スキー場のタブンネ

(スキー場がシーズン外どうなってるかは知りません。自分の主観です)

街から離れたこの山にはたくさんのタブンネが生息している。30匹程の群れが安住を求めたどりついたのだ。
たくさんの仲間の死を乗り越え辿り着いたこの地には無人の建物があり、坂に沿って金属の棒がたくさん立ってはいるが人の気配がない。
さらに他ポケモンの気配もまったくなく、タブンネ達にとっては安住の地となった。

そんな山だけあって野生の木の実等食料に困らず、新たな命を育むことができ、今は倍近い数だ。
夏はすずしく、秋は肌寒いが温かい毛のおかげか群れはそれほど苦もなく越冬に備えられた。

雪が山肌を薄くそめだす頃、タブンネ達は最後の点検をはじめる
そして本格的に積もりだすとそれぞれ挨拶を交わし山面に作った穴の巣に家族ごと入っていくのだ。

それからしばらく、冬眠もせずに遊んでいた若いタブンネは異変に気づいていた。
ここ数日たまに風や自然の音以外の音がする、今日はそれが一段と大きい。
抑えきれない衝動に雪をかきわけ顔を出すと大きな車や小さな車、たくさんの人間で溢れかえっていた。
あの棒からは聞いたことの無いような音が大爆音で流され、木の葉程度の認識だった物、「リフト」が動き出している。

若いタブンネはこの異変を皆に知らせるべく走った。だが自分の下半身が埋まる程つもった雪に自由を奪われてしまう。
悪戦苦闘するが冷たさに「ミーン」とか言う余裕があるのはなぜだろうか。敏感なのか鈍感なのか背後から近づく物に気づかなかった。
巨大な除雪車がこちらに雪を押しながら接近してきているのだ!逃げようにも動けなく、体温で溶けた雪が体毛を濡らし、さらに動きを鈍らせる。
ゴウウウウウウウウ!!
大量の雪に巻き込まれたタブンネは目の前が白から黒に変わった。

異変に気づいたのは彼だけではない。他のタブンネ達も全方位からする聞こえる人間の声に恐怖していた。
感受性がよく、さらに野生育ちで耳がいいのが仇になったのだろう、冬眠から次々目覚めていくタブンネ達。

あるパパンネは胸を叩き、怯える妻や子供達の為穴を掘り返していく。
雪をかきわけ穴から這い出ると同時になにかがすごい速さで横切っていった。
パパは?だが、足元からの湯気に気づき視線を落とした。
なんとパパンネの腹が一文字に裂け、溢れ落ちた臓物から出た湯気だったのだ。

「あれ?」
「どうした?」
「いやなんかさっき…まあいいか」
パパンネの腹を裂いたのはこの日の為に磨かれたスキー板のエッジの部分だ。あれは本気で危ない。
タブンネのタブ腹など角度が合えば簡単に切り裂くだろう。

そうここは人間のレジャー施設、スキー場。
他のポケモン達が生息しない理由であるが、タブンネ達にはそんな事気づくわけがなかった。

あっちでは下手くそなボーダーが尻餅つきながらボードを横にしガリガリ斜面を削っていく。
これをされるとアイスバーンになるから止めてほしい ってはどうでもいいか。
頭だけ出したのだろう子タブンネは巻き込まれたの首がちぎれていた。アイスバーンには一本筋のような血が残された。
隣ではストックを突く際に運悪く出たのか目から血を流しているタブンネ。
その姿はカービングスキーでよくやる雪をたくさん吹っ飛ばすあれで埋もれていった。

出てこなければいいのに出てきては次々事故に合うタブンネ達。
他には鈍感なくせに仲間の悲鳴には敏感で、生存本能がそうさせるのか次々と逃げ出す為に穴から出てきていた。


急斜面を滑りおちる人間に巻き込まれ、全身打撲で動けなくなったタブンネ。人間はタブクッションで無事だ。

なんとか道路まで逃げたタブンネにスリップした車が迫る。
巻き込まれタイヤのチェーンにからまりぐちゃぐちゃになったがそのおかけで転倒や追突は免れたようだ。

母親であろうタブンネは寒さに震える三匹の子を背後に隠し必死に手を合わせて謝っている。除雪車に向かって。
農業トラクターのような雪をかきいれて背部から放出するタイプの除雪車は容赦なく親子を巻き込み、雪に混じり赤いもの多数が排出された。

スノーモービルも走ってたようで、雪に足をとられ転んだタブンネに乗り上げてしまった。
「なんだ?くそっ!」
アクセルを開けていくにつれ下部のローラーが下敷きになったタブンネの背中を抉りとっていく。
さらに一気にアクセルを全開にするとブワッと背後に血が舞い上がりモービルは走り出した。

「あれ、ストックが」
それもそうだ。突いている場所は巣穴、空洞になんどもストックを突き立てる。
中では親であろうタブンネが自らの背を盾にし、子をストックの刺突から守っていた。その背は穴だらけだ。
「あれ?なんか柔らか」
「ほら、強がってないで。手をかしてあげるから」
ストックの雨は止んだが親は既に息絶えていた。その穴にはたくさんの雪が崩れ落ち、子もすぐ親に会えるだろう。
巣にいれば絶対安全というわけではないらしい。


