お盆嫌いだからタブ虐る 二話

  • タブンネと最低の飼い主・

「じゃあなクズ!」
「ミッ…」
「いってきまチュウ」
「チュー」

出掛けの挨拶をし、青年は今日も仕事へ向かうなにも変わらない朝の光景。
この家では青年に♀成タブンネと幼いチュリネが飼われていた。
青年はチュリネに愛情を注ぎ、タブンネは虐める。
今日の差別メニューは腹パンチとキスだ。

見送った後チュリネはいつものようにタブンネの腹に体をすりよせながら
「リネもおねえちゃんのぽんぽんさわるよう、あったかいよう」
とタブ腹に身をよせて甘える。
「あまえんぼさんミィねー」
「チュリ」「タブン」「「ネー♪」」

飼い主が不在がちとあってか二匹は親子または姉妹のように仲良くなっていた。

チュリネは幼児だから差別を目の当たりにしてもまったくブレないのだろう
ただスキンシップと暴力の違いを理解してないだけで、虐めも遊んでるように認識されているだけかもしれないが、そこに悪意はない事をタブンネは理解している。

このタブンネは多忙な飼い主が、友人から本来は処分するはずだった個体をベビーシッター兼奴隷として引き取った。
友人家では育成サンドバッグにされてたようで気は弱く反抗すらない個体であり、境遇ゆえに不平不満を言う性格ではない。

新たな環境はタブンネに新たな希望をもたせた。同居しているチュリネは自身を家族と認めてくれている。
過去自分が相手してきたのは血気盛んな成長期の子達は自分を的としか認識してなく、
暴力のみだったからこそ今まで感じた事のない無邪気で暖かいチュリネの心に惹かれたのだろう。
この子の為に生きよう、この笑顔の為ならどんな困難にも耐えれる。そんな風に思っている純真で優しいタブンネなのだ。

暴行の痛み等はチュリネを心配させまいと一切言わない。それはチュリネと飼い主の関係を壊さない為でもある。

「きもちーねーふきふきぃー♪」
「お歌上手ミィね、大きくなったらミュージカルミィよ」
水スプレーとタオルで葉をふき、仕上げにミルク液を薄く塗る。チュリネの気持ち良さそうに葉を振るわせている姿に顔も綻んでしまう。

タブンネはこの二人きりの時間が幸せだった。数時間後に暴力にみまわれようとも今この時間があるから辛くない。
だがそんな些細な幸せも一瞬の出来事で簡単に壊れてしまう。

チュリネがくしゃみした時にタオルが葉に絡まり、驚いた事で急に駆け出してしまった。
さらに設置型遊具に飛び込みパニックを起こし辺りにぶつかったチュリネはそのまま床に伏せてしまった。

「チュリネちゃん!チュリネちゃんミィ!」
体を揺すっても反応はない。よく見ると締め付けられていた頭部の茎の付け根が裂け水分が滴りおちている。
止めどなく溢れる水分を止めるべくタブンネは必死に舐めてあげるが一向に止まらない。
サンドバッグ用に癒しの波動を初めとした技は全て消去されているがタブンネはそれでもチュリネを舐めて、声をかけあきらめない。

「ライブキャスターわすれちゃっチュリネエエ!どうしたあああ!!」
飼い主はチュリネの状態を見るとすぐ抱きかかえタブンネをにらみつけるとすごい速さで家から出ていった。
ポケモンセンターの重症ポケ処置室
「飼い主さん、非常に言いにくいですが、彼女は頭に大きなダメージを受けています。植物ポケモン状態です」
シャレですか?なんて言える場合ではない。
「なにかに激突したまたは叩かれたのか、足の擦れ具合からして逃げ回った様子も」
飼い主は聞こえるんじゃないかってくらい歯軋りした。
その後入院手続きをし家路につくが彼の目にはどす黒いなにかが灯っていた。


  • 以後タブンネの心の声は()で

(おかえりなさいミィ!チュリネちゃんは!?)
「ミィミィうるせえ!」
帰宅するなり青年=飼い主はタブンネを蹴り飛ばしすと食事もとらずに待っていたのだろうか胃液を吐きながら踞った。
だが飼い主はそんなタブンネの頭に手を置くと一気に掴みあげた。

「てめえがやったんだろ!ああ!?あんな子供に復讐するたあとんでもねえゴミ野郎だ!虎視眈々と復讐の機会をねらってたわけだッ!」
(違うミィ!ミィはそんなことしミィィヤァァ)
毛を掴み持ち上げたから、ぶちぶちと音をたて抜け落ち頭部の一部が禿げ上がっている。

