もう予想はつく。
ママンネは出産していたのだ。
昨夜家を出た間、子作りをしていたのだ。
「ミッミッ!」
キムチンネが衰弱した面持ちのママンネに向かう。
「ミガァァ!ミフーッ!」ママンネが激しく威嚇した。
流石にベビンネ達より迫力がある。
キムチンネは腰を抜かし失禁した。
ママンネから卵に近寄る外敵と認識されたのだ。ショックはデカイだろう。
キムチンネは泣きながら重い足取りで再びオデンネの元に向かった。
後でママンネと卵を何とかしないとな。
戻ってみるとオデンネは意識を失ったままだった。
「ミィ・・・・。」
悲しそうにオデンネを見つめるキムチンネ。
そういえばオムツンネの方が静か過ぎるな。飴玉を舐め終えるには早すぎる。
オムツンネを見てみると仰向けのまま動かない。
あれほど楽しそうに飴玉を舐めていた顔は顔面蒼白だ。
まさか・・・
飴玉を喉に詰まらせ窒息死したのか?
こんなにアッサリ死んでしまうとは予想外だった。
キムチンネはオムツンネに気づくと既に泣き叫ぶ気力は無いようで力無く崩れ落ちた。
目の焦点があっておらず精神の限界が近い事を匂わせる。
放心状態で心此処にあらずのキムチンネ。
オデンネはかろうじて生きているが暫く目を覚ましそうにない。
今のうちにママンネをどうにかするか。
だが今、何の策も無く屋根裏に向かっても返り討ちになるだろう。
とにかく屋根裏から引きずり出さねばならない。
僕は屋根裏に殺虫剤を撒いた。
「ケホッ、ケホッ」とママンネが咳き込んでいる。
ママンネは籠城を諦め屋根裏から姿を見せた。
「ミビャ!」
ママンネが僕が仕掛けた石鹸を踏みつけ派手に転倒した。警戒していたくせにこのザマとは。自慢の聴力に頼りすぎ足下の確認を怠ったか、単に無能故か。
まあ恐らく後者だろう。
だが、それでも一応母親だ。まず第一に卵の無事を確認する。
「ミィ・・・!ミッフゥ~」
無事だったようだ。
ホッと胸を撫で下ろすママンネ。
そんなママンネの視界に僕の姿が入ると笑顔から一転激しく唸り威嚇した。
勝手に人の部屋に住み着き勝手に卵を産み、さらには敵対心を剥き出しにするママンネの身勝手さに僕の怒りは一気に沸点に到達した。
「ミグルルル・・!ミギィィィィ!」
唸り続けるママンネ。
とりあえず僕はバットで殴る事にした。
卵で手の塞がったママンネは文字通りサンドバッグと化した。
「ミグゥ!ミガァァ!ングバァッ!」
卵を庇い体を丸めるママンネの目は腫れて塞がり鼻はひしゃげ歯は欠けている。ママンネのタブンネらしからぬ不細工な鳴き声が響く度にバットは赤く染まっていった。
「ミヒィ、ミ、ミヒュ~。」
ボロボロになりながらも卵を守り続けるママンネ。
僕に対して敵対心は無くなり許しを請うように鳴き始めた。
僕が手をあげるとビクッと反応して体を丸めながらガタガタ震えている。
恐怖心で一杯だが、せめて卵だけには手を出さないで欲しいのだろう。
ママンネは絶対に卵を手放そうとはしなかった。
あまりに無防備な姿を見て僕は次の手を思い付いた。虐待用に借りてきたミネズミをママンネにけしかけた。
ミネズミ達はママンネの耳をかじっている。
「ミビィィ!ミッジィィィ~!」
僕は見てるだけで暇だったのでママンネの尻の穴にタバコを押し付けた。
勿論火の着いたタバコだ。ママンネの発狂せんばかりの悲鳴が止む頃には耳は綺麗にかじり取られ、かろうじて触覚だけが残った。
虐待が終わりママンネは抱き締めていた卵に優しく声をかけようとした。
だが、そこには先程までの卵は無かった。
割れた卵の殻とベビンネになる筈だったものがママンネの腹にこびりついている。
ママンネは自らのタプタプした厚い脂肪で卵を潰してしまったのだ。
「ミビャアアアア~!」
必死に守り続けていた卵を自分の手で潰してしまうとは滑稽なものだ。
泣き喚くママンネを見てそう思った。
ママンネはベビンネになる筈だったものを延々と舐め続けていた。
ママンネを見つめながら僕の手の中には卵が2つ。
さっきママンネが転倒した時に卵を盗んでおいたのだ。
ピシッ、ピシッ、パリン!丁度卵が孵ったな。
二匹の産まれたばかりのベビンネが第一声をあげる前に麻酔で強引に眠らせる。ママンネと対面させる前にやっておきたい事があるからだ。
