タブンネ虐アフター_息子ンネの章

息子ンネの章

あの奇跡の生還から一週間が過ぎた。
息子ンネこと息子は今日もママが出掛けた後落ち葉集めをしていたがその表情は暗く重い。
あの日の早朝自分がしたことが今でも心に大きな後悔となってのし掛かる。

早朝自分はベビの鳴き声で目を覚ました。いつまでたっても泣き止まず、パパもママもなにしてるミィ?と起きた時だ。
ふと視界に入った食料庫に広がるたくさんの菓子。整理半端で狩りに行ったママが片付け忘れたもの。

甘いキラキラした粉のついたサクサクのクッキー
手で暖めると柔らかくなるとっても甘いチョコレート
硬いけど口に頬張ると、これまたとーっても甘くて美味しいキャンデー
その他諸々

いつもは四分の一くらいしか食べられないクッキーがまるまる一枚どころか数枚転がっているのだ。
今の息子は様々な欲求や興味等が沸いて、それらが有り余って仕方ない年頃。

「パパもママもいないミィから…ベビが食べたことにするミィ」
息子は自分に負け大好きなお菓子を全て腹に納めてしまった。
そして騒ぐ妹こと娘ンネとベビを無視し、再び訪れた眠気に負けた。

そして再び目覚めた時、当たり前だった日常は変わっていた。
死んでしまったベビを埋めている時に、ベビに悪さを押し付けるつもりでいた自分を悔やんだ。

ボロボロのママ、動けないばかりか見るも無惨に変わり果てたパパ、そして産まれて初めての罪悪感。
小さな心を蝕み始めたそれは、悪化した食事、誰も自分を責めない不気味さにより徐々に広がっていった。
そんな日々の中自分ができることは葉っぱ集めだけ。まだ狩りが出来るほど体も強くない。
一度だけママに言ったところ笑顔で断られたのが悔しかった。
質素な食事に文句すらつけず、食べるしかない事も妹のように汚い事はしたくない情けなさに苛まれる日々。

そして今日、それを終わらせるがごとく息子は決意した。

「ミィもママ達みたいに狩りをするミィ!ミィはもうベビやチビじゃないミィ…あ…」
自らが発したベビという言葉に再び気を落としてしまうが決意は揺るがない。
自分も狩りをしてパパ達の役にたつ。そしてあの時のお菓子を自分の力で元に戻す。
若い脳が至った結論は極めて稚拙なものだった。
巣暮らしのチビには狩りがどのようなものか理解できない。ましてや、両親の有り様が「狩り」によると云う事も。

息子はママを見送ると妹に葉っぱ集めと声をかけ、巣を出た。
この時点で兄は自分の事で精一杯で、妹の異変に気づけずにいた。

そして今日は巣の周りだけでなく、思いきって林地を奥に進んでいった。

不思議と恐怖はなかった。使命感からの勇気なのか世間知らずの無謀なのか。
しばらくすると林地は開け灰色の硬い平らな空間にでた。灰色の地には白い模様がかかれている不思議な地だ。
土のように柔らかくなく、木の枝すら無い不思議な感覚。
そんな感覚に戸惑っていると

「アハハ」「キャハハ」「アーン!」
道路の反対側にあったのはいろんな色をした見たことも無いものばかり。
人間の公園。
そこではイーブイ、チュリネ、ルリリが三匹で丸い物を頭でポンポンしながら楽しそうにしていた。
タブンネ種以外を見るのは初めてな息子はそれをぼーっと見ているだけだったが、それに気づいたのかイーブイがこっちに手をふっている。

「だれ?こっちおいでよ!」
「ミ…?ミン」

彼女達はみんな同い年くらいの女の子。息子は本能で捕食種でないと解ったのか、恐怖や警戒も無く近づいていった。

「イーブイだよ!」
「あたし、チュリネ」
「ルリリー」

「……ミィはタブンネミィ!」

四匹は互いに自己紹介しあった。

ポイーンポイーン と間抜けな音を立てながらボールで遊ぶ三匹と兄。
ルリリやチュリネは頭で器用に返し、イーブイもキックで返す。
息子も見よう見まねで手を使いボールを返していたその時。

「い゛ったい゛!」
顔面ブロックチュリネの弾いたボールが違う方へ向かい、それを追いかけた息子が足をとられまるでヘッドスライディングのような形でボールをカバーしたのだ

