6番道路に暮らすタブンネ

そのタブンネは、いつもお腹を空かせていました。
ごはんを探すために、1日かけて草むらの中を歩き回るだけの毎日を送っています。
食べ物はほとんどなく、わずかに咲いている花から蜜を吸って、空腹をまぎらわせています。

ある日、いつものようにごはんを探していたタブンネは、あるものを見つけました。
それは、うすい緑色の木の実をたくさんつけた大きな木でした。
タブンネは大喜びしました。これからは毎日、木の実を食べることができそうです。

タブンネはさっそく、根元に落ちていた木の実を拾います。
片手で持てるくらいの小さな木の実ですが、今のタブンネにとってはこの上ないごちそうです。
両手で持った小さな実に、笑顔を浮かべたタブンネが思いっきりかじりつきます。

「ウムゥ……ムッ、ムムム………………ミィ?」

タブンネは不思議そうな顔で、両手で持った木の実を見つめています。
木の実の表面にはうっすらとした傷があるだけで、木の実はきれいな形のままです。
そう。この木の実はとてもかたくて、タブンネの力ではかじることができなかったのです。

タブンネはすっかり困ってしまいました。
ちゃんとしたごはんを毎日食べることができると思ったのに。
目の前のごちそうを食べられない。その状況に、タブンネはがっくりと肩を落とします。

落ち込んでいるタブンネでしたが、あることを思いつきました。
近くの草むらを歩き回って、しきりに何かを探しています。
やがて、タブンネは大きな石を見つけると、それを持って木の実のところに向かいました。

ひとかかえもある大きな石を、タブンネはヨイショヨイショと運んでいきます。
この石を使って、かたい木の実を割ろうと考えたのです。
そして、フラフラと重たい石を持ち上げて、思いっきり木の実に向かって石を落とします。

「ミッキャア!?」

木の実に落としたはずの大きな石は、タブンネの足の上にも落ちてしまいました。
足がつぶれてしまった痛みに、タブンネは悲鳴を上げながら地面をゴロゴロと転がります。
しばらくの間、足を押さえたタブンネは、のたうちながら痛みに耐えています。

やがて、それなりに痛みが引いてくると、おそるおそる自分の足を見てみました。
つま先がつぶれてしまい、クリーム色だった足先は、血によって真っ赤に染まっています。
予想外の光景に、タブンネの口からは「ヒィッ……!?」という鳴き声がもれます。

タブンネはグスグスと涙を流します。
足が痛いこともそうですが、つま先がつぶれている光景がすごくショックだったのです。
体を小刻みに震わせながら、タブンネはひたすら涙を流し続けます。

そのとき、タブンネはあることを思い出しました。あの木の実はどうなったのだろう。
痛む足を引きずりながら、さっきの木の実のところに向かいます。
自分の足をつぶした大きな石。その近くに転がっている木の実を見てみると、

「ミィィ♪」

木の実はきれいに割れていました。
とてもかたい皮は2つに分かれ、中からは果肉が姿を見せています。
足の痛みも忘れ、タブンネの顔には笑顔の花が咲いています。
タブンネは割れた木から果肉を取り出すと、口の中に入れてモグモグとその味をかみしめます。

「ムッ♪ ムッ♪ …………ムグッ!? ガガッ! ウエエエエエエエエエエッ!」

タブンネは目を大きく見開くと、あわてて木の実を吐き出します。
口を大きく開けて手を入れると、口の中に残っている木の実を必死にかき出します。
口の中から木の実をすべて出し終えても、タブンネは「ウエッ、ウエッ」と舌を出して悶絶しています。

タブンネが食べたもの。
それは、カロス地方では6番道路にしかできない『バンジの実』というものです。
この『バンジの実』はとてもかたい皮を持ち、その味はかなり苦いのです。
オボンの実やオレンの実を好むタブンネにとって、その味は受け入れられません。

タブンネはヨロヨロと立ち上がると、バンジの木から離れて巣へと向かいます。
その背中はがっくりとうなだれており、ひどく落胆していることがわかります。
せっかく見つけた木の実は、ごちそうどころか、食べることすらできそうになかったのです。
その上、足までつぶれてしまったのですから、落ち込むのも無理はないでしょう。

タブンネは草むらの中にある自分の巣に戻ると、横になり体を丸めます。
クゥクゥと鳴るお腹を両手で押さえて目を閉じ、空腹に耐えながら夜を明かすのです。
これはタブンネにとっていつものこと。
1週間、水しか飲めないこともよくあることなのです。

翌朝、タブンネはいつもより早く目を覚ましました。
自分の足を見てみると、つぶれていたはずの足はいつもの形を取り戻しています。
高い再生能力をもつタブンネならば、とくに珍しい光景ではありません。

タブンネは巣から出てくると、その場で何歩か動いてみます。
足の調子はいつも通り。これなら、今日も1日中ごはんを探すことができそうです。
タブンネは「ミッ!」と気合を入れると、近くの草むらに入っていきました。
今日こそは、何か食べられるものをみつけるために。

おなかいっぱい食べられる日を夢見ながら、6番道路のタブンネは今日も歩きまわっているのです。
……たぶんね。

(おしまい)

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最終更新:2014年06月19日 23:04