「おとなしいってから、ある意味安心してたが中身はとんだペドか!」
(ぺド…?ミィはっミィはッ!)
反射的に頭を抱えてしまうがそれがやばかった。興奮している飼い主は曲解して、チュリネの頭痛い痛い(笑)としてしまった。

「やっぱりそうか。もう許さねえからな!俺に恨みがあるからってガキを殺そうとしたクズだ!クズか!?クズだな!」
(ち、ちが…ミィはチュリネちゃ…だいすき…)
「てめえがやった証拠はあがってんだよ。咬傷に残されたお前の唾液ってな!」
不運極まる。舐めた際の唾液と、傷口から咬傷と誤診断されてしまってはもはや退路は無い。
思いきり顔面を蹴りつけられたショックでタブンネは気を失った。
………
意識を取り戻したタブンネまず床の冷たさに気づいた。いつだか掃除した地下の物置部屋だ。
(そ、そうだ!チュリ、グェギャミィ!!)
駆け出したタブンネは足をとられ顔面強打。蹴りで弛くなっていた歯が数本抜け落ちたと同時に右足を激痛が襲った。
足を見ると太い鎖で繋がれており先にあったのはよくあるテントのペグ代わりの重り。
たかが10キロだが足側の鎖先がトラバサミ状になっており動かしたりすれば刃は容赦なく肉を抉る。
退路も進路もない。そして階段から聞こえる足音が恐怖をさらに加速させた。

「よう」
笑顔の飼い主は着くと同時に大きな箱を乱雑に床に降ろし、箱からは傷薬や麻痺治し等回復アイテムが散らばった。
「これらが無くなるまで可愛がってやるからな。チュリネを殺そうとしたクソ野郎」
(違うミィ!ミィはチュリネちゃんを大切に思って…ミィはボウフ!)
再び顔面に蹴りが叩き込まれ鳴き声は呻きに変わる。そんな様相にも全く表情を変えない飼い主。
「ミィミィうるせえボゲ!命乞いでもしてんだろ!お前らは媚て命乞いする意地汚いやつらだからな!」

タブンネがどれほど叫ぼうと届くことはない。言葉という壁を崩すのは用意ではなく、そもそもポケモンと話せる人間などいないであろう
もしいたとしてもその人物が今の自分を助けてくれるわけではない。

「チュリネには二度と近づかせないからな」

タブンネに今の言葉が重くのし掛かる。決して媚や命乞いではなく自分はチュリネに対して邪な感情はまったくない
それだけは理解してほしかった。

「さあて、いいの見つけたからまずは……」
飼い主は携帯端末をいじりながら口元を歪ませ不気味に微笑んだ。
…………
3日が過ぎ、タブンネはボロボロたが生きている。死に瀕しても元気の塊を初めとした医療品で直ぐ様回復させてしまう。
「いいの」とはタブンネ虐待SSまとめWIKIというサイトにある虐待SSであり、この三日間上から現行可能な範囲で行ってきた。
さすがにタブンネを痛い目に合わせる事に特化した虐待に飼い主も驚くばかり。
普段なら出掛けている時間も地下にこもり、次々と虐待を行った。
飼い主の食事や就寝時間も電極付きの首輪をかけられ、寝ようものなら瞼を下げた瞬間に電撃が襲うよう仕込まれてある。
さらにきちんとした施設ではない分アザや傷が残り、薬品の大量投与による薬害は皮膚に湿疹や炎症を発生させ、
見る者に恐怖や悲愴感を感じさせる外見に変貌しているがそんなことは重要じゃない。

タブンネここ数日で、自分がついていながら…と自責を感じているのか虐待に逆らう事なく耐えていた。ただ一つだけを除いて。

(チュリネちゃんは無事なんですかミィ!それだけでも教えてくださいミィィ!!)
毎回それだけは欠かさず訪ねていた。
もはや濡れ衣を晴らす事などどうでもいい、チュリネの安否を知りたい。それだけが気の狂いそうな自身を保たせていたのだ。

四日目の朝、飼い主の手にはくしゃくしゃの紙くずが握られている。
朦朧とする意識の中それを目にしたタブンネが急に暴れだした。
(それは!それだけはやめてくださいミィ!チュリネちゃんからもらった大切な大切なものなのミィ!)

