タブンネといえば、以前は(いろんな意味で)大人気のポケモンであったが、
最近はそこまで人気のあるポケモンというわけでもなく、頭を抱えるブリーダーも多いという。
友人もそんなブリーダーの一人ではあったが、処分する前にダメもとで俺に訊いてみることにしたらしい。
友人との付き合いは長かったし、断る理由もとくにない。タブンネ自体にも興味はあったし。
そういうわけで「ある条件」をつけることでタブンネを引き取ることにした。
ちなみに、俺が引き取らなかったらどうするのか訊いてみたところ
「……ミキサーかプロセッサにでもかけて、親のタブンネに食べさせるよ」
悲しそうな顔をしながら、そんなとんでもないことを言ってきた。
よくわからないやつである。
夕食後、ソファーにすわってテレビを観る。
俺のとなりにはタブンネ。俺と同じようにソファーにすわってテレビを観ている。
ときおり毛づくろいをしているところから、とくに興味を惹かれる番組ではないらしい。
「ちょっとリモコンとるよー」
そう言って、わざと遠くに置いたリモコンに体ごと手を伸ばす。
そのときにタブンネの足に俺の膝が乗る。もちろんわざとである。
体重を思いっきりかけると、驚いたタブンネの口から「ミッキャ!?」という鳴き声が上がる。
「ごめんごめん」と言いながら足をどけると、涙目で俺のことを見上げるタブンネの顔。
その顔を見てると、ついついイタズラ心が湧いてくる。このまま終わらせるのはもったいない。
今度はテーブル上に置いてある木の実に手を伸ばす。もちろん、タブンネの足に膝を乗せて。
「タブンネごめんね。ほら、お詫びにこれをあげるよ」
テーブルからとった木の実をタブンネに渡すと、タブンネの顔が笑顔に変わる。
タブンネはニコニコと笑いながら木の実にかぶりつき「ミフォッ!?」と吹き出した。
木の実にかぶりついた姿勢のまま固まるタブンネ。その体は小刻みに震えている。
タブンネに渡したのはマトマの実。とても辛い。
おいしい木の実だと思って口に入れたら激辛だったのだからこの反応は当然だ。
タブンネの瞳にはみるみる涙がたまっていく。
床にをティッシュで拭きながら「おいしくなかった?」と心配しているふりをする。
「ミ……ミィィ♪」と無理して笑顔を浮かべるタブンネ。
心が優しいタブンネには、人の親切を無下にすることなどできないのだ。
さて、タブンネといえば、人の考えていることがわかるポケモンである。
ここまでやられる前に俺が何をしようとしているか察知できていいはずである。
タブンネにそれができない理由は、俺がタブンネを引き取るときに出した「ある条件」が原因である。
俺が出した条件。
それは、タブンネの触覚を切り取ることだ。
前もってこっちの考えを知られていては、心の準備をされてしまう。
それではタブンネをいじめたときの反応が楽しめない。
タブンネが油断しているときにいじめるからこそ、タブンネはおもしろい反応を見せてくれるのだ。
触覚を切り取る条件を友人に伝えると怪訝な顔をされたが、
「プライバシーを大事にしたいから」と適当な理由をつけると「ああ、なるほど」と納得していた。
本当によくわからないやつである。
マトマの実を食べさせたタブンネにお詫びの印としてオボンの実を渡す。
いじめ続けるだけでは、タブンネがこっちに不信感を持ってしまう。
そうやって警戒されてしまえばいじめる機会そのものが減ってしまう。
適度にメリハリをつけながら、うまくタイミングをはかってタブンネに仕掛ける。
タブンネからの信頼を失わずにいじめ続けるためには、なかなかに頭を使うのだ。
適度にタブンネいじめを楽しんだら布団に向かう。
一晩中タブンネで楽しんでもいいのだが、夜更かしは厳禁。明日も朝は早いのだ。
一週間ぶりに大音量の目覚まし時計をセットして置いておく。
タブンネの頭の、すぐ横に。
ジリリリリリリリ!!
「ミッピィィィィィッ?!」
うん。朝の目覚めはタブンネの悲鳴にかぎるね。
(おわり)
最終更新:2015年03月02日 02:28