辰年記念 サバイバル抽選会! その2


ボーマンダの部屋

「言うまでもないが、私はボーマンd…」
「知ってるミィ。“ボーちゃん”ってあだ名のボーマンダミィ」
「とっとと抽選を始めるミィ!此方は随分と待たされたんだミィ!!」
「ぐぅ…、貴様ら…。…まぁいい、では始めるとしよう!」

「今から連れていく部屋には、縄がぶら下がっている。各自それをしっかり掴んでいろ!」
「…掴むだけでいいのかミィ? はい、出来たミィ。次は何をするミィ?」
「…お前は、ポケパークでの私のアトラクションは知っているな?」
「あぁ、あの飛びながら的を撃ちぬくアレみぃね」
「そうだ…、俺は飛ぶ事を強く願い、翼を手にいれた…。だのに!俺はアレに参加出来なかった」

ピシリ…と床にヒビがはいる
「だから!私は…俺は…此処で願いを叶える!!」
ボーマンダの雄叫びと共に床が崩れ堕ちた

「ピギャ!!」
「ミブゥッ!!」
「やだ…、こっち来ないでミィィィ!!」
ボーマンダの放つ攻撃に当たったタブンネは吹き飛んで底に落ちていく
「俺はアイツ等が楽しんでいる時、指をくわえて見てるしか出来なかった…」
「だからって、僕たちタブンネを的にするなるて…最低だミィ!」
「黙れ!! 大文字!!」
「ミィガァァ!!」
「…そうだ、俺はやれる! 経験値しか能のない草むらの悪魔は、俺と流星群が、分子に還元してやる―――― !」

「ボーマンダ、楽しそうで何よりです…。一時期、引きコモルーでしたから」
「そういやアイツの特性って何ッスか?」
「自信過剰。まぁ、マルスケほどじゃないけどなかなかの特性リュー」
「夢特性…。別に羨ましくなんかないふりゃ…」
「そういやタブンネの夢特性ってなんだガブ?」
「不器用チル。」

「…終わったミィ?」
たまたま運がよく狩られない位置にいたタブンネが呟いた
辺りを見回すと少なくとも30匹以上のタブンネが狩られたのがわかった

「…今ので12700点か。初めてならこんなもんか…? いやまだだ!20000点を目指すぜ!」
「「もうやめろミィィィィィ!!」」

「こちらボーマンダ、ただいま帰還した」
「あ…お帰りチル……」
「…別に俺っちは何も見てないッスよ」
「…? タブンネは痛め付けた結果、8匹だけ残ったが構わないな?」
「…えぇ、構いませんよ…。さて、後はサザンドラだけですか…」


「うん、このパスタ旨い!触角がコリコリしてて癖になるサザ」
「ママ…、あたちのお耳無くなっちゃったミィ…」
「耐えるミィ…いつか逃げる機会を探してここから出るまでね」
「ごちそうさま! さて、次は…」
「ま、まだ食うのかミィ!?」
「豚の丸焼きを10個、触角パスタ100本…まだまだこれからサザ
……と、言いたいところだけどメインデッシュは皆と食べるから、今はもう食べないサザ」
「それなら僕たちの苦しみは終わりミィか!? やったミィ!」
「ちゃんと生き残ったミィ!!」
「チビちゃん…、絶対に忘れないミィ……」
「ところがギッチョンサザ! 今まで進化系のドラゴンばっかが暴れてきたから、箸休めにちっこいドラゴン達の御料理教室をするサザ」
「…で、なんでオラまで呼ばれてたクリ?」
「クリムガンが今まで一番影が薄かった配慮サザ。…では一足先に失礼するサザ」


「はーい、では今から“タブンネおろしハンバーグ”とタブンネ親子丼を作るチル」



タブンネ視点

どの小ドラゴンも目をギラギラ輝かせてこちらを見ているミィ…
「まずはタブ挽き肉を用意するチル。成体タブンネを麻痺らせてからフカマルの口に入れてミンチにするチル」
チルタリスがそう言うと、いきなりミニリュウが私の隣にいたタブンネに電磁波を食らわせたミィ!
そのタブンネの首筋をキバゴが切り裂いて…
「ミギャァァ!ガハッ!!ゴフッ…!!」
そのタブンネが倒れ、動かなくなるとすぐにフカマルが飛び付いてミンチにしていく
犠牲が同族でなければ感心していたであろうコンビネーション…

