ウ○リアム・テル

昔々、イッシュ地方某所に新しい代官が赴任してきた。
代官は己の権威を誇示するために、広場に自分の帽子を掲げ、その前を通る際は必ず一礼するようにと市民に強要した。
人々はやむなくその命に従ったが、ウ○リアム・テルという男一人だけが、頑として礼をしようとしなかった。
噂はたちまち広がり、テルは捕えられて代官の前に引き出された。

「ウ○リアム・テルよ、そなたは何故わしの帽子に対して礼を拒むのだ。わしには敬う価値がないと申すか」
「これは異な事を。私はお代官様がお通りになる際は、必ず脱帽して一礼しております。
 しかし広場に掲げてあるのはただの帽子。お代官様には下げても、帽子に対して下げる頭は持ち合わせておりませぬ」
「小癪な事を抜かす奴。本来なら不敬の罪で即刻縛り首であるが、そなたは弓の名手と聞いた。
 どうじゃ、わしと賭けをしようではないか」
「賭けと申しますと?」
「そなたの息子を立たせ、頭の上にオボンの実を乗せる。そのオボンの実をそなたの弓で見事射抜いて見せよ。
 できれば無罪放免、できなければ縛り首というわけじゃ。受けるか、さあどうする?」
「あのー、あいにくですがお代官様。女房と子供には先月逃げられまして、今の私は独り身でございます」


「こらこらこらwwwww話が違うではないかwwww」
「そうおっしゃられましてもwwwwこちらもいろいろ大変なんでございますよwwwww」
「ええい、止むを得ん。こんなこともあろうかと思って、代わりの者を用意しておいたわ」
代官が合図をすると、ベビンネと卵を抱えたタブンネが引きずり出されてきた。
「ミーッ!ミーッ!」
「あっ、それは私の飼っているタブンネ!?」
「こやつに代役を務めてもらおう。このタブンネの頭の上に卵を乗せ、それを射るのだ。
 タブンネも逃げてはならんぞ。逃げたらベビンネを殺すからな」
「ミヒィーー!!」「チィチィ!」
自分にとっては何一つメリットのない勝負に巻き込まれたタブンネは、イヤイヤをしながら涙目で抗議するが、
代官はその手からベビンネを奪い取り、小さな鉄籠に閉じ込めて足元に置いた。
「それ、ここに立つのだ」
役人達に引っ立てられ、タブンネはテルから30メートル程離れた場所に立たされた。
頭の上に乗せた卵が落ちないように必死でバランスを取りながら、タブンネは気を付けの姿勢を取る。
かくなる上は、主人のテルが的を外してくれるのを祈るしかない。そうすれば少なくとも自分達だけは助かるかもしれない。

「さあ、始めよ」
代官の合図の声と共に、テルは大きく深呼吸して弓を引き絞った。
「はっ!」
そして気合一閃、矢を放った。矢は唸りを立てて飛び











タブンネの右目に突き刺さった。

「ミギャアーッ!!」
タブンネは絶叫し、矢の刺さった右目を押さえた。危うく卵を落としそうになり、左手で頭上の卵を支える。
「はいハズレwwwwwww残念だったのうテルよ、死罪決定じゃwwwwwww」
「ちょwwwwwお待ち下さいませ、お代官様wwwww今のはリハーサルでございますwwwwww」
「ええい見苦しいわwwwwとっとと往生せんかwwwwww」
「しばし!しばしお待ちをwwwww今度こそ当ててご覧に入れますゆえwwwww」

テルは慌てて2本目の矢を番えた。そして弓を引こうとするが、
「は……は…ハックショイ!」
テルが大きなくしゃみをしたはずみに狙いが逸れた。矢はタブンネではなく代官の足元へと飛んでゆく。
「ヂギャッ!」
鉄格子の隙間を縫って、矢はベビンネを貫く。そのまま鉄籠ごと後方へ飛んでいき、地面に突き刺さった。
「チ…チィ……」
ベビンネは血を吐きながら手足をわずかに痙攣させ、まもなく首がガクリと垂れた。

「ミッヒィィィーーー!!」
号泣するタブンネを尻目に、代官はテルに駆け寄ると襟首をつかんで締め上げる。
「貴様wwwwwどさくさ紛れにわしを射殺そうとはいい度胸ではないかwwwwww」
「いやいやいやwwwwアクシデントでございます、不幸な事故でございますよお代官様wwwww」
「まだほざくかwwwww縛り首が嫌なら、わし直々にその首を刎ねてくれようぞwwwww」
「ノー!ノー!wwwwwwギブミーワンモアチャンスwwwwww」

その時、必死で言い逃がれするテルの視界の隅に、ヨタヨタと逃げ出すタブンネの姿が映った。
卵を抱え、矢が刺さったままの右目を押さえたまま、こっそりこの場から逃げ出そうとしている。
人質、いやポケ質であるベビンネが死んでしまっては、もはや命令に従う理由もない。
せめて自分と卵だけでも助かろうというのだろう。

「お代官様、しばしお待ちを!逃がさん!」
代官を押しのけたテルは、素早く矢を番えて放つ。鋭く飛んだ矢は、タブンネの足に突き刺さる。
「ミィィッ!」
つんのめったタブンネの手から、卵が宙に舞った。
タブンネは倒れながら手を伸ばすが、その背後からテルがすかさず放った二の矢が飛んでくる。
矢は卵を串刺しにして、1本の木に突き刺さった。刺さった衝撃で殻が粉々に砕け、粘液と血飛沫が飛び散る。
そしてその中の誕生前ベビンネは、腹部を見事に射抜かれていた。言うまでもなく即死である。
「ミィィィィィィ!!」
倒れたままのタブンネは、右目と足に刺さったままの矢を抜くのも忘れて泣き崩れた。

「おお、何という見事な腕前!」
テルの鮮やかな弓矢の技に、役人たちは呆気にとられ、どよめいた。
代官もしばし感嘆の表情を見せていたが、再び険しい顔になると、テルにつかつかと詰め寄って睨みつける。
「なるほど、確かに噂に違わぬ神業じゃ、感服したわ。だがな……わしの目は誤魔化されんぞ!」
代官はテルの肩をぐっと掴み……


次の瞬間、満面の笑顔になった。
「おぬし、実はタブ虐愛好家じゃな?wwww外したと見せかけて、目やベビンネを狙うやり口、相違あるまいwww」
「へへえ、恐れ入りましてございますwwwwwおっしゃる通り、おかげで女房子供にも逃げられる始末でしてwwww」
「しかしわしが気づかねば、死罪になったかもしれんというのにwwwwかなりの好き者と見えるなwwww」
「いえいえ、お代官様はタブ虐がお好きと聞いておりましたので、きっとわかってくれると信じておりましたwwww」
「気に入ったぞ、わしの友になってくれぬかwwww差し当たり弓の射方を教えてほしいものだがwwww」
「お安い御用でwwwwwちょうどそこにいい的がおりますので、早速練習とまいりましょうwwwww」
「ミ…ミィィーッ!?」

かくして代官とテルは和解し、友人となった。
そしてイッシュの民たちとも仲良くなって、みんなでタブ虐をして楽しく暮らしましたとさ。

(END)
最終更新:2015年10月14日 19:54