プルルルル…プルルルル…
ピッ
「はい、こちら○○市役所ポケモン被害対策課です。」
「・・・ええ、はい、分かりました。ではそちらに向かいます。」
ここはとある役所の一室。
主に人間に被害を与えた野良ポケモンの駆除を行う課だ。
どうやら野良タブンネに襲われ、女の子が怪我をしたらしい。
さっそくデスクから外回り用のコートを出して出動の準備を始める。
「それにしてもここ最近、やたらとタブンネ関連の被害が多いな。
積極的に人を襲ったりするようなポケモンじゃないはずだぞ?」
そうつぶやく私に対し、近くの席の後輩が説明する。
「どうやら、ポケモンセンターで配布されたバースデータブンネが原因みたいです。
もう2年以上前に配布は終了しているんですけど、なにぶん大量に配布されたもんでして…。
捨てられたバースデータブンネが成体になって子供を持ち、
食べものが足りなくなって人の食べ物を狙うことが多いみたいです。」
はぁ・・・。
私はわざとらしげにため息をつく。
もちろん、後輩に対してではなく無責任にポケモンを捨てる飼い主を想像してだ。
大方、特別な配布ポケモンを期待して受け取ったはいいが、
バトルでは大して強くないとか、
草むらで簡単に捕まえられるからレア度が低くて友達に自慢できないとか、
成長したら1mを超えて食費がかさむから飼いにくい
みたいなな理由で捨てられたんだろうな。勝手なものだ。
心に湧き上がる憤りを抑えつつも、現場に向かう。
…
現場付近に到着し、女の子から話を聞く。
どうやら、空地で友達と一緒にお菓子を食べていたところを、タブンネに体当たりされて取られたらしい。
その時に転んで軽い擦り傷を負ったと。
見かけたタブンネは一匹。
リボンをつけていたとのこと。
やはり出発前に後輩から聞いた通り、成体になったバースデータブンネの確率が高そうだ。
情報を聞いた後は捜査を開始する。
現場の空地近くには雑木林があり、タブンネはここから来たと予想して雑木林を探索。
途中、タブンネのものと思われるフンや足跡を発見した。
どうやらこの付近にいることは間違いない様だ。
雑木林の適当な木にあまいミツを塗り、タブンネを誘う。
もちろん、他のポケモン達が来てミツを食べることもあるが、
その場合は再度木にミツを塗り再びタブンネを待ち構える。
根気強く待ち続けること1時間。
ガサッ…ガサッ…
ついに出た!
話に聞いていた、リボンをつけたタブンネだ!
黒ずんでいるものの確かにバースデーリボンをつけている。
自分では手が届かず外せなかったのか、
それともまだプレゼントポケモンとしての自分に未練があるのか。
よほどお腹を空かしているのか、あまいミツを塗った木に小走りで近寄っている。
「いけ、エルレイド!」
ボールからエルレイドを出すと、タブンネは驚いたようにこちらを振り向く。
ミィ…ミィッ!
恐らくお腹が減って力が出ないのだろう。
か細い声で成体のタブンネが威嚇してくる。
ミィ…ミィッ…ミィミィミィッ…
タブンネは必死で威嚇を続ける。
黒ずんだリボン、ボソボソで張りがまったくない毛皮、
あちこちに見える擦り傷から、よほど生活に困窮しているのだろうことが分かる。
見ているこちらが同情してしまうほどだ。
だが、人を傷つけてしまった野良ポケモンを生かしておくわけにはいかない。
「エルレイド、サイコカッター!」
命令したと同時に、エルレイドはすぐさま行動に移り念波の刃をタブンネに放つ。
その瞬間、タブンネの首は胴体と別れを告げる。
ミ"ガッ
短い悲鳴が聞こえた後、残った胴体も地面に倒れる。
苦しむ時間はほとんどなかっただろう。せめてもの情けだ。
その時
ミィィッィィィィィィィ!ミィッ!ミィッ!ミェェェェェェェン!
悲鳴と泣き声が混ざった音をあげながら、林の中からもう一体の成体タブンネが飛び出して来た。
このタブンネのつがいかな?
倒したやつがパパンネ、今泣いているのがママンネなのだろう。
ママンネは私やエルレイドには目もくれず、必死にパパンネの頭を胴体にくっつけようとしている。
恐らくあまりのショックで現実を受け入れられないのだろう。
もちろん、くっつくはずがなく、パパンネの首はポトッと地面に落ちる。
ミィェッ、ミィエッ…ミグゥミグゥ ミギャァァァァァミィィィィィィ…
まだ現実を受け入れられないのだろう。頭を必死に左右に振り、泣きわめいている。
ミィェェェェェン!!! ミィェミィェミィェェェェェェ!!!
