朱に交わらずとも

「リリアかわいいなあ」
「えへへぇ」
俺はテールナーの頭を撫でながら草むらを突っ切る。お散歩という奴だ。ちなみに今日は特に用はないが、ビークイン(甘い香り要員)とウルガモス(卵孵化要員)とダークライ(ポケルス伝搬要員)とドレディア(嫁)も連れて来ている。
「ねえ見てあれ」
「ん?げっ!!!」
リリアの指差す先にはピンク色の豚。見つからないように行こう。
「あ!人間さん!」
おーまいがー。あっけなく見つかってしまった。
「ミィは今お腹が空いてるんです!木の実ください!」
「かわいそうだよ、木の実あげて?」
かわいいかわいいテールナーのお願いは無下にできない。
テールナーの頭を優しく撫でながらオボンの実を差し出す。するとタブンネの後ろから小さなタブンネが現れ、それをかっさらわれていった。
「ミハハハ!この世は弱肉強食!」
「ミィがもらったオボン返して!」
タブンネAはタブンネBを威嚇する。そんな暇があるなら追いかけてボコれよ。
「せっかくの飯を返せと言われてはいそうですかと返すバカはいないミィ!」
「ミィのオボンがあああああああああ!!」
「…まあそんなに気を落とすなよ、もいっこやるから」
「そんなどこまでも落ちぶれたことはできないミィ!」
乞食の時点で落ちぶれてるだろ。そう思ったが、普通に考えてタダのタブンネならここでワンモアを要求するはず。どうやら育ちがいいらしい。
「あのタブンネはミィが捕まえてボコボコにして食ってやるミィ!」
「助けない方がよかったね」
テールナーの思いがけない一言に吹き出してしまう。
「まあ乗り掛かった船だ、リリアも力貸せ」
「わかった」

タブンネBは案外すぐに見つかった。ハートの肉球型の足跡が見当たればすぐだ。
やはり小さい。子どものようだ。
「見つけたミィ!」
そう叫んだのはタブンネA。
「ミッ!」
Bは驚き、後ろに飛びのいた。その時、嫌な音がする。
肉を強く踏みつけた音。
その時、テールナーが凄く嫌な顔をして鼻をつまんだ。
「くさい」
「うっ…!?なんか腐ってんのか…?」
「ミギャアアアアアァッ!!?」
突進していったAが戻ってきた。
原因はすぐにわかった。
おそらくはBの親であろうタブンネだが、その身はほぼ腐っており、死んでいた。
Bはこの巣で親の死体と離れたくない一心で暮らしているようだ。
「…かわいそうだね」
「野生なんてそんなもんだ」
「…野生野生ってなんだミィ!大体お前みたいなタブンネが飼われてミィが飼われないのはおかしいミィ!」
「ミギャッ!ミィは飼われてないミィ!野生だミィ!」
どうやらBはAを俺に飼われているポケモンで、だからオボンをもらった、そう解釈したらしい。ちなみに悲鳴はBの突進だ。捨て身タックルかもしれない。
こんなことに巻き込まれていい迷惑だぜチクショウ。テールナーの助けない方がよかったね。という一言が頭の中でグルグルと回る。
「…ミィがお母さんになってあげるミィ!」
「ミッ!?」
「…おいで、怖くない、怖くない」
「…ミ…ミビャアアアアァン!!」
なんだこれは。感動物語か何かか?
「…ありがとうございました!トレーナーさん!」
「えっ、あっはい」
唐突の呼びかけに応えてしまう。
それと同時にタブンネAが両手を出す。
「よかったらここでミィんなで暮らしませんかミィ?」
暮らすか!誰が暮らしてやるものか!またもテールナーの助けない方がよかったね。という言葉が頭の中をぐるぐると回り始める。
だがタブンネは歩み寄ってくる。どうしても俺とテールナーと居たいらしい。そのテールナーはさっきから臭いでクラクラしている。仕方ない。
「リリア、死体に火炎放射」
「あい…」
木の枝を一振り、炎が死体を包み、刹那、腐敗した肉から出る…なんだっけ?取り敢えずヤバいガスに引火し、大爆発した。
俺はテールナーを抱えて猛ダッシュで逃げた。途中テールナーが進化しそうだったのでB!B!B!とキャンセルを連呼した。
進化はどうやらしなかったようだ。よかった。
タブンネの巣は大爆発し、AもBも死んだだろう。無駄な時間だった。
「…」
「リリア?どうした?」
「…王子様みたいでカッコよかった…」
ポッ、と頬を赤らめるテールナー。無駄な時間じゃなかったかもしれない。
爆風で吹き飛ばされて少々ダメージを受けたが微々たるものだ。さしたる問題ではない。

その後巣のあたり…と言っても爆発で完全に洞穴型の巣は消し飛び更地で尚且つ焦土のようになっていたが…そこらを捜索した。
丸焼きになった大きなタブンネを見つけた。恐らくはAだろう。
「美味しそうだねぇ」
助けて欲しいと言った相手を美味しそうだと形容するテールナー。
「ここポケモン大量にいそうだしここで食うか、ビークイン、甘い香り」
たちまち周囲に立ち込める甘い香り。少し残っていた腐臭を上書きし、ポチエナやジヘッド、その他肉食系のポケモンを中心にゾロゾロとやってきて、そのままみんなでタブンネの丸焼きを食べた。ここのみんなは心がおおらかなようで…というか汚いのはBの方のタブンネくらいのようで、図鑑では恐ろしく凶暴に書かれているジヘッドでさえ、俺の体に頭を擦りつけ、撫でると大喜びするほど穏やかだった。タブンネのページも書いてること嘘ばっかだし図鑑って嘘しか書いてねえな。
研究所に苦情でも入れておこう。イッシュのポケモンばっかりだしアララララ博士でいいだろ。こんなだからシトロンさんをシルププレしてもらえないんだろうなあ。
俺は最後まで愛を忘れなかった心優しき珍しいタブンネAに合掌、黙祷を捧げた。
帰り道にクズなタブンネと出会ったがそらまた別のお話。
最終更新:2016年06月14日 22:54