「そのミンチに、塩、黒胡椒、ナツメグを加えて…以下略」
チルタリスの指示通りの手順で小ドラゴンたちはハンバーグを焼いていく
「モノズくーん、つまみ食いはやめましょうチル。…同時進行でタブンネおろしをつくるチル」
「はいはい、どーせオラっすね」
クリムガンは渋々俯せになると、ミニリュウがもう一匹のタブンネを絞め殺し、タツベイがクリムガンの鮫肌でおろしにしていく
「や、やめるミィィィ…ミガァァ! 痛い痛い痛いミィィィィ!!」
生々しい肉の欠片が辺りに散らばったミィ…ミプッ
「おぇ…、ガバッ!ゲボッ…」
あまりのエグさに朝のきのみを戻してしまったミィ…

「おいおい…やめてくれリュー」
「メシ喰う気が失せたマル」
「万死に値するな」
「腹減ったノズ」
「チルタリスせんせー! コイツがゲロ吐いたキバー!!」
うるさいミィ…、竜は小さくても憎たらしいミィ…

「そういうのはね、罰として次の食材にしちゃうに尽きるチル」
「わかったリュー!」
「了解した」
「頂きまーすノズ!」

逃げなきゃ…、足に力がはいらないミィ…
迫る電磁波、迫る牙
ザシュッ!!
ゴフッ…、自分の首から溢れる鮮血が見えるミィ

私の意識は此処で途切れたミィ

 ・
 ・
 ・

「一回戦終了リュー!」
「さぁ!さっさと歩けガブ!」
檻に閉じ込められて2時間、最後のグループが“抽選”を終え、こちらにやってきたミィ

「あぁ…もうお仕舞いミィ…。アルセウス様…お助け下さいミィ…」
「どうせ死ぬのなら、苦しまずに死にたいミィ…」
檻の中の仲間は諦めムードになってきてるミィ…
…でも、僕には死ぬ前にやらなきゃいけないことがあるミィ…!

「がぶぶぶぶっ! やっぱコレ最高ガブ!!」
「さっきから、自分がタブンネを服従させたシーンばかり観てますね……ナルシストですか?」
「それよりもボーちゃんの厨二全快の無双シーンの方が面白いふりゃ」
「アレもいいガブが、やっぱコレじゃね? プライドの欠片すらないガブ!」
「…待て、何故お前ら私の部屋での内容を知っている…?」
「あー、実はボーマンダに言い忘れてて…。斯々然々チル」

そうアイツ…ガブリアスを叩きのめすまでは死ねないミィ
どうしようかと考えを巡らしていると、横にいるタブンネがツンツンとつついてきた
「…なんだミィ?(ボソッ」
「氷のジュエルだミィ。…今この場で冷凍ビームを使えるのは君しかいないミィ(ボソッ」
「たぶん奴等は弱点の技を持つタブンネを率先して始末していたに違いないミィ(ボソッ」
そうか…、アイツは馬鹿だから僕が冷凍ビームを覚えているのを見落としていたんだミィ…

「だから、お前が…脱出の鍵だミィ!(ボソッ」

僕が、脱出の鍵…?
「そうだ。…今ここには105匹のタブンネがいるミィ。 そのことを踏まえて作戦を立てると…」
「やはり…数で押して……」
「…ポケ質をとって…………」
「………なら、氷4倍の…」

………なるほど、いける! いけるミィ!
この作戦なら皆を救えて、アイツも倒せるミィ

「さて、そろそろ続きを始めるサザ。メインディッシュサザ」
「第二回戦といくッス!」
「…それじゃ…俺が……いや、私が…鍵を開けてくる……」
「ボ、ボーちゃんゴメンふりゃ…。お詫びにボクが行ってくるふりゃ!」

「…いいですか? 彼に行かせても…?」
「どーせ、奴等は竦み上がって動かないクリ」
「そうそう!豚どもにはプライドも度胸もねーガブからよぉ!」

…来た。あと20…10……
「いいかミィ! 鍵が開いたらすぐにアイツを押し倒すミィ!!(ボソッ」
「プリズンブレイクだミィ!!(ボソッ」
「タブンネの意地を見せつけてやるミィ!!(ボソッ」

「大事なお客様ー、二回戦目でございますふりゃー。鍵をあけてあげるふりゃよ」
ガチャリという音と共に扉が開く…
「「「今だミィ!!」」」
仲間がバッと扉から飛び出して、奴を押し倒した

