AM8:30
タブンネ被害者の会・本部前には老若男女の人々が集まっている。
「では皆様、送迎バスにご乗車ください。」
会員がそう言うと、皆続々とバスに乗り込んだ。
俺も乗るとするか。
一番前の左側の座席に座ると、隣には昨日の受付嬢が座った。
「あら、昨日の方。おはようございます。エネコちゃんはその後大丈夫ですか?」
「ええ、おかげさまで。さすがに連れてはこれませんから、ポケモンセンターに預けています。」
「そうですか。あら?それじゃあそのモンスターボールは?」
「ああ、これは今日のために実家から送ってもらったストライクです。」
昨日のPM7:10
俺はエネコを預けた後、ポケモンセンター内の公衆電話から実家に電話した。
「あ、もしもしお袋?実はストライクを送って欲しくて…」
この時お袋にはタブンネとエネコについては言わなかった。
言えばきっと止めに入ると思ったからだ。
久々にストライクと一緒にバトルでもしたいと言い訳したが、騙しているようで胸が痛い。
しかしエネコをあんな目に遭わせた豚どもに対する復讐心はやはり抑え切れない。
俺のストライクは子供の時から一緒に友達と遊んだり、バトル大会に出場した仲だ。
エネコとも仲がいい。
今回あの豚どもの中には、技マシンで強力な技を覚えてから捨てられた個体もいるという。
ならばこちらも強力なポケモンで応戦せねば。
転送してくれたお袋に礼を言った後、ストライクを連れてエネコが休んでいる部屋へ向かった。
包帯を巻かれたエネコを見て、ストライクは驚きを隠せない様子だ。
俺はこれまでの経緯をストライクに語った。
ストライクもやはりタブンネどもに怒りを覚えたようだ。
俺はエネコに、
「エネコ、明日お前の仇をとってくるよ。連休は台なしになっちゃったけど、その分あのタブンネどもにエネコの痛みを知らしめるよ。」
するとエネコは首を横に振り始めた。
やはり復讐はいけないと思っているのだろう。
「勿論言いたいことはわかるよ。でもタブンネに苦しめられているのは俺達だけじゃない。タブンネに復讐しないと報われない人もいるんだ。わかってくれ。」
ストライクからも説得してもらうとエネコは了承してくれたのか、首を縦に振って俺に擦り寄った。
エネコ、お前の気持ちは無駄にしないよ。
俺はスカイアローブリッジを走るバスで回顧しながら、外の景色を眺めていた。
すると受付嬢がフロントガラスの向こうを指差し、
「みなさん見えてきましたよ。まもなくヤグルマの森です。」
皆座席から顔を覗かせた。
視線の先には鬱蒼とした森が広がっている。
もうすぐだ。
命のタイムリミットが少しずつ迫っているのを、タブンネどもは知るよしもないだろう。
バスは橋のETCを通過し、ヤグルマの森へ向かった。
AM9:20
バスはヤグルマの森入口前の駐車場に停車した。
「ではみなさん下車したら私についてきてください。」
俺たちはバスから降りて、ヤグルマの森入口に集まった。
するとジェントルマンな服装で還暦前くらいの男性がやってきた。
「皆様おはようございます。私がタブンネ被害者の会会長のロバートです。さて、これから森に入るにあたり、皆様には各一名ずつ一人案内人を随行してもらいます。森は深い上に強力な野性のポケモンも生息しております。バトルは素人な方にはベテランのトレーナーを随伴させますのでご安心ください。それでは一名ずつお名前を呼びますので、その方から会員と森に入って下さい。」
そして名前を呼ばれた人から順に、装備を持った会員と森へ分け入った。
「アレン様、アレン様」
!俺だ。
立ち上がると、やってきた会員はあの受付嬢だ。
「よろしくお願いします、アレンさん。なにか私と縁がある気がしますね。」
そう言われて少しドキッとしてしまった。
「ハ、ハハハ。そうですね。」アセアセ
「ふふふ。では行きましょうか。」
隣で座っていたおばさま二人に微笑まれた俺は、受付嬢と共に空気の美味しい森へと入った。
エネコの敵討ちにきたのだが、少し楽しいピクニックにもなりそうだ。
そのころあの
タブンネ一家は…
パパンネは他の家族のパパンネ達と木の実を取りに、ママンネは巣穴で子タブンネ達の世話をしていた。
おや?どうやら干し草ベッドにはタマゴ×3もあるようだ。
ママンネは自分の周りを子タブンネたちが
鬼ごっこしてる光景を微笑ましく見ている。
本当に自分達の卑劣な行為に罪悪感は無いようだ。
正に糞豚っ!
万死に値する生物っ!
