愛の証

私は虐待を受けていたタブンネと暮らしている。
人間を信じられず心を閉ざしたタブンネを、長い時間をかけ誠意をこめて育ててきたかいあって
今ではすっかり懐いて風呂に入るのも寝るのも一緒だ。
このタブンネというポケモンは本当に可愛い。
信頼した相手には従順で、天使のような笑顔で癒してくれる。
何より、柔らかくて温かい体を抱きしめ、フサフサの尻尾に顔をうずめているときは私にとって至福の時間だ。

今日も膝に乗せて抱いたタブンネの頭を撫でている時、ふと魔が差した。
このタブンネは信頼する私から裏切られるようなことがあったら一体どんな反応をするのだろうか。
タブンネの愛くるしい容貌がそうさせるのか、私に元来サディスティックな性質があったのか
私の中で魔物がざわざわと蠢いた。その時タブンネの触角が私の胸に触れた。
私の気持ちを読み取り、不安そうな顔でこちらを見てくる。
その瞬間、自分でも無意識のうちに、タブンネの頬に思い切り強打を浴びせていた。
タブンネは今起こったことが信じられない様子で、腫れた頬を押さえながら目に涙を浮かべている。
一方私は、抱きしめたり撫でるのとは全く違う、殴った拳に残る柔らかな感触に酔いしれていた。
気づけば、狂気に支配された私はタブンネをサンドバッグのように殴打していた。
タブンネは殴られながらミィミィ鳴いて訴えてくるが、もはや私の耳には入らず
ただひたすら本能の赴くままに殴り続けた。

どれほど殴り続けたのだろうか、やっと落ち着いた私は目の前に転がっているピンク色の物体が
タブンネであると気づくまでしばらく時間がかかった。
我に返った私は、頭を抱えながら怯えて震えているタブンネに恐る恐る手を伸ばす。
が、殴られたことで虐待を受けていた頃のトラウマが蘇ったのだろう
タブンネは私の手を弾き拒絶した。目をぎゅっと閉じ、短い腕で頭を抱え震えながら縮こまっている。
恐怖で心を閉ざしてしまったタブンネに激しく拒絶されるのも構わず、強引にぎゅっと抱きしめる。
タブンネは必死に私を拒んでいたが、抱きしめる私に触れる触角から伝わる感情は受け入れざるを得なかった。
それは私のタブンネへの深い愛情に他ならなかったからだ。


その日を境に、心の箍が外れた私はタブンネに屈折した愛情を向けるようになった。
行為は殴る蹴るだけにとどまらず、どんどんエスカレートしていった。
それでも、いつも最後には優しく抱きしめてくれる私を信じ
タブンネも歪んだ愛情を受け止めるようになっていたのだった。

そんなタブンネに、私は日々のお詫びと感謝を込めプレゼントを与えることにした。
私の用意したとっておきのプレゼントを見ると
期待に胸を躍らせていたタブンネの顔がぎょっとした表情に変わる。
私は大きなホチキスを持ってタブンネの前に立っていた。
ホチキスの針をピアスとしてプレゼントするのだ。大きな耳によく似合って可愛いだろう。
私のやろうとしていることを察し、タブンネは慌てて逃げようとする。
私はその耳をむんずと引っ掴み、バチン、バチンと何度もホチキスを打ちつけた。
「みぎゃああぁぁぁぁ…!!」
痛さのあまり堪えきれずタブンネの口から悲鳴がこぼれ出る。
針の刺さった耳を撫でてやると痛みでビクッと震えるが、優しく微笑みかける私を見て
タブンネもまた苦痛の表情を和らげ微笑み返すのだった。

このような仕打ちを受けて、それでもタブンネが私に従順であり続けるのは
自分が愛されていることを理解し、それで心を満たしているのだろう。
タブンネにとってはホチキスのピアスも、体に残る無数の痣や傷跡も
歪んでいるとはいえ私からの愛を確認できる証だったのだ。
最終更新:2014年06月22日 22:08