僕はベビンネ二匹の耳を削ぎ落とし両腕を切断した。死なないように止血すれば再生力で傷は塞がる。
流石に欠損した部分は再生しないが充分だ。
グロテスクな塊を抱えたママンネに卵が無事で孵った事を告げるとママンネの顔に希望の光が戻った。
息を切らして贅肉を揺らしながらベビンネの鳴き声が聞こえる場所に走るママンネ。
「チィ!チィ!チィ!チィ!チィ!チィ!」
「ミィ・・!ミッ?ミッミィィィ!」
可愛らしく元気一杯の鳴き声の主の姿を見てママンネは愕然とした。
耳と腕が無いからだ。
まだ目も開いてないベビンネ二匹は本能で母親を察知したのか、ママンネ目指し頼りない動きで這い出した。
「チィ!チィ!チィ!チィ!」
本来なら感動的な場面だが・・・。
「ミブェェ~!」
ベビンネを気味悪がり嘔吐するママンネ。
這ってくる二匹の存在を認めたくないらしい。
せっかく、この世に生を受けたのに、産まれた直後に存在を否定されるなんて哀れなベビンネ達だ。
ママンネは耳と腕の無いベビンネ二匹から逃げようとしたが、狭い部屋の中だ。すぐ壁際に到達し逃げ場を失ってしまう。
そんなママンネに二匹が母親の温もりを求めてママンネに体を寄せた。
本来なら産まれた直後はママンネがベビンネを抱き締め体を舐めて綺麗にしてあげる。
まだ目の開かないベビンネはママンネの触覚に触れ母親の愛情を感じとり安心を覚えるものだ。
だがママンネは目の前の奇形児を認めず育児放棄してしまった。
ひたすら首を横に振り否定しても二匹は消える筈が無く、そこにしっかりと存在している。
「ミビャアア~!」
いくら泣いても、どれだけ現実逃避しようとも、延々と「何故、こんな酷い目に合わないといけないの?」と被害者面しようとも、ママンネにあるのは絶望だけだ。
大切な形見も家族の絆も産まれてくる子供との対面も自慢の耳も全て僕に奪われた。
まあ元を正せばママンネの身勝手からこうなった訳だが。
いや、まだ残ってるものがあった。
タプタプのだらけきった腹だ。せっかく産んだ卵を潰してしまうタブンネ自慢の腹。良かったじゃないか。
悲痛な叫びを続けるママンネの触覚に触れたベビンネ二匹は不安な気持ちで一杯になってしまい泣き始めた。
僕はママンネに鏡を見せてあげた。
「ミッ?ミヒッ!ミッピャアアア!」
鏡に映る姿は親子揃って耳が無くまんまるな頭。
どうやらママンネは今更ながら自分の耳が無くなっている事に気付いたらしい。「ママンネ、君にそっくりじゃないか。何で嫌がるんだい?」
意地悪くわざと優しく語りかけるとママンネはベビンネ二匹を放り出し逃げ出した。
「チィ!チィ!チィ!チィ!」
後には母親を求めて必死に鳴く捨てられたベビンネ二匹が残った。
ママンネは家を飛び出し近くに停車していたトラックの荷台に勝手に乗り込んだ。
子供達を見捨てて自分だけ助かろうと企てている。
僕はトラックの運転手に怒られると思い焦ったが、実際少し話をするだけで怒られる事は無かった。
数日後、宅配便で毛布とミィミィフーズが届いた。
先日のトラックは食肉加工の業者のものだったのだ。僕はママンネを処理して出来たフーズと残った毛皮で作った毛布を手配して貰ったのだ。
まずフーズをキムチンネとオデンネに与えた。
二匹共に元気だが仲は険悪だ。
毎日交代で溺愛と虐待を繰り返している。
フーズを奪い合いながら食べる様は醜く知性のカケラすら感じさせない。
ベビンネ二匹にはママンネの毛布を与えた。
懐かしい匂いを感じたのかベビンネ達は毛布にくるまり、とても心地良さそうだ。
「チィ♪チッチィィィ~♪」
毛布の中ではしゃぎ遊びだす二匹。
こんなに楽しそうな表情は初めて見る。
母親の温もりに包まれて幸せなんだろう。
あんな親でも、こいつらにとってはかけがえのない唯一の存在だったんだろうなぁ。
僕は同じくママンネ産のマフラーをベビンネ達の首に巻いた。
「チィ!チッキャア♪」
すっかり朝晩は寒くなったこの時期にマフラーは嬉しいだろう。
ベビンネ達は瞳を閉じてうっとりしたような表情を見せた。
僕はマフラーの両端を思い切り引っ張った。
「チ・・・ィ!チッチィ・・!」
形見とも呼べるマフラーで首を絞められ恍惚から悶絶に変わる二匹。
「チィ!チ・・!」
母親の温もりに包まれながら意識が遠のく二匹の呻き声。母親を呼んでいるのだろうか?