こいつらには地獄の業火すら生ぬるいだろう。
だが豚どもへの制裁の足跡は確かに近づいていた。
森を歩いて約1kmだろうか。
森の匂いに少し違和感を感じ始めた。
「気付きましたか?もうすぐ見えてくると思います。」
「?何がですか?」
「ちょっと心の準備をしてご覧になったほうがよろしいかと…」
そう言われて5分ほど歩いた。
しかし歩けは歩くほど何かの嫌な臭いが森の匂いをかき消していく。
「ではそろそろこちらを装着してください。」
渡されたのはマスクだ。
しかも医療現場で使われるタイプである。
「一体この悪臭は何なんですか?」
「結論から言えはタブンネ達の酸化した糞尿です。」
「え…」
「あ、見えてきました。
いやでもやはり見ないほうがいいかもしれませんね。」
しかしそれはもう俺の視界に入っていた。
そこには絶句しかできない光景があった。
いたるところに茶色の物体があり、
木々の根本には黄色っぽい染みがこびり付いている。
そのせいかオボンの木は今の季節に沢山実るはずなのに、
すっかりやせ細っている。
排泄は自然な生理現象だし、野生ポケモンの住む森なら糞が
落ちていることは何ら不思議では無い。
しかしこれはその域を凌駕している。
まるでわざと一ヶ所に粗相したようだ。
「なぜこんなことが?」
「原因はタブンネの習性と過剰な繁殖です。
タブンネは縄張りを広げる際そこで生息する
ポケモンと戦おうとはしません。
最初は譲るようにひたすら群れ全体で媚びます。
当然そんなポケモンに譲る訳がありません。
次にリーダータブンネが勝手にキレて攻撃を仕掛けますが、
ほとんどは返り討ちに遭います。
そこで彼らは最悪の暴挙に出ます。
なんと相手の縄張りにタブンネ総出で糞尿をまき散らします。
森に住むほとんどのポケモンは鼻が利くので、悪臭に
耐え切れずに縄張りを離れざるをえません。」
…一体どこまで下賤なポケモンなんだ。
たしかにこんな悪臭では睡眠や食事どころではないだろう。
「その上本来の繁殖力もあって、異常な群れの個体数は間違いなく
この森の生態系を悪化させています。」
もはや都会だけではなく、野生の世界でも害獣なのか。
タブンネのいいところなんて肉や卵がおいしいことだけではないか。
いや、こんな光景を見ればそんな気も失せる。
とその時、周りの茂みからガサガサと音が聞こえた。
現れたのは…
ペンドラーだっ!
しかも三体もいる。
「「「ペドーッ!!」」」ドスンドスン
何故か相当気が立っている。
!!まずい、こっちに向かってきた。
俺はモンスターボールに手をかけたが、慌ていたからボールを落としてしまった。
「ドレディア!出番よ!」
受付嬢がモンスターボールからドレディアを繰り出した。
「アロマセラピー!」
「ドレドレ~♪」
命令を受けるとドレディアはペンドラー達にとてもいい香りの花粉を放った。
「「「ペド~♪」」」
ペンドラー達はおとなしくなった。
「ふう、この時期のペンドラーは繁殖期で、しかも餌の不足で相当気が立っているのでしょう。タブンネが森の木の実をほぼ独占してるので、調達に苦労してるみたいです。」
なるほど、かわいそうに…
俺は気の毒になったので、ペンドラー達にストライク用の虫ポケフーズを分け与えた。
なに、けっこう余分に持ってきたから、ストライクの分はまだある。
最初は警戒していたが、よほど腹を空かせていたのだろう。
恐る恐る手の上のフーズを食べると、歓喜の鳴き声をあげた。
そうだ!あれを使ってみよう。
俺はリュックサックからあの「ポケリンガル」を取り出した。
「まあ、いいアイテムを持ってきましたね。」
「ハハハ、レンタルですけどね。」
俺は装着してペンドラーと会話してみた。
「どうだ?もう少し食べるかい?」
ペンドラーが鳴くと、機械が作動して、
(いえ、私達は十分です。さっきはいきなり突進してごめんなさい。子供のために餌を探してあたのだけれども、この一体の木の実はタブンネに食べ尽くされた上に、糞尿で木を枯らしていくの。それでイライラしてしまって…)
話し方から♀のようだ。
母は大変だよな。
ますます気の毒だ。
俺はペンドラー達に袋ごとフーズをあげた。
「フシデ達に食べさせてあげな。」
受け取ったペンドラー達はお辞儀をして森の奥に消えていった。
「フフフ、アレンさんって優しいんですね。」
「いっ、いえいえ。それよりさっきはありがとうございます。男である俺の方が慌ててしまって…」ガックリ
「慣れていますから。この森には過去四回きてます。」
なるほど、心強いガイドだなあ。
「では行きましょうか。タブンネのコロニーは近いはずです。」
もうすぐのようだ。
もうすぐエネコの無念を晴らしてやれる。
あのタブンネ一家が俺を見た時の顔を早く見てみたいものだ。
そのころそのタブンネ一家では…
ママンネはタマゴを温めており、子タブンネ達は外で鬼ごっこの続きをしていた。
他のタブンネ達も見ているから、ママンネも安心して巣穴でタマゴを世話できるというわけだ。
だがタブンネ達が一瞬目を離した隙に、好奇心に駆られた二匹が森へ探険に入った。
ママンネとパパンネからはコロニーから離れるなと言われているのに、二匹は言い付けを破っている。
残りの三匹は遊びに夢中で気付いていない。
子タブンネ二匹は「ミヒャハハ♪」と森を鈍足で走っている。
後にこの二匹の愚行が、コロニーのタブンネ達にとって最悪の災厄を招くことになろうとは、お花畑の頭を持つ糞豚どもが知るはずもない。
AM10:30
歩くこと20分。
森の中から開けた場所に着いた。
ここがタブンネのコロニーかと思いきや、子豚一匹いる様子はない。
何故か受付嬢は困惑した顔だ。
「おかしいですね。先遣隊の報告ですと、三日前はここにコロニーがあったはずなんですが…」
「どこかに移住したということですか?」
「そうなりますね。少しお待ちください。無線で捜索隊に連絡してみます。」
俺は少し落胆した。
ようやく仇を討てると思ったのに…
「捜索隊の方もタブンネを発見できていないようです。まいりましたね。タブンネは『秘密の力』で地面に巣穴を作りますし、さらに聴力で私たちが近付くのを察知して巣穴に隠れるので見つけづらいんです。先遣隊も五日かけてやっと見つけたくらいです。」
くそ、それでは今日見つけるのは絶望的ということか。
もし今日明日見つからなければ、エネコの仇討ちは難しくなる。
エネコのためだけではない。
あのペンドラーのように、タブンネに苦しめられているポケモン達も助けてあげられない。
このままあんな糞豚どもを野放しにしてしまうのか…
何か手がかかりはないのか?