「いたミィ」
肘と膝を少し擦りむいてしまった。痛みを堪え三匹を見ると

「「「すっごー!い!」」」
三匹とも目を輝かせながらこちらを見ているではないか。
「あたし知ってるハインプレーってやつだよ」
「ブイは難しい言葉知ってるね」
「二人とも、凄いことしたらご褒美ってママいってるよ。タブンネくんはいラムネ」

きょとんとする息子にルリリが差し出したのは紙に包まれたラムネ菓子。
産まれてこのかた見たことない物体に「?」だが、三匹の紙をはがして口に含む様子に見よう見まねで開封し口にした。
舌に乗せると甘味と共に溶けていく。キャンデーとは違った感覚に息子の顔が綻んだ。
そして息子が次に起こした行動は
ズルルゥー!!
手でボールを宙に投げ、そこに向かってダイビングしたのだ。
息子のいきなりの行動に一瞬停止した三匹だが

「「「かっこいい!」」」

脇腹の痛みと引き換えに得たのはラムネとは違った菓子。
そして息子は三匹の残りの菓子全てを巻き上げるかたちとなった。

(狩りってこうやるんだミィ)

全身に擦り傷を作りながらも息子は続けた。

「お菓子なくなっちゃった」
「ありゃ」

イーブイとチュリネの表情に気づいた息子は巻き上げた菓子をあげようとしたが、
「えー?ミミロルのぶんは?お姉ちゃんなんだから妹をぶんも残しとけってママが」

散々あげておいて、というか発案者のルリリが言った言葉の

「妹 ママ」この二つに息子の手が止まる。自分は何をしているのか、何をすべきなのか思い出した。

(これだけお菓子があればきっとミィんな)
そんな考えを起こし手を引こうとした時

「みんなー!おまたせー!帰るよー!」

「あっママだー!」
「帰らなきゃ」
「じゃねー!」
三匹は息子からは見えないが、ミミロルを抱いた人間の少女に向かい駆けていった。

バサッ!!
呆然とする息子を驚かせた大きな羽音をたてたのはエアームド。三匹の後を追う姿は彼女達の家族に違いない。
息子はまったく気づいていなかったが、遊ぶ三匹を公園の休憩所の屋根の上からずっと見守っていたのだ。
もし息子が三匹に危害を加えたら今ごろ骨と皮だけにされていただろう。

風が吹き抜けた公園には息子ンネ一匹だけが残された。


帰る途中、尻尾に隠してあるラムネをもう一つ口にした。
これを妹にもあげて、ママやパパにもあげればきっと大喜びしてくれるだろう。
そして、両親の代わりに僕が狩りをする。たくさんの食べ物やお菓子を抱えて帰るとみんなが笑顔で迎えてくれる。
そんな妄想にふけりながらチビは自宅に戻った。

幸運にもママはまだ帰ってきてはいない。普段なら戻らないママを心配するどころだが今は逆。
自分の部屋の草ベッドの下に隠して、あとで見せよう。
そんな考えをしながら自分の部屋に戻ると

「ミハッ!?………お兄ちゃんミィ?」
妹ンネこと娘ンネ(娘)が妹自身のベッドでなにかしていたようだった。
何か不自然に草が盛り上がっているように見えたが、

(きっと妹も何か見つけたかなにかしたんだミィね)

自分と同じように何かを見つけたんだろう、そう思い気づかないふりをした。

「ミッ!?忘れてたミィ!葉っぱ!」
急いで葉をかき集める息子だが、先程の傷に葉が擦ったのか痛みが走る。
「イタイミィ…でも狩りは大変なんだミィから我慢しなきゃミィ」
葉を集めパパの寝室の小さな段ボールに入れると、息子はパパが起きてる事に気づいた。

「パパ、今日もミィちゃんと狩りの練習して葉っぱ集めたミィ」
「ェーィ…ァィィ…」
開いた口から涎を垂れ流しながらパパは目を細めながらブラブラの手先だが腕を挙げて息子の頭を撫でた。

「ミィも狩り頑張るミィからパパも早くよくなってミィ!」
自信満々に息子は胸を叩きながらパパに宣言した。
すでに成果はあるからこその自信だ。

そうこうしてるとママが帰宅した声だ。

「おかえりなさミィ♪」
「ただいミアッ!チビお兄ちゃん体どうしたのミィ!?」
ここでママにばれるわけにはいかない。息子がとっさに言った言葉は

「葉っぱ集めてる時に転んだミィ」

息子ンネの章 終わり 娘ンネの章に続く
最終更新:2016年12月01日 23:12