「わっ!? は、離せふりゃ! セクハラふりゃ!!」
奴の体には十数体のタブンネがまとわりついて、身動き出来なくなっているミィ…
勝った…… 計画通り

「おい、何が起きたクリ!?」
「…ちょっと厄介な事になったチル」
「…私の計算から外れましたね。…ボーマンダ、貴方の責任です」
「解せぬ」
奴等に焦りが見えるミィ…。 ここは一気に…
「動くなミィ!! コイツがどうなってもいいのかミィ!!」
「…氷技持ちは処分したふりゃ。何をする気は知らないふりゃが、タブンネごときの攻撃でボクたちがやられるとでも…」
いつまでも偉そうに…、少し思い知らせてやるミィ
「黙るミィ!!」
叫びと共に、奴の目の前に冷凍ビームを撃ってやるミィ
「きゃっ!?」
「僕たちは…本気だミィ」
「冷凍ビーム!? 誰だッスか? 氷技持ちを消し忘れたのは…」
「私の計画から外れるとは許せないですね。急所に冷凍ビームの刑です」
「そそそそそんなの誰でもいいガブ! 今はアイツを助けるのが先ガブ!!」
「しかし…、下手に動くわけにはいかないリュー。かといって、このままにしとくのも可哀想リュー…」

「僕たちの要求は1つ!! 今いるタブンネを皆解放することだミィ!!」
本当は皆も家族や友達の恨みを晴らしたいに決まってるミィ
でも、今はただ生き残る事だけを考えるミィ…
「どうした!? 早く決めるミィ!!」

「さぁ! コイツを見殺しにして僕たちも殺すか!それとも僕たちを見逃してコイツを助けるか! 2つに1つだミィ!!」
勝ちを確信していた。 奴等の結束は確かだミィ…
それこそ、人間に囚われた子供のタブンネを母タブンネが見捨てないように

「待て! 本来捕まるのは俺だったはずだ! だから…」
「俺が身代わりになる…とでも言うつもりミィか?」
「笑わせるなミィ。みすみす体のいいポケ質を見逃すとでも思ったかミィ!!」
「「ミヒャヒャヒャヒャヒャハ!!」」
…そうだミィ。向こうに余計な選択権は与えるつもりは無いミィ

「……撃ちたければ撃てばいいふりゃ」
ミィミィという笑い声の中で奴は呟いた
「…黙るミィ」
「…その後、皆が君たちを生かしては帰さないことくらいはわかってるはずふりゃ」
「フライゴン!? 煽ってはいけません!」

僕たちの要求はここからの脱出……だから、その為のポケ質は殺す理由がない…といった所かミィ

「ボクを殺す度胸も何も無い奴が、ボクたちに勝てるはずが…」
コイツも…ガブリアスも…僕を馬鹿にして…!
プチンッと僕の中で何かが切れる音がした
「黙れと言ったミィ!!」
僕は怒りに任せて冷凍ビームで奴の右翼を貫いた

甲高い悲鳴が辺りに響く
僕の突然の行動に、味方も敵も静まり返った

「…ヒグッ…グスッ……」
「痛いかミィ? けれど…仲間の痛みはこんなんじゃなかったミィ!」
そう、冷凍ビーム一発で泣き始めるような奴に僕の仲間は――――

「野郎…やりやがったッス!!」
「八つ裂きにしてやるガブ!」
「内臓引き摺り出して、ごめんなさいと並べてやるサザ!!」
「落ち着くチル! 今は下手に刺激しちゃ駄目チル!」

「お前も少し頭を冷やせミィ! ポケ質が死んだら元も子もないミィ!」
隣にいた仲間が僕の肩を掴んで叫んだ
…そうだったミィ。危うく交渉のカードを捨てるところだったミィ…
でも、今ので僕たちの本気が伝わったはずミィ

「決める気がないなら…次は左ミィ! 僕たちは本気だミィ!!」
両者に沈黙が流れた

その沈黙を破ったのは…――

「はぁ…、本当はもう少し待って機会を窺いたかったのですが…。……わかりましたよ」
嫌そうな顔でキングドラが溜め息をついた
――― 要求を…飲んだ!

「じゃ、じゃあその扉を開けて…」
「……全く…残念です。







折角の二回戦の用意を無駄にすることになるなんて…」

「「「ミギャァァァア!!」」」
仲間の断末魔。一瞬で半数以上のタブンネが感電死したミィ!?