そう考えていると、草むらがガサガサと揺れていることに気付いた。
また飢えた野性ポケモンかと思って身構えたが、顔を出したのはピンクのチョッキにカールを巻いた触角、自然界で何の役に立つかもわからないホイップクリームテールを持つポケモン。
つまりタブンネの子供二匹だ。
ピンク子豚二匹は受付嬢に近付いたかと思うと、ミィミィ鳴いて媚び始めた。
両手を掲げているところから見て、餌を貰おうという魂胆だろう。
子供でも卑しい奴らだ。
というか野性のくせに人への警戒心はないのか?
一匹がこちらに気付いた。
俺にも媚びるかと思いきや、俺の顔を見るなり「ミヒッ!」と鳴いて顔を青くした。
もう一匹も俺を見たとたんにガクガクと震え始めた。
臆面が一切無いタブンネが、相手が男だからといって怯えるとは思えない。
……ということはまさかこいつら。
「おい!おまえら『あの時の』タブンネどもかっ!?」
子タブンネどもはビクッと怯えて、フルフルと首を横に降り続けている。
否定しているようだが、行動と表情が一致していない。
間違いないな。
コロニーへの手がかかりも無く、途方に暮れていたかも知れないのに、まさか向こうからお出迎えしてくれるとは…
マヌケという言葉以外にあるだろうか。
俺は二匹を捕まえた。
「ミッ!ミヒーン!」ジタバタ
「ミフーッ!ミフーッ!」ペチペチ
一匹は泣きながら暴れて、もう一匹は威嚇しながら短い手で俺の手をペチペチ叩いている。
こんな奴らにエネコを傷つけられたというのか。
「痛っ!」
暴れ子タブンネに親指を噛まれて放してしまった。
すると暴れ子タブンネは威嚇子タブンネに脇目も振らずに、森へ逃げ出した。
「ミヒッ!ミヒッ!」ポテポテ
「ミッ!?ミーッ!ミーッ!」ジタバタ
兄弟を見捨てて自分だけ逃げ出した。
本当にどこまで糞豚なんだ。
見捨てられた子タブンネは助けを必死で求めているが、逃げ子タブンネが振り返ることは無い。
「ミッ…ミーン、ミーン」ウルウル
泣き始めた。
血を分けた兄弟に置いてかれたのだから、まあ当然か。
逃げ子タブンネを追いかけて再び捕まえるのは、あの鈍足では容易だろう。
泣き子タブンネを適当に痛め付けて縛った後で追いかけようとすると、
「待ってください。一度逃がしましょう。」
突然受付嬢から信じられない言葉を言われた。
「なっ、何故です?仏心でも出たというんですかですか?」
「落ち着いてくださいアレンさん。今コロニーへの手がかりはこの子タブンネだけです。勿論ただ逃がすだけではありません。」
受付嬢は腰のポシェットからボタンのような物を取り出した。
そして子タブンネの尻尾の中にそれを入れると、
「これでOK。さあ逃がしてください。」
「し、しかし…」
「私を信じてください。必ずアレンさんの本懐は叶えますから。」
受付嬢は力強い目で語った。
信じざるを得ないな。
俺は子タブンネを地に降ろした。
「ミッ、ミーン?」
何故解放されたか理解できないのだろう。
俺と受付嬢を交互に見つめている。
その仕種が俺をいらつかせるが、
「さあ!どこにでもいっちまえっ!」
タブンネはビクッとすると、一目散に森へ駆けていった。
「それで、どうしてタブンネを逃がしたんですか?」
「それはこのためです。」
受付嬢はリュックサックからタブレット端末を取り出した。
電源を入れると地図が表示された。
「これでGPSを使って目標を追跡できるんです。さっきのボタン型機械は発信機です。」
「な、なるほど。」
そうか、冷静に考えるとあの子タブンネに案内してもらえば、コロニーはたやすく見つかる。
目標の内の二匹を見つけて熱くなりすぎた。
「さあ、こんどこそコロニーです。行きましょう。」
俺達は地図上で動く目標を確認しながら、歩を進めた。
地図上のターゲットは俺達の600m先を、人が歩く速さで進んでいる。
子供といえど、近付き過ぎるとその特異な聴力で感づかれてしまう。
まあそうなったとしても、子タブンネにはコロニーに帰るしか道はないと思うが。
すると前方の草むらが大きく揺れ始めた。
「ちょっと見てきます。ストライク。出てこい。」
俺はストライクをボールから出して、正体を確認に向かった。
覗いてみると…
大人タブンネ×2だっ!
