「ミィ……ミィ……」
とある草むら。
1匹のタブンネがトレーナーの足にすがりついて弱々しい鳴き声を上げている。
タブンネの全身は傷だらけで、自分で立ち上がるだけの力さえも残されていなかった。
タブンネをそんな状態にしたのは、トレーナーとそのパートナーであるポケモン。
草むらから飛び出してきた野生のポケモンを倒した。ただそれだけのこと。
出てきたポケモンがタブンネだっただけで、一般的なトレーナーであれば普通の行動だ。
しかし、それはタブンネにとっては衝撃的なことだった。
一方的に叩きのめされた。草むらで生活しているときにはありえなかったこと。
その強さにタブンネは憧れた。
自分をボロボロにした相手。そんな相手についていけば、自分も同じくらい強くなれるのではないか。
強くなって群れを率いれば、縄張り争いや餌場の競争に有利になり、タブンネたちの生活が豊かになるのではないか。
自分のため。タブンネたちのため。
そのために強くなりたいと、タブンネはトレーナーの足に必死にすがりつく。
強くなりたいです。いっしょに連れて行ってください、と。
「俺のポケモンになりたいのか?」
そんな想いを読み取ったのか、トレーナーがタブンネに訊いてくる。
タブンネはコクコクとうなずく。「ミィミィ」と声を絞り出しながら残った力すべてでトレーナーの足をギュッとつかむ。
「よし、いいだろう。それじゃあ名前をつけてやらないとな。そうだな……お前の名前は今日から『くずにく』だ。
わかったか『くずにく』? わかったら返事しろ『くずにく』」
くずにく。
その言葉の持つ意味はタブンネにはわからない。
ただ、それが自分に与えられた名前であり、目の前のトレーナーたちの仲間になる証だということは理解できた。
自分の願いがかなったことにタブンネは笑顔を浮かべ「ミィ……♪」と返事をする。
タブンネの返事を聞くと、トレーナーはニヤニヤと笑いながらバッグからモンスターボールを取り出す。
そしてモンスターボールをタブンネにあてると、タブンネの体がモンスターボールの中に入っていく。
これでタブンネはトレーナーのポケモンになることができた。……いや、トレーナーのポケモンになってしまった。
この瞬間に、タブンネが幸福になれないことが決まってしまった。
「ここんとこ負け続きでイライラしててさぁ、ストレス解消できるおもちゃが欲しかったんだよねぇ。
これからよろしく『くずにく』ちゃん」
すとれす。おもちゃ。
その言葉の意味もタブンネにはわからない。
わからない言葉の意味を考えることはせずに、タブンネはゆっくりと目を閉じる。
モンスターボールの中でしっかりと休んで、ボロボロの体を回復させるために。
やがて、訪れた眠気によってタブンネの意識は深く沈んでいく。
ぼんやりとしていく頭の中でタブンネは思う。
強くなりたいな。
(おわり)
- 屑肉タブンネワロタ -- (ジェノサイドたぶんね) 2018-05-03 23:36:54
最終更新:2014年06月19日 23:16