「もう大丈夫だよ。寂しい思いをさせてごめんね。すぐにママに会わせてあげるよ。」
ギリギリとマフラーに力を入れながら僕は呟く。
「ママ」という単語に少し安心したのか、二匹の表情が若干和らいだ気がした。腕が無い為、首を絞められても一切抵抗出来ないが、孤独に死んでいく訳ではない。こいつらも本望だろう。
二匹はやがて動かなくなった。
殺されたというのに、どこか安らかな顔をしていた。僕は少しだけ後悔していた。
腕を残しておけばマフラーを掴んで抵抗し、死ぬ直前にマフラーから手を離し力無く腕をだらんとさせる。そういった光景を見る事が出来なかったからだ。
台所では、そんな事は露知らずママンネの肉を貪る二匹がいた。
「ミッ!ミッ!クチャ、ミフッ!フガッ!ンクッ!ミップゥ!」
ガツガツとママンネ産のミィミィフーズを食らう二匹。
そういえば初めて会った時も今の様に冷蔵庫を荒らして食べ物を貪っていたな。あの時と同様、品性など持ち合わせておらず汚ならしく食べていた。
しかし、あどけなさや無邪気な振る舞いが可愛らしく僕の嗜虐心をそそった。
だが今はどうだ。虐待のし過ぎで精神が退化したのか、知性など無く獣そのもの。
以前のような僕の暴力に対しての恐怖心からくる態度は変貌し辱しめを与えても羞恥心が無くなった為か大したリアクションもなし。僕は単なる獣と化した二匹から興味が薄れてしまった。
せめて獣なら獣らしい最期でも与えてやろうか。
食べ終えた二匹は口の周りをフーズの欠片まみれにしたまま僕を睨み続けている。
だが絶対に僕に危害を加えようとはしない。敵わない処か酷い目にあわされる。唯一残った本能がそう学習させたのか。
その日の午後、二匹を外に連れ出した。
キョロキョロと周囲を見渡した後、草むらを駆け回る二匹。
久しぶりの外の空気。その開放感から笑顔を取り戻しはしゃぎだした。
「ミッ!ミィ♪ミィ~♪」思い切り体を動かし草の匂いを嗅ぎ自然の世界を満喫している。
その時、草むらからガサッと物音がした。
ビクッと振り返る二匹。
そもそもタブンネ達がうちの屋根裏に住み着いたのは何故だ?
野生の世界では生きていけなかったからだ。
多くの
タブンネ一家は父親を失い残った家族は容易く離散する。(一部の人間からはパパンネの耳と腕を切り落とすのが流行っているらしい。その為捕食され易くなり早死にする。)
こいつらも似たような経緯の後、野生から逃げてきたのだ。
二匹はすっかり忘れていたのだ。野生の厳しさを。時に無慈悲で理不尽。それに比べれば僕の気紛れによる虐待など可愛いものだ。
草むらから姿を現したのはジャローダ。
勿論野生ではなく借りてきたポケモンだ。
「ミッ・・・!ミピィ・・!」
歯をガチガチ鳴らし膝は笑いパニックからか呼吸は乱れている。目はしっかり見開き被食者であるジャローダを凝視したまま瞬き1つしない。
「いい表情をするじゃないか。これを見たかったんだよ。」
二匹の姿を写メで撮りながら僕は満足感に包まれていった。
「ミグゥ!ミギャア!」
ジャローダに締め付けられる二匹。全身の自由を奪われ抵抗する事が出来ない。残った権利は悲鳴をあげる事だけ。
その悲鳴がジャローダの食欲を促進させている事も知らず二匹は鳴き続けた。
「ミギギギギ・・・!」
締め付けられる力が増していき骨が軋む音が響き渡る。
既に瀕死のベビンネ達を舐め回すジャローダ。
唾液でベビンネの全身を濡らす事で丸呑みし易くする為だ。
舐められる度に「ミ、ミヒィ!」と体を震わせるが、なす術なく唾液でベタベタになっていく。
そろそろ我慢の限界のジャローダ。
口を大きく開け遂にベビンネ達を丸呑みした。
「ミビャアアアア!」
ベビンネ達の最期の絶叫は口の中に入り舌で掻き回され唾液で溺れる事でかき消された。
その後、ジャローダの喉が膨らむとゴクンッ!と音を鳴らし再び元の形に戻るのであった。
ジャローダは舌で口の周りを舐めながら先程の喉越しの余韻を味わっているのか目を瞑り満足そうな顔を見せた。
「ご苦労様、ジャローダ。戻っていいよ。」
ジャローダをボールに戻すと周囲はすっかり静かになった。
戻す直前、ジャローダの腹から微かに「ミィミィ」と鳴き声が聞こえた気がした。
思えばストレスの元凶だったタブンネ。
まあ少しは楽しめたかな。また気が向いたら野生のベビンネあたりでも拾って遊ぼうかな。
家路につく僕の足取りは軽やかだった。
最終更新:2015年02月20日 17:31