大人タブンネは草むらから飛び出すと、威嚇を始めた。
「ミフーッ!」
「タアァァァアブゥゥッ!」
二匹は威嚇しながらじりじりと間合いを詰めてくる。
だが恐くともなんともない。
ストライクに完膚無きまで痛め付けてもらおうとすると、
「キャアッ!」
後ろから受付嬢の悲鳴が聞こえた。
振り返ると五匹のタブンネの内二匹が受付嬢の両腕を捕まえている。
ストライクに助けるよう指示すると、
「ミッミッ!」
近付くなと言うように、一匹が電気が流れている手を受付嬢の顔に近付けた。
野性のタブンネは電気技を覚えられないから、こいつは捨てられた個体だろう。
「ミーヒャハハハハ」ドヤンネ-
くそっ!
人質というわけか。
威嚇タブンネ二匹は陽動だった。
すると子タブンネが出てきて「ミッ!ミッ!」と俺を指差した。
大人タブンネに「痛め付けてっ!」と言っているようだ。
GPS子タブンネは600m先にいるはずだから、こいつは兄弟を見捨てた子タブンネだ。
人質ををとってもらえば強気になる…
どこまでも下衆野郎だ。
大人タブンネは俺とストライクを囲い込んでじりじり近付いてくる。
俺は腹が立った。
糞豚どもにもそうだが、何より糞豚な陽動に引っ掛かって受付嬢を危険に晒した自分に…
「アレンさんっ!私は大丈夫ですから反撃してくださいっ!」
するとタブンネは黙れと言うように、
「ミイッ!」
と受付嬢をはたいた。
「うっ!」
「くっ、くそおおおっ!」
何かないのか?
この状況をひっくり返せる要素はっ!
会の人達に応援を呼ぶことができれば…
今だけでいいっ!
奇跡は起こらないのか?!
…いや、奇跡なんて望むなっ!
俺の勇み足が原因だ。
俺のミスは俺が解決するしか無いっ!
俺は意を決して、ストライクに攻撃を命令しようとした…
だがその時っ!
「「「「「ペドーーーッ!!!」」」」」
「「「ホイーーッ!!」」」
森から雄叫びが聞こえた。
タブンネどもは何事かと慌てふためいている。
すると地鳴りが響いた。
どんどん大きくなる。
そして一斉に五匹のペンドラーに三匹のホイーガが飛び出したっ!
「ペドーッ!」
「ホイーッ!」
糞豚どもは突然の出来事に対応できずに、
「ミッ!?ミヒャアァァァァァッ!」ドスドス
「チィチィッ!チィチィッ!」ペタペタ
と逃げ惑うばかりだ。
この隙に俺はストライクに受付嬢を捕らえている糞豚二匹への攻撃を命令した。
「ストォォォォォッ!」
ストライクは一気に攻撃可能範囲内に入り、その鎌を素早く振り下ろした。
「ミッ!?ミィ?」
「タブネ?タブッ?」
二匹は自分が何をされたかわかっていない。
だがその時、二匹の両腕が体から離れた。
「タッ?タブッ?」
「タァッ?」
地面に落ちている四つのピンク色の物体をみると、二匹はガクガクと震え始めた。
「ミッ!ミヒィッ!?ミビャアァァァァッ!」ガクガク
「タアッ!タアッ!タブネェェェェッ!」ワナワナ
いやでも認めざるを得ないだろう。
二匹の両腕はストライクによって、鮮やかに切断された。
「あ、ありがとうございます!」
「いえ、礼はこのストライクに言ってください。」
「ええ、ありがとうストライク。」
「ストライッ!」テレテレ
そして他のタブンネどもは…
あるタブンネはホイーガのハードローラで派手に吹き飛ばされ、またあるタブンネはペンドラーの毒毒で悶え苦しんでいる。
「ミボオォォォォッ!」グシャッ
「ブッ…ブボォォ…」ブハッ
すると子タブンネは震える足取りで逃げている。
当然ペンドラーの素早さとは比べ物にならない。
目の前にペンドラーを見ると、なんと媚びだした。
「チィチィ、チィチィ」スリスリ
自分は何もせずに傍観していたくせに、自分だけ助かろうとしている。
ペンドラーは自分に擦り寄る糞子豚を踏みつけようとした。
だが急に子タブンネはうずくまり始めた。
「ミヒッ!?ミヒッ!?」ビクンビクン
痙攣している。
そうだ、ペンドラーの毒のトゲで毒を浴びたのだ。
自分から毒状態になるとは、救いようのない糞子豚だ。
ペンドラーは子タブンネにおどろおどろしい色の液体を浴びせた。
ベノムショックだ。
「ミビュアァァァァァァッ!!」ビックンビックン
子タブンネはより強く痙攣した。
さながらコイキングの跳ねる姿みたいだ。
「ミッ、カハッ!」
と言い残して糞子豚は絶命した。
顔は絶望に染まりきっている。
正に糞豚に相応しい最後だ。
それはさておき、ペンドラー達が助けてくれた。
「ありがとう。でもどうして助けてくれたんだ?」
