『タブンネが苦痛を感じるとミィアドレナリンという物質が分泌される。
この物質が料理をするうえで最高のうま味成分であることは有名な話だ。
しかし、ミィアドレナリンにはうま味成分であることのほかに「植物の成長に影響をあたえ、とくに木の実の味や品質を良くする可能性がある」ことがタブンネ研究所の研究により最近発表された。
ただ、あくまで仮説の段階であり、それを証明するためのデータが十分に集まっていない。
そのため、タブンネ研究所はイッシュの各地の木の実農家に謝礼金を出すという条件で実験への協力とサンプルの提供を要請した。』
「いるな…」
ラムの木の世話をしているときにタブンネ特有のミィミィという鳴き声が聞こえた。
見つからないように姿勢を低くし、鳴き声が聞こえた方に顔を向けると約10メートル先のオボンの木の下にタブンネ親子がいるのを見つけた。
親タブンネ1匹と子タブンネが4匹。
親タブンネが手を伸ばして木の実をとり、それを1匹の子タブンネに渡している。
木の実をもらった子タブンネは嬉しそうにオボンをかじり、ほかの3匹も早くちょうだいと親タブンネの周りに集まっている。
この泥棒タブンネが…
誰がそのオボンを育てたと思っていやがる!
俺は無言で近づいていく。
2つ目のオボンをとろうと夢中になっているタブンネ親子は気付かない。
背後に立つと、持っていたシャベルで親タブンネの頭を思いっきり殴りつける。
「ミギッ!」と声を上げて倒れる親タブンネ。何が起きたのかと目を白黒させる暇さえ与えず、そのままシャベルで殴り続ける。
角の部分で耳や手足を、平たい部分で背中や尻を殴る。そのたびに「ミグッ!」や「ミヤッ!」という悲鳴が上がる。
決して殺してしまわないように頭や内臓を避けてひたすら殴打する。
すぐ近くでは子タブンネたちが呆然とその光景を眺めていたが、はっと我に返り「もうやめて!」とでもいうようにミィミィ鳴き始める。
どれだけ鳴かれたところでやめるわけがない。
しばらく殴り続けると、全身傷だらけになった親タブンネは鳴き声1つあげずに力なく地面に横たわるままになった。
体がわずかに膨らんだり縮んだりしていることから呼吸をしているのがわかる。死んではいない。
親タブンネは一旦そのままにしておき、俺は木の根元に穴を掘り始める。
ぐったりとしている親タブンネのもとに子タブンネたちがやってきてミィミィ鳴きながら心配するように親タブンネの体を揺すっている。
殴られたところが痛むのだろう。体が揺れるたびに親タブンネは「ミィ…」とうめき声をあげている。
そのうち1匹の子タブンネの手のひらが光り、それを親タブンネに向けた。いやしのはどうだ。
わずかながら効果があったのか、親タブンネが体を動かそうとする。元気になったなら1発ぐらい大丈夫だな。
シャベルで親タブンネを殴ると、あわてて子タブンネが親タブンネに両手を向け、いやしのはどうをかける。わずかながら回復したようなのでもうシャベルで1発。これを何度も繰り返す。
親である自分のことを心配する子どもの行動が結果的に自分のことをより苦しめることとなる。どんな気持ちだろうなこいつ。
助けてと懇願してくる子タブンネたちを蹴飛ばし、弱々しくも威嚇してきた親タブンネを殴りつつ穴を掘ること約30分、親タブンネ1匹が入る程度の大きさの穴を掘ることができた。
いまだに痛みに苦しんでいる様子の親タブンネの体を縄で縛りあげて身動きがとれないようにし、穴の中に親タブンネを蹴り入れる。
「ミャウゥ」と鳴いて俺のほうをどうするのと言わんばかりに見つめてくる親タブンネ。すぐにわかる。
穴の中の親タブンネに土をかけていく。
今から何をされるかわかったのか、弱々しく鳴き声を上げながら助けを求める親タブンネ。足元には子タブンネたちがまとわりついてきてうっとうしいが、かまわずにそのまま穴を埋めていく。
顔の部分に土をかけようとすると親タブンネと目があった。助けを訴える目だ。
あきらめろ。もとから生かして帰すつもりはない。
「さよなら、タブンネ」
その言葉を聞いて一瞬で絶望の色を浮かべるタブンネ。絶望に染まった顔を隠すように土をかけていく。
穴を埋め終えてからからはシャベルで地面を何度もたたき、タブンネが出てこないようしっかりと固める。
これで親タブンネの生き埋めの完成だ。
親タブンネが埋まっている土の周りでは子タブンネたちがどうにかして土を掘ろうとしているが、あなをほるを覚えているならまだしも、体が小さく非力なな子タブンネたちではどうしようもない。そのことがわかったのかその場で静かに泣き始めた。
そのまま親が息絶えるのを待っているといい。
ちなみにタブンネを縛るのに使った縄は草ポケモンのつるを原料としているため、土に還りやすいという環境にやさしいものを使っている。
ミィアドレナリンはタブンネが苦痛を感じている間はずっと分泌され続ける。
親タブンネを殺さずに生き埋めにしたのはそのためだ。
親タブンネは窒息死するまでミィアドレナリンを出し続け、死んだあとの親タブンネの体は蓄えられた栄養とミィアドレナリンを多量に含んだ良質の肥料となり木を成長させる。