「何が…何が起きたミィ!?」

「ドラゴンダイブチル!」
フライゴンを押さえ付けていた仲間にチルタリスが突撃した
「ミギャ……? ミヒャヒャ!チルタリスの体重のダイブなんて痛くないミィよ!」
「…甘いチル。コットンガード!もう一度コットンガード!!」
チルタリスの体がむくむくと膨れ、下敷きになったタブンネを覆った

「コットンガードは防御を上げる技…、それで私達を倒せるとでも……? カハッ!ゴホッ…!」
「ミグッ!? い、息が出来ないミィ!」
「は、早くコイツを退かすミィ! はや…く……」
「ボーマンダ! 奴等が怯んでる隙に早く助けろチル!」
「あ…あぁ!」

しまったミィ!? ポケ質を見逃すわけにはいかないミィ!
「そうはさせないミィ! 冷凍ビー…」
「不意打ち!!」
ゴッと不意に後頭部を殴られて、冷凍ビームはあらぬ方向に飛んでいった…
頭がぐわんぐわんと響く。僕は立っていられず、その場に倒れ込んだ
「いつのまに僕の背後をミィ…?」
「最初の混乱に紛れてたクリ。……今回ばかりは影の薄さが役立ったクリ」
「さぁ!顔を上げてよく見てみるクリ!!」
むんずと触角を掴まれて、無理矢理顔を上げさせられる
僕の目に映ったのは、オクタンのような顔色で窒息死した仲間、檻の中で唖然としている仲間、そしてなにより…

「ボーちゃん、皆……怖かったふりゃ」
「全く…世話が焼けますね。私の計画を歪めないで下さいよ」
「あんな糞の集まりに捕まって泣くだなんてだせぇガブ」
「うるさいふりゃ! 敵に捕まるのはヒロインの十八番ふりゃ!」
「…お前雄だろ」

ポケ質が…、交渉のカードが…奪い返されたミィ
「形勢逆転…クリ」
「そんな…、僕は脱出の鍵のはずだミィ…。 有り得ないミィ!」
「…有り得るチル。ドラゴンを見くびってもらっては困るチル」
「途中までは…途中までは完璧だったミィ! いったい何をしたミィ!?」
「こちらの隠し玉はコレだリュー」
カイリューがバッチのような物を投げ渡した。 これは…?
「クリムガンの抽選で使用した細工です。本当はコレで脅して、殺し合いさせたかったんですけどね…」
「卑怯だミィ! やっぱりドラゴンなんてチマチマした姑息でチキンな…ミキュッ!」
「ちょっと眠ってるッス」
「残りのタブンネも少なくなったリュー…これからどうするリュー?」
「…コイツだけは許さないふりゃ。 死んだ方がマシだと思える苦しみを与えてから、地獄に送ってやるふりゃ…」

 ・
 ・
 ・

次に目を覚ました時には、ボクは再び檻の中に閉じ込められていたミィ
「…大丈夫ミィ?」
側にいた雌のタブンネが声をかけてきたミィ
ボクは何をしていたミィ…? 確か…ドラゴン共に囲まれて…、カッとなって…
「良かった…。3時間も寝てたから…心配したミィ。……計画はダメだったミィ」
計画…。そうだ、僕は…
「…皆を…救えなかっ……」

共に作戦を立てた仲間の1匹が僕の背中を優しく叩いた
「…お前は良くやったミィ。 奴等の1匹に深手を負わせてやったミィ」
「一矢報いたミィ。これで心おきなく死ねるミィ」
皆、失敗した僕に不満を言わず慰め、励ましてくれたミィ。でも……

…嘘だミィ。表面上は僕を慰めているようだけど、彼等の本心が触角を通して伝わってくるミィ
“まだ死にたくないミィ…!”
“お前がちゃんとしていれば、こんなことにはならなかったミィ!”
“俺なら成功してたミィ!お前に任せたのが間違いだったミィね!!”
皆の全身から溢れる僕への不満。 何で…何で…僕はこんな奴等の為に命をかけたミィ…!?

“諦めないで! 貴方なら出来るミィ!”
ハッと顔を上げた。さっきのタブンネが僕の手を握っていた
「諦めないで! 貴方なら出来るミィ!」
綺麗事の嵐の中で、彼女の声が鮮明に聴こえた
…そうだったミィ。 僕にはまだやることがあるミィ
カブリアスを倒して、そして…

「糞豚が…ようやく起きたガブか。いいか! よぉく聞けガブ!!」
「我々で話し合った結果、先程の反逆を企てたリーダーを公開処刑するだけに留めておく事が決まった」
「…誰に殺されるかぐらいの自由は与えてやるリュー」
「貴様らに問う。…首謀者は誰だ?」

僕だミィ…! 奴等、僕だと知っている上でわざと聞いているミィ!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だミィ! まだ死ねない…死にたくないミィ!!
「なんだ、誰も名乗り出ないサザか…。仕方ない、1匹ずつなぶり殺して…」

「コイツ! コイツがリーダーだミィ!!」
あるタブンネが焦りながら叫んだ。
「へぇ…、本当ッスか?」
オノノクスが僕と向き合って、薄ら笑いを浮かべる
冗談じゃないミィ! 僕はこんなところでくたばるような奴じゃないミィ…!