するとポケリンガルを通して、
(さっき餌をくれた恩を返したまでです。一族でお礼を言いにあなたたちを探していたら、タブンネ達囲まれたあなたを見つけのです。さあ、あなたたち。この人達にお礼を言いなさい。)
すると母ペンドラーの背中にはフシデが三匹いた。
(ありがとー)
(ふーずおいしかった)
(ありがとー)
と三匹はお礼を言ってくれた。
さっきのペンドラー達だったのか…
やべっ、俺泣きそうだよ。
そしてペンドラー達もホイーガ達もお礼を言った。
(ここまでくれば、私達があなた方をタブンネのコロニーまでエスコートします。)
そう言って一匹のペンドラーが俺達の前でペタンと座った。
(どうぞ乗ってください。この人は特性が虫の知らせですから心配はいりませんよ。)
ここまでされては断る理由は無い。
俺と受付嬢はペンドラの背中に跨がった。
なかなかいい座り心地だ。
受付嬢のナビゲートの下、ペンドラーの一行は子タブンネの追跡を進めた。
AM10:50
GPS子タブンネは相変わらず鈍足でコロニーへ向かっているようだ。
自分を見捨てた兄弟が死んだと知れば、どんな顔をするのか楽しみだ。
ちなみにその見捨て糞子豚は母ペンドラーの上でフシデ達のご馳走となっている(毒タイプだから毒は大丈夫のようだ)。
生きていても人やポケモンに迷惑をかけ続ける人生、いや豚生を送ったことだろう。
最後はその身を食料として役立ててもらいたい。
フシデ達も満足そうだ。
ところでヤグルマの森は起伏があるので、歩くのに苦労する。
だからペンドラーに乗せてもらえるのはありがたいことこの上ないのだが、森のポケモン達からの視線は少し痛い。
中には「ヒューヒュー、そこの仲良しカップル~」と俺と受付嬢を冷やかすヒヤップ(洒落じゃないよ)もいる。
その受付嬢は、
「さきほども言いましたけど、助けてもらって本当にありがとうございました。」
「いえいえ、俺はストライクに指示しただけですから…、それにきっかけをつくってくれたのはペンドラー達ですよ。」
「でもやっぱりアレンさんの指示があったからこそです。」
照れるなぁ。
女性から感謝されることは滅多にない。
「エレナです。」
「えっ?」
「私の名前です。よかったら覚えておいてください。」
「は、はい。」タジタジ
もしかして脈あり!?
リア充憎い人ゴメンね!
さて、そんなペンドラー一団がやってくることなど露知らないママンネ達は、
「ミ~、ミフィ~?」ソワソワ
「タブタブ?」オロオロ
もうパパンネ達が木の実の調達から帰ってくる時間なのに、一向にその気配がない。
いつもなら、遠くからパパンネ達が収穫の知らせを大声で叫ぶのに…
それどころか、パパンネ達の苦痛に満ちた叫びが微かに聞こえた気がした。
特異な聴力がかえって不安を膨らませる。
子タブンネ達も腹を空かしているのに餌がこないから、泣き始めた個体もいる。
「ミエェェ~~ン、ミエェェ~ン!」ジタバタ
「ミシュン、ミシュン」メソメソ
「タブタブ、タブッ、タブネ?」ヨシヨシ
子タブンネ達が「おなかすいたよ~!きのみきのみっ!」「パパおいしいきのみをたくさんくれるっていったのに…」と駄々をこねるのを、ママンネ達は「大丈夫よ。もうすぐパパが甘い木の実を持ってくるからね。」と自分達も不安なのになだめている。
そのパパンネ達は、微かに生きている個体は会員に捕獲され、死んだ個体は炎タイプのポケモンで灰にされているというのに…
ストライクに両腕を刈られた二匹は、無い腕で必死に抵抗している。
「ミヒッ!ミヒーッ!」ジタバタ
「タァブンネェェェェッ!」ジタバタ
しかし腕を無くしたタブンネの抵抗などいかほどか。
会員達は足を掴んで引きずり、森の中でも進めるバギーの荷台に縛り付ける。
「エレナさんからの連絡通りだったな。」
「そうですね。きてみれば、必死に腕をくっつけようとしてましたね。」
この二匹は特性が再生力だが、それゆえに傷はすぐに塞がり、腕の結合は叶わなかった。
まあ味方も全滅の状況で、腕をくっつけてくれるタブンネがいるはずもないが…
すると会員の一人が、微かに息のあるタブンネを発見した。
「ブ…、フ”、フ”ヒ”…イ”イ”……ィ」
そのタブンネは痙攣に呼吸困難、さらに皮膚がただれている。
ペンドラーの毒毒で猛毒を浴びた個体だ。
「先輩、こいつも運びますか?」
「ん~?いや、毒で迂闊に触れないな。こいつも死体タブンネどもと同じように焼いてやれ。」
「わっかりました。クイタラン、頼むわ。」
「クイィー」ボッ!
