「チィ……チィ……」
ホウエン地方のとある山。
親を求めて、子タブンネたちが必死に鳴いている。
生まれてから間もないようで、その声はひどく弱々しい。
「ミィ……ミィ……」
ホウエン地方のバトルリゾート。
タマゴを持っていかれ、親タブンネが悲痛な声で鳴いている。
何日も鳴き続け、掠れてしまった声がとても痛々しい。
メガタブンネ。
その存在がホウエン地方で確認されてから
ホウエン地方のタブンネたちを取り巻く環境は少し変わった。
タブンネは、ホウエン地方においてかなり希少なポケモンだ。
だからこそ、タブンネを手に入れた人は大切にしてきた。
だが、一部のトレーナーはそれを良しとしなかった。
手に入れたタブンネが自分の望むような個体であるとはかぎらない。
トレーナーたちは理想的な個体が手に入るまでタマゴを産ませ続けた。
親タブンネがタマゴを抱いて温める時間など与えない。
産んだらその場でタマゴを取り上げ、人工孵化器に放り込む。
生まれた子タブンネはボックスに保管する。優秀な個体であれば育てるが、
そうでないなら、ある程度たまったところで廃棄する。
多くの子タブンネたちが親の温もりを知らないまま処分されていく。
「チィ……チィ……」
廃棄処分された子タブンネたちは鳴き続ける。力尽きるその時まで。
親タブンネが自分たちを迎えに来ることなどないと知らずに。
「ミィ……ミィ……」
強制的にタマゴを産まされ、涙を流しながら親タブンネは鳴き続ける。
奪われたわが子が幸せであることを願いながら。
そんなことはありえないと思いながら。
「チィチィ」「ミィミィ」
引き離されたタブンネ親子の鳴き声が、今日もホウエンのどこかで聞こえている。
(おしまい)
最終更新:2015年09月23日 13:47