「違う! 僕じゃな…」
「リーダーは…あたちだミィ!!」
小さな子タブンネが名乗り出る。全く関係がない子がどうして…

「あたちが…、あたちがリーダーだミィ!!」
「…情けないチル。こんな小さな子を身代わりにするなんてチル」
「身代わりなんかじゃないミィ! 信じてミィ!!」
「…おや? 貴女はカヌーの時のお嬢さんではありませんか。どうしたんですか?」
「…パパとママの敵だミィ! 貴方だけは赦さないミィ!!」
子タブンネはプルプルと体を震わせて叫んだ
「くだらないですね。両親の敵討ちだなんて…。しかし、貴女みたいな子を殺るのはそそられますね」
「ロリコンッスか…?」
「グドラ!? 先にアイツを処刑するふりゃ! ボクの涙は高いふりゃー!!」
「落ち着くサザ。メインディッシュは後にした方が旨いサザ」
「……わかったふりゃ。今は我慢するふりゃ」


キングドラと子タブンネが向かい合う
「パパ…ママ…、見ててほしいミィ…」
「…理解し難い感情ですね。…どうぞかかってきて下さい、お嬢さん?」
「準備はいいリューね? キングドラVS子タブンネ! ファイッ!リュー!!」


「ミィィィィィ!」
子タブンネがキングドラに向かって往復ビンタを仕掛けたが、一歩後退するだけでかわされてしまう
「ミィ! ミィ! ミィッ!!」
「…貴女、自分がしている事がわかっていますか? 無駄なんですよ、無駄」
奴の言葉に耳を貸さず、当たらない攻撃を一心不乱に出し続ける
子タブンネは足が縺れて転んでは、起き上がって当たらない攻撃を繰り返す
キングドラは避け続けることで、子タブンネの体力をじわじわと削っていく

あんな小さい子共が勝てるわけがないミィ…
奴は完全に遊んでいる。それこそ、ペルシアンがコラッタをいたぶるようにミィ…
「あんな小さな子が戦うなんて……。チビちゃん! 頑張るミィ!!」
勝ち目がない。それでも彼女は子タブンネを応援し続ける
彼女は他の自分勝手なタブンネと違う…。容姿は勿論、心の綺麗さが秀でているミィ
彼女と生き延びる。生き延びて幸せに暮らすミィ
そう…今度こそ君だけは幸せにしてみせるミィ!

「ミィ!ミィィィッ!!」
またしても子タブンネのビンタが空を切る。勢い余って転倒したが、今までのように起き上がらなかった
「ミハァ…ミフゥ……」
「…もう終わりですか? まぁ、子供にしては上出来でしょう」
「…なんで…なんでこんな事をするミィ…? パパとママを返してミィ…」
「愚問ですね。 自分の欲望を満たす…それ以上でもそれ以下でもありません」
「ハッ…ハッ…。 貴方にも…パパとママがいたはずミィ…。 なんで家族を失う辛さがわからないミィ…? 簡単に殺せるんだミィ…!」

「…私は生まれ持った特性が望みのものでないという理由で捨てられました。ですから、親の顔すら知りません」
「故にわからない。何が貴女を動かしているのかが…」

「…仲間がピンチの時、貴方は焦ってたはずだミィ。その気持ちと同じだミィ…! なのに、どうちて…!?」

キングドラは考え込むかのように顔を俯けた
暫くの沈黙の後、顔を上げた
「…あぁ、なるほど。家族とは、そのような気持ちなのですね。 有り難うお嬢さん、理解出来ました」
「ほんとに…ミィ?」
「えぇ…、本当です」
「だったら…こんなことをもうやめるミィ。 貴方はほんとは悪いポケモンさんじゃないミィ…」
「…貴女の理解なんていりませんよ。 タブンネなんかと同じ目線で考えられるなど虫酸が走る」

「貴方は道端に落ちてるゴミに情を抱きますか? 抱きませんよね? 私たちが貴女たちを考えるのは、それと同じです」
「そん…なの違……っ」
「言いましたよね。理解はいらない…と。今、パパとママのところに送ってあげますよ。…さようなら、お嬢さん――― 」