タブンネはサンドバッグ時代に孤独をまぎらわすために防寒として与えられていた新聞紙で折り紙をしていた。
ただ二、三回折っただけだが、物によっては花のようなものもあったほどだ。

そして現在、泣き止まないチュリネにチラシで作ったところ泣き止んで以来よく作ってやっていた
もちろん飼い主には内緒で。

「おねえちゃんすごいよう!わあ、おはなさんー」
ただ三角に折っただけだが何を作っても喜ぶチュリネに心満たされていたあの時。そして
「リネもおりがみしたよう!おねえちゃんにつくったよう、あげるよう」
ただ紙をくしゃくしゃに丸めたようにしか見えないがチュリネが自分の為に一生懸命作ってくれたものと思うと目頭が熱くなり、
不幸しかなかったタブ生ではじめて他者からもらった贈り物に涙を流し、一生の宝にしようと大切に保管していた。

それが今飼い主の手の中にある。


(やめてミィィィ!それだけはそれだけはそれだげばやめてミィィィ!!おねがいします!チュリネちゃんがミィにくれた大切なものなんですミウウ!!)
「なんだ過去最高の叫びだな。おめえのスペース清掃してたら布団の下にあったんだが…この紙屑がそんな大事か」
飼い主は紙に火をつけタブンネの眼前に投げつけた。
(ミアァあああああ!)
今更火傷など知ったことかと火に包まれた紙を手にするもまもなく灰となり自身の叫びにより宙に舞った。

「ここに来て一番の絶望顔だな!なんだ?痛めつけられるより紙燃やした方がよっぽど効果あるってか?バカらし」

涙が灰に落ちて白煙をあげる。なぜこんな酷い目に合わされるのか、タブンネだからなのか?自分には一時の幸せすら許されないのか?
抑えていた感情は限界を越え一気に爆発し自身を制御できなくなるくらいにひたすら憎悪を人間に向けた。
(どうしてこんな……ミギギ…ミギィィ!絶対許さないミィ!お前が!チュリネちゃんの代わりに!怪我したらよかったんだミギィ!!)
飼い主へ一矢報いる為歩みを進める。トラバサミが足に食い込み足が血だらけになっても這いつくばってでも歩みを止めない。
その態度に怒りが爆発した飼い主は、飼いタブにとって最悪とされる、「野に還す」を突きつけた。
そうなれば再会したとしても野生として認識される。飼い主は再捕獲など絶対にしないだろう
それだけじゃない、技もなくケガだらけで投げ出されては待っているのは死だけだ。
(み…ミミ…チュリ……)
「じゃあな、野良タブンネ。いずれはこうするつもりだった」
飼い主はボールをつきつけ静かに言った。

タブンネは目の前が真っ暗になった。


数日後、青年は隣に並んだドレディアと共にドクターに礼をしセンターを後にした。
進化による全回復を利用した治療により、チュリネは記憶障害を起こしたものの無事回復した。
記憶障害は何故かタブンネに関する事のみで生活に支障がなかったので完全に伏せられた。

リハビリを兼ねたレベル上げでタブンネを狩っていると、ドレディアは別に意識してないらしいが、たまにその死骸をじっと見ている事があった。
それも時間と共にそれも無くなっていった


日を重ね青年とドレディアは車で隣町のミュージカルホールへ向かっていた。新しく飼ったネイティオも一緒で無表情に通訳(『』表記)してくれる気のいいやつだ。
飼い主はネイティオに対しては差別などせず、同じように可愛がっていた。


「今日はお前が主演だからな気合いれてけよ!ってなにしてんだ?」
『折り紙ですよう』
「いつ覚えたんだ?」
『知りませんよう。でもやってると心が落ち着くんですよう』
ただ二、三回折っただけだがドレディアはニコニコしながら広げて折ってを繰り返している。
ネイティオが無表情で飼い主にエアコン寒いと告げたので窓を開けるとドレディアの手にあったピンクの折り紙が風にさらわれていった。
「悪い」『ごめんね』
飼い主とネイティオは揃ってごめんしたがドレディアはニコッとして、グッズ箱からまた折り紙を一枚取り出した。
その可愛らしいアクセの詰まった箱内に似つかわしくない折られたチラシが入っている事は飼い主もネイティオも知らない。
ドレディアは退院した日にベッドの下からこのチラシ折りを見つけ、何故かそれらを捨てられず保管していた。

風に舞った折り紙は吸い寄せられる様草むらへ流れていった。
そこには全身と特に右足に酷い傷痕が残るタブンネの死骸が苦悶の表情で絶命していた。
折り紙はその顔を隠すようにとどまった

二話終
最終更新:2015年08月19日 21:46