あとは成長の様子をレポートし、収穫できた木の実をタブンネ研究所に送れば、俺の口座に謝礼金が振り込まれる。
ふと、ここであることを思い出す。あのとき1匹だけオボンを食べていた子タブンネがいるはずだ。
泣いている子タブンネたちをよく見ると1匹だけ口の周りにオボンの食べかすがついているやつがいる。こいつか。
その子タブンネを捕まえると、うつぶせに地面に押さえつけ子タブンネの背中にゆっくりと体重をかけていき抵抗できないようにする。
体が圧迫されたことで息ができず「ヒフッ」とかすれた声を出す。
俺に向かってミィミィ鳴いてくるほかの3匹に俺の信条を教える。
「俺は人の木の実に手を出したタブンネは絶対逃がさないって決めてるんだ。
俺はこいつがオボンを食べてるのは見たんだよ。だからこいつは逃がさない。
……まさか、お前たちは食べてないよな?」
あわてて3匹ともぶんぶんと首を振る。まあ、そうだろう。
「木の実に手を出してないなら見逃してやるよ。さっさとどっか行けよ」
俺がそういうと子タブンネのうち1匹が少し前に出てきて俺が押さえている子タブンネと俺を交互に見ながらミィと鳴いてくる。その子はどうするの、だろう。
にっこりと笑ってもう一度言ってやる。
「絶対に逃がさないって言っただろう。」
子タブンネを押さえつけている手を離しほかの3匹の前まで移動する。
後ずさりして俺から離れようとする3匹の触覚を両手でつまみ今の気持ちを教えてやる
俺の言いたいことが理解できたのか、みるみるうちに青ざめていき、俺が触覚から手を離すと3匹ともすぐさま俺に背を向けてヨタヨタと逃げ出した。
親を失った子タブンネ3匹が野生の世界で生き抜くのはほぼ不可能だ。もう会うこともないだろう。
先ほどまで押さえつけていた子タブンネを見ると泡を吹いて失神していた。
こいつも埋めて肥料にしようかと思ったが、体の小さな子タブンネではミィアドレナリンの分泌量もたかがしれている。たいした栄養にはならないだろうし、そもそもラムの木の世話をしている途中でこいつらを見つけたのだ。穴を掘ってこいつを埋める時間ももったいない。
こいつは焼きタブンネにでもして酒のつまみにでもするか。それなりの苦痛を与えたからなかなかの味になっているだろう。
子タブンネをバケツに放り込みラムの木の世話に戻ることにした。
夕方。今日の分の仕事を終えて家に帰る。
昼間の子タブンネはというと、あの後、俺が仕事中に目をさますとバケツの中で暴れ始めたので声すら出なくなるまで遊んでやり、今は全身を縛った状態でバケツの中に放り込んである。
家に戻る途中、あの親タブンネはどうなったかなとオボン畑に立ち寄ると、ピンク色のかたまりが見えた。
また野良タブンネが来たのかとこっそり見てみると小さなタブンネが3匹。どうやら昼間の3匹の子タブンネのようだ。親タブンネはすでに息絶えているのか、親タブンネが埋まっているところに集まりぺたんと座り込んで泣いているようだ。
親とのお別れ。それぐらいは見逃してやるか、と思ったときあることに気付いた。
親タブンネが埋まっているところに小さなオボンの実が置いてある。よく見ると、近くにある若いオボンの木の根元に葉が散っている。
どうやら体の小さな自分たちでもかろうじて届く範囲のオボンの実を無理やりもぎ取ってきたようだ。
木の実に手を出したタブンネは逃がさないといったはずなんだが。
なるほど。どうやら俺が言ったことを忘れているらしい。しょうがないので思い出させてやることにしよう。
俺が近づいていくと気付いたのか逃げ出そうとする子タブンネたち。しかし、ヨタヨタ逃げるその足は遅く3匹とも簡単に捕まえ腕に抱える。子タブンネとはいえ3匹もいるとそれなりに重い。
お供えであろうオボンの実を回収し、そのかわりに今日収穫したとても辛いマトマの実を置いておく。あの世ではたくさん頬張れるように5、6個ほどおいてやる。俺なりの供養だ。
親タブンネへの供養を終える、腕の中の3匹を見る。
3匹ともぶるぶる震えている。木の実に手を出さなければこんな恐怖を味わうこともなかっただろうに。
3匹の目を見ながらはっきりと伝えておく。
「今日はもう遅いから俺の家に連れてってやる。……朝まで生きてられるかな?」
一瞬笑顔になりかけた子タブンネたちの表情が凍りつく。
そのまま1匹づつバケツの中に叩き込む。
1匹では大した量にならないと思ったが、昼間の子タブンネと合わせれば4匹。これならミィアドレナリンの量もそこそこにはなるかもしれない。
明日も忙しくなりそうだ。
子タブンネ4匹が入り重くなったバケツを持ち、少し高揚した気分で帰宅の足を速めた。
『今回の実験がどのように転ぶかは誰にもわからない。しかし、こうした木の実農家やタブンネ研究所の努力・研究によって木の実産業は支えられ、木の実産業は発展し続けている。また、その裏で実験に協力してくれる多くのタブンネの存在も私たちは忘れないようにしなくてはならない』
(おわり)
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最終更新:2015年12月21日 16:54