キングドラの銃口が水を吹いた
打ち出された高圧水流は子タブンネを呑み込み、壁に叩き付けた
一瞬水が赤く染まった。腕か何かが吹き飛ぶのが見えた
技が終わった時、そこには子タブンネの亡骸は無かった
血は洗い流され、地面に溶けていく

「…さようなら、お嬢さん」

横を見ると、彼女がわなわなと震えていた。
「何故だミィ…。何故だあの子が死ななきゃならなかったミィ!」
キングドラ…。コイツは顔色1つ変えずに、幼いタブンネを葬った
「何故こんな事が、平然と出来るミィ!」

「…だったら、お前たちはあの子に何かしてやったのかクリ? お前らの行為はただあの子を見殺しにしたのと同じだクリ」
「あーあ、あの子も可哀想ふりゃねー! だーれも身代わりになろうと名乗り出ようとしないなんて…君たちに殺されたも同然ふりゃねー!」

僕たちが殺した…?
「そうだリュー。あの子が名乗り出た時、君達はあの子が死ぬとわかってた筈だリュー」
「で、でも…あの状況なら誰かが犠牲になるしかなかったミィ…」
彼女が声をだんだん小さくしながら言った
「そう…、ですから貴方方にはそれを咎める権利などないのですよ。 まぁ…殺した私が言うのもなんですけどね」
そう言われて彼女は押し黙ってしまった
「都合が悪くなるとすぐに黙る。糞野郎の典型サザ」
たった1匹の女の子に多勢に無勢で…!
「ミィ! おま…」
「皆! そろそろ最終段階に入るッスよ」
「そこでくっちゃべってないで、さっさと準備を手伝えチル」
「はいはい、今から行くガブ。…まったく、口うるせせぇ女ガブ」
「…いつの時代も女とは強いものだな」
「ボーちゃん、オッサン臭いふりゃ」

奴等が檻から離れていく
…最終段階。 もう時間がないミィ…
「ミィ…ミィィ……」
横を見ると、彼女が項垂れて泣いていたミィ
優しい彼女には、奴等の心無い言動が堪えたみたいだミィ…
「…気にするなミィ」
声をかけると、彼女は涙を浮かべた上目遣いで此方を見た
思わず胸にキュンときたミィ…。 僕はもう一度語りかける
「気にするなミィ…。あの子を殺したのはキングドラ。 奴等はただ君に責任転嫁しただけだミィ」
「ミィ…。でも……」
「これを見るミィ…。 僕にはまだ“氷のジュエル”が残ってるミィ」
ずっと尻尾に隠してたんだミィ。 これを使う時は対ガブリアス戦…
「これは…」
「…これが僕らの最後の切り札だミィ。 これがあれば隙をみて君を助けらてあけられるミィ!」
生きて帰れる…―――。 彼女の目が輝いた

しかし、すぐに彼女は頭を垂れ震え出した
「…彼等は子供ですら躊躇いなく殺したミィ。ましてや私たちなんて…」
彼女の発言に周りの空気が凍る
「あぁ…!なんて事を言うミィ! 折角考えないでいたのにミィ!!」
「ミギァ! 死にたくなんてないミィ!!」
傍にいた仲間達ががパニックになって、彼女に殴りかかった

「奴等が騒がしくなってきたクリ。ボーマンダ、黙らせてくるクリ」
「なんで俺なんだ…?」
「だいたいマンダのせいで計画が狂ったリュー。その罰だリュー」
「いや、だから…」
「早く行ってこいチル…。行かないなら、翌朝枕元で唄って永眠させてやるチル」
「…こんな事態になったのはボクのせいでもあるふりゃ」
「気にしないでください。誰かは知りませんが、元はといえば冷ビを消し忘れた方が悪いんですから…」
「ほほほほらっ! 引き篭ルーは早く行ってくるガブ!!」

「痛い痛いミィ!! 耳を引っ張らないでミィ!!」
「お前はいい子ちゃんぶってて気に食わなかったんだミィ!」
「どうせ死ぬミィ! だったらまずはお前を…」
引っ張られている彼女の耳はミチミチと悲鳴をあげているミィ!
「やめろミィ! 彼女を離…」
「貴様ら…先程から煩いぞ。少し黙るがいい…」