クイタランは今も燃え続けている死体ンネと同じく、毒タブンネに煉獄を放った。
「フ”ヒ”ャャア”ァァァァァァァァッ!!」ビクビク
毒タブンネは最後の力を振り絞って断末魔を叫ぶ。
ちなみにこいつが受付嬢(以下エレナ)をはたいた糞豚である。
「タブッ!タブッ!タブネェェェッ!」ブルブル ビシャ-
「ミィィィィッ!ミィィィィィィッ!」ガクガク ビシャ-
「ミヒッ!ミヒンッ!」プルプル ビシャ-
その断末魔は生き残りタブンネ達に更なる恐怖を与えている。
さらに恐怖の余り失禁している。
「うわっ!こいつらバギーに漏らしやがった!」
「ああそうだ後輩、こいつらは極限状態になるとすぐに失禁するんだ。掃除しても切りがないからさっさと合流地点に運ぶぞ。」
生き残りタブンネは八匹中三匹(ストライクに切られた二匹とペンドラーのハードローラで下半身を粉々にされた一匹)。
バギー二台は、荷台にギチギチに縛られたタブンネ達を乗せて目的地に向かった。
途中タブンネ達は通り掛かった森のポケモン達に助けを乞いたが、当然助けるポケモンなどいるはずもなく、嘲笑われたり石を投げ付けられていた。
AM11:15
逃げているGPS子タブンネはコロニーを視界に捉えた。
そのころママンネ達は今更ながら二匹の子タブンネがいなくなっていることに気が付いた。
他の家族のママンネはともかく、当のママンネが自分の子供の存在を把握しなかったのはいかがなものか。
そしてママンネは必死に子供を大声で呼んだ。
するとGPS子タブンネはママンネの呼ぶ声を聞き取り、涙を浮かべながらコロニーへ走った。
そしてママンネを見つけると、その厚い脂肪の腹にダイブした。
「ミフェェ~~ン」スリスリ
「タブタブ、タブ~♪」ヨシヨシ
怯えている子タブンネをママンネは優しくあやしている。
感動の再会である。
だがその子タブンネがこのコロニーを破滅へと導く元凶であることを、お花畑の思考を持つ糞豚どもが知るのは、もはや秒読み段階である。
そして
「あっ!動きが止まりました。コロニーに着いたみたいです。」
「本当ですか!?やったなストライク!もうすぐエネコの仇をとれるぞ!」
「ストストッ!」
ストライクも張り切っている。
ペンドラー達もやる気のようだ。
(私達もあの糞豚どもの討伐に加えてください!)
(もう木の実を独占されたり、糞尿で縄張りを奪われるのはたくさんだ!)
断る理由は無い。
二つ返事で了承した。
「今連絡したら、猟銃を持った会員が援軍にきてくれるそうです。」
「それは心強いですね。でも俺達だけでも十分な気もしますけど…」
「いえ、実は母タブンネの中には火炎放射を覚えたまま捨てられた個体も確認されています。さっきのタブンネ達は父タブンネでしょうけど、ペンドラー達の奇襲のおかげで反撃の隙を与えることなく始末できました。しかし今回は子タブンネが当然コロニーのタブンネ達に警告しているでしょうから、奇襲は難しいでしょう。私達は草タイプに虫タイプの編成ですから、火炎放射を持つタブンネに挑むのはリスクが高いです。援軍と合流してコロニーを壊滅させましょう。」
理路整然としている。
ますます心強い。
しかし技を覚えさせた糞豚をそのまま捨てるとは、困ったトレーナーもいたものだ。
捨てるまえにしっかり技を忘れさせてほしい。
それはともかく、糞豚の最後はもうすぐだ。
AM11:30
ペンドラー一団はコロニーに到着した。
ペンドラー達には待機してもらい、俺とエレナさんとストライクで偵察に向かった。
見つからないようにこっそり覗いたが、ピンク色は確認できない。
「GPSの座標は間違いなくここから出ています。子タブンネの警告でコロニーのタブンネ達は巣穴に隠れているのでしょう。」
「ではどうします?」
「音響探知器で探す手もありますが、ひとつひとつ探すのは手間がかかるので、手っ取り早くおびき出しましょう。」
「どうやって?」
「それはですね…」ゴニョゴニョ
!なるほど!
