娘ンネの章
あの事件から一週間ほど過ぎた日。娘ンネこと娘は今日もママが出掛けた後パパの排泄を済ませていた。
「葉っぱを集めてくる」という兄の声を聞くと同じくして娘はパパの寝室に向かう。
「ガァーッハッ!デジュブブグブグ」
口をだらしなく開き、恍惚とした顔は変形していることもあってバケモノとしか現せないパパが娘に覆い被さり、体をうちつけていた。
口から溢れるよだれが娘の体を汚していく。
「バオッ!バアオゥ!?オゥーゥ」
パパは二、三度体を震わせるとそのまま達した。
満足気なパパとは逆に娘はフラフラ立ち上がると無理に笑顔を作り、自分の部屋に戻った。
戻ると自身のベッドに横になった。
ただでさえ痩せ浮き出した肋骨を上下させ、焦点定まらない瞳はただ天を見つめるだけ。
いつの間にか意識は眠りにいざなわれた。
「……いま」
「ミハッ!」
声に目を覚ました娘は急いで草のベッドをまるで何かを隠すように集め出した。
部屋に入ってきた兄こと息子ンネをてきとうに誤魔化し、部屋を出ていった後に改めて草をしき直した。
草の下にあったのは掘られた穴に隠された三つの小さな卵だった。
もちろんこれは娘とパパの間にできた卵。
なぜ父と娘がこのような関係になってしまったのか?それはあの事件から三日後のことだった。
………
今日も娘は「ベビが死んだのは自身のせい」という自責に苛まれていた。
幼さゆえの純心は悪い方向へ転がると止まりが利かなくなる。
ママに似て優しくタブンネ一倍責任感の強い娘にはこの事実をたとえ、ママから「そうじゃない」と言われても耐えがたい苦痛となり、
それは日に日に膨らんでいった。
毎日かかさずベビベッドに食べ物を供えるママ、苦痛に苦しむパパ、同じように顔を落としたままの兄こと息子ンネ。
それらも彼女を追い込み、いつしか自分はママから恨まれているのではないか?という脅迫観念まで陥ってしまった。
ママは傷ついた体で今日の糧を得る為に一秒でも無駄にできない状況もあり、たしかに子供達との触れ合いも少なく、いや無くなった。
だがそんなママの事も自分の考えに押し潰されそうな娘に伝わるはずもなかった。
そして唐突に悲劇が幕を開ける。
今日も食事を終え、各自自分の役割を果たしにいく時間。娘もパパ排泄の世話に入った時だ。
「ミッ?パパ?どうしたのミィ」
「ヴァ~ヴァイ」
娘は口をまともに利けないパパの体の一部の変化に、触角をパパの体に当てた。
『 おまた くるしい 』
まだ幼いチビは触角も発達しておらず表層上しか伝わらない所詮ままごとレベル。相手の根幹にある真意など知ることはない。
パパの陰茎が膨れ上がり、脈打つように蠢いていた。
「パパどうしたらいいミィ!?ママ呼んでこな」
「ウァー……ァィ」
ガタガタの腕で娘を制止させるパパ。
そして娘も躊躇してしまう。もしこの腫れでパパが死んでしまったらママはもう…
これ以上大好きなママに嫌われたくない。
二匹がパパと娘ではなく、♂と♀の関係になるのは一瞬だった。
「ミゥーン……ミグゥ…ゲッ」
その夜、娘は激しい腹痛に見舞われていた。
昼に優しいパパがまるで猛獣のように動かない体を揺らしながら自身に痛みを与えた。
娘はそれが耐えがたく逃げそうになったが、ママへの信頼、パパへの恐怖が入り交じりある種の麻痺状態。
そしてパパが不気味な声をあげるとぐったりし、腫れ上がった陰茎も小さくなっていた。
そしてパパは不気味ながらも優しい笑みを浮かべ、頭を撫でてくれたのに対し、娘が感じた事は安堵だった。
あの日以来ママからも撫でてもらってはいなかったぶんガタガタの手は少し痛いがとても暖かかった。
今娘にふりかかる痛み、それが意味したものはすぐに訪れた。
(うんちでちゃうミィィッ!ミァーッ!?)
家族を起こさぬよう必死に口を抑え、耐えられない感覚を解放した。
「もらしちゃったミィ……ミッ?」
そこにあったのは糞ではなく、白い球状の物体。
もちろん見覚えあるそれは
「卵ミィ…」
娘はパパとの卵を産んでしまった。
排卵の疲労にしばしボーッとしたが、若い娘には母性よりも、どうしたらいいか解らないのが現状だった。
しかしまだ世を知らない前向きな夢見るタブ脳がたどり着いた答えは
「卵からベビが産まれるミィ?……もしかしたらベビ見せたらママもきっと」
最悪な答えだった。
そして暴走はとまらず、産まれるまで内緒、ベビを見せてみんなを驚かせてあげよう。
逸脱した稚拙な思考はどんどん膨らみ、
隣で寝息をたてる兄を起こさぬよう草のベッドをよかし、手頃な穴を掘ると卵を安置した。
ベッドを戻すと疲労や安心感からかすぐに眠りに誘われた。
この夜、娘の見た夢はかつての幸せだった頃の家族の姿、暮らしに戻った夢だった。
翌日、忙しそうなママや兄に伝えたい衝動を抑え、食事を済ませた後にパパの部屋に向かうが
「ミッ…ウゥ…」
顔を抑えたまま嗚咽を漏らすママとすれ違った。原因はわからないが、きっとベビのことだ…と娘も顔を落とした。
そしてパパの世話を済ませるといつのまにかパパの陰茎が昨日のように膨れ上がっていた。
同じく娘も昨日と同じ目に合った。
その夜も激しい腹痛と同じく排出される卵。
「ベビが二人もいたらママ達もきっと喜ぶミィ!パパに乗られると卵できるミィから、明日もやるミィよ!」
決意を新たに娘は穴に安置してある卵と今の卵を並べ、頬杖つきながらしばらく眺めていた。
娘はパパにされていることを、兄にすら秘密にすることに決めた。
次の朝は昨日と比べ、体が重く感じるばかりか、だるさも感じていた。
もちろんこんな栄養不充分な若い体が二日も続けて産卵すればどうなるかくらい安易に予想できるだろう。
しかし彼女にはそんな予想どころか夢にも思わない。
予想するのは喜ぶ家族、夢にみるのはたくさんのベビ達との楽しい暮らし。
その為に娘はとじかけた瞼を懸命に開き、パパの部屋に向かった。
そして日を重ね冒頭に繋がる。
………
互いに隠し事をしたまま兄妹はそれぞれの想いを胸にその日が来るのを待つのだった。
今日も卵を産めれば四つ、ベビが四匹も増えるのだ。
「マ…マ…も…ベビ……たくさん………うれし……ミィ………」
娘はベッドに倒れこんだ。
妹ンネの章 終わり 幕間へ続く
最終更新:2016年12月01日 23:14