ミヒッ!? いきなりドスの効いた声がしたミィ
彼女の耳を掴んでいたタブンネもビビってその手を離した

「…そうだ、黙っていろ。 そうすれば今だけは生かしてやる」
「…なんだ、ボーちゃんかミィ。 それとも引きコモルーミィか? ミヒャヒャ!」
「貴様…、次にその名で呼んでみろ。 どうなっても知らんぞ!」
「殺すミィか? どのみち死ぬのがわかってるミィ。 今更無意味だミィ、ボーちゃ…」

そう言ったタブンネの顔が炎に包まれる
「ミガッ!ミギャャャ…、ミア゙ア゙ァァァッ!!」
大文字を食らったタブンネは絶叫をあげ、目を押さえてのたうち回る
「…眼球内の水分が蒸発する気分はどうだ? 殺しはしない、痛め付けるだけだ」
「――ちゃ―、―――ゃん!」
「ァァァ…! ミギィィィッ!!」
「ボ―――ん! ふ―ゃ…………」
「想像を絶する痛みだろう。…あまり私を馬鹿にするなよ」
「ボーちゃんの馬鹿!! さっきから呼んでるふりゃぁ!!」
「糞供が…! まだ私を愚弄するつもり……か…?」
「顔面クリムガンにして何を叫んでるッスか…。…あだっ!!」
「…殴るクリよ?」
「もう殴ってるチル」
「準備、終わったサザ。早く飯にしたいサザ」
「あぁ…、すまない」

目の前で悲鳴をあげるタブンネを無視して、奴等は話を進めていくミィ
「おかしいミィ…」
「…リュー?」
檻の外の連中に向かって彼女が吠えた
「何でこの悲鳴に対して何も感じないミィ!? 可哀想だとか…痛そうとか思えないミィ!?」
「美味しそうサザ」
「そうじゃないミィ! 貴方達には何処か基本的な感情が抜けてる…、ポケモンじゃないミィ……悪魔だミィ!!」
「……悪魔とは言ってくれるふりゃね…」

彼女は奴等を罵った。僕は彼女を庇うように後ろに隠す
「…悪魔ですか」
「悪魔だミィ! 自分達の幸せの為に私達を犠牲にしようとする…ただの悪魔だミィ!!」
彼女は僕の後ろから身を乗り出して叫んだ
けれども、彼女の必死の形相に対して、奴等は溜め息をついただけだった
「何を言うかと思えば…くだらねぇガブ。常識知らずが」
「ここまで生き残ってきたから少しは期待したッスが、所詮はタブンネッスね」

「幸せは誰かを不幸にして手に入る…。僕たちはグドラからそう教わったリュー」
「そんなのただの身勝手なだけだミィ!」
誰も傷付ける幸せなんて幸せじゃないミィ! そんなのただの押し付けに…
「…過ぎないと思いますか? いいえ、貴方はまだ世界のシステムを知らない」
「例えば…1匹のポケモンがバトルに勝利する時には、対戦相手の不幸が伴うクリ」
「さらに、そのポケモンの育成の為に何百ものポケモンが犠牲になる。…覚えはないか?」
――― 経験値。
そんな理由で僕の友達は無惨にも焼かれ、斬られ、潰されていったミィ

「そして、そのポケモンが生まれるまでの過程で切り捨てられる存在がいるサザ」
「誰かが笑ってる大空の下では、必ず誰かが泣いているチル」

「…これが世界のシステムリュー。 僕たちが幸せになる為には、君達の不幸が不可欠リュー」
…こんな勝手な考えの為に僕達は虐殺されたというのかミィ
沸々と怒りが込み上げてくる
「テメェらは恵まれているガブ。誰かにその死が必要とされているガブ」
「…そんな強引な思想が許されるわけないミィ! お前達は騙されているミィ!!」

「騙されている? 何を言っているクリ?」
「説得しても無駄ですよ。 …私は彼等を拾い、食事、寝床、そして教育を与え、私好みに育ててきました」
「グドラは決してボクたちを裏切らないし、ボクたちも決してグドラを裏切らないふりゃ」

「…今度は私達が幸せになる番だ。その邪魔はさせないぞ」

ボーマンダに威嚇され、竦み上がる
その恐怖からか、彼女は僕にぎゅっと抱き着いてきた

「少しお喋りが過ぎましたね。……チル、頼みます」
「…奏でてやるチル、お前たちへの鎮魂歌を…」
チルタリスの歌声が響いた
歌を聞いた周りの仲間が次々と倒れていく
僕は薄れていく意識の中で、再び決意は誓う
絶対に…生きて帰…るミィ……と。