さすがはタブンネ被害者の会、タブンネの習性を熟知している。
俺達は一度戻り、ペンドラー達に作戦を説明した。
俺達は援軍がくるまでの間、しばしの休憩に入った。
その頃あのタブンネ一家は、
「ミィミィ、ミ…ミィン」
「タブッ!?タブネッ!タブッ…」ワナワナ
ママンネは子タブンネからことの経緯を聞いた。
どうやらあのエネコのトレーナーが探しにきたこと、そして自分の子供が兄弟を見捨てて逃げたことが信じられないようだ。
「タブ…、タブタブ、タブネ?」ヨシヨシ
「ミィ!?ミィッ!ミィミィミィン!」ジタバタ
しかしママンネは「あの子が帰ってきても責めないであげて。」と言った。
それに対して子タブンネは「なんでっ!?あいつは僕を助けようともせずに逃げたんだよ!?」と癇癪を起こしている。
ママンネは諭すように「あの子も怖かったのよ。それにママ、仲の悪い二人を見るの悲しいな…」
すると子タブンネは「うん…、わかったよ…」と渋々了承した様子。
お花畑な頭の持ち主だ。
その見捨て子タブンネはパパンネ達をけしかけたあげく、不利になれは媚びて勝手に毒で苦しみ死んで、今はフシデ達によって骨と絶望の顔を留めた頭だけとなっているというのに…
巣穴の奥では残りの三匹の子タブンネが震えている。
「フィィィ」プルプル
「ミィンミィン」ガタガタ
「タブッタブッ」ブルブル
あのトレーナーが復讐しにきたのが恐ろしいらしい。
ママンネは三匹を抱き寄せて、
「大丈夫よ。この巣穴はパパとママが『秘密の力』で一生懸命作ったから、人間なんかに見つからないわよ」と根拠も糞も無く語った。
本当にお花畑だなぁ。
だが糞子豚どもは、
「ミィミィミィ~♪」ピョンピョン
「ミィン、ミヒャハハハ」クスクス
「ミィ~、ミィミィン?」プププ-
と根拠の無い話を真に受けて、
「なら安心だね♪」
「今頃見当違いのところを探してるよ」
「もしかしてパパにやられたんじゃない?」
と馬鹿にしている。
今すぐ殺してやりたい糞子豚どもだ。
だが直にこいつらも自分達の愚かさ、無力さ、罪の重さを知ることになる。
糞豚どもへの制裁のカウントダウンは静かに進んでいる。
AM11:45
「エレナさ~ん」
森の奥から猟銃を背負った会員達が、ギャロップやドードリオに乗ってやってきた。
援軍到着のようだ。
「おまたせしました。いつでもいけますよ。」
「いよいよですよアレンさん。準備はいいですか?」
俺は一呼吸おいて、
「勿論です。派手にやりましょう。」
ストライクもペンドラー達も頷いた。
一方ママンネ達は、
「パパ遅いね~」
「お腹すいた~」
「木の実木の実~ッ!」
と空腹を訴えている。
「タブ…、タブネ…」オロオロ
「あなた、早く帰ってきて。」ママンネはそう祈るが、
そのパパンネはペンドラーのハードローラーで
下半身を粉々にされ、ポケモン達の罵声を浴びながら会員と
地獄へのドライブ中だ。
だがその時、
「タァブンネェェェ~~」
聞こえるはずのないオスのタブンネの声が聞こえた。
ママンネと子タブンネ達は顔を明るくして、
「パパ帰ってきた~」
「木の実~♪木の実~♪」
「あなた、帰ってくると信じていたわ」
と巣穴をピョンピョン跳ねている。
子タブンネ達はパパンネを迎えに巣穴を飛び出した。
だが巣穴の前にいたのは……
「やあこんにちは。元気だったかな?みんな。」
満面の笑みを浮かべる、かつてのエネコのトレーナーだった。
数分前…
猟銃を持った会員達は、茂みからの狙撃の準備に入った。
ペンドラー達にはことが起きたら一斉にコロニーへ突撃してもらう。
俺とエレナさんとストライクはコロニーへ侵入、コロニーの中央辺りで、
「では始めますよ。」
エレナさんはCDプレイヤーにCDをセットした。
「しかしいくら奴らでも警戒しそうですけど?」
「私も最初そう思っていましたけど、この作戦の成功率10割なんです。まるで伝説のバッターですよね。」
おいおいマジかよ…
やっぱりお花畑な糞豚どもだ。
そんなお花畑の頭を絶望と後悔で満たしてやりたい。
エレナさんはCDプレイヤーを地面に置き、音量をMAX手前まで上げたら
スイッチを入れた。
「タァブンネェェェェ」
CDプレイヤーからオスタブンネのムカつく鳴き声が放出される。
なんでもこれは、食料調達の成功を知らせる声なんだとか。
それはともかく、俺は少し悩んでいた。
巣穴は、見えるものだけでも5個くらい。
うまくカモフラージュできたものもあるらしいから、俺の目標であるタブンネ一家を探し当てる確率は低い。
全てをカバーしきれないし、逃げられてしまう可能性もある。
そう思っていた。
ある物を見るまでは…
俺は茂みの前に黒い何かを見つけた。
あの黒い物体は…
もしやと思い、近付いて確認すると、
やっぱり!
俺の鞄だっ!
白とピンクの毛がびっしり付いている。
中身は持ち去られているようだ。
あの一家に置き引きされた鞄が何故ここにあるか…
すると茂みの奥に穴を発見した。
…もはや何も言うまい。
奴らのお花畑ぶりにはもはや驚かされる。
せっかくの茂みのカモフラージュも台なしだ。
まさに墓穴っ!
頭隠して尻隠さずっ!
すると穴から小さなピンクのポケモンが次々に出てきた。
俺はそれらを満面の笑みで迎えた。
「やあこんにちは。元気だったかな?みんな。」
「ミッ、ミヒィッ!?」ガタガタ
「タブッ!?タブネェェェェッ!」ビクビク
「ミィッ!?ミィィィィッ!」プルプル
過剰に震えている。
子タブンネ達は俺が何故ここにいるのか理解できないようだ。
まあパパンネが帰ってきたと思ったら、そこにいたのが俺なんだから、お花畑の頭では受け入れられないだろう。
「タブネッ?タァブゥネェ?タブネー」ノソノソ
奥から何も知らないママンネが這い出てきた。
ポケリンガルをONにすると、
(どうしたの?チビちゃん達。あなたー、どうかしたのー?)
と通訳された。
生憎俺は父糞豚ではなくて、休日中の会社員だ。
そして俺と目が合った。
「タッ!?タ…、タ…、タ…、タブネェ!?」ガチガチ
(ミッ!?な、な、な、なんであの人間がっ!?)