ママンネの悲痛な叫びが雑木林に木霊する。
もう見るにたえられない。
「エルレイド…」
エルレイドはもう何を命令されるのか分かったのだろう。
パパンネの亡骸になおもすがりつくママンネにエルレイドはゆっくりと近寄り・・・
ドサッ
ママンネの頭はサイコカッターで切断された。
これで今回の被害の原因となったタブンネは駆除したわけだが、先ほどのタブンネはつがいだった。
と言うことは・・・
ママンネが林から出てきた方向へ足を向け、数分歩き続ける。
すると比較的簡単に洞穴状の巣穴が見つかった。
多分、ひみつのちからで作ったのだろうな。
巣穴をのぞき込むと案の定先ほどの夫婦たちの子供と思われるベビンネ達がいた。
1,2,3,4・・・4匹か。
ようやくミルク離れしてきた頃といったところか。
しかし…皆やせ細っている。
本来ならぷよぷよとしたお腹は骨が浮き出るのではないかと思うくらい平坦で、
ふさふさのはずの尻尾は皆一様にボサボサとして張りがない。
巣の中にはベトベトになった木の枝が散乱している。
これを噛んで空腹をごまかそうとしていたようだ。
(今まではママンネのミルクで何とか生活してこれたが、
ミルク離れの時期になってママンネからはミルクが出なくなった。
おまけに今は冬で食べ物も少ない。
そのために、パパンネはべビ達のために危険を冒して食べ物を探しに行ったんだろうな。
だが、食べ物を見つけることもできず、他のポケモンから奪うこともできず、
最後は人里までおりて食べ物を探しに来たんだろう・・・)
パパンネとママンネが帰ってこないまま、自分たちの巣穴に突然現れた男に驚いたのだろう。
ベビンネ達は互いに身を寄せ合い、ガタガタ震えながらチィ…チィ・・・と今にも消えそうな声でなく。
この子たちに罪はない。しかし、親を失った子供が野生で生きることができるわけがない。
引き取ろうにも保健所は今現在捨てポケモンで満タン。
里親が見つかる前に処分されるのが関の山だろう。
ならば・・・
私がこれから行うことを本能的に感じ取っているのだろうか。
ベビンネ達の震えはさらに大きくなり、目には涙が浮かぶ。
チチィ…チィ…チッ チッ…
ウルウルした瞳でこちらを見つめるベビンネ達。
心を読まずともわかる。「お願い!殺さないで!」と訴えているのだ。
しかしここで躊躇ってはこの仕事は務まらない。
エルレイドに催眠術を命令する。
チィ!チィ!フィー!フィー!
命の危機を感じたベビンネ達は必死に寝まいと抵抗する。
眠ったが最期、自分の命はないと思っているのだろう。
が…
フィ…フィ…
次第にベビンネ達はまどろみの中におちていく。
チ…ヂ…フィ…
スヤァ…スヤァ…
とうとう眠りにおちた。先ほどの抵抗は嘘のように可愛らしい寝息を立てている。
眠ったベビンネ達のサイコカッターで首を切り落とす。
巣穴には、首と胴がきれいに分かれたベビンネ達の死体が並ぶ。
さて・・・あとは。
ボールからダグトリオを出す。
「ダグトリオ、穴を掘るだ!」
「ダグダグ!」
陰惨な気持ちになっていたが、ダグトリオの元気な反応を聞き、こちらも少し元気になる。
大したものだ。
タブンネ一家を埋められる大きな穴が3分とかからず完成した。
その中にタブンネ一家を葬ってやる。
真ん中にパパンネとママンネ。
左右のベビンネを2体ずつ配置し、土で埋めてやる。
手を合わせながら願う。
せめて次は心優しいトレーナーのもとに生まれるように。
少しの間だけバースデータブンネとしてチヤホヤされ、
その後はすぐに捨てられ、野生で何とか生きてきたとしても、
最終的にこんな最期を迎える。
一体何のためにこの世に生まれてきたのか。
いつまでこんなことを続けなければならないのか。
いつになれば無責任な飼い主は減るのか。
問いかけても答えは返ってこない。
私は雑木林を後にした。
終わり
最終更新:2016年02月15日 22:02