「ミキャァァァッ!!」

僕は彼女の居たたまれない悲鳴で目を覚ました

「ど、どうしたミィ!?」
「尻尾が…私の尻尾が…」
尻尾…? まさか…!
急いで自分のお尻に手を当てると、そこにフサフサの尻尾ではなくネットリとした生暖かい感触が―――
「あああああああっ!!」
真っ赤な鮮血が白い手に染み付いて、シミになっていく

「…そこ、煩いッスよ。 なんでオレっちがこんな雑用を…」
「ミギァァァァッ!!」
悲鳴の方を振り返ると、オノノクスが寝ていた仲間の尻尾を切断していた

僕たちにとって尻尾はアピールポイント…一族の誇りだったミィ…
「お前…自分のしていることがわかっているミィ…!?」
「ん? あぁ、尻尾は食べるとき邪魔ッスからね。先に分別してるだけッス」

「尻尾っ!か、返すミィ!!」
さっき尻尾を切られたタブンネが、オノノクスの足にしがみついて頼んだ
「おぅ! ちゃんと寝藁の代用品として使ってやるから心配するなッス!」
「ちが…っ! 返してミィ…返してミィ!!」
「えぇー…仕方ないッスね…。ほら、返してやるッス」
奴は尻尾を放り投げて、次のターゲットを狩りに行った

「…ヒグッ……ミィィ…」
彼はもう戻ることのない尻尾を抱き締めて、泣いていた
「可哀想だミィ…。なんとかしてあげたいミィ」
彼女は彼を憐れんで呟いた
彼女だって尻尾を奪われた被害者だ、それなのに…

「だーかーら! 俺は焼肉がいいって言ってるガブぅ!!」
「それより、さっと熱湯に通して程よく脂を落としたしゃぶしゃぶチル」
「オラは醤油ベースでじっくり煮込んだ角煮が食べたいクリ…」
「ここは公平に鍋でど…」
「嫌ふりゃ。ボーちゃん鍋奉行でうるさいから嫌いふりゃ」
「…そうッスね。あれはちょっと引くッス」
「鍋の時しか暴君になれないとか小さい雄チル」
「やめなさい、貴方たち。 真実でも言わないであげる優しさが大事ですよ」
「…もうお前らなんて大嫌いだ」
「グドラは何がいいリュー?」
「私は肉食べれませんし、でも十分満たされました。十分ね…」

奴等、自分の事しか考えてないミィ
しかし…、僕たちの調理法を争っているとなると、今すぐにでも捌かれてもおかしくないミィ
「何を考えているミィ…?」
余程険しい顔付きをしていたのだろうか、彼女が不安そうに尋ねてきた

なんとかしてタイマンに持ち込む。 そして冷凍ビームを放つ
彼女にはそれが僕の作戦だと伝えた
「…危険だミィ、よりにもよって一番危なそうな彼と闘うだなんて…」
危険なのはわかってる
でも、砕かれたプライドの為にも僕はやらなきゃいけないミィ
「待って、…私も一緒に闘うミィ。足手まといにはならない、貴方をサポートするミィ」
「…感謝するミィ。君となら生き残れるミィ」
「だから……」
だから…? 彼女は急に口ごもった

「…ここから生きて帰れたら、ずっと一緒にいてほしいミィ。 私を思う貴方の気持ち、さっきからずっと伝わってくるミィ」
突然の告白に、かぁ…っと顔が熱くなる

「駄目かミィ…?」
断る理由なんて無い
二匹の力は二倍じゃない、きっと相乗される
「嬉しいミィ…。 僕には未来が見えるミィ! 絶対に勝つミィ!!」
そう、二匹で慎ましく暮らす未来が―――
だから倒す。 許さない、お前だけは―――

「よく痛め付けられたタブンネの肉は、焼き方はレアで楽しむに限るサザ」
「これからの暑い季節はBBQが一番ふりゃ」
「一応、冬設定リュー…。でも焼肉には賛成、久々にタンが食べたいリュー」
「ほら! 皆焼肉がいいガブ」
「むぅ…、なんで馬鹿は何でも焼きたがるチル…。はぁ…もう焼肉でいいチル」
「…角煮は諦めるクリ。また今度、自分で作るクリ」
「…決まりましたか? ではボーマンダ、準備をしておいてください」
「……グスッ。お前らなんて大嫌いだ」


しばらく待つと、金網で作られた最後のスタジアムが出来たミィ
「…生き残るミィ」
彼女の問いかけに無言で頷く。 そう…
此処が僕の…僕たちの最終決戦場―――

続く
最終更新:2015年02月20日 17:42