無様に血相変えてパニックになっている。
俺はわざととぼけて、
「おいおいタブンネちゃん達。人の顔を見て怯えるなんて失礼だぜ?それとも俺の顔に見覚えでもあるのかい?」
ママンネは必死に首を横に振る。
だが行動と表情が一致していない。
そういえば森で出くわした二匹の糞子豚も、まったく同じ反応だったな。
蛙の子は蛙、糞豚のガキは糞子豚ということか。
だが俺はママンネの必死の嘘に少し乗っかってみた。
「あれ?そうなのか?じゃあここではないのか…」
するとママンネは子タブンネ達に、
「タブ?タ…、タブッ!タブネタブネタブネ。」
(ミィ?そうか!チビちゃん達!この人間は私達を他のタブンネちゃんと勘違いしてるのよ。)
「ミ、ミィ!ミィミィ~。ミィヒャハハハ!」プププ-
(そ、そうかぁ。ママ頭いい~。こいつ間抜けだね~)
……俺の頭の何かが次々に切れていく。
「タブンネちゃん、ほら、このフエン煎餅あげるよ。」
俺は笑顔で間食のフエン煎餅を差し出した。
するとタブンネ達は何の躊躇もなく奪い、フエン煎餅をがっつき始めた。
そして食べ終わると、
「ミィミィミィミィッ!」サッ
(もっと私とチビちゃん達に寄越しなさい!)
と手を伸ばした。
「ああ、いいよ。」
ああ、くれてやるさ…
笑顔を保ち、俺は座っているママンネの眼前に立つ。
「タブンネちゃん…」
俺はママンネの両耳の触角を掴んだ。
「タブネッ!?タァブゥゥゥゥッ!」バタバタ
(ちょっと!汚い手で私の崇高な触角に触らないでっ!)
何か言っているが気にしない。
ママンネは俺の腕をペチペチ叩く。
ドクドクと脈打つ触角を掴みながら、
「タブンネちゃん…、食べさせてあげるよ…、全てを…」
俺は右足を後ろへ浮かせた。
「タブンネ…」
笑顔を消し、徐々に豹変させていく…
そしてっ!!!
「全っ部丸聞こえなんだよおぉぉぉっ!!!下衆豚があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
俺は何の迷いも無く。
何の制限も無く。
恐らくはこれまでの人生で出したことの無い力でっ!
母糞豚の顔面に強烈な膝蹴りを喰らわせた!
ドクシャアアァァァッ!!!
湿っぽく鈍い嫌な音の後に、
「ヒ”、ヒ”…、ヒ”ェ…」カタカタ
ママンネの、山の向こうまで聞こえそうな絶叫が放たれた。
「ヒ”フ”ュヤア”ア”ア”ア”ァァァァァッッ!!!!!」ガタガタガタガタガタ
いまだかつて聞いたことの無い音量の絶叫だ。
まるでホイッスルみたいではないか…
このコロニーの終焉を知らせる…
さあ時間だ…
「断罪の時」は今より始まる。
「ヒ”ュ…、ヒ”ュー、ヒ”ュー、…カ”ホ”ッ」ピクピク
ママンネは顔面のあらゆるところから醜く出血している。
脳震盪も起こしたのか、痙攣している。
「ヂュアアァァァァ!」
(ママアァァァァァァ!)
「ミィーッ!ミィミィーッ!」
(ママーッ!おきておきてっ!)
子タブンネ四匹がママンネにすり寄る。
すると俺の右手に何かが握られている。
この肌色の、山に生えているゼンマイのような物は…
言うまでもなく、ママンネの左の触角だ。
まあ触角を掴んで、掴まれた方を蹴り飛ばせばそうなるだろうが、
もろい付け根だなぁ。
無様なママンネをよく見ると、右の触角の付け根からも血が出ている。
もう一回やればブチ切れるかもな。
今は痙攣してそれどころではないだろうが、
自分の「崇高な」触角の片方が無いと知れば、
一体どんな反応を見せてくれるのか。
ママンネにチィチィ群がる糞子豚どもを引っぺがして
同じ目に遭わせたいが、仕事はまだ残っている。
今のうちにママンネの血にまみれた温もりを感じておくがいい。
するとさっきの絶叫で他のタブンネどもが「何事?」と
巣穴から様子を見に出てきた。
いやいや、仲間の絶叫を聞いて不用意に出てくるとは…
大人タブンネならまだしも、子タブンネもミィミィ出てきた。止めろよ。
こいつら本当にお花畑で警戒心ゼロだな。
その頭叩き直してやる。
さあ作戦第二段階だ。
「ストライク!『守る』!」
ストライクは「守る」を使った。
「ドレディア!こちらも『守る』!」
エレナさんに繰り出されたドレディアも「守る」を使った。
「くらえ~!」
エレナさんは『アレ』を投げつけた。
放物線を描いて地に落ちた『アレ』を、タブンネどもは
好奇の目で見ている。
「タブ?タブネ?」
「タブタブネ?」
「ミフィフィフィ~」ポテポテ
何匹かの子タブンネがポテポテと『アレ』に近づいた。
玩具か何かと思っているのだろう。
大人タブンネもドスドスと近づく。
だがその時っ!
コロニーは強烈な光と音に覆われた。
最終更新:2015年02月20日 17:37