海に釣りに出かけた。この間見かけた人気のない穴場だ。
釣り針に餌のオボンの実をつけ軽く後ろに振ると、急に竿が重くなった。
見ると、野性のタブンネがかかっているじゃないか。釣り餌を食うとは大胆なヤツだ。
タブンネはミィミィ鳴きながら口の端に刺さった針を取ろうとしているが、
がっちり食い込んだ針は不器用なタブンネには取りはずすことができない。
盗人タブンネを少しこらしめてやろうと思った俺は、釣り竿を上下左右に振った。
竿の動きにつれてタブンネの口元はビロ~ンと伸び、愛らしい顔がマヌケな顔に変わる。
「ミヒッ!ミヒッ!」と鳴きながら引っぱられた方向に短い足でチョコチョコ走るのも面白い。
涙の浮かんだタブンネの目は「どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?
なんにも悪いことしてないのに…」と言っているようで、俺をますますムカつかせる。
しかし、そろそろ釣りをしたいので、タブンネを逃がすことにした。
竿を振るのをやめると、とたんにタブンネが怒りに燃える目ですてみタックルして来た。
俊敏な俺はさっと脇によけ、カウンターの蹴りをタブンネの腹にぶち込む。「フミッ!」
倒れたタブンネを蹴りまくるうちに、タブンネは鈍臭くも海に転がり落ちた。
「…ミッミッ!」泳げないタブンネは打って変わって媚びた声で助けを求める。
しかし、俺は助けなかった。
水の中を四方からタブンネめがけて泳いで行くキバニアたちが見えたからだ。
「ここはキバニアの棲息地だったのか。キバニアは食えないし釣ってもしょうがないな」
タブンネは早くも何カ所か食いつかれて「ミ!ミ!ミ!ミ!」と悲鳴を上げている。
俺は釣り糸をナイフで切った。
そして、キバニアたちに水中に引きずり込まれるタブンネを見届けてから、その場を去った。
最終更新:2014年06月20日 00:30