これらタブンネには阿鼻叫喚の地獄絵図だが、人間達がまったくタブンネにきづいていないのは笑うしかない。


場所は変わってこの家族は事故は避けられたものの建物、レストハウスの裏手で凍えていた。
逃げようにも周りは人間と雪、さらに食料は巣穴に残したままで、陽光も影では意味は無い。
雪の行軍はかなり体力を消費する。寒さももちろん、恐怖もプラスされれば尚更だ
ママの抱くチビンネはもはや虫の息。パパはレストハウスの室外機によじ登りガラスから中の様子を伺うと
人間とポケモン達が和気あいあいと温かそうにしてる風景が視界に入った。
自分達も入れてもらえる!とママにサインを出し、歩みだしたその時、ママ達の頭上に屋根の雪がドサァッと落下した。
もう少し手前なら助かったかもしれないが「降雪注意立ち入り禁止」など読めるわけないだろう。
パパは必死に雪を掻き分けママの顔までたどり着くが息はなかった、首の骨がおれていたのだ。
さらにママの下敷きになったであろうベビを想ったのかパパは静かに涙を流すと同じくして再び屋根の雪に亀裂が走った。

こちらのタブンネは駐車場で屋根だけついた荷台にたくさんタブンネが積まれた車を見つけた。
助けて!と言わんばかりに固められた雪を利用して荷台に飛び乗るがそこにいたタブンネは手錠と足かせがつけられていた。
冷気にさらされ続けたであろう顔に生気は無く皆絶望的な感情を発していた。
それを疑問に思う時間も無く、車は動きだしレストハウス裏手の建物に停まる。そこへ誘われる様に次々建物に入っていく同族達。
建物に入れる!と自分もついていくが、目にしたのは次々と頭を叩かれ首を斬られフックにつるされていく同族達。
恐怖に後ずさるも、背部に何かがあたり見上げるとマスクをつけた人間。
「逃げ出したのか?手枷どうしたよ。ま、いいか。おーいこれ先にたのむわ!」
頭に強い衝撃と共にタブンネの意識は飛ぶ。建物の置き看板には名物タブカツ丼と書かれていた。

気づかれないまま次々と命を散らしていくタブンネ達。
今もアイスバーンに足をとられた幼い子タブが下半身を轢き潰された。追い討ちを掛けるように転んだ恰幅のよい人間のボディプレス。
その人間の真っ赤なウェアについた血など気づかれるはずなく、この転び調子ならすぐ雪に溶けていくだろう。
死骸はスキーヤーにかけられた雪に埋もれていった。

陽も沈み空が暗くなってきた頃。
人間がどんどん少なくなり完全に沈む頃に地獄は終わるかに思えたが、
骸を隠すよう降りだした雪が、風と共に吹雪くよう強さを増した。
まだまだタブンネ地獄は終わらない。

ある♂ンネ凍結した巣穴の雪を掘っているがもうアイスバーンで、指から血が噴き出していた。
隣に足や手先が凍傷で壊死したタブンネもいたが、二匹はまもなく吹き付ける雪に覆われ消えていった。
涙を流していたのはどんな理由であろうか
仲間の死を思ってか、人間達に蹂躙された悔しさか、パートナーが死に瀕しているからか
いずれにしてもどんなに後悔しても遅い。


近場では全身氷柱まみれになりつつも子を凍死させてしまったママが震えていた。

あちらとは逆にまだ息のある子を抱き締めたまま死んでいる親もいた。子は逃げようともがくがもう死のみが解放される手段だろう。


もはや死は運命なのかもしれない。しかしそれに抗うタブンネ達もいるのもたしかだ。
凍結した雪溜まりに下半身閉じ込められたタブンネを救うべく、数匹のタブンネが吹雪の中決死の救出作業をしていた。
埋もれたタブンネの手を握り勇気づけるためかミッミッ!鳴くタブンネ。
指を真っ赤にしながら必死に雪、いや氷を掻くタブンネ達。仲間を救うため必死に運命に抗うが、ゲレンデ整雪作業車が救出現場ごと整雪し走り去っていった。
ゲレンデの照明が完全に落ちる頃には雪がすべてのタブンネを覆い隠していた。

そして雪が止み陽が顔を出す頃、山は昨日の朝のような美しい銀世界に戻っていた。

巣が深くて生き残った物、超鈍感で気づかなかった物達は運よく生き残るもシーズンは始まったばかり。
それらもいずれ顔を出して死ぬか、同族の悲鳴や人間の声や音に震えながら冬眠できずにストレスで死ぬ。
それでも越冬したタブンネもわずかながら存在するのも事実。
シーズンが終わる頃にはあれだけいたタブンネも一目でかぞえられる程度に減っていた。
雪が解けだすと山にはたくさんの仲間達の遺体が文字通り冷凍保存され当時のまま苦悶に満ちた表情で姿を現す。
生き残ったタブンネ達は涙を流しながら遺体を林奥の人目につかない場所に集め埋葬する。
とんでもない数だがそれを行うのだ。生き残った者の義務であるかのように。
埋められたタブンネの遺体は木々の養分になり再び山を緑にそめる。

埋葬を済ませるとタブンネ達はあの食肉ンネと同じような絶望的な顔で新たな安住の地を求め歩き出す。
今度こそ平和に過ごせる地と信じて

おわ り
最終更新:2015年10月09日 20:08