そのタブンネは、いつもお腹を空かせていました。
ごはんを探すために、1日かけて草むらの中を歩き回るだけの毎日を送っています。
食べ物はほとんどなく、わずかに咲いている花から蜜を吸って、空腹をまぎらわせています。
ある日、いつものようにごはんを探していたタブンネは、あるものを見つけました。
それは、うすい緑色の木の実をたくさんつけた大きな木でした。
タブンネは大喜びしました。これからは毎日、木の実を食べることができそうです。
タブンネはさっそく、根元に落ちていた木の実を拾います。
片手で持てるくらいの小さな木の実ですが、今のタブンネにとってはこの上ないごちそうです。
両手で持った小さな実に、笑顔を浮かべたタブンネが思いっきりかじりつきます。
「ウムゥ……ムッ、ムムム………………ミィ?」
タブンネは不思議そうな顔で、両手で持った木の実を見つめています。
木の実の表面にはうっすらとした傷があるだけで、木の実はきれいな形のままです。
そう。この木の実はとてもかたくて、タブンネの力ではかじることができなかったのです。
タブンネはすっかり困ってしまいました。
ちゃんとしたごはんを毎日食べることができると思ったのに。
目の前のごちそうを食べられない。その状況に、タブンネはがっくりと肩を落とします。
落ち込んでいるタブンネでしたが、あることを思いつきました。
近くの草むらを歩き回って、しきりに何かを探しています。
やがて、タブンネは大きな石を見つけると、それを持って木の実のところに向かいました。
ひとかかえもある大きな石を、タブンネはヨイショヨイショと運んでいきます。
この石を使って、かたい木の実を割ろうと考えたのです。
そして、フラフラと重たい石を持ち上げて、思いっきり木の実に向かって石を落とします。
「ミッキャア!?」
木の実に落としたはずの大きな石は、タブンネの足の上にも落ちてしまいました。
足がつぶれてしまった痛みに、タブンネは悲鳴を上げながら地面をゴロゴロと転がります。
しばらくの間、足を押さえたタブンネは、のたうちながら痛みに耐えています。
やがて、それなりに痛みが引いてくると、おそるおそる自分の足を見てみました。
つま先がつぶれてしまい、クリーム色だった足先は、血によって真っ赤に染まっています。
予想外の光景に、タブンネの口からは「ヒィッ……!?」という鳴き声がもれます。
タブンネはグスグスと涙を流します。
足が痛いこともそうですが、つま先がつぶれている光景がすごくショックだったのです。
体を小刻みに震わせながら、タブンネはひたすら涙を流し続けます。
そのとき、タブンネはあることを思い出しました。あの木の実はどうなったのだろう。
痛む足を引きずりながら、さっきの木の実のところに向かいます。
自分の足をつぶした大きな石。その近くに転がっている木の実を見てみると、
「ミィィ♪」
木の実はきれいに割れていました。
とてもかたい皮は2つに分かれ、中からは果肉が姿を見せています。
足の痛みも忘れ、タブンネの顔には笑顔の花が咲いています。
タブンネは割れた木から果肉を取り出すと、口の中に入れてモグモグとその味をかみしめます。
「ムッ♪ ムッ♪ …………ムグッ!? ガガッ! ウエエエエエエエエエエッ!」
タブンネは目を大きく見開くと、あわてて木の実を吐き出します。
口を大きく開けて手を入れると、口の中に残っている木の実を必死にかき出します。
口の中から木の実をすべて出し終えても、タブンネは「ウエッ、ウエッ」と舌を出して悶絶しています。
タブンネが食べたもの。
それは、カロス地方では6番道路にしかできない『バンジの実』というものです。
この『バンジの実』はとてもかたい皮を持ち、その味はかなり苦いのです。
オボンの実やオレンの実を好むタブンネにとって、その味は受け入れられません。
タブンネはヨロヨロと立ち上がると、バンジの木から離れて巣へと向かいます。
その背中はがっくりとうなだれており、ひどく落胆していることがわかります。
せっかく見つけた木の実は、ごちそうどころか、食べることすらできそうになかったのです。
その上、足までつぶれてしまったのですから、落ち込むのも無理はないでしょう。
タブンネは草むらの中にある自分の巣に戻ると、横になり体を丸めます。
クゥクゥと鳴るお腹を両手で押さえて目を閉じ、空腹に耐えながら夜を明かすのです。
これはタブンネにとっていつものこと。
1週間、水しか飲めないこともよくあることなのです。
翌朝、タブンネはいつもより早く目を覚ましました。
自分の足を見てみると、つぶれていたはずの足はいつもの形を取り戻しています。
高い再生能力をもつタブンネならば、とくに珍しい光景ではありません。
タブンネは巣から出てくると、その場で何歩か動いてみます。
足の調子はいつも通り。これなら、今日も1日中ごはんを探すことができそうです。
タブンネは「ミッ!」と気合を入れると、近くの草むらに入っていきました。
今日こそは、何か食べられるものをみつけるために。
おなかいっぱい食べられる日を夢見ながら、6番道路のタブンネは今日も歩きまわっているのです。
……たぶんね。
(おしまい)
最終更新:2014年06月19日 23:04