネの炙り焼き」を作れるころだろう。
俺はこの卵をどうするか考えた。
最終更新:2015年02月20日 17:12